f-7)(これから)哀れなセールスマン、そして伝染

あたり前なことを言わせてください。まともな銃メーカーのセールスパーソンであれば、家と家が銃を構えてにらみ合っている街区に、「新型の高性能銃ですよ~」と言って銃を売り込みに行くような真似はしないはずです。ですよね?

しかし! ページf-x) で説明してきたように、イランの核開発疑惑への対応でペルシャ湾岸諸国も核能力を身に着けようと努めている「らしい」ところへ、ワザワザ自国の原発技術を売り込みに行った人がいました。なんでも、「過酷事故を経験しているからこそ、我が国の原発は安全性が高い」のだそうですよ!

「新型の高性能銃は、いかが?」

「新型の高性能銃は、いかが?」


セールスマンの悲哀

誰のことか、忘れてしまっている人は、たとえば2013年5月の以下の各ニュースをご覧くださいませ。

・ 日本経済新聞、「日・UAE、原子力協定に調印 原発輸出の条件整備」
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0203H_S3A500C1MM8000

・ 朝日新聞デジタル、「UAEと原子力協定署名 安倍首相、福島事故後で初」
http://www.asahi.com/special/news/articles/TKY201305020034.html

特に嘆くべきは、この「哀れなセールスマン」が一国の総理大臣だったという事実でして ・・・
まあ、
原発を扱うのは巨大企業ばかりなので、原発商売を何とか存続できるようにしないといけない、という経済的プレッシャーもあったのでしょうし、
原発は「潜在的核保有国」である日本が「いざとなれば、短期間で核兵器を作れるんだよ」という「核能力」を保持して、周辺諸国からの軍事侵攻を抑止するための国策なのですから(詳しくは、後日)、その国策を維持せねばという事情もあったのでしょう。

でも。だからといって、家と家が銃を構えてにらみ合っている街区に、「新型の高性能銃ですよ~」と言って銃を売り込みに行くような狂乱沙汰が正当化されるわけじゃ、ありませんよね。気は確かだったんでしょうかね??

韓国にとられ、シノプもおじゃん、ベトナムもダメ ・・・

もっと哀れなことに、売り込みに行ったUAEのバラカ原発プロジェクトは、結局韓国のKEPCOが落札しました。そこでこの哀れなセールスマンさん、トルコのシノプ原発やベトナム、英国のウェールズにも売り込みをかけたのですが、いずれもオジャンになっちゃいました。

「冬になったら、かき氷じゃなくてたい焼きとか売るのは、当たり前だよ~」

「冬になったら、かき氷じゃなくてたい焼きとか売るのは、当たり前だよ~」

売り方の問題じゃなく、売る商品そのものがオカシかったのです。同じ売るなら、住民たちが銃を構えてにらみ合う街区では、他人を負傷させる道具じゃなくて、自分の身を守るための防弾服でも売るべきですよね。

同じように、もはや原発を売り込むんじゃなくて、2020年の今となっては言い古されたことですが、廃炉技術や使用済み燃料の管理技術などを、廃炉を進めている諸国に売り込むべきでした!

核武装の伝染と、発電という隠れ蓑

では、ペルシャ湾岸以外の中東諸国の様子を3つほど見てまいりましょう。イスラエルについては、c-3) と c-4) で短く説明しました。
そこで、たとえば複雑ないきさつがありながら、結局はまだ核発電も行っておらず、核武装もしていない実例の1つとして、エジプトを。

エジプト

Nuclear Threat InitiativeのEgyptのページ( https://www.nti.org/learn/countries/egypt/nuclear/ )をもとにかなり短くまとめますが、このNTIのページは2014年7月までの情報で、少し古いため、必要に応じて英語Wikipediaの”Nuclear Program of Egypt”( https://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_program_of_Egypt#:~:text=The%20Egyptian%20nuclear%20power%20program,Nasser%20at%20Inchass%2C%20Nile%20Delta.&text=In%201964%2C%20a%20150%20MWe,600%20MWe%20proposal%20in%201974. )の情報も参照しています。(最終更新は2020年9月)

近年のエジプトはNPT(核拡散防止条約)の加盟国として定評があり、中東に大量破壊兵器のない地帯を設けようと提唱するなど、核兵器も含めた大量破壊兵器の廃止に努めているようです。現時点では、国内情勢の不安定もあるのでしょう、イランの核開発に対抗して核武装を進めようといった動きも見られません。

まだ原発もなく、小型の研究用原子炉が2基あるだけです。
このまま、核ではなくもっと安全なエネルギー源の開発に努めてもらいたいものですね。

「主な感染経路は」(隣国の核と”平和利用”)

「主な感染経路は」(隣国の核と”平和利用”)


そうなる以前

そんなエジプトですが、昔からずっとこうだったわけじゃ、ありません。1950年代から60年代にかけて、ガマル ナセル大統領のもと、核エネルギーの導入に力を注ぎました。55年にはエジプト原子エネルギー委員会を創設、現在の原子エネルギー局(AEA) につながっていきます。

しかし、1967年の6日間戦争でイスラエルと戦って敗れ、国内経済が不振に陥り、大きく方向を転換することを余儀なくされたそうです。果たして、同大統領の考えていた核開発が発電だけだったのか、核武装も含んでいたのかは、今もはっきりしません。

いずれにせよ、1953年12月の国連総会でのAtoms for Peace演説がエジプトが核エネルギーに目覚めるきっかけとなったと、NTIのこのページは述べています。55年には原子エネルギーの平和利用に関する国連会議が開催され、エジプトも代表団を派遣していました。翌年、当時のソビエトと核協力合意を締結します。そのソビエトから小型の研究用軽水炉を導入、61年には稼働を始めています。

研究用なので、そこで出来るプルトニウムはわずかなものです。それでもNTI によれば、「この原子炉を何十年間か稼働させたことで、エジプトの科学者や核技術者たちは、”二重用途”の広範な訓練となる経験を積む機会もあったはずだ」と述べています。
実際、1960年から67年にかけてナセル政権が核武装をにらんでいたとする研究者も多数おり、そのきっかけは60年にイスラエルの当時の首相だったベン グリオンが行った発表でした。イスラエルがディモナに平和利用のための研究用原子炉を建設する、という発表です。「平和利用」とは言っていたものの、周辺諸国が大いに憂慮したのは間違いありませんね。
なお、ディモナについてはこのウェブサイトのページ c-3) と c-4) でも取り上げていますので、上の黒いメニューで c-3) と c-4) をクリックなさってくださいませ。

最近では

2006年、エジプトは発電用核利用のプログラムを再開したい旨を公表しました。しかし、エル ダバーという場所にあった原子炉用地は、2012年に市民の抗議を受けて閉鎖されました。2015から17年にかけてはロシアのRosatomとエジプト政府が交渉、エル ダバーにVVER-1200という原子炉を建設し2024年に稼働開始を目指すそうです。

要するに、核は「伝染(うつ)る」

もうお分かりと思いますが、上記のエジプトの核に対する態度の歴史から学べることとして、
・ 核は「伝染(うつ)る」(ある国が核兵器を持つつもりか?という懸念を周辺諸国が抱くと、そうした周辺諸国も核武装を考え出す)
・ その「伝染(うつ)る」感染経路の1つに、「平和利用」が利用されてしまう
ということですね。

 

NukeForNukeBadPrinciple「同じ武器をこちらも入手して、抑止」が得策とは限らない


ヨルダン

では、イスラエルのすぐ東隣、ヨルダンへ。核武装への食指などないとのことで、一見問題のなさそうな国なのですが ・・・

NTI のウェブサイトのJordanのページ( https://www.nti.org/learn/countries/jordan/ )によれば、

ヨルダンはNPTの加盟国であり、核武装の願望を有していないようだ。1998年には中東で初めてIAEAの追加議定書と包括的保障措置協定に署名、それによりIAEAはヨルダンに対し追加の査察も行うことができるようになった。ただし、「少量議定書」への変更についてはまだヨルダンは同意していない。(2015年6月現在)

ということです。イスラエルのすぐ隣にある国ですから、密かな核武装計画でもあるのかと疑いたくなるものですが、実際には「核には核を」という抑止論的な発想に立たず、むしろIAEAと親密にして「身の潔白」を明らかにしてもらうという方針のようですね。(私自身は、賢明な選択だと思います)

核発電の計画はあって、「パッシヴ セーフティ」(原発に異常があった場合に、オペレーターからの介入がなくても自動的に安全措置が実施される仕組み)などを備えた新しい原子炉を希望しているようです。国際的な原発建設プロジェクト入札を実施して、2013年にロシアのRosatomの原子炉輸出子会社AtomStroyExportが落札したそうです。ただしこれは資金の関係でのちにロシア製のSMR(小型のモジュール式原子炉)を2基導入することに話が変わり、さらに2018年には財政面の問題からキャンセルになっています。(XinhuaNetウェブサイト、2018年6月12日、 http://www.xinhuanet.com/english/2018-06/12/c_137246989.htm )

上記の事実から分かるのは、
・ 隣国が核武装した場合、「こちらも核武装して、核兵器を使えないようにする」という「核抑止」が現実的な選択だとは限らない。逆にその隣国と仲良くし国際社会とも密接に協力して、自らは核武装しないという選択も現実に効果を発揮している実例がある。

・ 原発は、恐ろしいほど初期投資がかかる。そのため、多くの諸国では手の出ない高額な買い物になっている。(初期投資がずっと少なくて済む小型の水力や風力などで、分散型の送電網への移行を始めたほうが賢明)

ということでしょう。

「それ、売ってよ」

「それ、売ってよ」

それと、ヨルダンにはウラン鉱石がかなりあります。NTIの同じページによれば、
2014年5月、Jordan Uranium Mining Company(ヨルダンウラン鉱業社、JUMCO)はウラニウム工場プロジェクトを発表し、いずれ1,500トンのウラニウム製造を目指すとした。

ここから、また1つの深刻な問題が浮かび上がりますよね。
つまり、
ある国が自らはまったく核武装を望まず、核兵器をまったく保有も開発もしていないという場合でも、核燃料や技術などを他国に販売した場合、間接的に核武装の手助けをしてしまっている可能性がある、
という問題です。

「存在そのものの自己矛盾」

「存在そのものの自己矛盾」

アルジェリア

やはりNTI のウェブサイトのAlgeriaというページ( https://www.nti.org/learn/countries/algeria/  2018年4月)より。

アルジェリアのエイン ウーッセラというところには重水型の「エル サラーム」という名称の小型原子炉があって、研究や教育用に使われている。同国がNPTに加盟したのは1995年のことで、それ以前に(1991)エル サラーム原子炉は密かに建設されていたので、核兵器開発用ではないのか、という疑念をアメリカの諜報機関などが強く抱いた。特に、その冷却塔が発表されている出力に比べ大きすぎるのではないか、という問題が指摘された。1992年1月にIAEAによる同原子力施設の初めての査察が実施され、この施設固有の安全対策の合意が締結された。さらに2018年2月には、アルジェリアとIAEAとは追加議定書で合意に至っている。

ここからお分かりのとおり、IAEAは決していい加減な査察などしておらず、冷却塔と申告出力の整合性など、しっかりと見張るべきを見張っています。

問題は、むしろIAEAの前提となっている方針そのものですね。つまり、
a) 核兵器のこれ以上の拡散は、許さない
b) それを約束した国には、核発電を認めてあげる
c) ただし、核発電をしたいなら、核兵器を内密に開発していないか確認するため、IAEAの査察を受けなさい
という前提ですね。

実際には核発電が核兵器開発の「隠れ蓑」になってきた例が後を絶たない現実を見れば、上記の a) と b) とが対立する、つまりIAEAの存在前提そのものが自己矛盾を含んでいることは、明らかです。
おまけに、チェルノブイリや福島第一などの過酷事故、そして初期投資の巨額化といった深刻な問題が目の前にあるのですから、b) はもはや「おいしいキャンディー」ではなくなっています。誰も欲しがらず、また欲しがる人がいるとすれば「裏で何か他の用途を目論んでいる」・・・

さらに、原発はテロ攻撃の標的にもなりやすく(参照 http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0131.html )、さらにISISのような”領土”を持った国際テロ組織が原発から核燃料や技術、機器類などを盗み出したら ・・・

もはや、IAEAの存在前提そのものから問い直すべき時代に来ているのでは?つまり、もはや
・ 地球規模で核発電を段階的に廃止し、
・ IAEAは、「キャンディーあげるよ」なしで、ひたすら「隠れた核兵器」の発見や監視を行う組織に作り変える

というのが、当然の流れではないのでしょうか?

では、次回はアルジェリアの隣、リビアの例を。

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