t-4) (トリチウム) トリチウム凍結で、核兵器を滅ぼせ!

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の提案

Stockholm International Peace Research Institute(SIPRI、ストックホルム国際平和研究所)という研究機関のことは、皆様もお聞きになったことがおありでしょう。SIPRIが発行しているSIPRI Yearbook: Armaments, Disarmament and International Securityという年鑑は、正確な記述で国際的に高い評価を受けています。日本語で知りたい方は、日本語Wikipediaで
ストックホルム国際平和研究所 – Wikipedia
をご覧ください。

暗い話が続いたけど、光が見えた ・・・ 私の練習作より

暗い話が続いたけど、光が見えた ・・・
私の練習作より

 

で、トリチウム凍結の提案とは?

この固定ページ t-x) で述べてきたように、トリチウムがなければ現在の核兵器は軍事的には役立たずになります。しかも半減期が約12.3年なので、現在核兵器に入っているトリチウムも、12年と少し経てば半分に絶対量が減ってしまいます。

この特性を活かした核兵器廃絶への提案を、SIPRIが行っています!

SIPRIの特別研究員(Distinguished Associate Fellow)であるRobert E. Kelleyという方の文章で、既に2020年8月にインターネットで公表されているのですが、こんな重要な提案が日本語化されていないようで、ネットには日本語版が見当たりません!(日本語メディアは、いったい何をやってんだ!?)

そこで、
Starve nuclear weapons to death with a tritium freeze | SIPRI
にあるその提案原文(英語)から60%ほどを抜粋し、私の日本語化で紹介します!

本来なら、日本語メディアでも繰り返し取り上げるべき、重要な提案だとすぐにお分かりいただけるでしょう。ですから、かなり長い紹介になりますが、ゆっくりと何回かに分けでお読みいただけるとありがたいです!

12.3年ごとに半減 ・・・

12.3年ごとに半減 ・・・

トリチウム凍結提案の本文

(冒頭の段落、私による日本語化)
核兵器の拡散防止を提唱する方々は、今年2020年終わりには2017年の核兵器禁止条約(2017 Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons、TPNW)の批准国が50か国という敷居を超え、効力を発するのを喜んでおられることだろう。この条約の下では核兵器の保有が違反とされ、加盟国は保有している核兵器をすべて解体せねばならなくなる。だがTPNWの問題点として、すでに実際に核兵器を保有している諸国はどこもこの条約に調印しておらず、今後も調印は見込めそうにない、ということだ。TPNWのような「すべて保有し続けるか、一切持たないか」の二択を迫る以外の選択肢が必要だ。そこでトリチウム製造を凍結すれば、核武装解除を進めるもう1つの方法となる。段階的に、核兵器を廃絶する道が開けてくる。

(中略 ・・ トリチウムが核兵器の中でどういう役割を演じるかの説明があるのですが、本ウェブサイトではすでに固定ページ t-2) で説明済みなので、省略します)

トリチウム凍結条約があれば、なぜ効果的なのか?

トリチウム凍結条約 (TCOT (Tritium Cut-off Treaty) と呼ぶことにする) なら、政治的に受け入れやすいであろう。即刻、全面的に核兵器を廃止せよ、とは要求していないからだ。TCOTのような条約では、既存の核兵器が段階的に、人間による介入なしに自動的に使えなくなっていくためだ。その鍵は、核兵器に不可欠な物質であるトリチウムが自然に消えていく放射性崩壊にある。ウラニウムやプルトニウムだと、半減期は何万年といった期間になるが、トリチウムは崩壊の半減期が短いので、自然に核兵器削減につながる。そのプロセスは短時間で起こるので、核武装解除への真に有効なステップと思える。同時に、それなりの時間は要するので、諸国がその有効性を監視することができ、もしTCOTが効果を発揮できていない場合には、条約から脱退することも可能だ。

TPNWのような核兵器禁止のための条約があっても、核武装解除には時間がかかることには留意しておくべきだ。実際に核兵器を解体していくには、何十年かを要する。たとえば、2013年にはロシアの核兵器数千基を恒久的に解体したのだが、そのためにそうした核兵器にあった高濃縮ウラニウム(HEU)を原発で燃料として使用、発電を行った。しかも皮肉なことに、アメリカの原発で使用したのだった。 (訳注: これは事実です。”Megatons into Megawatts” などと呼ばれ、核兵器中のHEU(高濃縮ウラニウム)を核燃料に作り変え、発電を行いました。私も、「このためだけ」の核発電所であれば、反対はしません。「核兵器を廃絶したら、そうした核発電所も廃炉にすることを前提に」、ですが) この際に該当する核兵器をすべて処分しつくし、その解体を確認し、ウラニウムを原子炉用核燃料に作り替えるには、およそ20年を要した。核廃絶のための条約がどのような経路をたどろうと、この実例は示唆的なタイムラインとなるはずだ。

もう1つ、核兵器のプルトニウムも発電用に転換しようという合意が、アメリカとロシアの間にあった。プルトニウム管理処分協定(Plutonium Management and Disposition Agreement)というものだったが、これは結局、そのための工場をアメリカが建設できなかったため、頓挫してしまった。ロシア側の処理工場の方はかなり竣工に近づいたのだが、これも皮肉なことにアメリカからの資金援助を受けてのことであった。この協定の締結は2000年のことで、2016年には破棄された。善意だけでは、実際の核廃絶にはつながらないのだ。

(中略 ・・ 「善意だけでは ・・・」をさらに例証するため、核実験禁止関連の条約の例を紹介していますが、ここでは割愛します)

トリチウムが減ると、ぐったり

トリチウムが減ると、ぐったり

さらに経費削減につながる大きな要素もある。例として、上述のロシアのウラニウム核兵器を処理してアメリカでの発電に使用する、といったやり方がある。核兵器の解体には経費がかかるが、ウラニウム核燃料ができるのだから、大きな見返りがあることになる。さらに、軍事上のドクトリンの大きな転換につながる可能性もある。トリチウム凍結を実施した場合、その最初の1~2年のうちには、既存のトリチウム備蓄で核兵器をリフレッシュすることができる。そうしているうちにトリチウムの備蓄が減り、それを充当できる核兵器の数はどんどん減っていく。核兵器の多くは使用できなくなり、「引退」することになる。これは軍事ドクトリンに大きく影響するはずだ。

そうした例として、アメリカが必要だとしてこだわり続ける核兵器トライアド(3種の兵器の組み合わせ)がある。潜水艦発射の弾道ミサイル(SSBN)、大陸間弾道ミサイル(ICBM)のサイロ発射型、そして同じくICBMの爆撃機輸送型、の3種類のことだ。TCOTを実施すれば、核弾頭そのものが機能しなくなっていくので、こうした核兵器トライアドを正当化するのが、どんどん難しくなっていく。ここに、不可逆的に核兵器廃絶を進めていける本質がある。減る一方のトリチウム在庫を核兵器に分散して使用せねばならなくなるので、戦略的に有効なだけの核兵器ストックを維持できなくなるのだ。

新たに核弾頭を運ぶ手段(ミサイルなど)を検討している諸国も、そもそも運ぶ核弾頭そのものがなくなれば、立ち止まって考えなおすしかなくなるだろう。TCOTへの最大の抵抗は、軍産複合体からのものとなろう。この複合体は巨大な高額核兵器システムを構築しており、その例としてはSSBN潜水艦の新たな艦隊、新世代のICBMなどがある。新世代ICBMと言っても、その弱点は今までのものと変わらないのだが。アメリカは現在、核兵器の近代化に努めているが、それを見送れば節約される経費は何兆ドルかに達するだろう。

何千億円もする潜水艦から、フーセン爆弾飛ばして、どないすんねん??

何千億円もする潜水艦から、フーセン爆弾飛ばして、どないすんねん??

トリチウム凍結の効果

核弾頭からトリチウムがなくなると、どのような効果があるのか?そのよい例が、英国の「トライデント」核弾頭に関する公開文書に記されている。この核弾頭の爆破力は約100キロトンとして設計されており、そのように装備されている。トライデントの中には、小規模戦闘向けに(核分裂 → 核融合の2段階爆発ではなく、核融合で核分裂を補強するだけの)強化型核分裂弾頭も含まれている。だがこの核分裂段階からトリチウムをなくしてしまうと、爆発力はわずか0.3 ktに劣化してしまう。0.3 kt でも完全な武装解除とは言えないが、あまりにも小さく軍事的には無意味に近い。しかも、そんなものを何十億ドルもかけた発射機器つまりトライデント潜水艦から発射するのだ。簡単に言えば、トリチウムなしでは現代の核兵器は意味をなさない。

トリチウム凍結条約の監視と確認

トリチウム凍結の確認であるが、これはプルトニウムや高濃縮ウラニウムをIAEAが管理しているのと同じような方法で実施できる。トリチウムというものを、他の核兵器用物質と同じく、核兵器に使用できる物質の1つとして扱うことが必要となろう。確認活動は、認められている既存の核物質をIAEAが確認しているのと同様のミッションで良いだろう。ただし検査官には新たな技術と訓練が必要となろうが、それは乗り越えがたいというほどの問題ではない。

トリチウムには許容すべき民生用途もあるが、それは主にベータ線の発出を利用するもので、電源不要の自己発光照明器、医学用検査、放射性トレーサーなどだ。将来の核融合原子炉ではトリチウムは発電用エネルギー源と見なされているが、この核融合原子炉の燃料という目標での研究が始まってからすでに60年以上が経過しており、さらに何十年かしないと実現しそうにない。こうした正当なトリチウム用途なら、IAEAが行っているような監視で容易に管理できる。民生発電用の大量のウラニウムやプルトニウムがすでに実際に、IAEAによって監視されているのと同様に。民生用トリチウム市場は、原発などの核分裂性物質の市場と比べれば、きわめて小さなものだ。したがって、その監視は大した重荷とはならないはずだ。

TritiumEXITsign

トリチウムは、通常の水素と同じような物質だが、放射性である。トリチウムの放射特性のため、秘密の貯蔵庫などにトリチウムを隠ぺいしても、意味はない。放射性崩壊により、絶えず消えていくからだ。環境へと漏れていくトリチウムの監視には、現在CTBTO(包括的核実験禁止条約機構)が配備しているような気体サンプリング システムを用いればよい。CTBTOでは全世界にサンプラー機械(検出器)のネットワークを配備し、トリチウム以外の放射性物質を検出するよう設計されている。信頼性が高く機能している既存の設備ネットワークにトリチウム検出器を追加するのは充分に可能なことで、大した費用はかからない。

歴史の中でトリチウムは、軍事用のトリチウム製造専用原子炉で製造されてきた。その温度と圧力とは、商用の発電原子炉よりもずっと低い。アメリカはその商用原発の一部でトリチウムを製造しているが、そのために新型の技術を開発せねばならなかった。その技術的困難は、高かった。さらに、IAEAの管理下にある以上、発電用原子炉でこうした行為を行うと目を引き、特異なものとされ、検査と確認を受けることになる。

(中略 ・・ 「諸国の参加を募るうえでの課題」というタイトルで、中国、インド、イスラエルなどの問題に言及していますが、ここでは割愛します))

ミサイルが役に立たなくなるまでの、カウントダウン

ミサイルが役に立たなくなるまでの、カウントダウン

発効してすぐに、核兵器廃絶が始まる

トリチウム供給を凍結するのは、核廃絶の魅力ある道のりだ。TCOT条約が発効して、その第1日からいやでも核兵器が力を失い始めるからだ。また、どこか特定の国がその日から急に、他国からの攻撃を受けやすくなるわけでもない。TCOT加盟国のいずれにおいても、各国の核兵器が自然な放射性崩壊で力を失っていく。そのペースは、どこでも同一なのだ。12.3年後にはいずれの国でも残るトリチウムが半分になり、保有する核兵器を解体するか否かという困難な選択を迫られることとなる。その12年間で、大きな変化がある。核兵器システム全体が老朽化し、軍事目標を絶えず再検討せねばならなくなる。その12年間に、アメリカでは大統領選挙が3回ある。そうした環境下にあれば、政治家たちも一般市民も、核廃絶の進展と核の脅威の軽減を現実に体感することができる。

他の核兵器廃絶の手法とこのTCOT交渉とを組み合わせれば、魅力ある組み合わせとなる。それによって、TCOTの実施1日目から、核兵器が老朽化していくプロセスが始まる。TCOT が機能している間は毎日毎日、核兵器が1つ、また1つと使用できないものになっていく。初期には、減る一方のトリチウムを特に重要な兵器に割り当て直す、といった努力も見られるだろう。そうした努力が見られることそのものが、もはや従来式の冷戦時代型核兵器が役に立たないことを物語っている。現在では核以外の兵器を軍事目標に精確に誘導し、面積の小さな標的、その多くは都市を対象にした非対称型という戦闘が行われており、敵のミサイル システムを標的とした大量の核兵器というものがもはや無用になっていることが、さらに明らかになろう。TCOTを実施すればその25年後には、トリチウムを利用する核兵器の75%が役に立たなくなっているのだ。

"--- is lifting me up", 完成 / finished

見上げれば、光は近づいているよ ・・・ 私の昔の作品より (「さだこ」じゃないですよ!)

TCOT を実現するには、トリチウムという物質をそれ以外の核兵器材料と同様の物質として新たに定義する必要がある。確認と検査とは、CTBTO国際監視システムやIAEAにとっては、手慣れたミッションである。この2つの国際機関の間での協力作業が必要となろう。

TPNWのような全面的な核兵器禁止というのは、大がかりだが達成すべき目標である。だが、核兵器保有諸国にとっては、核兵器という強力な武器の寡占状態にある以上、直ちに全面的に核兵器廃絶を実現するのは難しい。TCOTなら、放射性崩壊による単純な選択肢となり、巨大な量の核装備を「いやでも」徐々になくして行ける。しかも、その脱核は効力の発効後ただちに始まる。そして、核抑止というものを再考する必要性が浮かび上がるのである。

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どうか皆様も、お志ある方々は、この提案を日本語圏の社会に広めてくださいませ。
そうしていただければ、私も日本語化してここに紹介した甲斐があります!

では次回の固定ページでは、いま日本の政界で話題のSMRを取り上げます。
2021年10月に、「天然ガス価格が高騰している + 二酸化炭素排出も減らさないと → 原発を増やそう → SMRなら、メルトダウンを起こさない」といった主張が日本では聞こえているのですが、アホらしくて呆れておりますので。

 

 

 

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