2022年5月 mr-0) (MSR) なぜMSRを取り上げるの?
( ? o?) まずは、言葉の説明
MSRとはMolten Salt Reactorの略称で、「溶融塩原子炉」
などと日本語では呼んでいます。この「やかんをのせたら~~」
では主にMSRという略称を使いますが、SMRつまり
Small Modular Reactorと混同なさらないでくださいね。
(SMRについては、上の黒いメニューにあるページ
シリーズ s-x) で既に取り上げています)
で、基本的には高温で 「溶けている塩」 のなかに U235
などの核燃料も溶かして混ぜ入れ、それを「核燃料兼冷却剤」
として使用するのが、基本的なMSRです。
(MSRの設計には多様なものがあって、中にはワザワザ
この混合物を固体の中に入れる設計もありますが、
基本的には「融けた混合物」を使います)
* ここでの「塩(えん)」とは、化学用語で
「陰イオンと陽イオンが結合した化合物」のことです。
たとえば、NaCl (塩化ナトリウム)、CaCl2 (塩化カルシウム)、
Na2Co3 (炭酸ナトリウム) などなど。
減速材が “必要な場合”、グラファイト (黒鉛) を用いる設計が
多いようです。“必要な場合” と “” を付けたのは、fast つまり
高速中性子を使用する設計もMSRの中にあるためです。
融けてしまう ・・・・
私の20分クロッキーより
☆ なぜ、MSR を取り上げる?
かなり最近、2022年5月7日付で iMedia という中国のメディアが、
同国でMSRのプロトタイプ原子炉 (まだまだ、商業用じゃ
ありません) が完成したと報道しました。
ご存じのとおり、中国政府はインターネットを厳しく
監視しているので、その点は意識して読む必要があります。
まずはその記事から一部抜粋・日本語化して紹介しましょう。
いつもどおり、< > 内は私からの補足説明です。
China has built the world’s first waterless reactor, which generates electricity in the desert and is extremely safe. – iMedia (min.news)
(世界初の水がいらない原子炉を、中国が建設。
砂漠でも発電ができ、極めて安全)
2022年5月7日
<* 元の記事に記者名が記してありません!>
世界初の水がいらない原子炉を、中国が建設。
砂漠でも発電ができ、極めて安全
原発の建設というと、世界のどこでも水源が近くにないと
いけないというのが常識になっている。原発は稼働中に
熱エネルギーを大量に発生するので、冷却用の水が必要なのだ。
そのため <中国の> 北西部にある砂漠地帯は、核発電とは
無縁の場とされてきた。だがウラニウムではなく液化
トリウムを燃料とする、水を使わない原子炉の登場によって
一大変化が起きた。 <下の ( ◎o◎) も参照>
こうした水を使わない原子炉を、Molten Salt Reactor
(通常、MSRという略称) と呼んでいる。従来の原子炉の
燃料が固形であるのに対し、MSRの冷却剤と核燃料とは
融かした塩の混合物になっている。 実はこのコンセプトは、
1940年代からある。最初に提唱したのはAlvin Weinberg
<1915 – 2006> というアメリカの核物理学者であった。
彼は<マンハッタン プロジェクトとその後に>オーク リッジ
国立研究所(ORNL) の初代所長を務め、加圧水型原子炉の
コンセプトも提唱した人物だ。MSRのシステムでは減速材と
してグラファイト(黒鉛)を使い、グラファイトとグラファイト
の間に溶融塩を配置する模様だ。そこで核分裂を連鎖させて
熱を発生させ、その熱で水蒸気を発生させて発電タービンを
動かし発電する。<やはり、発電タービンでは水を使うわけ
ですね。Waterless というのは、実は誇張ですよね>
溶融塩は大気圧下でも1,000度を超える高温に達し、しかも
液体のままなので、MSRは低圧力下で稼働できる。これにより、
機械の受けるストレスが減り、安全性が向上する。
<軽水炉では、冷却水を高温に保つため、かなりの高圧を
加えます。そのため「圧力容器」なるものがあり、その内部は
高圧なので ⇒ たとえば圧力容器にひびが入ると、内部の
蒸気が放射性物質とともに猛烈に吹き出したりします>
さらに、連鎖反応が生じるのは燃料がグラファイトに囲まれて
いる時だけなので、炉心温度が上昇し液体燃料がある程度以上に
膨張すると、液体燃料の密度が低下、連鎖反応を維持しにくく
なり、核分裂が止まる。液体燃料の温度が上がり過ぎて、
これでは反応が停止しない場合には、炉心の下に特殊なプラグが
設けてあって、これが熱で融ける。すると、液体燃料が
そのプラグ下の緊急用タンクに流れ込むのだ。
<そして、そのタンクの中で冷えていく>
******************
( ◎o◎) ページ Th-1) で
「推進勢力の一部はMSRでのトリウム燃料ならメルトダウン
しないと主張しています。でも、これについては後日新たな
ページで考えましょう。」
と私は記しましたが、この iMedia の記事からも明らかな
ようにトリウム サイクルはMSRと親和性が高いのですね。
ですから、トリウム サイクルの「事故危険性」については、
次々回アップロード予定のページ mr-2) で実質的には
ご理解いただけると思います。
・ まずは何よりも、本ウェブサイトのHomeで2021年8月と
10月に紹介した、中国北西部でのICBM用サイロ増設の問題も、
お忘れなく! 右端の「アーカイブ」の下にある 「2021年8月」
と 「2021年10月」 をクリックしてお読みくださいな。
・ そして「水いらず」という主張ですが、あくまで原子炉の
冷却には水が不要、ということです。発電をするなら蒸気
タービンを使うわけなので、その個所では水が必要です。
まあ、発電を行わない原子炉にするのが 「本音の意図」
なのか?? ⇒ 上の黒いメニューにあるページ b-3) で、
やはり原子炉冷却に水を使わなかったウィンズケール
原子炉の用途が何であったのか、ご覧ください。
ページ d-1) の最初の図も。
「発電を行わない原子炉」 という意図ではないことを、
願います!
なお、付録 w-2) で原発の水消費を問題にしましたが、
内容をお読みくださればお分かりのように、そこでは
LWR (軽水炉) を前提としております。現存する
原発の大半はLWR なのですから。
・ メルトダウンは、“ありえない”
そうなんです、MSRでは核燃料のメルトダウンは、
「言葉の定義上」 あり得ません!
だって、通常の言葉の用法として、「過熱して
融けてしまう」ことをメルトダウンと呼んでいる
わけですから! MSRの場合、上述のように核燃料は
冷却剤と一緒に高温で液化してあります。
つまり、「初めから融けている」わけですから、
「融けてしまう事故」 なんて起こりえない ・・・
それだけのことです。
(;; – _-) でも、しかし、けれど ・・・
・・・ 原発推進勢力の中でも一部の不勉強な連中は、
\( ^ o^) / 「ほら、どうだ~~、絶対にメルトダウンしない
新型原発もあるんだぞ~~!」
なんてことを言い出すかも。
たとえ原発推進を主張する人であっても、基本を学んで
いる人であれば、「「初めから融けている」のだから、
「融けてしまう事故」 なんて起こりえない ・・・
それだけのこと」 という事実を知っているはずですから、
こんな 「アホばか主張」 はしないでしょうけどね。
☆ 翻って、反原発勢力の一部も ・・・
<”(;; + _+)> 「原発 ⇒ メルトダウン ⇒ こわいよう~~」
ばかりを言い続けていたのでは、上記のような
「アホばか主張」 にさえ、対抗できませんよね。
\(:: >〇<) / 「冗談じゃねえ! どーせ原発推進派はウソ
ばっかし言ってきたんだから、新型原子炉のことなんか
知らなくていい ~~!!」
といった反応ばかりしていたんじゃ、社会の中の良識ある
人たちからは
「反原発派の連中って、ヒステリックだな~~」
とか、思われかねませんよね。
やはり、原発に反対する以上、反対派の中の何10%かが
・ その「反対対象」つまり原発がどんなものなのかを知り、
・ 最新の核発電動向も学び続ける
ことは、不可欠ですよね。
「反対する人の全員が」とは、申しておりませんよ。
気を付けてくださいね。
社会の中には、とてもそんな学びをしていく余裕のない方々も
いらっしゃいますし、そうした方々も核発電に反対する権利は
当然あるのですから。
ただ、「反原発勢力の大半が不勉強で~~」という事態は、
避けないと困ります。何10%かは、絶えず学んでいないと。
そうした「何10%か」の方々を主たる対象読者として、
本「やかんをのせたら~~」を作成しております。
学ぶことが多すぎて疲れる~~
私のデッサン練習より(based on Croquis Cafe 366)
紙にワックスパステル
☆ 今後の予定
では、次回はまず ページ mr-1) で、MSRの概略を説明しますね。
MSR関連のページとしては、以下の構成を予定しております。
mr-0) 本ページ
mr-1) MSRの概要
mr-2) MSRの事故危険性
mr-3) MSRのproliferation risk
では、mr-1) をアップロードするまで、しばしお待ちくださいませ。
なお、上述の「学ぶ必要性」については、「原発問題」そのものが
決して単一の問題分野ではなく、多方面の問題が絡み合っている
という事実が大きく影響しています。
それについても、近日中に 付録 add-4) をアップロードする予定です。