2021年2月
ページ g-3) と g-4) で見たとおり、日本政府が原発推進という立場を離れられない根底には、潜在的核抑止という「信仰」があると見て良いでしょう。
ですから、この「信仰」そのものの妥当性をいずれ、この「やかんをのせたら~~」では考えます。
その前に目前の明らかな危険として、「国を守るための抑止力」のためにあるハズの原発そのものが、自爆テロなどの標的になりえます。
そうしたテロ攻撃の結果次第では、メルトダウンが起きる可能性すらあると私は考えております。そこまでいかなくても、原発内部のプールに保管されている使用済み核燃料が盗まれれば、テロリスト集団が「ダーティ ボム」を手にすることが可能です。(その盗みや製造にかかわったテロリストたち自身も被ばくするのですが、そこが「自爆テロリスト」の怖いところです)
ですから、日本の規制委員会が比較的最近になって原発のテロ対策をうるさく言い始めましたが(たとえば、
https://www.asahi.com/articles/ASM4S3GSYM4SULBJ006.html )、私に言わせればもっと早くから対策を講じておくべきでした。
もう1つの「ド派手な」攻撃方法
それに、テロ対策というとすぐに「旅客機をハイジャック → 原子炉に衝突」といった ”ド派手な”やり方ばかりが注目を集めるのですが~~
a) まず、「派手なやり方」としてはもう1つ、「武装集団で原発を攻撃する」というやり方もあり得ます。「馬鹿を言え!」と呆れてらっしゃるかもしれませんが、アメリカではこれに対する対策を真剣に講じています。それについて、下でアメリカでの対策の様子を短く紹介しますね。
b) もっと地味ながら、実に困ったテロのやり方として、「発電所内部の作業員などによるサボタージュ、つまり破壊工作」があります。これについては次回のページで。
まず a) に関して、たとえばhttps://commons.wikimedia.org/wiki/File:Guard_at_U.S._nuclear_power_plant_2004.jpg
https://www.cbsnews.com/pictures/14-nuclear-near-misses/
などの画像をご覧ください。いずれも、軍隊じゃないですよ!
「はあ?こんな大げさなこと、商用発電所でやるはずが~~」といぶかってらっしゃる方は、下でも引用する Congressional Research Service(米国議会調査サービス)の下院向け報告書
https://fas.org/sgp/crs/terror/RS21131.pdf
をお読みくださいな!
アメリカの原発での「武装戦闘演習」
すぐ上のリンク先でご覧いただいた「武装ガード」ですが、軍隊でも内戦でもなく、原発の守衛なのです。無論、日本とアメリカでは銃に関する法規制が異なるのですが、原発に対するテロへの警戒の程度が、太平洋のこちらとあちらでは、大きく異なっているのですね。
それをわきまえてから、アメリカの原発見学などに行くべきなのですが ~~ ある友人はアメリカのある原発に呑気にふら~りと近づいてしまったところ、小銃を持ったガードたちに銃を突き付けられたそうです。<”(> へ < ;;)
で、アメリカの原発のテロ対策というと、日本ではすぐに「旅客機ハイジャック → 原発に自爆衝突」というシナリオを話題にしていますが、他の脅威にも対応しているんです。
https://fas.org/sgp/crs/terror/RS21131.pdf に、Congressional Research Service(米国議会調査サービス)の下院向け報告書で、Nuclear Power Plants: Vulnerability to Terrorist Attack という報告書があります。2007年8月のものです。
それを見ていくと、要約に続いて導入的な説明が続き、Design Basis Threat(設計に基づく脅威)への対策を論じています。ここで注目したいのはその次の脅威、つまりForce-on-Force Exercises(武装集団の攻撃に対処するための演習)という個所です。
要するに、武装テロリスト部隊が原発を襲撃するというシナリオにも備えているわけです。「なんだよ、なんかのスマホゲームか??」と思っては、困ります。この報告書は、アメリカ議会向けの報告ですよ!
その一部を、抜粋してみましょう:
「Force-On-Force Exercises. EPACT (2005年のエネルギー政策法)codified an NRC requirement that each nuclear power plant conduct security exercises every three years to test its ability to defend against the design basis threat. In these “force-on-force” exercises, monitored by NRC, an adversary force from outside the plant attempts to penetrate the plant’s vital area and damage or destroy key safety components. Participants in the tightly controlled exercises carry weapons modified to fire only blanks and laser bursts to simulate bullets, and they wear laser sensors to indicate hits. Other weapons and explosives, as well as destruction or breaching of physical security barriers, may also be simulated. While one squad of the plant’s guard force is participating in a force-on-force exercise, another squad is also on duty to maintain normal plant security. Plant defenders know that a mock attack will take place sometime during a specific period of several hours, but they do not know what the attack scenario will be. Multiple attack scenarios are conducted over several days of exercises. 」
(私の日本語化)
(武装集団との戦闘演習) 2005年のエネルギー政策法(EPACT)では、各原発でセキュリティのための演習を3年おきに行うよう求めるNRCの要件を成文化している。それにより、設計に基づく脅威への防御能力をテストするのだ。そうした「武力衝突」の演習をNRC(米国原子力規制委員会)がモニターしており、そこでは発電所外部から敵対武装集団が発電所の重要個所に侵入し、不可欠な安全装置を損傷させる、または破壊しようとする。こうした演習は綿密な管理の下で実施され、参加者は細工を施した武器を携帯する。細工というのは、そうした武器からは空弾あるいは弾丸の役割をするレーザー光線しか発射されない。命中した場合には、着用しているレーザー センサーがそれを知らせる。その他の武器や爆薬、さらに物理的なセキュリティ バリアーの突破についてもシミュレーションを行う場合がある。発電所のガード部隊の中の分隊の1つが戦闘演習を行っている間、別の分隊が発電所の通常のセキュリティ任務にあたる。発電所のガードたちは、数時間にわたる演習の中のある時点で偽装攻撃も行われることを知っているのだが、そのシナリオは知らされていない。演習は数日間に及び、攻撃のシナリオも複数ある。
以上のように、アメリカの原発では武装集団との戦闘に備えた演習まで実施しているわけですね。はて、日本の原発に武装テロ集団が襲撃をかけたら、どう守るのでしょうか??
「国を守らねば → 核抑止が必要 → 潜在的核抑止能力のため、原発とその稼働の維持が不可欠」といった理屈を言う前に、その原発自体が武装テロ集団に襲撃されたら、どうするのでしょうね??
(2024年3月14日追記)
特に日本の場合:
上述のアメリカの原発防御などと比べれば、武装集団による原発への攻撃に対する撃退体制ができているとは、とても思えません。
・ まず、日本には private military company(PMC、民間軍事会社)というものがない
・ 警察の機動隊などでは、暴徒の鎮圧程度なら実績はあっても、軍用兵器で武装したテロ集団には対抗できそうにない
・ 結局、自衛隊の部隊に原発を警護してもらうしか、選択肢がなさそう
・ でも、それには法律の整備も必要だし、自衛隊の部隊が日本各地の原発の警護に当たった場合、その経費は??
結局、
1 – 自衛隊の部隊が国内各地の原発の警護に当たる ⇒ 増税
2 – 原発そのものを、より軍事攻撃に強いものに改良する ⇒ 研究開発と建設費の増大 ⇒ 電気料金値上げ
3 – 「値上げも増税もいやだ!原発の警護なんて、今のままでよい!」として、軍事攻撃リスクは無視する ⇒ いつの日か、敵国からの軍事攻撃が ⇒ 日本各地の原発が、巨大ダーティ ボムに
という3種類の選択肢しか、私には見えてきません。
要するに、長期的に見れば原発とは「いたずらに費用がかかる」か、「地域や国家の壊滅をもたらす」か、そのいずれかを迫る代物です。ある原発が全く無事故で寿命を終えたとしても、そこからの核ゴミはどこかの地域に埋めるわけで、その地域に迷惑をかけます。
目前の毎月の電気料金が、たとえば1,000円ほど安くなるか否かに思考を支配されていては、困るのですね。
(以上、2024年3月14日追記)
そして、武装襲撃以上にリアリティのある脅威として、「原子炉内部の人員によるサボタージュ」には、どう対応するのでしょうか??
「原発のガードって、そんなに頼りないの??」
そう不思議がってらっしゃる読者の皆様も、いらっしゃるかも。
そこで、「シロート」のプロテスターが原発内部にお侵入した実例を、見てみましょう。
まず、Plowshares movementという反核兵器の団体がアメリカにあって、そのメンバーが1980年以来、核兵器施設に抗議のため侵入するという行為に打って出ています。
英語版WikipediaのVulnerability of nuclear plants to attackという項目
( https://en.wikipedia.org/wiki/Vulnerability_of_nuclear_plants_to_attack )のCivil disobedience(市民による不服従(抗議))という段落に、次の記載があります。
Various acts of civil disobedience since 1980 by the peace group Plowshares have shown how nuclear weapons facilities can be penetrated, and the group’s actions represent extraordinary breaches of security at nuclear weapons plants in the United States. On July 28, 2012, three members of Plowshares cut through fences at the Y-12 National Security Complex in Oak Ridge, Tennessee, which manufactures US nuclear weapons and stockpiles highly enriched uranium. The group spray-painted protest messages, hung banners, and splashed blood.[3]
The National Nuclear Security Administration has acknowledged the seriousness of the 2012 Plowshares action, which involved the protesters walking into a high-security zone of the plant, calling the security breach “unprecedented.”
—-
Non-proliferation policy experts are concerned about the relative ease with which these unarmed, unsophisticated protesters could cut through a fence and walk into the center of the facility. This is further evidence that nuclear security—the securing of highly enriched uranium and plutonium—should be a top priority to prevent terrorist groups from acquiring nuclear bomb-making material. These experts have questioned “the use of private contractors to provide security at facilities that manufacture and store the government’s most dangerous military material”.
(私の日本語化)
1980年以来、Plowsharesという平和団体による各種の市民的不服従活動があり、核兵器施設への侵入が可能であることを立証している。それとともに、この団体の行動は、アメリカの核兵器製造工場でのセキュリティ突破の実例として、尋常ならざるものとなった。2012年7月28日、Plowsharesのメンバー3名がテネシー州オークリッジにあるY-12国家セキュリティ コンプレックスのフェンスを切り裂いて侵入した。このコンプレックス(複合施設)はアメリカの核兵器を製造するとともに、高濃度ウラニウムを貯蔵している。Plowsharesの侵入者たちは、抗議メッセージをスプレーで記し、旗を据えるとともに、(Plowsharesのシンボルである)血液を振りかけて行った。
アメリカの国家核安全保障庁は、この2012年のPlowsharesによる行為の深刻性を認め、このセキュリティ侵害を「前例のないもの」と呼んでいる。何しろ、プロテスターたちはこの工場の高セキュリティ区域にまで入り込んでいたのだ。
・・・・・
核不拡散政策の専門家たちは、このPlowsharesのメンバーたち、武器も持たず特別な訓練も積んでいない侵入者たちが、比較的容易にフェンスを切り裂いて工場の中心部にまで踏み込めたことを憂慮している。この問題からも、核のセキュリティ、つまり高濃縮ウラニウムとプルトニウムの安全な保管を最優先課題の1つにして、核爆弾の製造をテロリスト団体が行うことのないように努めるべきだということが分かる。不拡散政策の専門家たちは、「政府の所有する特に危険な軍事物資の製造や保管を行う施設での、民間下請け企業を利用したセキュリティ管理」に疑問を呈している。
つまり、「プロの」テロリストなどでなくても、素人のプロテスターたちが核施設の内部深く実際に侵入して、抗議活動をしたケースがあったということですね。
核発電所(原発)は巨大な施設です。外から見ると厳めしくて人をち寄せ付けない建物に見えるのですが、実際はかなり厳格なガードをしないと侵入がありえるってことですね。
さて、これが核発電所(原発)自体の内部職員によるサボタージュ(破壊工作)となると、さらに対策は厄介です。それを、次回のページ(g-6) )で。
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2024年3月14日 追記
本ページの内容については、
英語版Wikipediaにある
Vulnerability of nuclear plants to attack
というページも参照なさってください。
関連する各種情報があります。
Vulnerability of nuclear plants to attack – Wikipedia
それにしても、このページ、
日本語にはなっていないようです。
これだから、核問題については、
日本語だけで情報を集めても ・・・
「やかんをのせたら~~」では、
読者の皆様に日本の平均的な
高校卒業程度以上の英語理解力
(目安として、TOEICスコアで
500前後以上)があることを
前提としておりますが、
そうする必要性もご理解いただけ
ますよね?