2020年10月
ここまで、「核発電」と「核兵器」の不可分性が明らかになった
過去の事例を紹介してまいりました。他にもそうした事例はあって、
インドとパキスタンのケースなど有名ですし、リビアも手を
出したことがありました。
こうした事例は、何も冷戦時代に限った話ではなく、最近も起きています。
2020年になってからも、発生しています。
今年(2020年)のことです
最近の事例の1つとして、今年(2020年)の1月5日の各種報道によれば、
イランがウラニウム濃縮などに関する2015年の合意による制限を
破棄したそうです。
bbc.comの記事を見てみましょう。
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-51001167
にあります。
Iran has declared that it will no longer abide by any of the
restrictions imposed by the 2015 nuclear deal.
In a statement, it said it would no longer observe limitations on
its capacity for enrichment, the level of enrichment, the stock of
enriched material, or research and development. —–
Tensions have been high over the killing of Iranian General
Qasem Soleimani by the US in Baghdad.
2015年の合意で、イランはその核施設の稼働などについての制限を
受け入れていたのですが、それを破棄すると宣言したわけですね。
ガセム ソレイマーニ司令官が殺害されたことに対する対応なのでしょう。
特に、ウラニウム濃縮の濃度や量に関する制限を破棄するとしたのが、
重大です。天然ウラニウムはほとんどがU238で、分裂性のU235は
わずかしか含まれていません。そのままでは発電や原爆に必要な
核分裂を起こせないので、精製・濃縮して使用します。U235の濃度を
90%以上にすると、兵器グレード、つまり原爆用のウラニウムになります。
(広島型)
さらに2020年7月には、ナタンズにあるイランの核施設で
破壊工作があり、イラン政府はのちにそれをイスラエルによる
工作だと主張しました。真相は、私にはわかりませんが、
広く日本語でも報道されましたよね。
たとえば、
https://www.afpbb.com/articles/-/3300745
など。
こうした事実を受けて、反原発団体も「核兵器と核発電の不可分性」そして
「両方の廃絶」を求めて声を上げるべきだったと私は思うのですが、
日本ではあまり聞こえてきませんでした。そして現在のコロナウイルス
パンデミックが来て、イランの核問題も北朝鮮からのミサイルも、巷では
忘れ去られてしまっています。
私の人体デッサンより
「伝染」の危険性
さらに、どこか一国が核武装すると、周辺諸国にまで「伝染」してしまう
危険があります。
2011年の福島第一メルトダウンの後で出た書物で、最新情報ではない
のですが、Charles D. Ferguson, “Nuclear Energy — What everyone
needs to know” という本があります。著者は物理学者・核エンジニアで、
アメリカ国務省などで核に関する政策に関わった方です。
その書物の67ページに、以下の記載があります:
Many Middle Eastern and North African countries with large Arab
population —- Nonproliferation experts have observed that these
countries’ announcements of interest in nuclear power plants are
strongly correlated with the growth of Iran’s nuclear program.
Even if the Arab states are not now explicitly trying to obtain
nuclear weapons, they may try to leave the option open as a future
deterrent against nuclear attack if Iran decides to acquire nuclear
weapons.
核兵器の不拡散に関する専門家たちによれば、アラブ人口が多い中東と
北アフリカ諸国の場合、核発電所への食指とイランの核プログラムのと間に、
強い相関性が見られる、ということですね。現時点では核兵器を保有した
いとは明示していなくても、イランが核兵器保有に踏み切った場合には、
核攻撃を抑止するため、周辺のアラブ諸国も核兵器保有に踏み出す
恐れがある、という専門家の観察でした。
ついでながら、2013年ごろ、日本国の総理大臣が中東諸国に日本の原発の
セールスに出かけたのも、覚えてらっしゃるでしょう。(たとえば、
https://biz-journal.jp/2014/01/post_3746.html ) 上記の不拡散
専門家たちの観察を考えれば、まるで「死の商人」のように見えて
しまいかねない ・・・
もう、充分紹介しましたよね?
上記以外にも、インドVSパキスタンの実例なども紹介できるのですが、
読者の皆様ももう充分に不安が募っていると思うので、事例紹介は
この辺にしましょう。
ページ d-x) では核発電所のメカニズムそのものに見られる「核兵器と
核発電の不可分性」に、話題を進めますね。