2023年6月
Beyond Nuclear Bulletin
May 24, 2023より
SMRはもともと軍事関連で開発された
技術でしたが、今もペンタゴンの後ろ盾
を得ているようです。それについて、
Beyond Nuclear Bulletinの5月25日号
より。
一見「平和利用」の発電技術の裏に、
実は各軍事が結びついている実例ですね。
いつもどおり、
私の日本語化
< > 内は私からの補足説明
です。
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ペンタゴンの「ペレ プロジェクト」、
SMR拡散の道を開く
「ペレ」というのはハワイの火山の女神
の名だが、その「プロジェクト ペレ」
ではペンタゴンとアメリカエネルギー省
< US Department of Energy (DOE)>
とがパートナーシップを組み、アメリカ
軍用の可搬式発電原子炉の開発と実証と
に努めている。それは超小型原子炉
(発電量は1から5メガワット)で、
陸上・空輸・海上輸送で短期間に配備
でき、アメリカ軍の作戦をサポートし
遠隔地の米軍基地に電力を供給できると
喧伝されている。だがこの「プロジェクト
ペレ」が成功を収めるなら、レゴを全米
規模で集めて組み立てるような結果と
なり、アメリカ中に発電用ブロックや
コントロール ルームが出来てしまい
民生用原発が広く商業化されてしまう
結果を招くことだろう。
この、軍部主導によるSMRイニシア
ティブは、現時点では全く市場が存在
していないSMR産業をジャンプ スタート
させようとするものだ。そもそも、ワザ
ワザ原子を核分裂させることによる最も
高価な電力になど、市場が存在してなくて
当然なのだが。アメリカエネルギー情報局
<US Energy Information Administration>
や連邦エネルギー規制委員会 <Federal
Energy Regulatory Commission> の四半
期報告書を読めば、新たな発電技術として
は、最もコストを要さず高い信頼性で導入
できる再生可能エネルギーである太陽や
風力が支配的だとすぐに分かるのだが。
それに対抗してアメリカ軍部と核発電業界
がSMRを推進しようと努めている細心の
実例であるこの「ペレ」からは、「平和
利用」とやらの拡散と核兵器、そして核
弾頭を運ぶ <ミサイルなどの>
システムが、実はサプライチェーンを共有
しているという象徴的な関係性が窺える
のだ。
このペレ プロジェクトではDOEの入札
プロセスがあり、それによって候補となる
原子炉開発スタートアップ企業の候補者数
が絞られた。最終的に選ばれたのはBWX
Technologies (BWXT) という企業で、
2022年のことだった。BWXT社の本部は、
ヴァージニア州リンチバーグにある。
BWXTは軍部への供給企業として確立
されている企業で、核兵器搭載可能な
潜水艦や空母に対し、推進力用の原子力
システムを供給している。BWXTでは
現在、可動式発電原子炉の軍用プロト
タイプを開発する計画だ。その開発は、
リンチバーグ近郊に建設された新工場で
行われており、これは人里離れた場所に
ある。
プロジェクト ペレによる初の本格的な
可搬式小型原子炉が完成・出荷される
のは、2024年になる予定だ。出荷先は、
アイダホ州はアイダホ フォールズに
あるアイダホ国立研究所だ。そこで、
2年間の試験を受ける予定である。
それは黒鉛を減速材とする高温ガス炉で
<上の黒いメニューにあるページ h-0)
からh-3) 参照>、TRISO (TRIstructural
-ISOtropic particles、三構造等方向粒子)
という核燃料を使用する。 TRISO燃料は、
テニスボールのサイズの粒、あるいは
炭素ブロックとして 成形される。燃料の
中心部は濃縮ウラニウムの酸炭化物で
出来ており、それを炭素とシリコンの層が
覆っている。そこには、高濃縮度低濃縮
ウラニウム (HALEU) の核分裂生成物が
含まれる。U-235の濃度は19.75%だ。
この核燃料の各粒またはブロックは、
原子炉内で核燃料を封じ込める構造と
みられている。この核燃料は1つ1つ別々
にフィードされる予定だ。今のところ、
HALEUを商業的に供給しているのは
世界でもロシアだけだ。だがペレは契約
に基づく軍事プロジェクトなので、
BWXTではアメリカ政府が保有する核
兵器用備蓄(プルトニウムとHEUの両方
を含む)からの高濃縮ウラニウム
(HEU)を希釈して HALEUを得ること
になる。
BWXTのアメリカにある私的施設は、
アメリカでHEUの保有と処理が許可
されている、唯一の施設である。
同様に、やはり軍との契約による
プロジェクトであるため、ペレ プロ
ジェクトの原子炉の設計と開発の承認も
アメリカ エネルギー省が行う。これに
対し民生用の商業SMRの設計は
アメリカ原子力規制委員会(US Nuclear
Regulatory Commission (NRC))の規制
承認プロセスを通過せねばならない。
民生用SMRの設計の例としてはTerra
Power社のNatrium高速炉やNuScale
などがあり、このNuScaleを所有して
いるのはアメリカ最大の核兵器メーカー
である Fluor Corporation社なのだ。
Beyond Nuclear ではすでに2019年の
Atlantic Council <という、国際問題など
を専門とするアメリカのシンク タンク>
による “The Value of the US Nuclear
Power Complex to US National Security”
<アメリカ核発電複合体が
アメリカ国防に対して有している価値、
The value of the US nuclear power complex to US national security – Atlantic Council>
という報告書で指摘済みなのだが、
アメリカ海軍の核関連のメインテナンス
という問題では、民生が軍事に発展して
いく経路は明白で直接的なものだ。その逆
の経路も同様である。「共有設備や
サービス、人的資本なども含んだ民生用核
と軍事用核のヴァリュー チェインは
お互いに不可分で、そのためお互いを強化
しあうようなフィードバック ループを
生み出しており、そこでは強固な民生用
核産業が国家安全保障制度の核関連要素を
支えている」
これ以上明白な関係は、ありえない。
この重要な結びつきを、軍事部門として
は失いたくない。民生用核業界のサプライ
チェインがなければ、軍事各部門は自ら
の手で必要な研究や人材雇用、スキルの
トレーニング、技術開発などを行わねば
ならなくなってしまうからだ。
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「民生用」つまり「いわゆる平和利用」
での核研究や人材などがないと、軍事
つまり核兵器関連がおおいに困って
しまう、ってことですよね。
アメリカだけの話じゃないです。日本の
実情についても、たとえば上の黒い
メニューでページ g-3), g-4) などを
お読みくだされば。
ページ b-1) その他で紹介した通り、
原子炉とはその誕生において、核兵器
製造用装置でした。今も「軍事的転用」
は可能だからこそ、IAEAは目を光ら
せているわけです。「平和利用」と
やらを「軍事とは別物」と扱えてしま
えるのであれば、IAEAが存在する理由は
なくなります。
今まで日本の反原発団体いくつかから、
私は協力を求められ、協力してきました。
しかし今(2023年6月)では、全く
一人で本ウェブサイトを運営しており
ます。なぜか?この「核発電と核兵器の
不可分性」を明確に前面に押し出して
いる反核団体に、私は日本では出会った
ことがないからですね。
その点、上でBulletinを紹介している
メリーランドのBeyond Nuclearさんは、
working for a world free from nuclear
power and nuclear weapons
というスローガンの通り、核兵器と
核発電の不可分性を明確に認識、両方の
廃絶に取り組んでらっしゃいます。