2022年10月
European Pressurized Reactorないしは
Evolutionary Power Reactorの略とされますが、
今では単にEPRが正式名称です。
“European Pressurized Reactor” というかつての
名称からお分かりの通り、PWRの改良型です。
ですから、proliferation risksなどについては
PWRと同様でして、特に申し上げることはござい
ません。したがって、「やかんをのせたら~~」の
本来のフォーカスからは外れるので、「やむなく、
不承不承に」 短く取り上げればよいのですが ・・・
・・・ EPRについては、少し長くなります。なぜか?
実はEPRは、厳密には 「新型」 というよりも、
すでに世界数か所で実用化されておりまして。
しかも!
事故も発生
工期のだらだら延長
コストの大膨張 (予算を大幅にオーバー)
といった問題が、すでに発生しているためです。
日本政府は 「新型原子炉を開発・実用化して
・・・」 とノタモーテらっしゃいますが、もしその
中にEPRに類似した原子炉があったら、皆様、
これら3つの現実を指摘して笑ってやりましょうね!
なにせ、EPRはMOX燃料にも対応できるよう
設計されているので、日本が数十トン抱えている
239 Puの “備蓄” の処理のため、日本政府が
EPRに似たものを欲しがる可能性はございます!
そのためには少々技術的な内容も、私たち
反核勢力が学んでおく必要がございます。
実用化って、どこにあるの?
英語版WikipediaのEPR (nuclear reactor) と
いうページ
EPR (nuclear reactor) – Wikipedia
をもとに、まずはすでに実用化されている /
実用化計画がある世界の実例を紹介しましょう。
まず、今までの歴史
主に1990年代にEPR第一バージョンの設計を、
フランスのFramatome(2001-2017年の間、
フランスのAreva (現在のOrano) の子会社
だった) と同じくフランスのElectricite de France
(EDF)、そしてドイツのSiemensga共同で開発。
(なお、ご存じのようにSiemens社は後年、
2011年に核発電事業を廃止)
実用化したのは良かったが、下記の実例からも
お分かりのように工期も予算も大幅にオーバー!!
それを受けて、現在は新モデルEPRを開発中、
2023年に規制当局に提出予定だそうです。
で、どこにあって、何が起きたの?
フィンランドのオルキルオト3
オルキリオト3原発の建設は、2005年8月に
始まり、2022年12月に稼働開始の予定でした。
当初の予算はおよそ37億ユーロだったのです
が ・・・
・・・ 2012年公表の数値では、コストが80億
ユーロを超えたそうです!
工期も、工事開始時点では2009年には
グリッドへの送電を開始する予定だったのです
が ・・・
・・・ すでに2006年には、工事が1年以上
遅れているとの発表が。この遅延のため、
Arevaのバランスシートが悪化、Oranoへの
改組につながっていきました。
それから幾度か遅延と予算オーバーが繰り
返され ~~~
2018-2021年にかけての検査では、さらに遅延が
公表されました。
どうにかこうにか2021年12月には初めて臨界に
達し、2022年3月には試験的なグリッドへの
送電を開始したそうですが、そのわずか2か月
後にはタービンのシステムで異物が発見され、
修復作業のため3か月間ほど停止しました
~~~
なんか、あきれて笑えてきます ・・・・
中国のタイシャン
中国は広東州台山市にあります。中国の
CGNPCとフランスのEDFの合弁事業として、
EPR2基が建設され、稼働しています。
2009年と2010年にそれぞれの原子炉の建設が
始まったのですが、はや2014年には工事が
2年以上予定より遅れていたそうです。
さらに2017年12月には、検査中にある
コンポーネントに亀裂が走ったと香港のメディア
が報道。2018年6月、なんとか1号機が臨界に
達しました。同年12月には商用運転を開始。
翌年、2号機が臨界到達、そして商用運転開始。
しかし2021年6月、
核燃料のクラディングが破損、どうも放射性
物質の漏出があった模様 ・・・ 「やかんを
のせたら~~」 でも紹介しましたよね。右の
「アーカイブ」 で 「2021年6月」 をクリック
⇒ 「CNNによれば、中国のタイシャン原発で
・・・」 をクリック!
建設中のEPRの一部
フランスのフラマンヴィユ
Flamanville原発の3号機はEPRです。約33億
ユーロの資本支出をEDFが出し、2007年12月
にEPR本体の建設が始まりました。フランス
西北部のノルマンディー半島にあります。
翌年4月、フランスの核発電管理当局が検査を
実施したところ、二次格納容器 (下記参照) の
鋼鉄製裏打ち部分で溶接個所の1/4に異常を
発見、コンクリート壁にも亀裂がありました。
そんなこんなで、2009年5月のある報告では、
この建設中原発の工事はすでに遅れ気味で、
予算を20%以上オーバーしていたそうです。
その後の予算超過や工事遅延については、
上述のWikipediaをご覧くださいませ。
遅れに遅れた挙句、2023年に核燃料装填が
行われる予定だと、2022年1月に発表が
あった模様です。
英国のヒンクレーポイントC
建設中のHinkley Point C原発には、EPRが
2基建てられる計画です。イングランドと
ウェールズの境界近く、ブリストル海峡あたりに
あります。
建設は2017年3月に始まったのですが、
今までに工事の遅延が幾度も発生、それに
対応して予算もひどくオーバーしています。
2016年当時に想定していた予算を、50%も
超えてしまっており ・・・
まあ、詳しくは英語版Wikipediaの Hinkley Point
C nuclear power stationというページ
Hinkley Point C nuclear power station – Wikipedia
をご覧くださいませ。
もう、充分でしょ??
さらに他の実例も紹介できるのですが、
「工事遅れ、予算オーバー」 の実例ばかりゾロ
ゾロと並べると、お読みになって疲れると思い
ます。 <” (^o ^ ;;)
では、そもそもいったいなんで、EPRはここまで
金食い虫になってしまったのか??
その構造上の特徴のうち、主なものを紹介
しますね。
やはり、上述の
EPR (nuclear reactor) – Wikipedia
をもとに。主な特徴を知れば、「こりゃ、作るの
大変だ ~~ 工事は遅れるし、金もかかるよ
なあ~~」 とご納得いただけるでしょう。
バージョン1の特徴を、無理に図にまとめて
みた ~~
・ 緊急冷却システム4台、それぞれ独立しており
原子炉をシャットダウンして1~3年間炉内の
崩壊熱を冷ます。
・ 格納容器のコンクリート壁を2重に。合計の
壁厚は約2.6m。航空機の衝突にも、内部の圧力
にも耐えられる。
・ メルトダウンした場合の 「高温のドロドロ」 が
格納容器の外に出ないよう、充分なスペースと
コア キャッチャー
メルトダウンがあった場合の被害を格納容器
内部に閉じ込めようとする努力は、私は認めます。
けど、こんな設計を実現しようとしたら、
・ 建設が大変だろうなあ ⇒ 工事が遅れる
・ 当然、金もかかるよなあ ⇒ 予算を大幅にオーバー
・ 結局、メルトダウンがあり得ることを想定している
って、すぐに気が付きますよね。
MOXを使用することを前提にしている以上、
格納容器などにこだわったのは当然だと思います。
しかし、所詮はMission Impossibleだったよう
ですね。
すると、日本の新型原子炉の場合 ・・・
この心配も無根拠であってほしいのですが ・・・
日本の 「新型原子炉」 の場合、経費を抑える
ため、EPRの冷却システムを減らし、格納容器を
薄い1枚にし、・・・ で、MOXを使う。そんな展開
もあり得るような気がして、実に心配しております。
今から、新型原子炉の予想される問題点を、
私たち反核勢力が指摘し、社会にしっかり情報
発信したいものです。
なにせ、大間の実例が
1980年代終わりごろ、私はあるクリエイティブ
エージェンシーでChief Creative Officerをやって
いて、エネ庁関連で原発推進広報の仕事にも
携わってしまっておりました。その時に大間原発
の広報にもかかわったのですが、その当時
には大間原発はATR (Advanced Thermal
Reactor) を採用する計画でした。これは、
減速材に高価な重水を使用する原子炉です。
おそらく、MOX使用に対応するためのことだった
のでしょう。冷却水は、軽水炉と同じく軽水です。
私が当時デザインした広報パンフレットでも、
はっきり ATR と記していました。
* 「減速材」、「冷却水」、「重水、軽水」といった
基礎知識を、読者の皆様はすでにご存じのことと
想定しております。上の黒いメニューの上のほう
にあるページ a-3) 参照。
ご存じでない方は、ご自分でインターネットを検索
なさってくださいませ。
ですが! 重水は高価なものなので、電力事業者
がイヤイヤしました。結局、1995年、当初の計画
を変更してMOX対応型ABWRに変更された
のです。
ああ、やっぱり ・・・
私の20分クロッキー
そんな前例が実際にあるので ~~~~
このページ シリーズの次回ポストでは
Atmeaを短く紹介します。同時に、「革新 (新型)
軽水炉」 全般に対する問題指摘を始めよう!
と呼びかけます。