反原発団体の皆さん、しっかりしましょうよ!
2021年11月
まず、「えらそーな」発言と誤解されるだろうことを、正直に言わせてください。
2011年からすでに私は、「核発電推進派は今後、日本では、SMRやMSR(溶融塩原子炉、後日必要が生じたら説明します)とかなら「安全です」と訴えてくるんだろうな」と、予想してました。実際、この10月の甘利さんの「小型原子炉なら、メルトダウンを起こさない」という趣旨のご発言で、予想通りになったわけですね。
自慢してるんじゃ、ないですよ。推進派の少なくても一部が主要原発事故後に“のたもーた ” 「言い訳」 を歴史的に振り返れば、すぐに予想できることです。
( ● O●) 1979年のスリーマイル アイランド原発メルトダウンの後 ― 「今回の事故を起こした原発はPWRという型だが、日本にはBWRという異なる型のものも多い」、「アメリカ軍の原子力潜水艦の原子炉(PWRが多いが、商業発電用ではない)からの影響があって生じた事故だ。日本の技術なら大丈夫」 ←→ 実際は、その32年後に福島第一が ・・・
( ◎ O◎) 1986年のチェルノブイリ原発の大暴走の後 ― 「これは黒鉛炉。西側の軽水炉は型が違うので、大丈夫」 ←→ 実際には、すでにスリーマイルで軽水炉であるPWRが ・・・ + もう1種の軽水炉であるBWRも、いずれ福島第一で ・・・
( – _-) > こうなると、post-Fukushima時代となった今、推進側はまだ商業的には実現していないタイプの原子炉、例えばSMRを持ち出すんだろうなあ ~~ なんてことは、容易に予想できるじゃないですか!
そして:
この固定ページの s-x) シリーズを作成し始めたのは2021年10月終わりごろなのですが、先述の甘利さんの問題発言は10月12日に報じられたので、10月後半にはSMRの危険性を指摘する声が、あちこちの反原発団体から上がるものと私は期待してました。
問題は! 上述の私の予想は的中したのに、こちらの「反原発団体からSMRの問題点の指摘が聞こえるはず」という期待の方は、見事に裏切られました!
日本語でインターネットを探してみたのですけど、SMRの問題点を指摘していたのは、今年6月付のCCNEさんのものしか、私は見つけられませんでした。
http://www.ccnejapan.com/wp-content/20210621CCNE_Goto.pdf
日本の反原発団体の皆さん! しっかりしましょうよ!!
そこでやむなく、無名の個人である私がSMRの説明をすることにしたのでございます。。。
では、SMRとは??
Small Modular Reactorつまり「小型モジュール式原子炉」の略称です。
その実態を、ごく短く紹介しましょう。
- 「小型」
現在設計されているSMRの寸法を見ると、
全長 20m ― 30m くらい。 形状は円筒形のものが多く、その
直径 3mから15mくらい。
ただし、大部分を地下に埋める設計のものも少なくなく、その場合には地上部分はかなり小さく見えます。
従来の原発が如何に巨大だったかは、たとえば事故直後の福島第一の報道写真などでご覧になってらっしゃいますよね。
1基当たりの発電量は、多くのモデルでは毎時300MW前後以下です。
現在までの核発電用原子炉はむしろ大型化が進んできており、例として、今年(2021年)夏に事故を起こして停止した中国のタイシャン原発の原子炉は1号機・2号機ともにEPRという大型軽水炉で、それぞれ1,660MWです。
この大型化は、要するに、「原発は初期投資が巨額だ → 同じ巨額を投じるなら、少しでも発電量が大きい方がいい(償却しやすい)」という単純な資本の論理によるものでしょうね。
- 「モジュール式」
小型の原子炉1つを1個の単位(モジュール)として、それを工場で大量生産、随時原発現地に1つずつ増設していける、ということです。
☛ 同じモジュールを工場で大量生産 → 必要な個数だけ、原発現地へと輸送 → 設置
なので、製造コストを抑えられる (従来の原子炉は、1つ1つ設計し建設していたので、コストも工期もかかった)
☛ したがって、電力需要の増大に応じて同じモジュールを増設していける (従来の原子炉では、巨大なものを最初に作って、需要を超える発電電力は、たとえば「揚水発電所」などで、ダムの水として一時的に貯えたりしていた。「揚水発電所」とは何かご存じない方は、Wikipediaでもご覧ください。 揚水発電 – Wikipedia )
- 原子炉方式
現在設計されているものは、PWR(加圧水型)が多いですが、高温ガス炉(HTGR)のような第4世代原子炉もあり、はたまた高速中性子炉の設計もあります。
つまり、SMRとは原子炉技術のタイプを言うのではなく、要は小型でモジュール式ならSMR なのですね。
なお、2021年11月現在、SMRで商業用に実用化されているのはロシアの1基だけです。そのEGP-6は原子炉のタイプとして旧式の黒鉛炉なので、販売されておらず、今年で廃炉予定です。(Small modular reactor – Wikipedia) その他、中国のシャンドン省(山東省)のシダオ ワン(石島湾)原発では、この9月にHTR-PMというSMRが臨界に達しました。ただしこれはHTGR(高温ガス炉)という「第4世代原発」の小型のもので、実証用です。まだ、商用ではありません。
つまり。2021年11月現在、SMRはまだほとんど実用化されておらず、設計や実証運転の段階なのですね。
そのSMR推進派の主張
推進勢力の訴える、SMRの利点とは、要約すれば下記のとおりです。
- 小型 → 1モジュール当たりの搭載核燃料が少ない + 炉内では、ポンプによらず炉内の冷却水の自然な滞留で炉心を冷やすようになっているなど、人間の介入がなくても「自然に」異常事態に対処する(passive safetyと呼んでいます) → メルトダウンしにくい (実際に、SMRの安全性のことを walk-away safety (ほっときゃ、収まる)と呼ぶ推進勢力もいるくらいです)
これがどこまで本当なのかは、本シリーズの次回固定ページ s-2) で検討します)
- SMR1基当たりの核燃料が少ない → 排出する使用済み核燃料も少ない
⇔ これは当たり前です! 1基1基は小型なのですから! 問題は、実際の既存原発に匹敵する発電量を実現しようとすると、SMRをたとえば12基とかまとめて設置しないと ・・・
結局、排出される使用済み核燃料は、あまり変わらない結果になります。
- 分散設置しやすい
⇔ そりゃそーでしょう! 複数の過疎地域に1基ずつ設置して、上手にグリッドにつなげば ・・・
でも、それら複数の自治体に原発新設を承認してもらわないといけませんし、電源交付金も払わないと。行政処理の手間が増えますよね。
- モジュール式 → 工場で大量製造 → 原発現地に輸送 → 設置 だから、製造コストを抑えられる
⇔ まず、ある工場で製造上のエラーがあった場合、その工場の同じモデルのSMRすべてがそのエラーを共有する危険が。自動車などと違い、「リコール回収」ってわけには、いきませんよね。
次に、小型といっても全長20m以上あるものを輸送するので、最近日本では増えている老朽化した橋など渡る場合(原発は過疎地域に作ることが多い)、橋が壊れたりしたら ~~
さて、どう問題指摘しますか??
上記のような推進勢力の主張のうち、今の日本で社会的にSMRを承認してもらううえで、もっとも問題とされるのは「メルトダウンしにくい」でしょう。この、SMRの安全性面での問題については、次回のページ s-2) で詳しく取り上げます!
それと、もう1つ。
+ 「原発問題 = 使用済み燃料処分と事故が問題」 という狭い視野で考えていると、SMRは確かに「大事故」には至りにくいので、反対する理由がその分だけ弱くなりますよね。
☛ すると、社会の一部の人たちは、「脱炭素化のためなら、SMRなら仕方がないかも」と考えてしまうかも。
でも! そうした「狭い視野」を克服し、核発電の「出生からの本質」である「核軍事面」を視野に入れれば、SMRのトンデモナイ危険性がもう1つ浮かび上がってきます。
それについては、次々回のページ s-3) で。
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追記
ページs-0)で、LNGなどだけでなくLEU価格も高騰したら??と問うている箇所があり、その漫画の下で私は「たとえば核兵器の大量増産を始める恐れがある某国がカザフスタン(世界の天然ウラニウム輸出量の過半数を1国で占める)からのウラニウムを買い占めたりしたら??」と記しました。
それがまんざらジョークではない実例として、
With Kazatomprom Deal, China Secures Nuclear Fuel Supply and Enhances Ties With Kazakhstan – The Diplomat
を紹介しましたよね。
このニュース、現在の世界情勢の中では重要なのですが、英語です。そこで、そこから一部抜粋して、私が日本語化しておきますね。
The Diplomatという雑誌のウェブサイト、2021年6月4日、Gregory Xanthos
(私による日本語化)
Kazatomprom 社との契約により、中国は核燃料の供給を確保。カザフスタンとのつながりも強化
中国の国営企業(複数)が、全世界で戦略物資を入手している。その一環として、カザフスタンからの核燃料供給も確保した。
2021年4月に行われたアメリカ主導の地球気候変動に関する仮想サミットで、中国の習近平 最高指導者は、中国は2026年から石炭火力による発電を削減、炭素排出を2030年までに減少へと向かわせる計画だと述べた。これは中国の第145次五か年計画の発布を受けたもので、・・(中略)・・ その計画の下では核発電による発電量をこの5年間で50ギガWから70ギガWへと増やすつもりだ。現在建設中の原発が17か所あり、・・(中略)・・ 「2035年までに、中国で稼働する全原発の発電量は、180ギガWに達する見込みだ」と核エネルギー研究イニシアティブのLuo Qi氏は述べている。
その今年4月の習近平による発言を受けるかのように、中国はカザフスタンの国営原子力機関Kazatomprom との契約を締結した。カザフスタンは、世界で最大のウラニウム供給国である。中国の国営企業である中国広核集団(CGNPC)とKazatompromとは 合弁事業を結成、ウルバ核燃料工場(Ulba Nuclear Fuel Plant)を共同で建設する。同工場の株式の49%を中国側が保有し、その価格は4億3,500万ドルとなる。また、この工場の毎年の生産物の49%をCGNPCが購入することを義務付けている。CGNPCによる初期投資とそれ以降の製造物の買い取りにより、Kazatomprom は付加価値をさらに高め、各燃料サイクルでのフロントエンド全体で業務を展開できる。さらにこの契約では、新工場の生産物の買い手を確保することで、ウラニウムとその関連産物への需要動向が予測できないこの世界にあって、工場の採算を確実に保てるようにしている。2011年の日本の福島第一災害をうけて、 核発電は政治的な議論の対象となり、世界的にウラニウム価格は下落した。中国とカザフスタンは国境を接しており、鉄道での陸上輸送がしやすい。そのため両国間でウラニウムを輸送しても、第三国の法的管轄下に置かれる部分がなく、セキュリティ面でのリスクも回避できる。
KazatompromのCEOであるGalymzhan Primatovが最近述べたところでは、中国のウラニウム入手量は現時点での需要を上回っている。「中国とは戦略的なウラニウムの備蓄を構築するという話し合いをしており、そこで聞く内容にウラニウム市場の関係者たちが気付いていないのでは、ないか。そこで目下、ウラニウム供給の長期的な安定化が、中国の新たな新設プログラムの焦点となっている」 中国によるウラニウム購入の示唆することとして、同国はウラニウム価格が低迷している間にその供給を押さえておきたいのかもしれない。あるいは、将来のウラニウム入手に伴う恐れのある制裁や、サプライチェーンの不安定さに対する防御策なのかもしれない。
CGNPCは中国の軍部と結びついているため、以前にアメリカからの制裁対象とされたことがある。それを考えれば、今回のカザフスタンとの合意もアメリカ政府からは懸念の目で見られることは驚くに足りない。アメリカはここ何年か、中国の国営企業が世界中で戦略物資を入手していることに、警戒を強めている。この5月、世界最大の商品取引企業であるGlencoreのCEO、 Ivan Glasenbergは公に警告を発しており、中国が投資活動によって戦略物資の取引で指導的な立場を固めようとしている。そうした取引の多くは、一帯一路構想の名の下で行われている。2020年には、このKazatompromとの契約の数か月前に、別の中国国営企業である中国核工業集団(China National Nuclear Corporation、CNNC)が、世界第2位のウラニウム産出国であるナミビア(訳注: アフリカ南部西岸にある共和国、ウラニウム鉱山で知られる)のレッシング ウラニウム鉱山を購入した。こうして国外の資産を買い入れることで、中国政府は戦略資源の世界的なサプライチェーンを掌中に収めたのだ。
ロシアと中国といえば、関係を深めてきているという認識が広まっているが、今回の契約がロシア政府内に不安を引き起こすことは疑いない。Kazatomprom は核燃料工場を有しており、世界の核物質市場でロシアの競争相手となる。そして、核物質はロシアの輸出部門の中核の一部でもあるのだ。今までは、Kazatompromの最大の取引相手といえば、ロシアであった。だが今や、それに代わる取引相手として中国が登場した。しかも、その資金力は強大だ。ロシアからの影響に対抗できるだけの存在である。カザフスタンにとっては戦略的に不可欠な核物質という分野でロシアは従来、特権的な立場を占めてきたのだが、それを中国が徐々に侵食してきている。今回の契約は、ひょっとすると最大の「かじり取り」なのかもしれない。
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もうお分かりでしょうが、核発電の廃絶を目指すなら、核関連の軍事情勢にも目を光らせていくことが必要ですよね。その視点で見れば、ウラニウム市場を中国が支配する日が来ないとは、断言できないのです。