2023年7月
Destroyer of Worlds
(世界を滅ぼすもの)
オッペンハイマーの予言を回避
できるのか?
Beyond Nuclear Bulletin 2023年
7月20日より
(CounterPunch(ワシントンDCで
始まったオンライン雑誌)の記事を掲載
したもの)
Putting the Nuclear Genie Back in the Bottle – CounterPunch.org )
J. Robert Oppenheimer(ロバート
オッペンハイマー、1904-1967)は、
マンハッタン プロジェクトを指揮した
アメリカの物理学者としてよく知られて
いますよね。
核兵器のことを、”Oppenheimer’s deadly
toys” などと呼ぶ場合もありますよね。
彼の生涯やTrinity原爆実験などを取り
上げた映画 “Oppenheimer” がアメリカ
では公開されます。日本での公開は未定。
今回は、この英語との関連で「核兵器も
核発電も”ボトルから出てきたお化け”
のようなものだから、ボトルに戻すべき
だし、実際に戻しえる」という考察を
紹介します。
元はCounterPunchというウェブサイト
に掲載されたもので、Beyond Nuclear
Bulletinの7月20日号にも取り上げ
られています。
著者のGrossman教授については、
investigative reporting, professor of journalism (karlgrossman.com)
に情報があります。
いつもどおり、
私の日本語化
< > 内は私からの補足説明
です。
*********************
2023年7月18日
核というジニー(ボトルから出てきて、
人の願いをかなえるお化け)を、
ボトルに戻す
Karl Grossman
<アメリカで7月21日に公開となった
映画> “Oppenheimer” は、アメリカの
劇場でこの金曜日に公開となる。
メディアは賑やかに取り上げており、
先週日曜つまり7月16日は <オッペン
ハイマーが指揮した> 史上初の原爆
実験であったTrinity Testの第78回目
の記念日であった。さらに重要な事実と
して、核兵器禁止条約(Treaty on the
Prohibition of Nuclear Weapons)
<2017年7月7日に国連総会で採択>
が国際法となった記念もあった。この
タイミング、そして世界の趨勢から、
今や核というジニーをボトルに戻す
べき時が来たのだ。
でも、そんなことができるのだろうか?
核兵器を全廃できるのだろうか?
できるのだ。
第一次大戦勃発時に、世界がどう反応
したのかを思い返していただきたい。
毒ガス兵器の恐るべき作用が知られる
ようになったのだ。マスタード ガスや
塩素ガス、フォスフィン ガスにより、
一次大戦では双方で何千名もの死者が
出た。それを受けて1925年の
ジュネーヴ議定書ならびに33年の化学
兵器禁止条約(Chemical Weapons
Convention)により化学兵器は禁止
され、それ以来基本的にこの禁止は
機能してきた。
今月、The New York Timesは第1面に
“Toxic Arsenal Nears Its End, Decades
Later.”(毒性兵器、終了が近づく -
何十年もかかったが)というフロント
ストーリーを掲載した。7月6日付の
その記事の出だしは、次のとおりだ:
「背後にある封印された部屋の中で
・・・ 武装した守衛と高い有刺鉄線
3列とが、コロラド州にあるアメリカ
陸軍のプエブロ化学デポを守っている。
ロボット アームのチームがあり、
アメリカに残っている最後の化学兵器の
一部を忙しそうに分解している。死を
招く化学兵器が、大量に存在している。
残酷なマスタード剤の入った弾薬が
運び込まれていたが、それはアメリカ
陸軍が70年間も保管してきたものだ。
明るい黄色のロボットが、その弾丸
1つ1つに穴をあけ、中身を取り出し、
洗い出している。そして、華氏1,500度
で加熱処理を行う。反応性のない無害な
金属くずが吐き出され、コンベヤーの
ベルトから吐き出される。どこででも
見かけるような茶色の大型ごみ箱に転げ
落ちていき、その音が響く」
この記事は次のように続く:
「あれが、化学兵器の断末魔なのだ」
そう語るのはKingston Riefだ。彼は
政府の外部で軍縮活動を何年も進め、
今では脅威の軽減と軍縮担当の国防
副次官代理を務めている。弾薬がゴミ
箱に消えていくたびに、Riefは笑みを
浮かべる。これだけの化学兵器の
ストックを処分するには何十年も要し
たが、陸軍によればこの処理作業は
そろそろ完了するそうだ。
「化学兵器はあまりにも非人道的だと
いう判断が下り、第一次大戦のあとで
その使用は禁止された。だがその後も
アメリカをはじめ世界の主要国は化学
兵器の開発を続け、大変な量になった」
と彼は語る。
2017年には国連で核兵器禁止条約が採択
されたが、122か国が署名している。
そして2021年1月には発効したが、
これは化学兵器の禁止条約の核兵器
バージョンになりえる。化け物を、
ようやくボトルに戻すことができる
かもしれないのだ。
この核という化け物が形成され始めた
のは1939年のことで、私が暮らす場所
からおよそ13㎞ほど離れた個所での
ことであった。
<ニューヨーク州の> ロング
アイランドはノース フォークで、
ある年アルバート アインシュタインは
夏を過ごしていたのだが、それは海岸の
小さなコミュニティで、ニュー
サフォークという名称だった。リトル
ピーコニック湾という湾から海を渡った
場所で、そこに私と妻はもう50年近く
暮らしている。ロング アイランドの
サウス フォークにある村だ。
その場所で1939年8月、アイン
シュタインは当時のアメリカ大統領
フランクリン D. ルーズベルトあての
書簡を作成、署名したのであった。その
前年にドイツで核分裂に成功したのを
受けての手紙であった。この書簡に
よれば、「この核分裂という現象を応用
すれば、爆弾の製造も可能だ。しかも、
定かではないが、きわめて強力な爆弾に
なる可能性すらある。」
この書簡をきっかけに、マンハッタン
プロジェクトが形成された。原爆開発の
プロジェクトだ。ナチス ドイツの動きに
対し、炎には炎でという対抗をしようと
いうものだ。J. Robert Oppenheimerが、
この突貫プログラムの科学ディレクター
に就任した。
最終的には、アインシュタインは自らが
この書簡に記してしまったことを後悔
していた。1950年に著した著作Out of
My Later Years <字義どおりには、
「自らの晩年より」>で彼は、
「ドイツが原爆製造に成功はしない
だろうと分かっていたなら、こんな
書簡をしたためてはいなかったはずだ」
と、この書簡を悔やんでいる。
私が1980年に出した著作Cover Up:
What You Are Not Supposed to Know
About Nuclear Power<隠れ蓑: 核発電
について、一般市民に知られては困る
こと >でも、私はこの書簡の一部を引用
した。さらに1986年の書物Power
Crazyでも、再度この書簡を紹介した。
Power Crazy に著したのは、ロング
アイランドを核推進勢力の用語でいえば
「核パーク」に作り変えようという計画
であった。原発を7から11箇所、
同地に建設しようというものだった。
その最初のものがShoreham原発で、
ニュー サフォークから約40㎞の地点に
あった。だがロング アイランドでは
一般市民と政府関係者療法による強力な
反対が巻き起こり、商用稼働は見送
られた。今では、不格好な巨大建築と
して突っ立っている。それ以外には、
ロング アイランドで提唱されていた
原発で実際に建設されたものはない。
さらに、なおロング アイランドでは
1947年に開設されたブルックヘイヴン
国立研究所に原子炉2基があるが、
これらは主に核技術の商業利用を開発
するための原子炉であった。この2基
から放射性トリティウムが漏れ出して
おり、しかも漏れ先がロング アイランド
住民にとっては唯一の水源地であった
ため、この2基は閉鎖された。今では、
ロング アイランドはnuclear-freeつまり
核が存在しない場所になっている。
核エネルギーの商業利用つまり発電も、
ボトルの中に戻せるという実例だ。
(核発電と核兵器とは、同じコインの
表と裏のようなものだ)
オッペンハイマーはさらに、
マンハッタン プロジェクトの成果物が
どうなっていくのかについても憂慮して
いた。特に、同プロジェクトの理論部門
のディレクターだったEdward Tellerが
原爆異常に破壊的な兵器、つまり
サーモニュークリア爆弾(日本では
水素爆弾と呼んでいます)の開発に躍起
で、実際に開発してしまった。オッペン
ハイマーが1947年にMITでの講義で
明言したように、「物理学者たちは罪を
犯したのだ。どう言いつくろっても、
罪は消えない」
今回の映画Oppenheimerでも紹介
されているようにオッペンハイマーは
1945年、ニューメキシコ州は
アラマゴルド爆発実験場で史上初の
核爆弾の爆発を観察していた。彼は
バガヴァッド ギータというヒンドゥー
教経典の一説を覚えていたが、
「我は死そのものとなった、世界を
滅ぼすものと」という言葉であった。
そして現在の世界
今年年頭、The Bulletin of the Atomic
Scientists (原子力科学者会報)は
その有名な「終末時計」(Doomsday
Clock)を前に進ませ、深夜12時の
90秒前に設定した。1947年にこの
時計が儲けられて以来、深夜に最も
近づいたことになる。この会報に
よれば、「この終末時計は、人類が
自らの手で開発してしまった危険な
技術で世界を破壊してしまう地点に
どこまで近づいているのか、それを
広く社会に警告するように設けられた
ものだ。この時計は一種の暗喩であると
ともに、人類がこの星で生きていきたい
のであれば対処せねばならない危機を
思い起こさせる時計なのだ」
SLBMの恐ろしさ
現在では核兵器は破壊力をさらに増大
させている。
その例として、オハイオ級の弾道ミサイル
搭載潜水艦を考えてみよう。コネティ
カット州のグロトンにあるロング
アイランド海峡で建造された潜水艦だ。
The National Interestという中道的
出版物 <国際問題などを扱う隔月刊誌>
はこの潜水艦のことを次のように述べて
いる:「計算してみると、オハイオ級の
潜水艦は人類が今までに製造した兵器
システムの中でも、最も破壊的なもの
かもしれない。全長は170mあり、
1隻でTrident II潜水艦発射弾道
ミサイルを24発搭載できる。この
ミサイルを海中から発射し、11,000km
以上も離れた標的を攻撃することが
可能だ。いったん大気圏外に到着した
Trident IIが大気圏に再突入する際の
速度は最大でマッハ24で、その時に
このミサイルは分裂して8個の再突入
弾頭に分かれる。核弾頭は、100キロ
トンから475キロトンの核弾頭だ。
つまり1隻のオハイオ級潜水艦から
一斉発射を行うなら、 最大で192発の
核弾頭を発射でき、24の都市が地図
から消える。この一斉発射を、1分
以内に行うことができる。まさしく、
黙示録的といってよい悪夢の兵器
なのだ」
「こうした武器が我々を滅ぼす前に、
こうした兵器を我々が滅ぼそうじゃ
ないか」 そう述べたのは、国連の
グテーレス事務総長だ。ポルトガルの
前総理大臣でもある。核兵器禁止条約
の実施のための「政治宣言と
アクション プラン」が昨年策定され
たが、その結論にある言葉だ。
グテーレスはこれを、「核兵器のない
世界という共通の目標を達成するため
重要な一歩だ」と語っている。彼が
言うには、世界には今も13,000 発
もの核兵器があり、「核戦争という
危険性は一時は考えにくいものに
なっていたのだが、現実性を再び
帯びてしまっている」
「地政学的な緊張と不信に満ち満ちて
いるこの世界にあって、こうした
<核兵器の>現状は、まさに絶滅の
ためのレシピだ。少数の諸国が作り
出した核兵器のために地球上の
全生命が脅かされるという事態を、
許してはならない。滅亡へのドアを
ノックするのは、もう止めなければ」
と、グテーレスは述べている。
先日、私はSeth Sheldenと一緒にある
TV番組を担当した。Sheldenさんは
法学教授にして弁護士、さらに核兵器
廃絶国際キャンペーン(International
Campaign to Abolish Nuclear Weapons
ICAN)の国連担当を務める。この団体
は2017年にノーベル平和賞を授与され
ている。同年、核兵器禁止条約が国連で
採択されたが、その功績はかなりの部分
ICANに帰すのだ 。
そのTV番組の放送は、この土曜日
<22日> の午後4:30からだ。
Oppenheimerが劇場公開される翌日と
なる。Free Speech TV での放送で、
全米40州の200社のケーブルTV
システムでご覧いただける。さらに
衛星TVネットワークやインター
ネットの各種プラットフォームでも
放送される。
この番組で Shelden さんはこの
条約の内容を詳しく説明するのだが、
国連はこれを「核兵器を禁じ全廃を
目指すための、法的拘束力を有した
手段」であるとしている。
<著作権の関係で、勝手に日本語版を
作成するわけにはいきません!
加えて、ヴィデオの字幕翻訳には
相当な労力も期間も要します。
翻訳者その他に対するかなりの金銭
報酬が、必ず発生するとお考え
下さい。
日本語字幕などご希望の方々は、
まず私(ひで)に
お問い合わせください!
EnviroVideoと相談してみますので。
yadokari_ermite[at]yahoo.co.jp
まで!>
この番組は、www.envirovideo.com
でご覧になれる。
この核兵器禁止条約は、「どのような
方法であれ核兵器を使用すれば破局的
な結末を人類にもたらすため、
核兵器は全面的に廃絶する必要がある
ことを認識しており、
いかなる状況においても核兵器が二度と
使用されることのないようにするため
には核兵器を廃絶するのが唯一の道で
あると認め」、諸国は「核兵器を開発・
試験・製造・生産・その他の手法に
よっても入手・保有・蓄積しない」
ことに同意するというものである。
さらにいかなる国家も、核兵器を
「使用するという脅迫」を行っては
ならない。
この核なき世界を打ち立てようと
いう条約を取り上げるメディア
カヴァレッジが少なく、そのためこの
条約を認知している人があまりにも
少ないという問題について質問を受け
Sheldenさんは、「メディアの視野が
近視眼的なのだ」という問題を指摘
した。 実例として彼は、「ジャーナ
リストたちが気候変動危機という問題
には裏表などない、という事実を
受け入れるのに、どれだけの期間が
かかったか」という問題を取り
上げた。 核兵器のもたらす途方も
ない被害は、「気候変動危機に劣らず、
いやそれ以上に、白黒が明白な問題だ」
とSheldenさんは語る。彼が注意を
促す点として、核兵器の廃絶は国連の
設立以来、常に主要課題であり、最初の
決議でも取り組んだ課題だった。今回の
条約締結に至るまでの長年の努力の
足跡を、彼は説明している。
この条約の問題点の1つとして、
アメリカやロシア、中国も含めた核兵器
保有国がこの条約に反対している。今回
のOppenheimer という映画は、核保有
に反対する人々の大きな動きを生み出す
ための手助けになりえるかもしれない。
Back From the Brinkという
連合体 <アメリカに本部を置く、反核
や環境保護の市民運動の連合体> が
あり、’Oppenheimer’ Advocacy
Resources(Oppenheimer核廃絶の
ためのリソース)という見出しのウェブ
サイトを運営している。そこにある画像
の1つには、LIFE WITH NUCLEAR
WEAPONS: Not a Hollywood Movie
(核兵器のある現実 ― ハリウッドの
映画ではなく)と記してある。この
連合体によれば、「映画
Oppenheimer は、核のない今よりも
安全で公正な世界を求める動きに
あなたの暮らすコミュニティを参加
させるうえで、重要な機会となりえる」
とのことだ。さらに、「賢明で使命に
尽くす人々が行動を始めれば、どんな
ことが起きえるのか?この映画は、
その点でのレッスンとなる。現在でも、
賢明で使命に尽くす人々が行動を始め
れば、核兵器の廃絶は現実に可能だ。
核兵器をなくせば、そこからくる容認
できない未来への脅威も、愛する者たち
への脅威もなくなるのだ」どんな行動が
できるのか、その実例を紹介するウェブ
ページが多数ある
ICANのウェブサイトには、Oppenheimer:
Campaigners’ Action <Oppenheimer:
運動家向けのアクション> なる
ものもある。
ICANによると、「 映画 Oppenheimer
の公開、そしてそれに対する(メディア
の)注目は、核兵器のもたらすリスクに
関して社会の関心を掻き立て、核兵器
廃絶の運動に新たな参加者を引き入れる
ための機会となりえる。核兵器に伴う
リスクについて教育を行い、渇望される
希望と抵抗のメッセージをシェアできる。
Oppenheimer が示すのは核兵器がどの
ように始まったのかであり、それをどう
終わらせればいいのかを示すのが核兵器
禁止条約(UN Treaty on the Prohibition
of Nuclear Weapons、TPNW)だ。そこで
ICANではICANの活動に関わるすべて
の方々向けに、リソースをまとめた。
核廃絶のために行動したい方々なら、
だれでも利用できる。世界のどこででも
ご自分の地元の映画館でそうした
リソースをご利用いただけ、オンライン
での対話にもご参加いただける」
私のEnvirovideo TV の番組にICANの
Sheldenさんがご登場くださるが、実際
の行動のための提案を彼もあれこれ紹介
してくださる。
Karl Grossman はニューヨーク州立
大学Old Westburyカレッジで
ジャーナリスム担当の教授を務めて
いる。 The Wrong Stuff: The Space’s
Program’s Nuclear Threat to Our
Planet<大間違い: 宇宙プログラム
からの核の脅威で、地球が危ない>や
Beyond Nuclear のハンドブックThe
U.S. Space Force and the dangers of
nuclear power and nuclear war in space
<アメリカ宇宙軍と、宇宙での核発電・
核兵器の危険> の著者でもある。
Grossman はFairness and Accuracy in
Reporting (報道の公正と正確さ、FAIR)
というメディア監視グループの
アソシエートでもある。Hopeless:
Barack Obama and the Politics of
Illusion(絶望: バラク オバマと幻影
の政治)という書物の共著者でもある。
************************************
まあ、この映画が日本公開されるのかは
私には分かりませんが、映画はあくまで
核廃絶を求めていく動きの「きっかけ」
に過ぎません。
こうした社会の動きもうまく利用した
反核(兵器も発電も)運動を展開して
いきたいものです。
2011-12年ごろ、反原発集会などに
頼まれて出席したことが何回か
ありましたが、
正直に言ってしまうと、
・ 時間が2011年3月で止まって
しまっていた(それ以降の世界での
核関連の出来事や動きなどが、あまり
話題になっていなかった)
・ 来ている顔ぶれがいつも同じ
といった現象が明白で、
なにかの「同窓会」に引きずり込まれ
ていたような感じがしました。
当時であっても、たとえばイランでの
U濃縮は進んでいたのですから、
そうした問題も取り上げるべきだと
思ったのですけどね。。