2021年12月
PBR (Pebble Bed Reactor、ぺブル ベッド原子炉) の仕組みや特長を簡単に説明するのですが、その前に原子炉の型とは無関係に「核分裂を利用する(つまり、核分裂生成物を生み出す)すべての原子炉に共通のディレンマ」について述べておきましょう。
メルトダウンさえしなければ、それでよいのか??
2011年3月の福島第一のメルトダウンを受け、核発電推進勢力は「メルトダウンしにくい新型原子炉」をいずれ社会に紹介し、それを推進しようとするだろうと私は予測していました。すでに、本ウェブサイトの他の箇所でも述べた通りです。
そして2021年12月現在、いかんせん、私の予想通りの現状になってしまっております。実際、日本の政権与党のお偉いさんたちは、「小型原子炉」(現実には、SMR)の推進に躍起になってますよね。
さて、メルトダウンさえしなければ、核発電に伴う危険性全体が大きく軽減されるのでしょうか? 言い換えると、反原発団体などは、メルトダウンのリスクさえ指摘していれば良いのでしょうか??
核分裂生成物を生む限り、解けないディレンマ
反原発サイドの中には、「推進派の言うことなんか、どーせウソばっかりだ。相手にするな」で済ましてしまう人もいらっしゃるようです。でもそれじゃ、対話も何もあったもんじゃありません。推進派の人たちの人格を否定して攻撃することに、近づいてしまいます。
とりあえず、メルトダウンしにくい新型原子炉は登場していると、仮定しましょうよ。
すると、原発に反対する根拠の主な部分がメルトダウンのリスクである限りは、その分だけ反対する根拠が弱くなりますよね。これは論理上の必然です。
しかし、本「やかんをのせたら~~」が指摘しているように、原発に反対する主な根拠として、メルトダウンのリスクと使用済み放射性物質以外に、proliferation risk(核兵器につながるリスク)も視野に入れてみましょうよ。
すると、原子炉がその起源から持ち続けてきている「Pu製造装置という本性」が残る限りは、次のディレンマに気が付きませんか?
- 原子炉メルトダウンのリスクが無視できない ⇒ 原子炉でPuを製造し核兵器開発をもくろんでいる国家(またはテロ組織)も、メルトダウンのリスクに対処せねばならない ⇒ 原子炉をほんとに保有・稼働するのか、慎重に検討せざるを得ない
- ところがそのメルトダウン リスクが大幅に軽減したら ⇒ 核兵器が欲しい国は、原子炉を保有・稼働させやすくなってしまう ⇒ 核兵器が蔓延しやすくなる
核分裂生成物の中に、核兵器に利用できる物質がまったく含まれないような「まったく新型の原子炉」でも開発しない限り (そんなものを開発できるのなら、の話ですが) は、このディレンマは解消不可能ですよね。
つまり、
- メルトダウン リスクが今まで通り ⇒ 従来通り、メルトダウンの危険が
- メルトダウン リスクを大幅に軽減 ⇒ 今度は、核兵器拡散リスクが増大 (特に、SMRが普及した場合には、衛星などで検知することが困難に。 上の黒いメニューで固定ページ s-3) で述べました)
というわけです。どちらに転んでも、危険!
すると結論として、核発電は核兵器とともにこの惑星から廃絶するしか、ありませんよね。
日本の反原発団体のみなさん、proliferation riskをもっと詳しく・具体的にとらえて、社会に発信してくださいな!
では、PBRの仕組み・特徴を
Pebble bedって、「辞書的に直訳」してしまうと、「小石のベッド」となっちゃいますよね。なんだか、寝心地が悪そうな~~
いえ、「丸い小石を無数、堆積させたもの」ということなんです、この場合は。
Webster のウェブサイトで、言葉の定義を確認しましょう。
Pebble:
a small usually rounded stone especially when worn by the action of water
(Pebbles Definition & Meaning – Merriam-Webster )
小型の石ころ、通常は丸いものをいう。特に、水の作用で丸くなったもの
ってことですね。
Bed:
a mass or heap resembling a bed
(用例)
a bed of ashes
served on a bed of lettuce
(Bed Definition & Meaning – Merriam-Webster )
ベッド状に、何かを大量に集めたもの、ってことですね。
用例として、
a bed of ashes 灰が集まったところ
served on a bed of lettuce レタスを敷き詰めたうえにのっけて、お出しします
つまり、ぺブル ベッド原子炉とは、丸い小石状のものを大量に集めた原子炉、ってことになります。
では、その「丸い小石状のもの」とは??
ぺブル ベッド原子炉の場合、その「丸い小石状のもの」が核燃料なんです。
テニスボールより少し小さめ。
ざっと簡略化して図示してみますね。
* 上の図では核燃料そのもの(ウラニウム)を1つの球であるかのように示して
おりますが、実際には小さな砂粒のような粒(microspheres)の集まりです。
なぜボール型燃料に?
減速材を核燃料物質(235Uとか)の周囲に接近して配置し、核分裂物質を減速材で取り囲むことで、減速効果を高められ、中性子線の吸収率を高められるわけです。
「減速材とは?」については、上の黒いメニューにあるページ tw-1) の略図で短く説明。ただ、あくまで分かりやすく説明するために極めて模式化した図ですよ。
原子炉全体を高温に対応させ、その高温では ・・・
ウラニウム燃料と言っても、そのおよそ90%は238Uで、これは235と違って核分裂しません。中性子線がぶつかると、中性子を吸収していき、239Puに変わります。(やはり、ページ tw-1) で短く説明)
で、温度が高くなると、この238Uによる中性子吸収が増大します。
これがPBRのミソで、中性子の多くが238に吸収されてしまえば、235の核分裂が収まっていきますよね。つまり、BWRやPWRの場合と違って、制御棒が不要なのですね。制御棒なしでも、炉内の238が高温になれば、「勝手に」235の核分裂が収まっていきます。(passive safety)
だから、本来的にメルトダウンはしにくい、ということになるのですね。
でも、メルトダウンのリスクさえ軽減すればよい、ってもんじゃないことは、上で申しました。
上から、例えば10万個以上もの「燃料ボール」を上から原子炉に入れて、中性子線を浴びせて核分裂を起こします。冷却材としては反応しないガス、たとえばヘリウム ガスを使います。
その熱くなったヘリウムの熱を、熱交換機で水に移して、水蒸気を発生させる ⇒ その蒸気で蒸気タービンを稼働させ、発電
という仕組みですね。
シロートでもすぐに見つけられる問題点
でも、この模式図だけ見ても、以下の問題点はすぐに読み取れますよね。
- 無数(たとえば、10万個以上)の“燃料ボール”を使うので、炉内の温度が均一になるわけはない ⇒ こうした温度差で、原子炉壁に損傷が生じる恐れもあるハズ
- ボールとボールの衝突や摩擦から、破片やパウダーといった「ゴミ」が発生する
⇒ ヘリウムの通り道がふさがれてしまう恐れがある - そうした問題から、炉内の壁に亀裂が走ったり、冷却ガス(ヘリウムなど)の循環が阻害された場合、火災や放射性物質の漏れなどが発生する
では、そうした問題が実際に発生した実例を、次のp-2) で紹介しますね。