h-0) (HTGR) なぜ、HTGRを?

2022年10月

なぜHTGRを取り上げるのか? ・・・ 「新型」
として (日本では) 人気

「新型原子炉」 推進の日本語文献など見て
いると、日本では 「新型」 といっても人気
なのは、革新 (新型) 軽水炉の一部とHTGR
(High-Temperature Gas-cooled Reactor) の
ようです。

新型軽水炉の現時点でよく知られているものに
ついては、すでにページ シリーズ al-x) で短く
紹介しました。
残るは HTGR。さて、HTGRの利点とは??

"Gas" cooling --- お下劣なジョークですいません! * 絶対に、マネをしないで!

“Gas” cooling — お下劣なジョークですいません!
* 絶対に、マネをしないで!

私が推察する限り、こんなところが利点だと
思います:

1) 炉心から出てくる熱くなった冷却材 (ヘリウム、
以下 He と表記) の温度が800C前後に達し、
軽水炉での冷却材 (水) の400C未満という
温度よりもかなり高い。 ⇒ 熱効率が、軽水炉
よりも高くなる
* 軽水炉の場合、せっかく原子炉で
発熱させた熱のおよそ 1/3 しか発電に使えて
おらず、残りは温水として川や海に捨てている
・・・ そんなことは、本ウェブサイトの
読者の皆様なら既知のことだと想定して
おります。

2) すでにJAEA (日本原子力研究開発機構)
が、茨城県大洗でHTGRの開発や実験などを
実施。
高温ガス炉設計 (jaea.go.jp)
に短い説明がありますが、そこにある図はまだ
設計段階のものです。水蒸気タービンではなく
ヘリウムガス タービンを使い、さらに水素製造
施設もある図ですが、まだ実用化されたもの
じゃないです。

3) TRISOという新型燃料。直径が100 ~
数百ミクロン程度の極めて小さい放射性物質を
多数使った核燃料。放射性物質の周囲を
グラファイト (炭素) などでコーティングしている。
(p-1) にある “同心円” の略図を参照) ⇒
燃料の核分裂で生じた核分裂生成物が、
コーティング内部に留まる。(ただし、後日作成
するページ h-2) を参照。p-0) – p-3) も参照。
後述するように、PBRもHTGRの一種なので。
さらにグラファイトとは一種の炭素なので、
付録 w-8) の終わりにある引用テキストが指摘
する問題も

4)  3) と同じく核燃料の特殊性から、核燃料の
再処理などが困難 ⇒ proliferationを防ぎ
やすい (ただし、後日作成するページ h-3) を
参照

5) 冷却材の温度の高さを利用して、発電以外に
H2 (水素) の製造もできる。(だが、下記参照

LWR : Light Water Reactors (軽水炉)

LWR : Light Water Reactors (軽水炉)

 

軽水炉と、どこが違うの?

Gas-cooledという以上、冷却材が気体 (今の
ところ、Heが多い) です。

「じゃ、軽水炉だと軽水が減速材でもあるん
だけど、HTGRの減速材は?」
グラファイト (黒鉛) のことが多いです。

で、重要な点として、グラファイトは軽水と比べ
中性子の減速効果が大きく、あまり中性子を
吸収しないので、HTGRではTRISOという
極小の粒となった核燃料を使います。これが、
HTGRの上述の利点にもつながりますが、
問題にもなります。(後日、h-2), h-3) を参照

で、このTRISO燃料をどう使うかで、HTGR
(ならびに そのヴァリエーション) は次の
2種類に分かれます:
・ PBR (Pebble Bed Reactor、p-0) – p-3) 参照)。
「細かい粒」 を炉内に徐々に注入、核分裂をした
 「粒」 を炉心から排出していく。
・ PMR (PrisMatic Block Reactor)。
「細かい粒」 を従来の軽水炉の炉心に見られる
ような 「プリズマ形状」 のブロックに固めて
使用する

概略図

これもいくつかあるのですが、既存のものは
発電のみです。

H2工場なし、発電のみの例 あくまで極端に簡略化した模式図ですよ。

H2工場なし、発電のみの例
あくまで極端に簡略化した模式図ですよ。

発電と同時に水素製造も行う施設の概念図

H2工場がある場合の例 やはり、極端に簡略化した説明用略図です。

H2工場がある場合の例
やはり、極端に簡略化した説明用略図です。

こういう風に、軽水炉とはかなり違うので、
HTGR専用のページ シリーズをこうして作成
しているわけです。

* なお、上の2つの概略図のうち、下のほうは
JAEAの
高温ガス炉設計 (jaea.go.jp)
にある略図をもとに、私が作成したものです。
ここで、同じJAEAのウェブサイトで、この
日本語ページと、
同じ内容の英語のページ
HTGR Design (jaea.go.jp)
とを、比較しながら両方お読みになってください
重大な違いに、お気づきと思います。
はい、英語のほうでは
—  investigation of effective incineration
of plutonium (Pu) for a proliferation
concern
とあるのに対して、同じ内容の日本語ページ
には安全性や温室効果ガスの言及はあっても
軍事的リスクには言及がありません!
さすがに核兵器の生みの親アメリカでは、
原子炉 ⇒ 核兵器の拡散(proliferation)が
大問題、という認識が広く普通に広まっている
のに対して、
日本語ではその認識がまだ未熟である
という現状の現れでしょう。
日本の市民が、「平和利用」という一種の
社会的マインド コントロールから、目を覚まさ
ないと

日本語では、なくなっているもの

日本語では、なくなっているもの

結局は、水を大量に使う

付録 w-2) や付録 w-10) で取り上げたように、
軽水炉原発は確かに 「発電稼働から直接には」
CO2を出さないのですが、代わりに大量の
温水を川や海に放出します。一体、「温暖化」 を
問題にするのであれば、CO2さえ出さなけりゃ、
温水は放出しても構わないのでしょうかねえ??

で、HTGRであっても、上記の概略図2つのうち
「発電のみ」 の場合のように結局は水蒸気
タービンで発電する場合には、温水を大量に
放出することになりますよね。

さらに、上の 「発電と水素製造」 の場合です
が ・・・ 図だけを見ていると、Heタービンなの
で温水を出さないように見えますね。。。
でも。H2製造の原料は?? 水の電気分解
だそうです

“Hydrogen economy” といった言葉がここ
何十年かもてはやされてきましたが、H2の原料
として希少な水資源を大量に消費するので
あれば、なんになるの?? いわゆる開発諸国
hydrogen economyを自慢し自己陶酔している
裏で、水不足で死んでいく方々が地球の反対側
にいたら ・・・??

水の高温電気分解

水の高温電気分解

HTGRの実績 (歴史)

ごくごく簡単に。
実は1940年代後半に、すでにHTGRのプロト
タイプは提唱されていました。かなり有望と
みられたようで、1970年の予測では、「2000年
までに、世界の核発電所の過半数はHTGR
またはその派生型になるだろう」 との予想も
あったほどです。

明らかに、この予想は外れましたね。
設計段階で問題が指摘されたというより、
HTGRを実際に稼働させてみて、アレコレ問題が
起きたようです

略地図です

略地図です

アメリカでは、
ペンシルヴァニア州ピーチ ボトムの1号機
(1967に商用稼働開始-1974に閉鎖)
PRIS – Reactor Details (iaea.org) による)
コロラド州フォート セント・ヴレイン原発
(1979年に商用稼働開始 – 1989に閉鎖)
(やはり PRIS – Reactor Details (iaea.org)
による)
に稼働実績があるのですが、結局は広まり
ませんでした。

その他、p-0) 冒頭で紹介したように、中国も
1つ実験的な炉の稼働を始めたようです。

そのうえで、HTGR商用路が数年以内に稼働を
始める ・・・ ということはなさそうです。
やはり、「新型原子炉」 で最初に建設される
可能性が高いのは、革新 (新型) 軽水炉
でしょう。
では、どういう問題点が、HTGRにはある
のか??
それを知るには、HTGRの構造や特徴を説明
しませんと。

20 minutes, felt-tip marker on paper / 20分クロッキー、紙にマーカー
「これから」を見てみましょ ・・・

そんなわけで、次の順に本ページ シリーズを
進めてまいります。
なお、本シリーズではPBR (要するに、HTGRの
一種) を取り上げた p-0) – p-3) と内容が
重なる箇所があり得ることは、予めご了承
くださいませ

h-0) 本ページ
h-1) HTGRの構造や特徴
h-2) HTGRの事故危険性
h-3) HTGRのproliferation risks

では、h-1) をアップロードできるまで、しばし
お待ちくださいね。

Comments are closed.