付録 w-19) 山火事 ⇒ 原発事故??

付録 w-19) 山火事 ⇒ 原発事故??

2025年1月

上の黒いメニューの終わりの方にある
付録 w-1) , 付録 w-18) (「良く調べて
みると~~」という概略図),
付録 w-15) , 付録 w-16) , 付録 w-17)
をお読みくださった方々であれば、
容易に想像できる問題なのですが ~~

2025年1月17日現在、アメリカの
ロサンジェルス近郊では大規模の山火事
が続いており、世界的な話題になって
いますよね。
しかし、一般論として山火事が原発事故
につながりえるという指摘は、あまり
聞こえてきません。

山火事でグリッドが燃えたら、停電になるのは当たり前やろが~~

そもそも、山火事と原発事故の関連
可能性が認識されていないようですね。
「原発の稼働や核物質の冷却には、原発
外部からの電力供給が必要」という
単純な事実を認識すれば、直ぐに分かる
ことなのですが。

その単純な事実を指摘する記事が、
Beyond Nuclear Bulletinの2025年1月
16日号にありました。さすがは、
Beyond Nuclearですね。

英語原文をお読みになりたい方は、
下記へどうぞ!
CA wildfires: a warning to NRC on climate change – Beyond Nuclear

なお、このページも長いので、適宜
ご都合に合わせ区切ってお読みくだ
さいな。

そんなわけで、いつもどおり、
私の日本語化
<  > 内は私からの補足説明
で、紹介しますね。
*******************************

このページも長いわねえ~
私の、かなり昔の人体デッサン

CA wildfires: a warning to NRC
on climate change
(カリフォルニアの大山火事は、気候
変動に関するNRCへの警告)

2025年1月16日
<筆者名の記載がないので、Beyond
Nuclearとしての記事なのでしょう>

アメリカ政府監査院(Government
Accountability OfficeGAO) が
アメリカ原子力規制委員会
Nuclear Regulatory Commission
NRC) に警告を発したが、
無視される

原発では、全体的な炉心損傷頻度
(CDF)つまりメルトダウンが発生する
可能性を極めて大きく左右する要因
として、火災が挙げられている。原発を
安全に稼働させるうえで特に脆弱性を
孕んだ外部発生の出来事として、外部
電源喪失(Loss Of Offsite Power、
LOOP)がある。外部の送電グリッド
からの電力供給を失ってしまう、という
問題だ。これは原発事故を引き起こす
深刻な事態と見なされる場合が多い。
このリスクへの対策として、アメリカの
原発はいずれも送電グリッドからの
外部電力供給を確保せねば、稼働でき
ないことになっている。

ろくなことにならない~~
私の、昔の練習作
私の、かなり昔の作品

 

カリフォルニア州南部、ロサン
ジェルス郡から <その近辺にある>
ヴェントゥラ郡では今も山火事が燃え
続けており、鎮火していない。
「アメリカでの山火事の中でも、最も
広範囲に <← 原文ではexpensiveと
あるのですが、文脈からextensiveの
誤りでしょう> 燃え広がったものの
1つであることは確実だ」と言われて
いる。<火災に伴い、熱で発生する>
火事嵐も続いており、今や「極度に
深刻な火災気象」も第4期に入って
いる。既に1週間以上、この火災は
ワシントンDCに相当する領域を嘗め
尽くしている。およそ63平方マイル
だ。<およそ1億6,300万平方
メートル> 何千という家屋や建築物が
破壊され、人命が失われ、コミュニティ
が移動を余儀なくされ、電力も含め
重要なインフラストラクチャーが被害を
被り、ないしは被りそうな状態にある。
そうした被害の推計も、まだ集計中
である。

アメリカ議会の一部では政治的動機から
の反論があるものの、科学に立つ限り
地球温暖化の大きな原因が止むことなき
化石燃料の燃焼であることに疑いは
なく、しかも今回のような山火事の頻度
も規模も温暖化のため加速的に悪化して
いる。火事嵐の増大もこの温暖化の
もたらす災禍の1つであり、他にも海面
上昇やハリケーンなど嵐全般の激化、
降水に関する極端な洪水と干ばつなど、
各種の地球規模での問題が発生して
いる。そのため天然資源や重要なイン
フラストラクチャーに悪影響を及ぼして
おり、そこには本質的に危険なもので
ある原発も含まれる。

「今ごろ、バケツの水持って来たってねえ ・・・」
もう遅いですよね

こうした状況にあって、アメリカ政府
監査院(GAO)が議会に2024年4月
2日に提出した報告書を振り返ること
が大切だ。GAOは、議会の監査部門
である。
この「原発 ― 気候変動の及ぼしえる
影響を充分に考慮するため、NRCは
行動を起こすべきだ」<“Nuclear
Power Plants: NRC Should Take
Actions to Fully Consider the Potential
Effects of Climate Change”> という
報告書は、一種の警告であった。
(GAO 24-106326)  GAO による
この報告書の警告によれば、アメリカ
原子力規制委員会(NRC)は、やはり
人類が引き起こした問題である気候
変動によって引き起こされる深刻な
原発事故の発生リスクが増大して
いることに対処するため、行動を
起こすべきだ。自然災害によって引き
起こされるリスクへのNRCによる
対応活動は、原発の過酷事故リスクに
対する気候変動の影響を充分には考慮
していない。「例として、認可と監督
のプロセスにおいてNRCは基本的に
過去の実績データを用いており、
気候予測データを余り活用していない」

山火事でグリッド切断 ⇒ メルトダウン、水素爆発など、原発から煙
放射性物質火災で放射性煙が巻きあがる ⇒ 遠方にまで拡散

NRC は現在、既存原発の稼働寿命を
60-80年にまで延長しようとしている
のだが、その認可プロセスで発見
された事項を見ても、またBeyond
Nuclear自身の経験からしても、気候
変動に伴う環境への影響(海面上昇、
嵐の過激化、熾烈な洪水など)が
原子炉の安全性と信頼性に及ぼす作用
に関しては、NRC の職員たちは
頑なに、稼働寿命延長の認可に
おける広聴プロセスの「視界から排除」
してしまっているのだ。

このGAO 報告書はNRCに対し、
山火事のためアメリカの原発の稼働に
危険な影響が生じ、公衆安全の問題
も引き起こしかねないと、具体的に
指摘していた。その被害は当初の
山火事の範囲をはるかに超え、
放射性物質の被害のため人命の損失、
大がかりで無期限の多数住民の移住、
保険では賄いきれない巨額の経済的
損失などを招く危険性もある。

具体例として、GAOは次のように
記している:

「山火事  NCA(National Climate
Assessment、国家気候報告)に
よれば、気温上昇と干ばつの増加のため
山火事の発生頻度が増大、またアメリカ
南西部では気候変動のため先例のない
ような山火事が発生している。NCA
では、熱波や干ばつリスクの増大、また
山火事の巨大化と頻繁化とを予想して
いる。山火事が発生すれば原発には
いくつものリスクが発生する。その1つ
として原発敷地内での火災発生もあり、
そうなれば原発のインフラストラク
チャーの損傷、原発に電力を供給して
いる送電線への損害発生なども
考えられる。送電線に損害が生じた
場合、<原発の冷却などに必要な外部
からの> 電力供給がなくなって
しまい、原発をシャットダウンせねば
ならなくなる。さらに山火事とそこから
発生する煙のため、原発の作業員も
供給物資も、敷地内に入れなくなる
危険性もある」

非常用でディーゼル発電装置の例
あくまで、概略図ですよ

原発への外部からの電源供給が途絶える
外部電源喪失(Loss Of Offsite Power、
LOOP)は、過酷な原発事故を招く
原因として特に大きな要因の1つだ。
商用原発の安全な稼働と事故からの復帰
には、交流(AC)電力を使用できる
ことが不可欠だ。アメリカの原発の
場合、原子炉の安全システムすべてに
対する電力供給は100%、当初には原発
敷地外の送電グリッド経由で行われる。
敷地外の送電グリッドに問題が発生、
あるいは破壊された場合には、原子炉は
自動的にシャットダウンするか、
SCRAM <緊急停止> するように設計
されている。敷地内には緊急用バック
アップ発電装置もあり、自動あるいは
手動で始動し、指定優先度の高い原子炉
安全システムの電源となるような設計に
なっている。こうした安全システムは、
原子炉をシャットダウンし原子炉の
冷却を継続して行い、圧力をモニター
するために必要だ。ただし、100%供給
できるわけではない。過酷な原子炉事故
の発生確率を最小限に抑えるためには、
敷地外からの信頼できる電力供給を
確保することが重要な要素の1つだ。

例として、LA周辺での過去の大型山火事と原発立地。
原発が直接に山火事に囲まれなくても、
外部電力を供給するグリッドに損害が出うることは、お分かりいただけるでしょう。

「アメリカ森林局 (U.S. Forest
Service)とNRCデータを我々が分析
したところ、<アメリカの既存の>
原発のうち約20%(75か所のうち16)
が、山火事が発生しやすい、あるいは
極めて発生しやすい地域にある。
具体的には、アメリカの南部 (25か所
のうち9) と西部 (8か所のうち3)
にある原発の1/3以上が、山火事が発生
しやすい、あるいは極めて発生しやすい
地域に立地している」

さらにGAOによればアメリカでは、
「山火事が発生しやすい、もしくは
極めて発生しやすい位置にある16か所
の原発のうち、12は現在稼働中であり、
残る4つはシャットダウン中だ」

山火事の起きる危険性を分析するため、
GAOはアメリカ森林局の「山火事
危険性マップ」(Wildfire Hazard
Potential Map)にある2023年のデータ
を利用した。「発生しやすい、もしくは
極めて発生しやすい」とは、山火事発生
の危険性が高い、もしくは極めて高い
地域に原発が立地していることを示す。

GAOが山火事が「発生しやすい、
もしくは極めて発生しやすい」として
いる原発の特定ならびにそうした各原発
の位置を特定するに当たっては、次の
各資料を引用している:

<原文では、ここでGAOにとっての情報
ソースとなった文書が列挙されています
が、日本語では割愛しますね>

たとえば
メルトダウン ⇒ Cs-137などなどをまき散らす(半減期は約30.1年)
⇒ 「除染」しても、汚染土は山積み
20年後、山火事が発生したら~~ Csは大気へとまき散らされる

山火事のため、核施設からの放射性物質
による汚染が広がってしまう可能性

核施設(研究用、軍用、商業発電用の
すべて)周辺で発生した山火事を歴史的
に調べてみると、山火事があると、そう
した核施設ですでに発生し偶発的な事態
や漏出、不注意な埋め立てなどで放出
された放射性物質が極めて効果的に
拡散されてしまうことが判明した。
しかも数年後、あるいは数十年後に
再度山火事が発生した場合、放射性
物質は再びまき散らされてしまう。火災
による煙の粒子に放射性物質が付着、
風下へと移動していく。そのため、
放射性核種の半減期内に新たな山火事
が発生するたびに、汚染地域がさらに
拡大してしまう。しかも生物に危害を
もたらす期間は、何十年、何百年、
あるいはそれ以上に続くのだ。

山火事の頻度も規模も拡大しており、
放射性物質の汚染を元の放射性物質
発生地点から拡散してしまう脅威も
深刻化している。その例を少し、
以下に示す。

アホと煙は、高いところに行きたがる

チョルノービ原発の大惨事に続き
繰り返し山火事が発生

この惨事は、1986年4月26日に
始まった。ウクライナ北部にある
この原発の4号機周辺に、当初は有害な
レベルの放射性の死の灰が集中して
いたが、それが拡散していった。
原子炉が事故で爆発、放射性物質が
大気中に高く舞い上げられた。反応中の
核燃料と減速材のグラファイトがむき
出しになり、そこからの強烈な放射性
物質が火炎と煙により巻き上げられた。
この死の灰が風向きの変化で広がり、
降雨で地面に落ち、高濃度のまま地中に
定着していった。主に、ウクライナ
北部、ベラルーシ、ロシア南部での
ことだ。それ以外にも風による放射性
物質汚染がヨーロッパのかなりの地域
に広がり、スカンディナヴィア半島や
ブリテン島北部にまで及んだ。各地で、
今も残る有毒汚染となっている。1986
年の事故直後にはチョルノービ原発
周辺に「立ち入り禁止区域」が儲け
られ、長時間の人間の立ち入りが禁じ
られた。これは爆発を起こした原発を
中心とする半径18マイル <約28.8
㎞> の区域とされた。

The Bulletin of Atomic Scientists
<「終末時計」で有名です>の報告
によれば、このチョルノービ立ち入り
禁止区域の中では季節的な山火事が
今も定期的に発生しており、 汚染
された土地の上で炎が上がって煙と
ともに放射性物質を再度大気中へと
巻き上げているのだ。この放射性煙が
風に運ばれ、死の灰はさらに遠くへと
広まってしまう。かくして、こうした
拡散を分析し「立ち入り禁止区域」の
拡大を検討する必要がある。

あら、大丈夫なのね~~
ほんまかいな??
私の昔の作品
Pastel on paper

 

アメリカの核施設は大丈夫という主張
に反し、山火事はアメリカの核施設に
とっても脅威だ

The Los Angeles Times <という新聞>
の2024年5月某日のヘッドラインには
Sites with radioactive material more
vulnerable as climate change increases
wildfire, flood risks <気候変動で山火事
や洪水のリスクが増大、放射性物質を
抱える施設類はより脆弱に> とあった。

この LA Timesではアメリカ政府の
放射性物質を扱う研究所や核兵器製造
施設の周辺で過去に発生した数件の
山火事を振り返っていた。その一例と
して、老朽化したSanta Susana<と
いうフィールド ラボ> で2018年に
発生したWoolsey 山火事があった。
Santa Susanaには原子炉も10基、
プルトニウムとウラニウムの燃料製造
施設もあった。このフィールド ラボは、
ロサンジェルス近郊にある。Santa
Susanaフィールド ラボでは、初期の
ロケットや発電用原子炉の試験も
行われた。また小型原子炉10基とプル
トニウムならびにウラニウム燃料製造
施設もあった。だがずさんな運用と
各種の実験とが何十年か続き、1959年
には歴史上最初期のメルトダウンが発生
している。その被害で広範な土壌や
軍用ごみ焼却場、水が放射性物質と化学
物質で汚染されてしまった。現在では、
Santa Susanaフィールド ラボの清掃の
任を負っているのは、ボーイング社だ。

<2018年11月8日にSanta Susana
フィールド ラボの領地内で山火事が
発生、同月21日まで燃え続けました>
「2018年、カリフォルニアのSanta
Susanaフィールド ラボで山火事が発生
した。このラボは以前には、核関連の
研究とロケット エンジンの試験とを
行っていた。かなりの広さの土地で建物
と土壌が汚染され、そうした土地で燃え
続けた。しかもその65年前には、
原子炉炉心の一部がメルトダウンを起こ
したのだが、そのそばで火が燃え盛って
いた」

SSFLのおおざっぱな位置

<このラボでは1957年から
1964年まで、Sodium Reactor
Experiment [ナトリウム原子炉実験] と
いう>新型原子炉の実験が行われていま
した。1959年7月にこの原子炉が
部分的なメルトダウンを起こし、放射性
物質が大気中にまき散らされました。
ナトリウムを冷却剤として用いる原子炉
を商用発電に使えるか、という実験
でした>

NBC news では、Santa Susana
フィールド ラボで出火した巨大火災で
ある2018年のWoolsey山火事に関する
報道をもう何年も続けており、何マイル
も離れたロサンジェルス近郊の各地に
落下した放射性汚染物質についても
取り上げてきている。

そうした事態が実際にあったにも関わら
ず、連邦当局は今も意味のない安心せよ
というメッセージを発し続けている。
山火事の発生頻度上昇も含め気候変動に
よっては、汚染された商業・軍事・国立
研究所の施設のせいで公衆衛生や安全性
のリスクが増大することはない、と主張
しているのだ。さらに、法規制のための
環境評価プロセスには、気候変動からの
影響を計算に入れた環境評価を含む
必要などない、とも主張している。.

その最近の実例として、NRCの
Christopher Hanson委員長がこのGAO
報告書に関して2024年9月27日に
次のように述べた:
「・・・ [GAOは] NRCが気候変動の
影響に対処していないと結論付けて
いるが、NRCとしてはその結論には
合意できない。実質的には、NRCの
規定やプロセスには保全主義や安全の
ための余裕、多層防御が幾重にも取り
入れられており、公衆の衛生と安全
とを適切かつ確実に保護できるもの
となっている。それによって公の防御
と安全保障を強化し、環境をも保護
できる」
*********************************

長くて疲れる~~
私の人体デッサン
Croquis Cafe 366をベースに

そもそも、
1) 施設Xが暴走や事故を起こさない
ようにするには、外部からの何らかの
(非常用ディーゼルなども含む)
電力供給が不可欠
2) 気候変動のため山火事が巨大化・
頻繁化すると、外部からの電力を
供給する送電グリッドが焼かれて
しまうリスクも増大
3) 施設Xの安全性は、気候変動に
左右される

というのは、自明な因果関係ですよね。

「なら、原発の非常用発電装置を強化
して ・・・」という対策をとっても、
非常用はあくまで非常用でして、
余り長期間使えるものじゃありません。
コストも増大しますし。

「ならば、送電グリッドの火災への
耐久性を強化して ~~」では、
送電グリッドというものの規模を考える
なら、コストがどれだけ増大するか
分かったもんじゃありません。

あくまで、
・ 山火事の発生をどう防止するか
に資金を優先させ、同時に
・ 山火事の被害を長引かせる(放射
性物質の散乱など)ような施設は、
山火事の発生確率の高い地域には
建てない
というのが、基本でしょう。

遅すぎたのね ・・・
私のかなり昔の10分クロッキー

要するに、「気候変動を軽減する
ために、原発を」と言うには、遅すぎる
わけですね。すでに気候変動の悪化が
進みすぎています。

温暖化でのそうした実例は
上の黒いメニューの終わり近くにある
ページ 付録 w-10) で、
嵐・洪水の過激化での実例は
付録 w-16) で、
それぞれ紹介しております。

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