d-3) (発電原理) 広島型(ウラニウム235型)については?

2020年10月

ページ d-1)、d-2) では、要約していうなら
・ 原子炉とは本来、プルトニウム239という「原爆の爆薬」の製造装置
・ それに「ヤカン」(水を熱して蒸気を作る)とタービン+発電機をくっつけ、
蒸気タービン発電をするものを、「平和利用」と呼んでいる
という事実を説明し、「平和利用というマヤカシ」を明らかにしました。

すると、一部の読者の皆様から、
「それはプルトニウム型の原爆には該当するけど、ウラニウム型には
当てはまらないじゃないか」
とのご指摘を受けそうですね。

「あちらはどうなの?} 私の20分クロッキーより

「あちらはどうなの?} 私の20分クロッキーより

「ウラニウム型」なら、ウラニウム235を使う - 発電でも使う

確かに、原子炉はプルトニウム製造装置ですから、ウラニウム型原爆には
当てはまりません。
でも、「発電」と「ウラニウム型原爆」の両方で、ウラニウム235を使います
よね。そのウラニウム235を得るには、「ウラニウム濃縮」というプロセスが
不可欠でして、発電のためにも原爆製造用にも欠かせないのです。

この「やかんをのせたら・・・」をお読みくださっている読者の皆様なら、
すでに以下のようなことをご存じと思います:

・ 自然界に存在するウラニウム鉱石中には、核分裂性のウラニウム同位体
(235)はわずか0.7%ほどしか含まれておらず、大部分は核分裂を
起こさない同位体(238)である。
・ したがって、235の比率を上げる(濃縮)加工プロセスが必要になる。
・ それを行うのが、ウラン濃縮工場である。

つまり、結論から言ってしまうと、「ウラニウム濃縮」は「発電」でも
「核兵器」でも、ウラニウムを核分裂させる限り、必ず行うわけですね。
そして、その濃縮の原理は兵器用でも発電用でも同じ → つまり、「発電用
濃縮です」と言っておいて、実は兵器用の濃縮を行う危険が絶えず
存在している、ってことです。

じゃ、その「濃縮」とは?

World Nuclear Associationのウェブサイトにある Uranium Enrichment という
ページ(https://www.world-nuclear.org/information-library/nuclear-fuel-cycle/conversion-enrichment-and-fabrication/uranium-enrichment.aspx#:~:text=Most%20of%20the%20500%20commercial,involves%20gaseous%20uranium%20in%20centrifuges.
ならびにUS NRCのサイトのUranium Enrichment というページ(https://www.nrc.gov/materials/fuel-cycle-fac/ur-enrichment.html#:~:text=can%20be%20separated.-,Enriching%20Uranium,exists%20in%20natural%20uranium%20ore.&text=Commercially%2C%20the%20U235%20isotope,processed%20to%20create%20nuclear%20fuel.
をもとに、ウラニウム濃縮をきわめて簡略化して図解しましょう。

図5 ウラニウム濃縮と、それに付きまとうリスク

図5 ウラニウム濃縮と、それに付きまとうリスク

 

この遠心分離装置ですが、家庭用洗濯機(脱水機は、一種の遠心分離機ですよね)
程度のものを考えては、困ります!
https://www.nytimes.com/2010/03/09/science/09enrich.html で、
New York Timesの写真をご覧ください。成人男子の背丈よりも少し高い
分離機が並んでますよね。
アメリカには、高さが12mほどの分離機が立ち並ぶ濃縮施設もあります。

さらに https://science.howstuffworks.com/uranium-centrifuge.htm を
ご覧になれば、実際の濃縮工場では分離機が何千台と「キャスケード」と
いう連続体に組みあわされて使用されていることが、お分かりでしょう。

これだけのものを稼働させる電力

ついでながら、これだけの遠心分離機を稼働させるだけでも、どれだけの
電力を消費することか。核発電の推進派はよく、「原発は発電中は温暖化ガスを
出さない」とのたもうのですが、その燃料の濃縮では膨大な電力を消費する
わけですね。その膨大な消費電力の仮に半分でも、既存の化石燃料の
発電所からの電気を使用していたら ・・・ 「原発は温暖化ガスを出さない」
などというのは、燃料のサイクル全体を見るなら、寝言なのですね

単なる程度の違い

で、ウラニウム235の比率は、兵器用と発電用のそれぞれで、どの程度に濃縮
すればよいのか??大まかにいえば、
発電用 - 3から5%
兵器用 - 90%以上
とされています。
「なんだあ、そんなに差が大きいんじゃ、発電と兵器はかけ離れているじゃ
ないか!」などと安心しないでくださいね。濃縮の原理や設備は、
基本的に同じなのですから。つまり、発電用の濃縮ウラニウムをさらに
しつこく濃縮し続ければ、兵器グレードにまで濃縮できてしまうのです。
(例えば、下のIAEAのビデオでも、1:50-2:00あたりで、
IAEAの査察官の女性がそうした内容のことをお話になっています

要は「単なる濃縮の程度差」にすぎないわけでして、ここにウラニウム濃縮の
大きな危険性があります!

程度を超えると、あの光に ・・・-

程度を超えると、あの光に ・・・-

 

だからこそ、IAEAも ・・・

核燃料サイクル関連施設、特に濃縮施設などには、査察を欠かさないわけですね。
世界的な「核発電推進機関」であるIAEAも、ウラニウム濃縮が兵器開発に
つながりえるというリスクを重要視し、査察官を派遣しているわけです。

このあたりについては、当のIAEAがビデオを公開してらっしゃり、
https://www.iaea.org/newscenter/news/new-video-safeguards-inspection-uranium-enrichment-plant
でご覧になれます。英語のビデオですけど ・・・ 日本の反核団体で、
日本語での要約紹介などしているところは、ないのでしょうかね??

それと、私はIAEAの皆様による兵器転用を防止する努力には敬意を表しますが、
そもそもIAEAのような機関が査察をしていないといけないような
「危なっかしい発電」を、なぜ続けないといけないのか??
核兵器と核発電は、ともに廃絶するのが、最も安全な選択では??

次のページ d-4) では、ウラニウム濃縮の「兵器転用」のリスクを恐れた
破壊工作の実例として、2010年のナタンズ核施設(イラン)での出来事を
取り上げます。

さらに d-5) では、「余り物」のはずのウラニウム238までもが「兵器」に使用されて処理されている現実に言及します。

 

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