2023年1月
アムステルダムに本拠を置く国際的な反
原発団体で、World Information Service on
Energy (WISE) というグループがあります。
1978年設立で、Nuclear Monitorという
ブルティンのようなものを長年公表して
らっしゃいます。
そのMonitorではすでに2004年2月、
ITERという国際的な実験核融合炉
(現時点で核融合炉といえば、ITERが
代表格と言ってよいでしょう)のロケーションが
まだ決定される以前に、核融合のproliferation
risksをNuclear Monitor Issue #603で指摘して
らっしゃいました。
THE PROLIFERATION RISKS OF ITER | Wise International
さすがは、WISEさんですね。2004年2月から
20年近く経過した2023年1月現在、私が
知る限り、日本の反原発団体などからは核
融合炉のproliferation risksに関する問題
指摘を聞いたことがありません。
そのMonitorから私の抜粋・日本語化で紹介
してまいります。
いつもどおり、< > 内は私からの補足説明
です。
なお、ITERのロケーションについては、英語版
Wikipediaの “ITER” というページからの、
次の抜粋をお読みください。短いので、
日本語化しなくて大丈夫ですよね?
(eng Wiki, “ITER”, ITER – Wikipedia )
There was a heated competition to host the
ITER project with the candidates narrowed
down to two possible sites: France and
Japan. Russia, China, and the European
Union supported the choice of Cadarache
in France, while the United States,
South Korea, and Japan support the choice
of Rokkasho in Japan.[61] In June 2005, it
was officially announced that ITER would be
built in the South of France at the Cadarache
site.
*********************
THE PROLIFERATION RISKS OF
ITER
(ITERのproliferation risks)
(2004年2月13日) 新設が計画されて
いる国際熱核実験原子炉 (ITER) をどこに
建てるかという決定では、フランスのカダラシュ
(Cadarache) にすべきか、日本の六ケ所村
にすべきか、という議論があるが、ITERの
参加諸国が会合を開いて (会合の日時は
<この本文の発表時点では> 未定) 決定を
下す見込みだ。スイスに本拠を置く独立科学
研究所 (Independent Scientific Research
Institute、ISRI) のAndre Gsponer博士
ならびにその理事兼上級研究員の Jean-
Pierre Hurni博士が、ITERおよび核融合
研究の核兵器拡散に関する問題点を発表した。
(603.5574) WISE アムステルダム –
ITER原子炉の建設と核融合エネルギー研究
の継続とに反対する理由として、適正なものが
いくつもある。膨大なコスト、安全面でのリスク、
放射性廃棄物、その他多数だ。上述のISRI
の研究員たちは核融合の戦略政治的ならび
に軍事技術的な意味に焦点を絞り、
proliferation riskの次の2つの側面を検討
した。核融合原子炉と核兵器の両方で使用
できるトリチウムの入手可能性、そして核融合
物理学に関する科学的知識である。
トリチウムと核兵器
<本文はここで、thermonuclear weapons
つまり核融合も利用した核兵器でTritiumが
必要であることを述べています。「やかんを
のせたら」 では、すでにページ シリーズ
t-x) でTritiumが現在の核兵器に欠かせ
ないという事実を解説しておりますので、
この段落をスキップしますね。
ページ シリーズ t-x) をまだお読みでない
方々は、この機会にお読みくださいませ。
上の黒いメニューでは、項目は基本的に
アルファベット順で配列しております。>
トリチウムとITER
現在のところ産業用か研究用かを問わず、
全世界でもトリチウムの出荷量は極めて
僅かだ。推定では、現在の世界市場で年間に
出荷されているトリチウムの量は、およそ100
グラムほどだ。そのほとんどはカナダ産だ。
すでにトリチウムは各種の産業用途に使用
されており、例として発光するダイアルや鉄砲
のスコープなどがある。だがそうした使用量は、
マイクログラムという微々たるものだ。これに
対し ITERプロジェクトでは、トリチウムを大量
に必要とする。
ITER <の核融合炉が> 稼働を開始すると、
そのトリチウム在庫は約2kg、毎年1.2kg程度
を消費することになる。これだけあれば、
「<トリチウムの核融合で> 強化した」 核
兵器数千発ができる。核融合炉を商業規模
で稼働させるには、トリチウム在庫10kgほど
が必要になる。現時点でアメリカの核兵器群
にあるトリチウムの総量は100kg程度で、
核弾頭1個当たり10gになる。したがって、
2kgものトリチウム在庫がITERにはある
ので、核弾頭200個を 「強化」 できる。
ITERの核融合炉にはトリチウムを年間に6回
入荷する計画であり、ここには何らかのリスク
が発生する。特に懸念されるのが、盗難や
乗っ取りだ。トリチウムの生産元としてもっとも
可能性の高いのがカナダ製CANDU核分裂炉
であるが、ITERのホスト国 <フランスに決定>
に (加速器のような) 特殊な施設を建設する
可能性もある。そうした手段により、輸送中の
危険の防止にはある程度効果があろうが、
盗難という脅威が解消できるわけではない。
<UやPuとは違って> トリチウムなら危険
な量を隠ぺいするのが、ずっと容易だ。さらに
<核兵器の強化に> 必要なトリチウムの量
は少なくてよい (kgではなく、g) うえに、
発する放射線量も少なく検出が困難だ。
そこで、トリチウムの安全を確保するため
には、何らかの効果的な手順を実施すること
が必要になる。
5年前 <1998年> にアメリカはITER
プロジェクトからいったん撤退したのだが、
2003年1月に再度参加することを決めた。
この変更は計算の上での政治的な動きと
みられ、核兵器拡散への対策という視点から
このプロジェクトに影響力を行使しようという
ものだ。アメリカがいったん脱退した1998年
以来今までに、パキスタンとインドが核実験を
実施、さらに北朝鮮も核兵器開発を進めてい
る。こうした諸国が保有している (と見られる)
核兵器はミサイルに搭載可能であるため、
トリチウムを含んだ 「強化型」 核兵器に改造
される可能性がある。そのため、ITERも含め
た国際的事業で大量のトリチウムを使用する
ものはすべて、細心の注意を必要とする。
そうしたプロジェクトには必ずアメリカも参加し、
可能な限りの影響力を行使することが必要と
なる。
トリチウム以外の、核融合に伴う
proliferation risks
核融合のproliferation risk としては、
トリチウムが最大のものかもしれないが、
それ以外にも核兵器拡散という視点から
憂慮すべき側面がある。
核融合反応では必ず中性子が発生するの
だが、これは増殖に利用できる。核融合炉の
壁面にUを配置すれば、Puを算出できる
のだ。この複雑化した核融合のあり方は
「核融合と核分裂のハイブリッド」 と呼ばれ
ており、ハイブリッド核融合炉を悪用すれば、
核兵器グレードのPuが製造できてしまう。
<上の黒いメニューで、ページ if-3) を参照>
ある試算によれば、ハイブリッド核融合炉1基
で年間に5,000kg以上のPuを増殖できる。
これに対し、同じ出力の 「従来の」 重水使用
核分裂炉では、増殖できるPuは 「わずか」
500kgだ。
核融合研究には、さらに別の派生効果もある。
つまり、超電導電磁石の開発だ。これは宇宙
軍事や弾道ミサイル防衛、電磁砲といった
軍事戦略的にも重大な技術なのだ。
核融合エネルギー用に現在開発中の技術と
してもう1つ、慣性閉じ込め方式の核融合
(Inertial Confinement Fusion、ICF)がある。
ICFでは、極めて小型のペレット (デューテリ
ウムとトリチウムが入っている) を反応室に
配置し、それに高エネルギーレーザーを照射
する。ICF技術を利用して、実験室規模で
核兵器関連物理学の研究を進めることが
できる。 つまり、内密での研究が行われて
しまう危険性があり、それが行われれば
検知は困難だ。
<* 「デューテリウム」 は二重水素 H-2の
ことですが、deuteriumないしはデューテリ
ウムでお分かりになりますよね?今後、
deuteriumはD、tritiumはTと略式表記する
場合があります>
2023年1月現在、「純然たる核融合爆弾」
なるものは、まだ出来ておりません。
でも、核融合の研究から派生してどこかの
国やテロ組織が作ったら??
核技術に取り組むときには、まずproliferation
risksの対策をしないと。
ICF技術から派生して、PuもUも不要な第4
世代核兵器が開発されてしまう恐れがあるの
だ。そうした核兵器では、 DとTの入った
ペレットは、従来の核兵器のように連鎖反応で
爆発させるのではなく、レーザーで爆発させる
ことができる。そのためには、従来よりはるか
に小型の高エネルギー レーザー装置が必要
となる。ICFとレーザー技術とを理解している
国であればどの国でも、外部に知られること
なくこの種の核兵器の開発に努めることが
可能なのだ。
また、こうした基盤となる技術とICF用高
エネルギー レーザーの知識とは、レーザー式
U濃縮技術の開発に利用できる。この技術
では、天然ウランを100% U-235にまで
(つまり、核兵器用濃度にまで)、1ステップで
濃縮することが可能だ。
日本
ISRI 研究所の研究員たちの結論では、「すで
に大量の分離済みPu在庫を抱えており、
しかもレーザーによる [核融合プログラム]
に盛んに食指を伸ばしている日本のような国
でITERを進めてしまうなら、潜在的な
(考えうる) 核兵器拡散のリスクを大幅に増大
させてしまうだろう。(つまり、核兵器を短期間で
製造できてしまう能力を増大させてしまう)
さらには、世界での核兵器拡散を進めて
しまう結果を招きかねない。
<* 感情的にならず、第三者の視点を想像
してお読みください。とっくの昔に日本は、
潜在的核保有国だと、多くの諸国からは見られ
ているのですね。「そんなの、日本の恥だ!」
と憤ってらっしゃるのなら、ぜひ反核活動を
なさってください!>
日本は表面上は核兵器を保有しておらず、
核軍縮を提唱してはいるのだが、すでに
日本はアジア地区の他国の核兵器という脅威
に直面してきた。 (パキスタン、インド、北朝鮮
など) 日本にITERが誘致されれば、大規模
のトリチウム技術を日本が手に入れることに
なり、しかも日本には大量のPu在庫と再処理
工場などもあるため、「強化型」 核兵器を製造
するために必要な技術は揃ってしまう。日本の
真の狙いとは無関係に、日本にITERを誘致
するなら東アジア地域の非安定化につながり、
近隣諸国もさらに高度な核兵器の獲得に一層
努めるに至ってしまう危険性がある。
(以下略)
*********************
「でも、核融合でなんでTritiumが出てくる
の??」
とおっしゃる方がいらっしゃらないことを
願いますが、もしいらっしゃるなら、例えば
核融合入門 | 誰でも分かる核融合のしくみ – 量子科学技術研究開発機構 (qst.go.jp)
などを読んで、お学びになってくださいませ。
基本を学んでくだされば、核融合反応から
中性子線が出てくることもご理解いただける
でしょう。
そしてu-238に中性子線を照射すると、
Pu-239ができてしまうことも、tw-1) で述べ
ました。さらにIFRなどの場合、炉心周囲
にある 「ブランケット」 というコンポーネント
では 「とっても上質な」 つまり 「核兵器に
使用しやすい」 Pu-239が出来てしまうことも、
if-3) で説明済みです。
当然、上のNuclear Monitorが述べている
ようなproliferation risksを指摘せざるを
得ないわけですね。
「これは、ほっておけない!」
私の20分クロッキー、男性のモデルさんです
次回アップロードする固定ページでは、
核融合のproliferation risksに関する
論説などをさらに紹介する予定です。
それにしても、2004年2月にこれだけの
指摘を公表するとは、さすがはWISEさん
ですね!
日本の反核勢力も、負けてはいられません!