mr-1) (MSR) MSRの概要

★ MSRは多様なものが現在設計・開発中です

いずれ将来、核発電推進勢力の一部が
「核燃料が絶対にメルトダウンしない、安全な新型原子炉が
できるぞ~~」
というような「原発広報」を始めるかも。

もちろん、「核燃料が絶対にメルトダウンしない」という
主張は、正しいのだけど無意味なものです。MSRの核燃料が
絶対にメルトダウンしないのは実はどういうことか、
すでに上の黒いメニューにあるページ mr-0) で短く
説明済みです。実際、核燃料メルトダウン以外の事故危険性も、
proliferation risksも存在します。(後で紹介する “Advanced
Isn’t Always Better” をお読みください)

ただ、核発電推進勢力がそうした原発広報をやらかすのが
予想されているのに、核発電反対勢力が黙している現状は、
実に困ります。ましてや、「MSRって何?SMRとは違うの??」
とか言ってるようでは ・・・・

実際、2021年秋には自民党の甘利幹事長(当時)が、
「メルトダウンしない小型炉で、原発の建て替えを」といった
主旨の発言をし、SMRを宣伝しましたよね。(ページ s-0) 参照)
MSRについても、いずれ似たような喧伝が行われることは、
容易に予想できます。
その日が来てから喧伝に対抗するんじゃなくて、今から叩いて
おいた方が賢明だと私は考えます。そもそも本 「やかんを
のせたら~~」 で開発段階の新型原子炉をアレコレ紹介している
のは、「今から叩いておく」 ためですね。

Against "negative space" (conventional) / 空白の背景の上に(伝統的)
先を見ましょ・・・
私の20分クロッキー

★ そんなわけで、典型的なMSRの構造を ~~

まず、既にmr-0) で短く述べたように、MSRでは
核燃料と冷却材をどちらも高温で融かし液体混合物として
使用します。(つまり、核燃料は「はじめからメルトしている」)
減速材が必要な場合 (つまり、高速中性子炉ではない
場合) には、グラファイト (黒鉛) を用いることが
多いようです。

代表的なMSRのスキーマを、下の図で。
(画像をクリックすれば、図だけの画面が表示されます)

あくまで、数あるMSR設計の一例です

あくまで、数あるMSR設計の一例です

なお、
・ 基礎知識のある方であれば、「うん?液体燃料で
あっても核分裂したら、核分裂生成物が多数種類できる
はずだけど、そのうちの気体生成物は液体燃料の中で
どうなるんだ??たとえば、Xe 135(キセノン135)とか??」
と訝しがってらっしゃることでしょう。ごもっともです!
これ、MSRの深刻な問題の1つで、この下でも専門家による
この問題への言及を紹介しますね。

・ 上のスキーマ(構成図)では減速材が明記されていませんが、
上述のとおりMSRにはthermal (減速材あり)と fast
(減速材なし) の両方があるためですね。
thermal と fast の違いについては、上の黒いメニューで
ページtw-1) をご覧ください。

・ 何よりも、化学処理施設があって核分裂生成物で「汚れた」
液体燃料から生成物を取り除く点に、ご注意ください。要は
使用済み核燃料の「再処理」の一種なので、悪用されると
Pu 製造 ⇒ 核兵器製造というproliferation riskにつながります。

★ MSRの今まで

もともとMSRは、「核エネルギーで飛ぶ飛行機」用の原子炉
として、研究されたようです。
1950年代にアメリカで航空機用原子炉実験 (Aircraft Reactor
Experiment) という実験があり、Oak Ridge National
Laboratoryなどが小型MSRなどの開発に取り組んだそうです。
Aircraft Reactor Experiment – Wikipedia によると、
「案の定」気体の核分裂生成物が漏れ出すという問題が発生した、
ということです。

1960年代
Oak Ridgeでは航空機用以外のMSRの研究を続け、MSRE (Molten
Salt Reactor Experiment) と呼んでいました。

つまり、MSRは実はかなり昔から研究開発が進められていた
原子炉ですね。
技術的にはIFR (ページ シリーズ if-x) ですでに説明済み) の方が、
原子炉技術者たちの間では今でも人気が高いようですが、すでに
アメリカ政府が1990年代半ばにIFR開発を打ち切っており、研究開発の
資金がありません。まあ、S-PRISMという形でGE日立が開発を続けて
らっしゃいますが。(ページ if-1) 参照)

そこでMSRがかなり期待を集めているようで、現時点で何らかの
MSR研究開発を行っている諸国の例を挙げてみると、

中国(ページ mr-0) を参照)
カナダ (IMSRという、MSRの小型モジュール炉(SMR)を開発中
・・・ ああ、ややこしい!)
デンマーク (Seaborg社がモジュール式のMSRを開発していた李、
Copenhagen Atomics社が軽水炉の核ゴミを燃料として反応させる
重水炉を開発中)
フランス (高速MSR)
インド (トリウム サイクルにご執心ですのでね)
日本 (International Thorium Energy & Molten-Salt Technology)
その他、ロシア、英国、アメリカなど。

それにしても、世界中でこれだけMSRのR&Dに投じる資金が
あるのなら、もっと再生可能エネルギーからの電力の蓄電技術に
投資したらどうなのですかねえ?

「ついでに たこ焼」 今川焼やたい焼きばっかりやっとるんやったら、もっとまともなたこ焼作ったらどないやねん!?

「ついでに たこ焼」
今川焼やたい焼きばっかりやっとるんやったら、もっとまともなたこ焼作ったらどないやねん!?

★ UCSの”Advanced Isn’t Always Better” より

Union of Concerned Scientists (UCS) というアメリカの
科学者団体は、世界的に有名なので皆様もご存じですよね。
そこのEdwin Lymanという方が、2021年3月付の論文
“Advanced Isn’t Always Better — Assessing the Safety,
Security, and Environmental Impacts of Non-Light Water
Nuclear Reactors” (新型だからといって、今までより良いとは
限らない ・・・ 軽水炉以外の各種原子炉の安全性、
セキュリティ、環境への影響の評価) を発表してらっしゃいます。
ucs-rpt-AR-3.21-web_Mayrev.pdf (ucsusa.org)
にございます。
著者のLymanさんは、UCSの気候・エネルギー プログラムで
核発電の安全性を担当するディレクターを務めてらっしゃるそうです。

この論文、全部で140ページほどあるので、なかなか全部を
読んでいる時間はないでしょうけど、軽水炉以外の各種原子炉の
問題点や特徴を知るには、お勧めです。皆様も、ぜひダウンロード
などして必要なときに読めるようにしておいてくださいね

では、このAdvanced Isn’t Always Betterのうち、Molten Salt Reactorの
章から、いくらか抜粋・日本語化して紹介してみます。
本ページはすでに長くなっているので、今回はMSRの概要的な
説明として、p. 89の一部、P. 90の一部、p. 92の一部だけにしますね。
次回以降のアップロード、つまり mr-2) と mr-3) では、この論文を
もっと長く紹介します。

では、いつもどおり私の抜粋・日本語化で。
< > 内は、私からの補足説明。

p. 89
— (前略) —
MSRはLWR <軽水炉> よりも低圧で稼働できるが、絶えず
内部を高温に保って塩を液体に保つ必要がある。通常の
条件下では、塩の温度としては、650°C から 750°C に保つ
ことが必要だ。問題点の1つとして、溶融塩は多数の構造材を
侵食してしまう。MSR建設での主要技術課題の1つとして、
こう放射線・高温度の環境下で長期間の核燃料との接触に
絶えられる材料を見つける、というものがある。また液体
原子炉燃料を使うことの大きな利点としては、燃料の核分裂率と
<核種>変換率とを、固形燃料の場合よりも高めることができる。
そのため核ゴミの量を減らし、ウラニウムの利用率を高めることが
・・・(以下略)・・・
****************

上記は、これだけでお分かりになりますよね。

固形のまま直火で焼くより ・・・ 熱い液体の中に入れた方が、火は早くとおる けど、それに耐える調理器具が必要になる

固形のまま直火で焼くより ・・・ 熱い液体の中に入れた方が、火は早くとおる
けど、それに耐える調理器具が必要になる

p. 90
— (前略) —
<固形燃料の場合とは> 対照的に、液体燃料では固形
構造物がないため、そうした構造物が放射線で損傷を
受けることもない。さらに液体燃料の成分組成は必要に
応じて調整でき、別の液体を注入するだけで核燃料の
分裂の様子を最適化できる。だが固形燃料と比べ、
液体核燃料であるがための安全性・環境・proliferationの
各面でのリスクも存在する。固形燃料の原子炉では、
原子炉の稼働で生成された核分裂生成物の大半は、
固形核燃料<を閉じ込めている> ペレットや、ペレットを
収めているクラディング <ページ if-1) の「炉内では、
燃料棒は縦に入れることが多いです。」というキャプションの
図の、下側を参照>  の分子構造の中に捕捉される。
核分裂生成物の中にはクリプトンやキセノンのような希ガスも
含まれるが、そうしたガスは<固形核燃料の内部で発生しても>
燃料パレットの表面にまでは移動するが、クラディングが
無傷である限りは、燃料棒の内部に留まる。ところが溶融塩
原子炉では、こうした核分裂生成物が炉心から放出されると、
原子炉の構造物ならびに排出ガス処理システムのうちに
閉じ込める必要がある。そうしないと、環境へとガスが放出
されてしまう。<たとえば、核分裂生成物の1つである
キセノン 135つまりXe 135 は放射性気体で、中性子を吸収して
しまうため、原子炉内の反応を一時的に弱めてしまいます。
(日本語では、「キセノン オーバーライド」と呼んでいます)
またこうした炉内で中性子をたくさん吸収してしまう物質を、
「核毒物」と総称しています。放射線による人体への毒性とは
関係ないので、ご注意くださいね>   これは、安全面でも
proliferation面でも問題となる。特にMSRから大量の希ガス
分裂生成物が発生した場合には、包括的核実験禁止条約で
秘密の核兵器実験を発見するために設定されている国際監視
システム <Xe 133などの放射性気体を測定して、秘密の核実験が
あったかを突き止めます> の働きを妨害してしまう危険がある。
さらに、液体燃料を使うMSR設計のほとんどでは、核分裂性
物質の含有量を調整し、また液体塩の中にある核分裂生成物を
除去するため、燃料である液体塩を常時再処理する必要がある。
塩の中に分裂生成物が多いと、原子炉の稼働にも安全性にも
悪影響を及ぼす危険があるためだ。後ほど <この論文原文で
後ほどということですが、ここでは割愛>  述べるように、
こうした常時再処理を行うと、IAEAによるproliferation防止策の
実施に対しては特異な困難となり、proliferation risksを増大
させてしまう。そうしたリスクに充分に対処し解消しなければ、
未来のエネルギー ミックスにおいてMSRは重要な役割を演じる
ことができないだろう。
— (以下略)—
****************
「事故危険性」よりもproliferation risksにまず注目してらっしゃる
ということを、見逃さないでくださいね。さすがはUCS、押さえる
べき点をしっかりと押さえてらっしゃいます! Proliferationという
問題を無視あるいは軽視してしまうと、反原発運動は長続き
できません! (2022年5月現在の日本の現状も、それを示しています)
これについては、下で述べます。

「絶対に焦げないたい焼」 そりゃ、初めから焦げてたら、もう焦げないよう~~!

「絶対に焦げないたい焼」
そりゃ、初めから焦げてたら、もう焦げないよう~~!

p. 92
液体燃料 VS. 固形燃料
液体原子炉の炉心が「メルト ダウン」しえないという主張は、
循環論法だ。<言い換えれば、正しいけど無意味>  この種の
原子炉の安全性について、誤った印象を与えてしまう。深刻な
事故や破壊活動があった場合、環境への放射性物質の放出の
タイミングと量とは主な問題となる。MSRでは核燃料が初め
から液体であるが、だからといってこうした問題点において
安全性を向上させてくれるわけではない。
— (以下略)—
****************
これはもう、私からも申し上げた通りですよね。

★「死を招く自己矛盾」

核発電に反対する場合、「事故危険性」ばかりを
訴えていると、
推進勢力は
・ 電力不足
・ CO2問題
を訴え、しかも
・ 新型原子炉なら安全だ
と主張して巻き返してくるでしょう。
というか、実際に2022年5月現在の日本では、そう
なちゃってますよね。(ページ Th-0) の「2011年夏の、
外れて欲しかった予想」という段落を参照)

ここに、proliferation riskを中心とする軍事リスク
(ページTh-2) の「ここで気づいてほしいのですが ・・・」で
取り上げた「言いがかりリスク」や、g-5), g-6) で問題にした
テロ攻撃リスク、u-1) で問題にした原発そのものが一種の
核兵器になるリスクも含みます) もしっかりと押さえて
おくなら、軍事リスクと事故危険性とが、核発電の
自己矛盾を形成することを示すことができます。核発電で
原子炉を使用する限り、この自己矛盾から逃れることが
できません。原子炉は本来、原爆製造用の装置でしたから、
その宿命とでもいうべきでしょう。

原子炉の宿命

原子炉の宿命

上の図にあるように、
事故危険性を減らす ⇒ 原子炉を建設・運用しやすくなる ⇒
proliferation riskが増大
(「設計意図通りに」稼働させれば Puをあまり出さない原子炉で
あっても、使用者が「意図を外れた使い方」をしないという
保証はない ・・ ページ if-3) の「そもそも、どうも科学技術系の
人たちの一部は ・・・」という段落を参照)
かといって、
事故危険性をほっておいたら ・・・ ⇒ 発電にも使用できない
という自己矛盾ですね。

もっと分かりやすくするため、「仮に」次のような「夢の新型
原子炉」が実現できたと想像してくださいな:

1) メルトダウンどころか、放射性物質の漏れを一切起こさない
2) 核燃料中の Uの反応率が高く、充分な期間にわたり核燃料を
使用すれば、Pu 239をはじめ半減期の長い核分裂生成物が
ほとんど出ない。⇒ 使用済み核燃料は、短期間の保管で
放射能を失う。(「仮に」の話ですよ!)
3) 建設コストや廃炉コストも小さく、建設期間も短い。

さあ、軍事リスクを軽視している (つまり「事故危険性」ばかりを
反対理由としている) 反原発論者の方なら、この架空の新型原子炉に、
どのような反対理由を見出しますか??
おそらく、「事故危険性」を主に問題としている限りは、
反対する理由がないですよね?
(なお、IFRは多少この「夢」に近いことにお気づきと思います
~~ ページ シリーズ if-x) を参照)

ここで、軍事リスク 特に proliferation riskにフォーカスを映せば:
上記の2) の特長が悪用され、「設計意図よりも短期間の稼働での
分裂生成物の取り出し」や「炉心周辺へのブランケットの設置」
(高速炉の場合)などによって、原爆の「爆薬」製造が行われて
しまうリスクに、すぐにお気づきになりますよね。
ピンとこない方は、上の黒いメニューにあるページ if-3) を
もう一度じっくりとお読みくださいませ。

で、こうした「悪用・転用」は「核兵器を欲しがっている国や
テロ組織」がアレコレ研究して編み出してしまいうるもので、
原子炉の設計だけで防止しきれるもんじゃ、ありません。
さらに1) は、そうした国家や組織にとっては、「Pu製造を
安全に続けられる」という結果につながります。

これでもうお気づきと思いますが、
「事故危険性」を減らす ⇒ 核兵器を欲しがっている組織も、
その原発を保有・稼働しやすくなる ⇒ proliferation risksの拡大
という危険があることになります。
逆に「事故を起こしやすい原発」を故意に作れば ⇒ 確かに
核兵器を欲しがっている組織も、そんな原発は欲しくない ⇒
でも、そもそもそんな事故しやすい原発、誰が設置したがるのだ??

Hollowness in the lovely model -- I might say / すてきなモデルさんの中に、潜む空白 ・・とでもいえばいいのか?
「考えてみれば・・・」
私の20分クロッキー

つまり、
事故危険性の減少 ⇒ proliferation risksの拡大
という流れが明らかでして、「原爆製造の申し子」である
原子炉を使う限り、原発はこの事故危険性 VS proliferation risks
という自己矛盾から逃れられないのですね。

それ以外にも軍事関係でのリスクとしては、上でも述べたように
Th-2) の「ここで気づいてほしいのですが ・・・」で取り
上げた「言いがかりリスク」
g-5), g-6) で問題にした、テロ攻撃されてメルトダウンしてしまうリスク
u-1) で問題にした原発そのものが一種の核兵器 (巨大ダーティボム)
になるリスク
などもあります。

では、私の本音としては、次にアップロードするページ mr-2)
では、すぐにproliferationを中心とする軍事関連リスクに進みたいの
ですが ~~ 事故危険性を無視してるわけじゃない、ということを
行動で示すため、mr-2) ではMSRの事故危険性について、
上記の ”Advanced Isn’t Always Better” より短く取り上げますね。
その次、mr-3) ではproliferation risk中心に ”Advanced Isn’t
Always Better” の記載内容を紹介します。

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