2022年11月
やはりページ h-1) (上の黒いメニューに。メニュー
内の項目は、基本的にアルファベット順) で短く
列挙したHTGRの主な特徴から、proliferation
risks (核兵器拡散につながるリスク) に関する
問題点を紹介していきます。
今回も、専門家による問題指摘をかなり長く紹介
しますので、読む量が多いし難しいですよ!
前回と同じく
ucs-rpt-AR-3.21-web_Mayrev.pdf (ucsusa.org)
にある “’Advanced’ Isn’t Always Better” (Edwin
Lyman, March 2021) から抜粋・日本語化して
まいります。
アメリカに本部がある著名な科学者団体
The Union of Concerned Scientistsが
公表しているレポートです。
いつもどおり、< > 内は私からの補足説明
です。
Proliferation / Terrorism Riskに関する考察は、
このレポートの p. 83から85にあるので、原文を読める方々はどうぞ。
まずは、proliferation risk全般に関して。
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Proliferation (核兵器拡散) やテロリズムの
リスク
HTGR原子炉各種ならびにそれら用の核燃料
サイクルのproliferation risksは、原子炉の
タイプ、使用する核燃料の特性、そして使用済み
核燃料を直接地層最終処分場 <要するに、
地下の捨て場> に捨てるのか再処理を行うのか、
といった要因によって変わる。…(中略)…
どのようなタイプの原子炉であれ、核燃料
サイクルで once-throughではなく再処理を行うと、
proliferation risks はより深刻化する。
<「once-through (ワンス スルー)」: 核燃料
サイクルの一番単純なもので、一度使用した
核燃料は地下に埋め、再処理しない。「再処理」:
使用済み核燃料を処理して、まだ使える 235 U
や239 Puを取り出したりする> これは、分離抽出
したPuなどの核兵器に使える放射性物質を
核兵器用に転用できてしまうリスクを伴うからだ。
この転用のシナリオも何通りか検討せねばならず、
その例として再処理で取り出した放射性物質の
軍事用への転用や、Pu核燃料製造工場などが
ある。だが、どこかの国が <IAEAに> 申告
済みの再処理工場は保有していない場合でも、
原子炉からの使用済み核燃料を秘密の再処理
工場で処理してしまうリスクは存在する。そのため
IAEAでは <使用済み核燃料などの兵器転用を
防ぐための> 防止策を策定しており、そうした
防止策を必ずいつでも原子炉に適用し、使用済み
核燃料の転用が行われていないことを検証する
必要がある。ただし、申告済み再処理工場がない
諸国の場合には、検査の基準が多少緩め
られる場合はあり得るが。このように、ワンススルー
サイクルの各種LWR (軽水炉) と比較して各種
HTGRのproliferation risks評価では、原子炉
そのものに防止策をどれだけ効果的に適用できるか
が主な要因の1つとなる。
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続けて、使用前の核燃料、つまりその製造プロセス
などとの関連で。
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もう1つの要因として、新しい燃料からも
proliferation risk は発生する。上で述べた通り、
TRISO核燃料は <核燃料中の235 Uの>
核分裂率を高められる可能性がある。<従来の
核燃料では、そこに含まれる235 Uのうち数%
程度しか実際に核分裂を起こさず、残りは
“使用済み” となります> そのためには、
HTGRでは通常より高濃度の低濃縮ウラニウム
(HALEU) を使用する必要があるのだ。一例と
して、<フランスの> Framatome 社のプリズム型
<六角形型> ブロック式HTGRや<アメリカの>
X-Energy社のペブル ベッド型HTGR はどちらも、
15.5 %濃縮のLEU <低濃縮ウラン。ただし、
従来のたいていのLWRでは、3‐5%> を使用
する。 … (中略) …
15.5 %程度ではそのままでは核兵器に使えるわけ
ではないが、それでも <アメリカのNRCの
放射性物質危険度分類では> カテゴリー2 に
分類されており <参照:
Category Of Radioactive Sources | NRC.gov>、
それよりも濃度の低い通常のLEUよりは、違法な
使用に使いやすい。このHALEUの使用は、
<HTGRで使用する> TRISO核燃料を商業
規模で製造する場合には、特に問題となる。
これは、商業規模となれば毎年、膨大な個数の
TRISO燃料の 「粒」 を計算するのが実に
大変な作業となるためだ。ぺブル ベッド型
HTGRであれば、年間1GWほど <現在の
LWRの標準的な発電量でもあります> の電力
(GWe-year) を生み出すのに、およそ100億粒の
TRISO粒を必要とする。これに対し、LWRで
同程度の電力を発電するのに必要となるウラニウム
燃料のペレット <現在のLWRの燃料棒は、この
ペレットを多数重ねて形成されています> は、
2-300万程度だ。さらにもう1つの検討事項と
して、HTGR用核燃料の特殊な物理化学的特性の
ため、従来のLWR用核燃料よりも軍事転用が
しにくくなるのか、という問題がある。ある人たちの
主張では、HTGRの核燃料は使用後の再処理が
従来よりも難しいので、LWRの使用済み核燃料
よりもproliferationに結び付きにくい、とのことだ。
軍事転用をするには、使用済みTRISO核燃料の
粒を炭素系のマトリックスから外し、
<グラファイトの> 頑丈な」コーティングを剝がさ
ねばならない。そうでないと、核分裂性物質を
核燃料粒の中核部から抽出できない。
そうした技術は1980年代にパイロット規模で実証
されてはいたが、産業規模で再処理プロセスを
開発する需要は今までない。今までのところ、
HTGRはまだ商業用には配備されていない
からだ。アメリカのエネルギー省 (DOE) は
2006年にこの問題を検討、同省の研究者たちは
HTGRの使用済み核燃料が確かに再処理が
困難ではあるものの、核兵器拡散をたくらむ者
にとっては核兵器用物質のソースとして魅力ある
ものであることに変わりはないことを発見した。
(Durst et al. 2009) 2010年に <フランスの>
Areva社 (現在のFramatome社) が行った調査
でも同様に、「燃料粒の表面強固なコーティングが
あるためその燃料の内部から核分裂性物質を取り
出すのが困難であるのは確かだが、不可能では
ない」 という結論に達している。この取り出しは現在
では、製造時のスクラップを回収する機械的な
プロセスで行われている。これは、まだ中性子線
放射を受けていないTRISO燃料でのことだが。
そして新式のプロセスも開発中であり、 ・・・
それらによって、さらに容易になる可能性もある。
(Areva 2010) <今までのところは> 産業規模
でのHTGR使用済み核燃料の再処理用インフラ
ストラクチャーはまだ存在していないが、だからと
いってproliferation riskが軽減するわけでは
ない。これは、小規模の秘密の施設であっても、
1年もあれば核兵器に使えるだけのPuを抽出
できる恐れがあるためだ。そのため、HTGRは
TRISO核燃料を使うのでLWRよりも防止策が
緩やかで構わない、ということにはならない。さらに
上述のように、HTGRの使用済み核燃料の地層
処分 <地下に埋める> に伴って発生しうる各種の
問題もあり、大規模のHTGR原子炉群が導入
されることになれば、産業規模で再処理を行う
ことに再度関心が高まる恐れがある。
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この、HTGRではHALEUを使用するという点、
特に問題ですね。ページ p-3)の 「PBR用燃料の
ウラニウム濃縮率」 という段落にある解説も参照。
続いて、HTGRからのproliferation を防ぐための
safeguards (防止策)について。
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HTGRの核兵器拡散リスク防止策
HTGRに伴うproliferation riskを評価するうえ
での主な要因の1つに、燃料交換の方法がある。
プリズム型ブロック式のHTGRでは、燃料交換は
LWRと同様である。つまり原子炉をいったん
シャットダウンし、核燃料ブロックをバッチ単位で
交換、原子炉の容器を再度密閉し、次の稼働
サイクルを開始する。HTGRであってもプリズム
型ブロック燃料のものは核燃料ブロックを数える
のが容易であり、LWRの核燃料を数えるのと
あまり違いはない。そのためプリズム型
ブロック核燃料であれば、核兵器転用の防止策は
LWRよりもいくらか容易になる。だが、今のところ
HTGRは小型モジュール炉 <SMR、上の黒い
メニューにあるページ シリーズ s-0) – s-3) で
取り上げています> として設計されているので、
大型のLWR 1基と同じ発電量の商用HTGR
原発を建てるとすれば、モジュールは複数でき、
それぞれを異なるタイミングで燃料交換することに
なる。
そうなるとIAEAによる現地査察回数も増え
<原発には、IAEAによる査察が必要です>、
核兵器への転用を予防する防止策の費用も増大
してしまう。これに対しペブル ベッド型のHTGR
では、LWRよりも防止策が困難になる。まず、
原子炉での燃料交換は稼働中に継続的に常時
行われる。<ページ p-1) の 「原子炉全体を
高温に対応させ、その高温では ・・・」 にある
略図を参照> そのため、新しい燃料粒も中性子
線を浴びた燃料粒も兵器用に転用される機会が
増えてしまう。この問題は実は、カナダで設計
しているCANDUのようなラインで継続的に燃料を
供給していく原子炉では、すでに発生している。
<CANDUはカナダで設計・実用化されてきた
原子炉で、燃料交換を常時進められます。燃料の
棒を集めた 「束」 を水平方向に配列して入れて
いけるのですね。減速材・冷却剤としては、
重水を使用します> ぺブル ベッド型原子炉では、
課題がさらに深刻になる。CANDUの炉心には
「燃料束」 が何千本かあるのだが、ぺブル ベッド
式原子炉の場合には1基あたり燃料粒が
何十万個かある。これに加え、大型原子炉が
1基あるのではなく小型の原子炉モジュール
<SMRですから> が複数あるため、原発
敷地内にある物体の数はさらに増大し、そんな
施設では防止策を適用するのも複雑な作業になる。
一例として、Xe-100という
76 Mwe出力のペブル ベッド式原子炉
モジュールなら、内部には220,000個の 「ぺブル」
つまり 「燃料粒」 が入っている。その燃料が設計
通りの平均出力163,000 MWd/MTHMを実際に
実現できると想定した場合、およそ1060個の
「ぺブル」 を毎日原子炉へと注入、同時に同じ
程度の粒を排出していくことになる。80秒ごとに
1個の粒を入れ替える流れになる。そうした粒の
うち、未使用の燃料粒は毎日175 個が新たに
注入され <いったん原子炉から排出した燃料粒の
中には、再使用できるものも多いため>、もう
使用できない粒が175 個使用済み核燃料保管庫
へと廃棄される。使用済み核燃料保管容器1つ
には、何十万個もの使用済み核燃料粒が入る。
これだけの大量の燃料粒とその中にある放射性
物質とを正確に追跡するのは大変な作業である。
しかもこの核燃料 「ぺブル」 は小さいため、
隠して盗み出すのも容易だ。(IAEA 2014)
しかも、HTGRの 「ぺブル」 燃料では核分裂を
するウラニウムの比率が高いのだが、使用済みの
「粒」 1つ1つには核分裂生成物が少量であり、
LWRの使用済み燃料のような 「自己防御的」
放射線場特性がない。<つまり、LWRの
使用済み核燃料の中には放射性の核分裂生成物
が多いので、テロリストなどが うかつに持ち出せ
ない>(Chung et al. 2012)
その一方、新しい核燃料1粒中に含まれる濃縮
ウラニウムの量と、使用済み核燃料1粒中に
含まれるプルトニウムの量とは小さい。Xe-100の
場合でそれぞれ、およそ7gと0.12gだ。
Xe-100の炉心1基の中にある 「ぺブル」 の量の
うち約20%、およそ数万個を集めないと、1個の
核兵器を作るのに充分な核物質を得られない。
これだけの量の核燃料を盗み出せば、発見され
ずにいるのは難しいであろう。にもかかわらず、
防止策の査察官は少量の転用・盗難などを検知
できねばならない。稼働年月が伸びるにつれ、
核分裂性物質が蓄積していくからだ。しかもやはり、
稼働させているユニット数が多くなり敷地にある
使用済み核燃料保管容器も多数になれば、作業は
さらにややこしくなる。LWRやCANDUでは、燃料
集合体の1つ1つを刻み込んだシリアル番号で
特定でき、原発施設全体で1つ1つを追跡
可能だ。IAEAの査察官も検証をしやすい。
TRISO核燃料の粒はグラファイトで覆われており、
そうした追跡はできない。そこで、内部燃料ID と
いう技術が提唱されている。 (Gitau 2011)
もっとも、その提唱技術はまだコンセプト段階の先に
進んではいない。だが個々のペブルを追跡する
ことが可能になったとしても、リアルタイムで施設
全体においてそうした個別追跡をするのは
現実的ではない。
・・・ (中略) ・・・
—- そうした施設でのカウント手順には本質的な
不確実性があり、統計やカウント上の誤りと本当の
転用・盗難などを区別するのは困難だ。その結果、
そうした施設では 「所在や用途が不明の核物質」
がゼロにはならないだろう。そうした不確実性は
すでに、中国 <の清華大学> にあるHTR-10
<というプロトタイプPBR> で実際に発生して
おり、「施設内にはぺブルを数えるカウンターを
余裕を持たせて設置しているのだが、それらの
カウント数同氏が正確には一致しないため、
ペブルの正確な個数について不確実性」 が
あった。(Durst et al. 2009) Xe-100のような
商業用原子炉ではHTR-10の10倍ほどの
ぺブルを扱うので、この不確実性はさらに複雑な
問題となる。そのため稼働操作員たちは、燃料粒
を1つ1つ追跡しカウントするのではなく、放射線
に基づいて燃料粒の流れをモニターする。そこに
何か異常が発生すれば、検知できるように設計
されている。(Durst et al. 2009) こうした
システムは、正常な統計的変動と核燃料の盗難
や転用から発生する兆候とを区別できるだけの
感度を有していなければ ならない。そして、
何らかの不確実性は残る。そのため、査察官は
そうした技術に加えて、何らかの密閉と検査の
手法を補完的に採用せねばならない。だが
そうした手法は本質的に、物体をカウントするよりも
信頼性に劣る。例えば、監視カメラが作動しなく
なったといった事情により、そうした手法が
一時的に停止してしまった場合には、知識を
継続的に保つための唯一の方法はその施設にある
すべての物質の在庫測定を行うという、大変時間の
かかる方法になってしまう。さらにLWRの使用済み
核燃料と異なり、防止策に取り組む査察官たちは
HTGRのぺブル ベッド型では、保管庫にある
使用済み核燃料を直接に観察することができ
ない。(Durst et al. 2009) LWRでは、
使用済み核燃料を数メートルの深さがある水の
中に保管し、これが放射線を遮るとともに査察官
たちはその使用済み核燃料を目で観察できる。
ぺブル ベッド型HTGR の使用済み核燃料だと、
水の中に保管できない。鑑識保管容器に、使用後
ただちに収める必要がある。そのため、保管容器の
外から観察することができない。
*********************
では、そんなHTGR用safeguards(核兵器
拡散防止策) の策定について。
*********************
ぺブル ベッドでの核兵器拡散防止策の現状
アメリカエネルギー省の研究者たちが提唱する
防止策を実施するなら、IAEAは新しい評価基準
や手法を開発せねばならない。それには、
多くの時間と膨大なリソースが必要となる。
(Durst et al. 2009) その提唱されている
防止策が登場したころ、<南アフリカの電力会社>
Eskomでは、南アフリカでのぺブル ベッド型
モジュール式原子炉の導入に積極的に勤めて
いた。さらに、その他の核兵器非保有諸国も
HTGR技術への関心を表明していた。だが
Eskomはこのタイプの原子炉の取り組みを
2010年に一時停止し、IAEA もぺブル ベッド型
原子炉用の防止策の策定努力をやめることに
決めた。社会にその関心がなかったからである。
・・・ (中略) ・・・
IAEAの2019年の報告書によれば、同機関
では中国と協力でHTR-PM <というぺブル
ベッド原子炉のプロトタイプ> 用防止策の
策定に取り組んでいた。これは、中国からの
自発的なオファー合意によるものだった。
だが、その詳細は全く判明していない。
(IAEA 2018) アメリカは、ぺブル ベッド型向け
防止策の策定でIAEAを支援できる。提唱されて
いるXe-100の商用デモンストレーション発電所を
IAEAの防止策策定の設計努力に提供するのだ。
同時に、その努力に対して資金も供給できる。
********************
日本政府は 「新型原子炉」 開発を提唱しており、
現時点でHTGRはその候補の中でも 「人気機種」
なのですが、上述でLyman氏が指摘してらっしゃ
るようなproliferation 防止のため、何か特別な策・
技術でもあるのでしょうかねえ??
事故危険性ももちろんですが、私たち核
廃絶を願う市民は、「新型」 原子炉各種の
proliferation riskについても問題を指摘、社会に
発信していく任務を担っているのでは?
事故危険性だけを問題にしていると、いずれ原発
勢力は 「新型原子炉ですから、安全ですよ~~」
と新型原子炉の新設を始めようとするでしょう。
それに騙される人たちを減らすためには、今から
問題点に関する情報発信をしておかないと。
ああ、疲れた~~
私の点描練習