2021年12月
私は水問題を専門にしてはおりませんし、本ウェブサイト「やかんをのせたら~~」は、あくまで核発電に付きまとう核兵器拡散リスク (proliferation risk) を扱うものです。
ただ、原発推進側が「海水の淡水化」をすでに推進の理由に挙げているので、核発電に反対する勢力からの問題指摘が欲しいところですね。
ところが。例によって、2021年12月現在、私が知る限り日本語圏ではそうした問題指摘があまり聞こえてきません。ハッキリ言いますが、推進勢力があの手この手を使って世論に働きかけているのに対して、反核勢力は対応できていない!
仕方がないので、本サイトのフォーカス外の問題ですから「付録」として、ここに短く問題を指摘しておきますね。
まず、水資源の枯渇について
世界の水資源問題を見た場合、農業関連の水消費が問題にされていることは、すでによくご存じでしょう。たとえば、
コットン栽培 ~ WWFのウェブサイト(The Impact of a Cotton T-Shirt | Stories | WWF (worldwildlife.org))によれば、コットンのTシャツ1着を作るのに、2,700リットルほどの水が必要となりえるそうです。これを改善しようとする取り組みもありますが、いわゆる「ファースト ファッション」の普及で、安価な衣服を短期間着て捨ててしまうトレンドが水消費に拍車をかけている、という問題指摘もありますよね。ま、皆様すでに良くご存じの問題だと思いますが。
家畜の飼育のための飼料栽培 ~ 1ポンド(約454g) のステーキ用ビーフを得るのに、6810リットルほどの水が必要だと The Water Footprint of Meat and Dairy – Water Footprint Calculator (watercalculator.org) は述べています。家畜を育てるための飼料の栽培に、かなりの水が必要になるわけですね。これも、皆様はすでにご存じと思います。
世界のこうした「水情勢」にあって、既に中東などでは、水をめぐって紛争も発生している様子です。
これに比べると、マクロで見る限り核発電による世界的な水消費量は、あまり問題にされていません。
加えて、原発の熱で海水を蒸留したり、発電した電力でポンプを動かして濾過することで、海水を濾過できます。これが、原発推進の理由の1つとされている実例を、英語の報道や書物などでは、多数私は見てきました。
でも、「原発と水」って、実際にはどんな関係なのでしょうか??
原発の水消費
上の黒いメニュー内、固定ページ s-3) でも紹介した WISE (World Information Service on Energy) が、How much water does a nuclear power plant consume? (原発は、水をどれだけ消費するのか?) というそのものズバリの記事を、
How much water does a nuclear power plant consume? | Wise International
に公開してくださっています。水問題は私の専門外なので、WISEさんのこの記事からかなりの部分を抜粋・日本語化して、紹介しますね。2013年10月24日付のものです。
(私による抜粋・日本語化、<> 内は私(ひで)からの注釈)
まず、言葉の定義と一般的な傾向とを示しておこう。<水の> 消費とは蒸発による水の純喪失のことを言い、水源から取水した水の量から、その水源に戻された水量を引いたもののことである。冷却塔 <下で説明> がある場合には、水源から取水した水量と消費量とは近い。「一度きり」の水冷却 <冷却塔では、水プールにある水を繰り返し使用するのに対し、「一度きり」では川などからの水を冷却に使ったのち、海などに放水する。下で説明> では取水量が消費量よりもずっと大きくなる。ただし、冷却塔がある方が、「一度きり」の場合よりも全体的な水消費量は大きくなる。一般的に、冷却塔を使うと水生生物への影響が少なくなるが、水の消費量は大きくなる。海岸沿いの立地の場合、水の損失 (消費)はほとんど問題にならないが、海洋生物 (やその他の環境要素) への影響が問題になる。
Woods [1] が挙げている数値では、1メガワット時あたり (MWh)の水消費は、原子力では1,514 から 2,725 リットルであり、Nuclear Energy Institute <ワシントンDCにある1994年設立の、原発業界の団体> も同一の数値を示している。[2] <ですから、原発産業の業界団体も上述の数値を認めているわけです> したがって<発電容量が> 1 GW の原子炉の場合なら、1日当たりの水消費量は3,630万リットルから 6,540万リットルになる。 この2つの数値のうち、低い方は「一度きり」の場合、高い方は冷却塔を使う (クローズド ループ、再循環とも呼ぶことがある) システムの場合の数値である。
(中略)
石炭火力の場合、世界経済フォーラム (WEF) の文書によればMWhあたり1,220 から 2,270 リットルとされている。(炭鉱での水消費も含む)
ガス火力だと、WEFの文書によると700 から 1,200リットルMWhとされており、またNuclear Energy Instituteによればゼロ(乾燥冷却の場合)から380 リットル/MWh (「一度きり」の場合) そして1,400 リットル/MWh (冷却塔を使う場合) である。
Nuclear Energy Instituteの主張によれば、水力発電の水消費は17,000 リットル/MWhであるが、これは主に貯水池での蒸発によるものだ。さらにNuclear Energy Instituteによれば、「地熱発電や太陽熱発電などの再生可能エネルギー源は原子力発電の2から4倍の水を消費する」としているが、それには詳細の記載がなく、情報源も示されていない。しかも、一部の再生可能エネルギー(たとえば、風力や太陽光など) はほとんど水を消費しないということを記してもいない。
原発推進論者の一部は、ある種の水問題の解決に原発を使用する可能性を唱えている。たとえば、炭素排出の少ない淡水化といったものだ。だがこうした主張には、見慣れた問題が伴っている。一例として、シリアは以前に原子力による淡水化工場を建設しようとしていたのだが、実は核兵器製造の野心を覆うための隠れ蓑であった恐れがある。それにアメリカが圧力をかけたため、この計画は廃棄されたとされている。<まさしく、proliferation risk> それよりはましな根拠がある主張をしたければ、原発はその燃料の製造所 (通常は、1GWの原子炉の場合なら、180トンの低濃縮ウラニウムの製造施設) に隣接した立地に建てる必要はないことを指摘すべきだろう。そのため、たとえば内陸部で炭鉱のそばに石炭火力があるなら、海岸沿いの原発を代わりとして建てることができる。
憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists) は、取水量 (消費量ではなく) として、以下の数値を上げている[4]:
- クローズド ループつまり再循環式 <冷却塔> 冷却の場合、3,000−9,800 リットル/MWh (1GW容量の原子炉であれば、1日当たり7,200万−2億3,500万リットル)
- 「一度きり」冷却の場合、取水量はずっと多くなり、95,000−227,000 リットル/MWh(1GW容量の原子炉であれば、1日当たり23億−54億リットル、年間だと8,400億から1兆9,700億リットル)
Nuclear Information and Resource Service <核情報資料サービス、1978年設立のアメリカの反核団体> によれば、典型的な「一度きり」冷却システムでは、各原子炉に毎日、1,000億ガロン(38億リットル)以上の水を取り込んでおり、毎分50万ガロン (190万リットル) に相当する。 [5]
参照文献もお読みになりたい方は、下記の各リンク先へどうぞ。
References:
[1] Guy Woods, Australian Commonwealth Department of Parliamentary Services, 2006, ‘Water requirements of nuclear power stations’,
http://efmr.org/files/07rn12.pdf
[2] World Economic Forum in partnership with Cambridge Energy Research Associates, 2009, ‘Energy Vision Update 2009, Thirsty Energy: Water and Energy in the 21st Century’,
http://www3.weforum.org/docs/WEF_WaterAndEnergy21stCentury_Report.pdf
[3] Nuclear Energy Institute, November 2012, Water Use and Nuclear Power Plants,
www.nei.org/Master-Document-Folder/Backgrounders/Fact-Sheets/Water-Use-a…
[4] Union of Concerned Scientists, July 2013, ‘Water-Smart Power: Strengthening the U.S. Electricity System in a Warming World’,
www.ucsusa.org または http://tinyurl.com/ucs-water
[5] Nuclear Information and Resource Service, ‘Licensed to Kill’,
www.nirs.org/reactorwatch/licensedtokill
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* 冷却塔と、それを使わない冷却について
(Why don’t all nuclear plants have cooling towers? | Duke Energy | Nuclear Information Center (duke-energy.com) に基づく)
日本の原発はいずれも海岸にあって、冷却塔を使っていませんよね。そのため、日本語読者には「原発の冷却塔」というものが分かりにくい。ですから、ごく簡単に説明しておきますね。
きわめて概略化した下の図にあるように、
冷却塔の水プールにある水が発電装置からの蒸気を覚まし、冷却塔に戻る ⇒ その熱くなった水を、冷却塔内部の中央部にあるグリッド(例えば、金属のネットのようなもの) にスプレー ⇒ 冷却塔の外から入ってくる空気が、ネットから滴り落ちる水を冷却 ⇒ その水が、プールに落ちる
というのが、ごく簡略化した冷却塔の冷却原理です。
分かりやすくするために「プール」と呼んでおきましたが、現実にはこの「プール」が「人工湖」である場合もあります。たとえば、アメリカ東部のノース カロライナ州にある Shearon Harris原発の場合、原発用にハリス湖という人工湖を作っておりまして、その面積はおよそ17平方kmです。千葉県にある印旛沼がおよそ 9.43平方km ですから、その1.8倍ほどになりますね。
これに対し、川から冷却水を取水しているのだけれど、冷却塔はない原発の場合ですと、たとえば
川から取水 ⇒ その水が発電設備を冷却 ⇒ 暑くなった水を、人工運河に放出 ⇒ 8㎞ほどある運河を流れていく間に、その水は冷める ⇒ 大西洋に注ぐ
といった処理をしているそうです。
本題に戻って ・・・
水を大量に消費するのは決して原発だけでなく、石炭火力もかなり消費します。
で、水資源の保存はCO2削減に劣らない緊急性を帯びた世界の課題です。
この視点が、「CO2削減が焦眉の急 ⇒ 小型原発を!」といった主張には欠落しております。
最新の太陽光や風力なら、水消費はずっと少なくて済むのですから!
で、「淡水化」
おそらくは上記の図でもお察しのとおり、たとえば
冷却塔の代わりに下の概念図のような装置を作れば、
発電装置の冷却水を、ポンプで取り入れた海水で冷却 ⇒ 海水が蒸気に ⇒ その蒸気を冷ませば、蒸留水ができる
という原理で「淡水化」ができるわけですね。
世界的にはこれを、原発推進勢力は「セールス ポイントの1つ」にしています。
確かに、中東などの乾燥した地域や衛生的な飲料水が少ない諸国では、これは強いアピールになるでしょうね。
「原発からの水なんて、放射能は大丈夫なの?」というご質問を受けることがありますが、上記原理での海水は淡水化装置内で熱交換装置を通過し、蒸気になるだけですので、熱交換器の水パイプの損傷などがなければ、放射性物質はこの海水には入り込みません。(損傷などあれば、話は別ですが)
しかし、ちょっと待って!
この「淡水化」って、要は熱源と海水があればできることで、何も原発でなくたって出来るのです!
たとえば、太陽エネルギーによる淡水化も可能です。その実例が、
Optimal seawater pre-treatment at Al-Khafji SWRO plant according Ecodosing – Biofouling Solutions
に紹介されています。H2O Biofouling Solutions B.V. (H2O BFS) というオランダの企業のウェブページで、同社は、取水口や船底、パイプなどでの、貝や海藻、微生物などの蓄積に対処する企業です。
この、サウディ アラビアとクウェートの国境地帯のアル カフージという町にあるSWRO (逆浸透式海水淡水化)方式の太陽エネルギーによる淡水化施設は2017年終わりごろに竣工、周囲のアラビア湾 (ペルシャ湾) から海水を取り込み、淡水を毎日60,000立方m、アル カフージの町に1年を通じて供給しているそうです。
問題は、他にもあるでしょ?
私の20分クロッキーより
さらに、こんな問題も
- 海水すべてが蒸発するわけでなく、海に戻す海水も発生しますよね。その海水は当然、上記の分だけ塩分濃度が濃くなっていますので、排水溝近くのお魚さんたちにとっては、迷惑かもしれません。(ただしこれは、核エネルギー以外でも同じ問題が生じますが)
- 海水を取り入れて淡水化する以上、淡水化施設は海岸またはその近くに立地することになりますよね。原子炉が海の近くに出来るわけです。これが、津波が押し寄せた場合に何を意味するか、2011年3月以降の我々には言わずと知れた大問題です!
- そして、最後にようやく「やかんをのせたら~~」のフォーカスである proliferation risk。用途が発電であれ、淡水化であれ、原子炉を使う限り、プルトニウム製造装置(原子炉)が稼働することに違いはありません。そして、「発電」の他に、「淡水化」という新たな「隠れ蓑」が登場したことになります。しかも、淡水化への需要が特に高い中東では、パキスタンとインド、そしておそらくイスラエルがすでに核兵器を保有していますし、イランがすでに60%超という高濃縮ウランを製造しています。それを辞めさせようとするJCPOA再建交渉も、2021年12月現在、頓挫している様子です。さらに、2018年3月にはサウディのモハメド防衛大臣が、「イランが核爆弾開発をするならサウディも」という主旨の発言をしてらっしゃいます ・・・ (上の黒いメニューの中ほど左端にある固定ページ f-4) をクリック)
では、水問題や淡水化に関して詳しく学びたい方は、その種の問題を専門にしている
ウェブサイトや書籍などに当たってくださいませ!
私のTシャツ作品より
2022年8月1日追記
冷却水の温度が上がったら、それだけ原子炉が冷えにくい ⇒
発電出力も下がる、に決まってら!
火力・原子力「夏バテ」懸念 世界で出力減: 日本経済新聞 (nikkei.com)
(会員限定記事のリードより、2022年7月31日 )
まず、この記事のリード部分から引用してみましょう。
「猛暑や水不足で火力・原子力発電所が本来の能力を発揮
できない事態が世界で生じている。冷却水の温度上昇などで
出力が下がるためだ。渇水で停止する原発もある。国内では
今夏の電力供給が綱渡りになっている。温暖化はエネルギーの
安定供給を脅かす問題になりつつある。再生可能エネルギーの
普及拡大や抜本的な省エネなどの構造改革も課題に ・・・ (以下略) ・・・」
このページには原発の水使用に関して上の3枚の概略説明図が
ありますが、要は
海なり湖なり河川から取水して、原子炉を冷却 ⇒ そのプロセスで
発生する水蒸気で発電用蒸気タービンを稼働させる
ってことです。
熱力学の第2法則からも明らかなとおり、この際、川からの水温が
低い方が、発電出力も高くなりますよね。
こんなこと、当たり前じゃないですか!
火力発電と核発電は、「発電原理」は「水蒸気タービンを回す」
ってことで共通なのですから (蒸気を発生させる熱源が違う)、
原発を火力に代わる発電手段として普及させるには、この原理上、
そもそも無理があるわけですよね。
上の記事の引用個所は、読んで呆れました ・・・ 「何を今さら!
そんなこと、決まってら!」
しかもご存じのとおり、原発からの排水は、取水前より7C ほど
高い温水が、大量に出てくるわけです。。。
なお、熱力学第2法則については、基本的な事項ですので
本 「やかんをのせたら~~」 では説明いたしません。
「同位体」 とか 「(旧) 冷戦」 の説明をしないのと、
同じ理由ですね。
必要があれば、インターネット上で 「熱力学第2法則」 を
説明しているサイトは他に多数ございます。ご自分にあった
ものを見つけて、お読みくださいな。