2022年12月
SMRの初期コストについての実例 ~
Beyond NuclearのBulletinより
アメリカの反核団体の1つにBeyond Nuclear
という組織があり、私も登録してこの団体の
Bulletinを毎週送っていただいております。
核発電と核兵器の両方の廃絶を目指している
団体なので、「やかんをのせたら~~」 と
方向がよく一致してるんですね。
そのBeyond Nuclearの2022年12月1日
付Bulletinでは、NuScale社が開発中の
SMRがコスト過剰になりそうだ、という報道が
あります。それを私の日本語化で紹介します。
例によって、< > 内は私からの補足説明。
「SMRって、なあに!?」 とおっしゃる方々や
「日本政府は、SMRなら安全 (なので事故時
の緊急避難プランなどにも作成しやすい) と
言ってるけど ・・・」 とお考えの方々は、まず
上の黒いメニュー (項目は、基本的にアル
ファベット順) でページ s-0) – s-3) を
お読みくださいな。
ご存じのとおり、日本政府は新型原子炉を
推進中で、その中にはSMRも含まれて
いますが、SMR開発の代表格の1社で
あるNuScale社 (上の黒いメニューで、
ページ s-0) 参照) のSMRが当初の見積り
より大幅にコスト過剰に陥りそうなのです。
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NuScale社のSMR、コストが 「大型」 に
なりそう
2022年12月1日
「やっぱり」 と言うべきだろう、商業用新世代
核発電開発のプロジェクトは今までのところ、
いずれも、完成までの建設コストの管理や
推定工期を守るのにまったく失敗してきている。
<EPRなどでもそうで、たとえばページ al-4)
の中ほどにあるフラマンヴィユとヒンクレー
ポイントCの実例をご覧ください>
アメリカでは、このコスト超過は間違いなく
「第3世代」 設計の原子炉と2005年に米国
議会が定めた 「ニュークリア ルネッサンス」
の終焉を告げる知らせである。
<同年、アメリカ南部でハリケーン カトリーナ
による大被害があり、気候変動に伴い
ハリケーンが激化していることが問題になり、
“CO2を出さないと考えられていた” (実際は、
付録 w-1),付録 w-3), 付録 w-8) を参照)
核発電が一時的に脚光を浴びた>
その「ルネッサンス」 から17年経った今、
アメリカの原子力規制委員会 (Nuclear
Regulatory Commission、NRC) に
「新型原子炉」 の建設と稼働承認申請が
提出されている原子炉は34基あるが、
そのうち完成に近づき商業稼働に備えて
いるものは、2件しかない。ジョージア
州のVogtle 原発3号機と4号機は、当初
の推定コストの倍の経費を要し工事も
スケジュールより数年遅れた。この2基以外
の試験は一時停止中、または工事途中で
撤回ないし破棄されており、そのため電力
消費者たちが100億ドルもの負担を強い
られることになる。
そうなると、「第4世代原子炉」 の代表格で
あるNuScale社の 「炭素ゼロ電力プロジェ
クト」(CFPP) が先日、初の重大な内容の
発表を行ったのも驚くに値しない。それに
よれば、同社のVOYGRという設計の
SMR (未承認の77Mweのユニット) による
推定発電コストが、新たな建設コスト予測に
よると、ほぼ倍増してしまうという。
さらに、そのNuScale社自体によるコスト倍増
の予想に加え、NRCのスタッフはVOYGRの
客観的分析結果を公に発表している。その
内容が困ったものだ。Preapplication
Readiness Assessment Report of the
NuScale, Power, LLC Standard Design
Approval Draft Application (電力関係、
NuScale有限責任会社に関する申請前準備
評価報告、標準設計承認の仮申請) という
タイトルの、2022年11月15日付の報告だ。
それによれば、この未承認設計の原子炉は、
まだ安全性検査の 「本番を迎える用意は
できていない」。
もともと NuScale は2021年1月に、アメリカ
西部の公的電力企業のコンソーシアムである
Utah Associated Municipal Power Systems
(UAMPS) の加盟48社のうち36社と合意を
締結していた。「炭素ゼロ電力プロジェクト」
(CFPP) では本来、NuScale社のSMRを
12基を原発1か所に配置し、コントロール
ルームをエネルギー省 (DOE) のアイダホ
国立研究所 (INL) にある連邦政府の土地
に設置する計画であった。当時の推定コスト
は、1メガワット (MWh) あたり55ドルと
見られていた。
2021年夏までに、CFPPの参加企業は
UAMPS加盟27社にまで減少していた。コスト
増大の懸念から、いくつかの自治体がCFPP
から脱退したのだ。UAMPSはそれを受けて
プロジェクトの規模を6基にまで縮小、
そのため推定コストは$58/MWhに
上昇した。
核開発では常に建設コストの増大が悩みの
種であり続けているのだが、今ではCFPPの
予想コストは$90 から $100/MWhという
範囲に上昇している。この大幅のコスト上昇の
うちには、このUAMPSによるパイロット
プロジェクトに対するDOEからの14億ドル
の交付金、そして売電政権のインフレ対策法
2022による$30/MWe も算入されている。
ある自治体の代表者はこのコスト増大の発表
のことを 「みぞおちに一撃を食らったような
もの」 と述べ、さらに別の参加自治体は理事
会にCFPPは経済的競争力というテストで
「おそらく不合格」 になるだろうと述べている。
UAMPS加盟各社がさらにこのプロジェクト
から脱退し、新しく参加する企業がないの
ではと、さらに多数の自治体が憂慮している。
一体、次に来るのは何なのか?
NuScale による設計承認の取得とNRCに
よる承認前の仮申請の検査完了も、決して
スムーズに進んではいない。すでに契約
消費者の料金面での信頼を失っているの
だが、NRCのスタッフによるとNuScale社の
VOYGR原子炉の安全性検査では、「重大な、
または深刻な問題がいくつか」 発見されて
いる。憂慮する科学者同盟 (Union of
Concerned Scientists) のEdwin Lyman
博士がUtilityDiveという業界誌で述べている
ところによれば、「NRCの評価結果からは、
NuScale社の77 MWeモジュール標準
設計承認の仮申請は、まだ本番の評価を
受ける準備ができていない」 そのことだ。
Lyman博士はさらに 「特に憂慮すべき問題と
して、アップグレードしたこの設計の安全面
での主な影響について、充分に評価すると
いう大変な作業を、NuScaleがやり通したと
いう証拠が全く見られない」 とも語っている。
NRCからNuScaleに宛てた準備評価書簡
を見ると、NRCのスタッフは安全面での重大
な懸念事項やギャップ、欠陥をいくつか特定
しており、それらは公衆衛生や安全性に関
わるものだ。第4世代原子炉各種はまだ実証
がなされていないが、核発電業界や政府は
それでも公衆衛生や安全性の問題を軽視して、
第4世代の推進に取り組んでいる。今回の
問題点の発見により、NRCによる承認
プロセスが大幅に遅延されることになり
そうだ。では、発見されたそうした問題を
いくつか紹介してみよう。
1) VOYGR 設計では、格納容器や圧力容器
の材料はステンレス スティールになりそうだが、
このステンレスには実際の稼働実績がなく、
原子炉で使用した場合の素材データも欠落
している。NRC のスタッフの発見によれば、
NuScale社の分析では、公衆衛生や安全性
判断の 「妥当な保証」 基準を満たすには
不十分であるそうだ。炉心部とは、稼働時
には過酷な状態にさらされるもので (中性子
線の衝突と高熱)、そのため圧力容器の壁の
基盤金属や溶接材に破砕をもたらす場合が
ある。NRCのスタッフはNuScaleに対し、
同社が提唱している新型材料の選択に関し、
NRCの一般設計基準要件を満たすもので
あるという技術的な根拠を提示するよう求める
ようだ。
2) NRC のスタッフの発見によれば、NuScale
は明らかに 「公衆衛生と安全性に関する判断
を打倒に保証するために必要な情報を削除
してしまった」 そうだ。VOYGR設計で使う
安全性関連の各種システムや構造物、コンポー
ネントの耐震特性に関する情報である。しかも
なぜ情報が欠落しているのかについて、
適切な説明もない。
3) NRCスタッフはさらに、原子炉安全性に
関するシステムや構造物、コンポーネントでの
「航空機衝突事故」 と 「爆発圧力波」 に関する
NuScaleの技術分析にも欠陥を発見している。
核発電業界とNRCでは電力会社や州、連邦
の計画、調整、保守に関しては第4世代
原子炉に関する連邦の要件を廃止し、原発
事故やセキュリティ関連の事故があった
場合の原発構外での放射線緊急対応プラン
を実施しやすくしようと考えているのだが、
上記のような各問題から、社会的な心配が
高まっている。このように、従来何十年も
守ってきたはずの 「深層防護」 を破棄して
しまうと、緊急時の講習通報システムや原発
構外の住民避難地帯、構外の放射線除染・
回復センターまでの避難ルート、ヨウ化
カリウム (KI) の予めの配布や備蓄に州や
連邦政府が関わらなくなり、その資金提供も
なくなってしまう。ヨウ化カリウムは、原発事故
時に大気中に放出される放射性ヨウ素ガス
から甲状腺を予防保護するためのものだ。
上記のような発表と同時期、2022年11月
28日に、Institute for Energy and
Environmental Research (エネルギーと
環境研究所、IEER) のArjun Makhijani
博士による見解が発表された。「SMRでは、
クリーン エネルギーは実現できない。新規
原発なしで、アメリカは100%クリーン
エネルギーを実現できる」 というものだ。
原発からの電力はきわめて高価なものだが、
電力部門の炭素排出をなくし気候危機を軽減
するためには原発が必要だと業界や政府は
主張している。それに対してMakhijani 博士
は、明白な反論を提示している。そうした軽減
努力を成功させるためには、大幅な炭素排出
の削減を大規模に実現することが確かに
必要だ。だが、それだけではない。それに
劣らず重要なのが、メガワット時あたりの
コストの最小化、そして短期間で高い信頼性
の下で配備できることだ。この2点に関して
は、原発は幾度も失敗を重ねてきている。
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SMRに限らず、EPRでも、新型原子炉建設
ではコストと納期の超過は頻繁に発生して
きました。(上の黒いメニューで、al-4) 参照)
その拡大コストは、日本の現状では結局、
電気料金の上昇につながります。日本政府
が正気なら、電力供給の方針・戦略を考え
直さないと。まあ、「原発にしがみつく本当の
理由」 は 「潜在的核兵器保有能力」 なので
しょうけど、そうであれば潜在的核保有能力
のために、我々市民が高い電気代金を払わ
される結果に ・・・
それと、後半にあった 2) は、日本の皆様に
とっては憤慨ものですよね。
そして、最後のコスト工事期間の問題。「電力
危機だ → 原発新設や稼働延長を」 という
主張が今のところ飛び交っていますが、原発を
計画から建設し、商用稼働に至るまでには
どんなに急いでも20-30年はかかります。
そんなものに頼っても、今年の冬には間に
合うはずもありません。
電気料金も問題で、たとえば東京の真夏に
電気料金が高く、部屋にエアコンがあっても
「電気代節約のため」 ONにしない人が
いると、熱中症で倒れるリスク軽減には
まったくつながりませんよね。
まあ、だからこそ核発電勢力は
原発のMW/hコストをかなり 「いじくって」
公表してるのでしょうけど。