p-3) (PBR) PBRとproliferation risk

実は基本的には、PBR (PBMRも含む) に特有のproliferation risk (核兵器に
つながってしまうリスク) というのは、多くはありません。要は燃料の形態が
軽水炉のように「燃料棒」なのか、PBRの場合の「ボール」か、ということですから、

濃縮ウラニウムに中性子線を照射 ⇒ ウラニウム235などが核分裂 ⇒ 核分裂で発生する
大量の熱で、水を水蒸気に変えて発電用蒸気タービンを回す ⇒ 発電
というパターンに変わりはないのですね。ウラニウム燃料が核分裂する以上、
プルトニウム239などの核分裂生成物もできてしまいます。

当然、
・ ウラニウム濃縮を必要とする以上、「過剰濃縮」 ⇒ 兵器グレードのウラニウムへ、
というリスクが存在する。
・ プルトニウムが出来る ⇒ PUREX法などで濃縮できてしまう ⇒ 兵器グレードへ
というproliferation riskは、軽水炉の場合と同じく存在します。

Pu毒蛇とU毒蛇 ~ どっちも危険やがな!

Pu毒蛇とU毒蛇 ~ どっちも危険やがな!

以下では、PBR推進勢力が主張している、
メルトダウンしにくい
PBMRつまりモジュール型PBRは1基1基が小型なので、さらにメルトダウンしにくい
PBR用燃料のウラニウム濃縮率の問題
を短く取り上げていきます。

「メルトダウン」は危険、でも「メルトダウンしにくい」も危険

どっちに転んでも危険ということですが、これについては上の黒いメニューの
ページ p-1) にある 「核分裂生成物を生む限り、解けないディレンマ」 という箇所で
説明済みです。

この「やかんをのせたら~~」のページ b-x) (原子炉の正体) でもシツコク述べたように、原子炉の歴史的本性とは「原爆のためのPu 製造装置」なのですね。
この本性が存続する限り、ページ p-1) で述べた「解けないディレンマ」は、
解消しません。
つまり、

  • 原子炉メルトダウンのリスクが無視できない ⇒ 原子炉でPuを製造し核兵器開発を
    もくろんでいる国家(またはテロ組織)も、メルトダウンのリスクに対処せねば
    ならない ⇒ 原子炉をほんとに保有・稼働するのか、慎重に検討せざるを得ない
  • ところがそのメルトダウン リスクが大幅に軽減したら ⇒ 核兵器が欲しい国は、
    原子炉を保有・稼働させやすくなってしまう ⇒ 核兵器が蔓延しやすくなる

というディレンマです。メルトダウンの危険性か、核兵器拡散リスクか?どっちに
転んでも、危険ですよね。

分かれ道 ・・ meltdown峡谷か、proliferation滝か  どっちに行っても危ないから、進入禁止!!

分かれ道 ・・ meltdown峡谷か、proliferation滝か  どっちに行っても危ないから、進入禁止!!

小型モジュール原子炉である限り ・・・

上の黒いメニューにあるページ s-3) で解説した proliferation risk は、
小型モジュール式原子炉であるがゆえに、付きまとうリスクです。

小型 + メルトダウンしにくい ⇒ 秘密裏に設置・稼働しやすい ⇒ 換言すれば、
「秘密のPu 製造設備」 が出来てしまいやすい
というパターンですから、シロートにも分かりますよね。
詳しくは、ページ s-3) をご覧くださいませ。

PBR用燃料のウラニウム濃縮率

これについては、PB(M)R の「ボール型燃料」に特有の問題なので、少し詳しく
取り上げます。

まず、ページ p-2) でも取り上げたInstitute for Energy and Environment Research (IEER) という科学研究団体の理事長、Arjun Makhijaniという方の2001年8月付The Pebble Bed Reactorという報告書から、再度紹介します。

The Pebble Bed Modular Reactor – Institute for Energy and Environmental Research (ieer.org)

やはり私が抜粋して日本語化しますね。いつもどおり、日本語化文章中の < > の
内部は、私による補足説明です。

(私による抜粋・日本語化)
・・・・・・・・
PBMRで使用する核燃料は、ウラニウム濃縮度が既存の<軽水型>発電炉よりも、
かなり高い。<PBR用燃料のU235の>濃度としては、8%から20%までの数値が
提唱されてきた。今のところ、8%が好まれている。8%という濃度のウラニウムでは
核兵器製造には使えないが、軽水炉の核燃料が5%未満であるのと比べると、
PBMR用燃料からは兵器グレードのウラニウムを製造するのが、ずっと容易になって
しまう。
・・・・・・・・
*************

たとえて言うなら、こんな感じの山登り  2000mから上は、急になだらかに ・・・ こんな山があること自体、おかしい!

たとえて言うなら、こんな感じの山登り  2000mから上は、急になだらかに ・・・ こんな山があること自体、おかしい!

従来の軽水炉用ウラニウム燃料では、U235の濃度が3-5%であるのに対し、
PBMRでは8-20%だ、というわけですね。ウラニウム濃縮では10%あたりまで
濃縮するのが大変で、そこから兵器グレード(90%以上)に濃縮するのがずっと
楽になってしまう、というわけですね。

それと、20%というのはウラニウム濃縮での一種の「閾値」になっておりまして、
「低濃縮ウラン」つまりLEU と呼べるものは、ウラニウム235の濃度が20%までとする、という規定になっています。
IAEAの文書で、そこを確認しておきます。
IAEA-TECDOC-1452
Management of high enriched uranium for peaceful purposes: Status and trends
(平和利用のための高濃縮ウラニウムの管理: 現状とトレンド)
という文書のP1より抜粋します。
IAEA-TECDOC-1452

Uranium that has an assay of 235U from the natural level to 20% is called low enriched uranium (LEU). Typical fresh power reactor fuel has 235U assays below 5%. Uranium with an assay of 235U equal to or more than 20% is called high enriched uranium (HEU).
(私による日本語化)
天然ウラニウム <U235の比率が1%未満> や濃縮度が20%未満の濃縮ウラニウムを、
低濃縮ウラニウム (LEU) と呼んでいる。平均的な発電炉用の新しい核燃料では、
U235の濃度は5%未満だ。U235の濃度が20%以上のウラニウムのことを、高濃縮
ウラニウム(HEU)」と読んでいる。
*****************

JCPOA交渉などでも、イランによるウラニウム濃縮率が20%を超えたことが、
そもそも「大騒ぎ」のきっかけになりましたよね。「やかんをのせたら~~」では、JCPOA再建交渉の進展について海外メディアの報道を取り上げてきておりますが、
その理由がお分かりと思います。

「水92㏄なら本品を8g、水80㏄なら本品を20gって~~」 こんなレシピじゃ、分かりませんよね。

「水92㏄なら本品を8g、水80㏄なら本品を20gって~~」
こんなレシピじゃ、分かりませんよね。

それにしても、上の「8-20%」って、幅が大きすぎる ・・・

たしかに。そこで、そもそもPBMRを設計・推進していた南アフリカの Pebble Bed Modular Reactor SOC自体による文書を見てまいりましょう。
PBMR – How the PBMR fuel works にあります。

そこから、私が抜粋・日本語化しますね。
The uranium-235 isotope occurs in natural uranium at a concentration of approximately 0.7 percent. In order to have a self-sustaining or “chain” reaction, the uranium in the PBMR fuel is enriched to about 9.6 percent in uranium-235, which is the isotope of uranium which mainly undergoes fission in the core.

(私による日本語化)
ウラニウムの同位体235は、天然ウラニウムの中には0.7%程度しか含まれていない。PBMR用核燃料では、自然に継続する反応つまり連鎖反応を起こすため、U235の
濃度をおよそ9.6%にまで濃縮している。炉心で核分裂をするのは、主にこの
同位体U235である。
****************

「猛毒モグリヘビの卵、10%の確率で孵化します」  逃げろ~~

「猛毒モグリヘビの卵、10%の確率で孵化します」  逃げろ~~

ほぼ10%濃度の濃縮ウランが~~

言うまでもなく、10%近くになると、まだ上記の定義ではLEU に該当はするのですが、proliferationの危険性は感じますよね。

それは私の思い込みでも、読者の皆様の考えすぎでもなく、ページ p-2) でも取り上げた
Safe New Generation Nuclear Power? The Pebble Bed Modular Reactor (i-sis.org.uk)
も、問題を指摘してくれています。Science in SocietyというウェブサイトのArchiveに
ある2006年2月17日付の文章で、筆者はPeter Saundersさんです。

(私による抜粋・日本語化)
兵器グレードのウラニウムの拡散

PBMRの重要なセールス ポイントの1つとして、PBMR <はモジュール式で> 個別
モジュールは小型であるため、建設や稼働が比較的容易だ (という主張がある)。
そのためPBMRは、今までの<大型の>原子炉を購入・稼働できなかった諸国にも
販売できる、というのだ。Harding [5] の論文の指摘によれば、そうした諸国は
とりもなおさず、U235が9.6%にまで濃縮されたウラニウム燃料を受け取ることになる。この濃度は、<既存の> 軽水炉用核燃料の2倍ほどの濃度だ。9.6%にまで濃縮すると、兵器グレードのウラニウム <90%以上> にまで濃縮する分離作業のおよそ90%は、
既に完了していることになる。9.6%から90%に高めるには、小型のガス分離機工場で
充分なのだ。

MIT <マサチューセッツ工科大学> による学際的研究 [12] の指摘によれば
国際原子力機関 (IAEA) は核兵器拡散の防止にもっと力を注ぐべきであり、
さらに商用核燃料サイクルの稼働に伴う核兵器拡散リスクを安心できるほど小さく
しない限り、核発電を増やしてはいけない。PBMRを普及してしまうなら、
この核兵器拡散リスクを軽減するどころか、逆に増大させてしまう。
文字色による強調は、Heeday>
*****************

私が困っているのは、「ボール型」核燃料にすると、なぜ10%近いU235濃度に
なるのか、という点です。これについては、上記抜粋個所の「自然に継続する
「連鎖」反応を維持させるため」という短い言及しか、インターネットで
見つかりませんでした。

まあ、それは極めて技術的な問題なので、「やかんをのせたら~~」で詳しく
取り上げるには、及ばないでしょう。要は、もしPBMRが普及すると、
軽水炉用ウラニウム燃料よりもずっと濃縮率の高い核燃料が普及してしまう、
ってことですね。

「しっかり見ようよ ・・・」 私がかなり昔、あるウェブサイト用に描いたイラストより

「しっかり見ようよ ・・・」
私がかなり昔、あるウェブサイト用に描いたイラストより

もうお分かりのように、メルトダウンの危険ばかりを問題にしていると、
核発電推進勢力が「新型原子炉なら、メルトダウンしない。CO2削減のため、
新型炉を普及させるべきだ」という主旨の主張を展開するだろうというのは、
私自身も含めた一部の反核勢力が、すでに2011年ごろに予想していたことです。
そして、如何せん、その予想通りの現状 (2022年1月現在) になってしまって
おります。
反核勢力としては、メルトダウンだけを問題にするんじゃなくて (無論、
メルトダウンも深刻な問題ですが)、
・ 放射性廃棄物の問題
・ ウラニウム濃縮や廃炉といった、ライフ サイクルでのCO2排出や放射性物質の危険
・ proliferation risks
も社会に広く訴えるべきでしょう。この3点も含めた視点から見ると、
新型原子炉とか言っても、核発電に未来はないのです。

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