Th-0) なぜトリウム サイクル(トリウム燃料原発)を取り上げるのか?

このページ シリーズ Th-x) ではトリウム サイクルを取り上げますが、
まずは何故そうするのかを説明しますね。

Against "negative space" (conventional) / 空白の背景の上に(伝統的)
「先を見通していたら~~」
私の20分クロッキーより

2011年夏の、外れて欲しかった予想

もちろん、福島第一の悲劇を受けて反原発マーチ(デモ)などが
各地で街を練り歩いていた頃です。以前にも申しましたように、
私自身はマーチにはほとんど参加しませんでしたが。上の黒い
メニューにあるページ if-0) の「マーチ(デモ)では、
原発はなくならなかった」という段落で、説明済みです。

当時の私は
・ 何年かたって、「ほとぼりが冷める頃」になると、
・ 核発電推進勢力は「~~~という新型原子炉なら、
メルトダウンしませんよ」みたいなことを言って、原発新設/
「建て替え」を訴えてくるだろう
・ IFRやTWR、PBR、MSR (溶融塩原子炉、SMRとは別物です、
後日説明) などは多分、そのころにまだ実用化出来ちゃいない
だろうから、おそらく最初に持ち上げてくる新型原子炉はSMRに
なるんだろうなあ。それに (2011年夏の時点で) 今までのところ、
SMRはほとんど売れていないから、アーダコーダ言って売りたい
だろうし

と予想していたのですね。
そして2021年10月、日本の自民党の甘利幹事長(当時)が
「原発、小型炉で建て替えを」という主旨の発言をしましたよね。
自民・甘利幹事長「原発、小型炉で建て替えを」: 日本経済新聞 (nikkei.com)
まったく私の予想通りになったわけですが、こんなこと、自慢したい
わけじゃありません。
メルトダウンだけを問題にするんじゃなくて、proliferation riskも反原発派が
広く社会に訴え、原発の新設・建て替えはまったくありえないような状態に
したかった! それがかなわず、こんな「小型炉で建て替え」発言が登場した
のは、泣きたい事態でした。

そして2022年4月現在、世界はロシアの核兵器に不安を募らせながら、
戦況を注視しています。「やかんをのせたら~~」でシツコク実例を
紹介してきたように、核兵器と核発電は不可分です。
旧冷戦が終わった1991年の年末以降、世界は核による終末を真剣に
憂えることを忘れていたようですが、決して核の脅威は消えてなど
いないことがハッキリしましたよね。世界は、新たな冷戦体制に
入ったようですし、核兵器は北朝鮮やたぶんイランなどにも拡散して
しまいました。

で、トリウム サイクルと直接に関係しないことを長々と述べてしまった
ように見えますが、今後トリウム サイクルを推進勢力がプッシュする
可能性があって、その背景事情を述べたのです。

で、そんな2011年夏、あるYouTubeヴィデオへのコメントで ~~

ネットで新型原子炉について調べ物をしていた時、ある反原発派の方の
ヴィデオを見つけたのですが、それに次のような主旨の侮辱コメントが
ついていたのです:

「ウランを使わない原発もあるのに、ばかじゃない?」

ご存じのとおり、原発推進勢力が「反原発派を攻撃するようなコメントとか
投稿したら、1件で (たとえば) 100円あげるよ」といった “アルバイト” が
ありましたよね。まあ、その「奇妙なアルバイト投稿」コメントだったの
でしょう。でも、「ばかじゃない?」などとネット上で侮辱を記すのは、
投稿者の品性を表すだけです!

アホーアホーなら、カラスでも言える

アホーアホーなら、カラスでも言える

で、推進勢力によくある「ごまかしと飛躍」

およそ、「電力の需給がひっ迫した ⇒ 原発再稼働を急げ!」といった
飛躍した主張を、推進派はよくやらかします。2022年3月の場合、
地震で故障したのはたまたま火力発電所でしたが、原発だって大地震が
あれば止まることに違いはないのですが!

この侮辱コメントにしても、「ウランさえ使わなければ、安全なのか??」
と考えてみれば、随分と飛躍した論理だとすぐに分かりますよね。

で、それ以前に、「ごまかし」があります。確かに、「ある意味でウランを
使わない原発」はすでに、技術的には存在しています。厳密には、
「核燃料を原子炉に入れる時点では、ウラニウムが極めて少ない」原発ですね。
それが、「トリウム サイクル」という核燃料サイクルならびにその
サイクルでの原子炉なんです。
でも、その原子炉を稼働させるうちに、実は ・・・
このへん、推進派が大好きな「ごまかし」の典型的な一例ですね。

そして、この種の「ごまかし」を社会全般に対して暴くため、
反原発派の中の「有志」は (「全員」とは、言ってませんよ)
新型原子炉とその問題点などについても、絶えず学んでおく
必要がありますよね。

予想通りというか、「例によって」 トリウム サイクルの推進勢力は、
次のような主張をしています。
・ トリウム サイクルなら、燃料のトリウムは地球上にウラニウムより
潤沢にあるので、燃料に困らない
・ トリウムの燃料特性やMSRに向いていること (← 後日、改めて説明します)
から、メルトダウンしにくい
・ proliferation riskが小さい

はたして本当にそうなのか、確かめませんと。

そんなわけで、トリウム サイクルを取り上げることにしました。
そのページ シリーズ Th-x) は、以下の構成になります。

Th-0) – 本ページ
Th-1) – トリウム サイクルとは? (概要)
Th-2)- トリウム サイクルのproliferation risk

「サイクル」と言っても、こーゆーことじゃありません ・・・ 言うまでもないか。

「サイクル」と言っても、こーゆーことじゃありません ・・・ 言うまでもないか。

IFRやTWR、PBRなどを取り上げたページ シリーズでは、xx-2) で
「事故危険性」(← 奇妙な日本語ですが、メルトダウンなどの可能性のこと。
原発の最大の危険性とはproliferationなど軍事面にありますから、それと
区分するための奇妙な用語として、「事故危険性」という言葉を使うことに
します) を扱っているのですが、トリウム サイクルの場合、今までに
発生した大事故が実際に少ないのです。で、トリウム燃料が今後広まると
すれば、MSR という形式の原子炉で使われそうなので、MSR (SMRとは
別物ですよ) のページ シリーズを将来作成するときに、事故危険性も
説明しますね。

では、このページの残りでは、「トリウムとは何か」 を説明します。

そもそも 「トリウム」って、なんやねん??

「トリウム」は、元素の1つです。金属の一種で原子番号は90、記号はThです。
同位体がいくつかありますが、どれも放射線を出して崩壊します。
一番安定に近いのはTh 232で、その半減期は約140億年 (!) です。
この時空(宇宙)が誕生してから現在までの期間に近いですね。
Th 232はα崩壊してラジウム228に変わります。

* なお、「原子番号」、「同位体」、「α崩壊」などの基本用語の説明は、
「やかんをのせたら~~」ではしません。上の黒いメニュー
(項目はアルファベット順)にあるページ a-1) の「このウェブサイトの狙いと、
想定読者」という段落で明記したとおりです。核発電の軍事関連リスクという
問題にフォーカスしている以上、原子炉の仕組みや核の歴史に関する一般
常識的な事項は、読者の皆様が既にご存じであると想定して話を進めざるを
得ません。
そうした基本知識をこれから学びたい方々には、ネット上に核問題の入門
サイトが他にありますし、入門書籍も多数出ていますからね。

率直に言って、
小学生に九九を教える講師と
大学生に解析学を教える講師とでは、
求められる資質や訓練が大きく異なるハズです。どちらが優れている/いない
じゃなくて、説明する人材に求められるものが大きく異なりますよね。
それぞれの専門技能があるわけです。
そうである以上、各種問題系や想定読者に合わせた説明方法が必要になります。
「原発問題」という単一の問題系があるわけじゃなくて、多数の問題系が
絡まっているのですから。読者の皆様各位も、ご自分の関わりたい問題系や
ご自分の特性に合ったウェブサイトや書籍を愛用なさってくださいな。

それぞれ、要求される資質が異なる

それぞれ、要求される資質が異なる

話をトリウムに戻します。

トリウムが自然に崩壊する場合には、ラジウム228に変わる ・・・
というわけで、まだウラニウムは登場しませんね。
登場するのは、原子炉でトリウム232に中性子線を浴びせた場合です。

Th 232 + n (吸収される)  –>    Th 233   –> (β崩壊)    Pa 233    –> (β崩壊)   U 233
半減期 ⇒                  約22 min          約27 d

Paはプロトアクティニウムという元素で、これを経由してTh 233はU 233に
変身するわけですね。
要するに、ここでウラニウムさんのご登場です!

現在主流の「軽水炉」では「ウラニウム サイクル」を採用しており、
天然ウラニウム ⇒ 精製・濃縮して U 235の濃度を高める ⇒ 濃縮度3-5%:
原発で発電に使う / 濃縮度90%以上: 原爆の材料
という流れになりますよね。

原子炉での使用後は、
once-through (1回使ったら捨てる) サイクルの場合: 冷ましてから
特殊容器に詰めて地下に埋める
reprocessing (再処理) サイクルの場合: 処理工場で Pu 239 などを分離
抽出して、FBR原子炉などで再利用、あるいは原爆の材料に利用
という2種類の経路がありますが、ともに「ウラニウム サイクル」であることに
違いはありません。

ウラニウム サイクルではU 235を核分裂させるのに対し、
トリウム サイクルではTh 233に中性子線をぶつけてU 233に「変身」させ、
そのU 233を核分裂させる
というわけです。

もっともらしいタコ焼き 「タコヤキとちゃいまっせん、タコス焼きでっせ」 「なんや、丸いタコスのなかにタコが入っとるがな~~」

もっともらしいタコ焼き
「タコヤキとちゃいまっせん、タコス焼きでっせ」
「なんや、丸いタコスのなかにタコが入っとるがな~~」

もうお分かりになりましたよね?

「ウランを使わない原発」という触れ込みが、実は「ごまかし」に過ぎ
なかったことが!

この種のごまかしを社会全般に広く暴露できるよう、反原発派の中の
「有志」はトリウム サイクルのことも学んでおきませんと。(無論、新型
原子炉関連の事項以外にも、電力需給やCO2排出など、各種問題系を
それぞれ専門に扱う「有志」が必要ですが)

それにしても、わざわざTh 232を変身させる ⇒ U 233に ⇒ 原子炉で核分裂
なんていう面倒を??
それについて、次のページ Th-1) で取り上げます。アップロードまで、
しばしお待ちくださいな。

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