d-7) (発電原理) 「正体」を知れば、問題も予想できる

2022年12月

原子炉とは、もともと何のための機械だった
のか?
それを発電に “転用” する場合、どういう
仕組み (やかん) で、発電しているのか?

そうした説明を、この固定ページのシリーズ
d-x) では、ここまで行ってきました。

ここ d-7) では、それをまとめてみますね

巨大やかんをのせたんで、火事じゃなくて 調理器具です ~~

巨大やかんをのせたんで、火事じゃなくて
調理器具です ~~

・ 本来は原発用Pu製造装置 → 核兵器
製造のための機械だったよなあ
・ やかん (蒸気タービン) をのせたら、
発電もできた。(世界初は、1951年12月、
アメリカのアイダホにあったEBR-1にて) →
原爆製造用装置に 「やかん」 をのっけた
からって、全面的な平和技術になるわけ
ないよなあ
それを 「平和利用」 と喧伝し、
世界に広めると同時に、IAEAの監視下に
おくことで核兵器の拡散を防止しようとした
この自己矛盾、少しややこしいので
このページ終わりで再度説明) →
核兵器拡散 (proliferation) につながって
しまうんだろうなあ
・ 実際、世界に核発電 (原発) が広まって
しまった → 核兵器も拡散してしまうん
だろうなあ
・ それにつれて、核兵器も拡散してしまった
(実際、1957年にIAEAが創設されて以降
今までに、「核保有5か国」 以外でも、インド、
パキスタン、イスラエル (おそらく)、南アフリカ
(のちに自らの核兵器を廃棄)、そして “今、
話題の” 北朝鮮が核兵器を保有。いずれも、
“民生用” や “研究用” 原子炉が関与。
詳細は、上の黒いメニューで各該当ページを)

という現在までの流れですね。

この流れを理解すると、核発電に伴う諸問題を
きれいに把握できるのです

(株)テロリスト  爆弾製造装置 「いえ、カップラーメンを作ってるだけです~」

(株)テロリスト  爆弾製造装置
「いえ、カップラーメンを作ってるだけです~」


本来は、原爆用Pu製造装置

上の黒いメニューの項目が増えすぎており、
分かりにくくて申し訳ないのですが、項目は
基本的にアルファベット順に並んでいます
そこで b-1) をクリックしてお読みくだされば、
Chicago Pile-1 という世界で初めて臨界に
達した原子炉と、その 「実用化」 について
述べております。
その後も初期 (1940-50年代) の原子炉
には、発電を行わない (Pu製造のみ)ものも、
発電とPu製造兼用のものもありました。
ページ d-1) に実例を紹介しております。

現在の軽水炉も、「やかんをのっけた」に
違いないことは、ページ d-2), d-3) で
説明しております。
要は原爆用Pu製造装置に 「やかん」
(蒸気タービン)をのっけた代物ですから、
もうこの時点で、核発電に伴う問題点は
下記の通り予想できたはずです:

1) 「やかんをのせた」 だけなので、
Puは相変わらず製造されてしまう →
proliferation (核兵器拡散) のリスクは
減らない

3-5%  <20%   <90%  90% <

3-5% <20% <90% 90% <

2) 核分裂を炉内で起こす以上、燃料である
U 235の濃縮は必要。
確かに通常の軽水炉ならU 235の濃度は
3-5%
核兵器用にはU 235の濃度は90%以上
という違いはありますが、しょせんは程度問題。
U濃縮でU 235 > 90% を作ってしまう
リスクは相変わらず存続 (実際、2022年12月
現在、イランがそうした濃縮をやろうとしている
んじゃ、と世界的問題になってますよね。d7-4)
など参照)→ proliferation (核兵器拡散) の
リスクは減らない
U濃縮には、かなりの電力も必要
(付録 w-1), w-3) 参照

proliferation risksが如何に核発電と不可分
かは、ページ 付録w-4) で紹介している
アメリカのアル・ゴア元副大統領のインタビュー
からも明らかです。ホワイトハウスに8年間
勤務されたうえでの実体験に基づく発言です。

“For eight years in the White House, every
weapons-proliferation problem we dealt
with was connected to a civilian reactor
program.”
という発言を、お忘れなく!(日本語訳は、
付録 w-4) に)

こんだけ面倒なゴミ

こんだけ面倒なゴミ

3) Puを「作るため」 の機械であることに変わり
はないので、Pu 239などなどの放射性物質が
あれこれ発生 → 使用済み核燃料その他の
核ゴミが発生、処分に困る。

再処理すれば → 兵器グレードのPu 239
抽出リスクが増大、しかも最終的に核ゴミがなく
なるわけではない
そのまま地下に埋めようにも → どこに、
どうやって???
放射性の 「ゴミ」 は崩壊熱を発するので、
何年も冷却が必要 → そのために、また
電力が必要
テロ組織による放射性物質の盗難などを防ぐ
ための警備も必要 → 各発電のコストに参入
すべきなのに ・・・ d-6) の後半も参照

やかんの空焚き (LOCA) ・・・ えらいこっちゃ!

やかんの空焚き (LOCA) ・・・ えらいこっちゃ!

4) 「やかん」 つまり蒸気タービンは、あまり
熱効率が良くない
→ 大量の温水を排出 → CO2さえ少なく
なれば、川や海なら温めてもよいのか???

(ページ 付録w-10)参照)
→ 膨大な量の水が必要 (ページ
付録 w-2) 参照)
→ 水が不足すれば、加熱 → 最悪、メルト
ダウン (TMI、チョルノービ、福島第一など
など)

5) 上の 4) がある以上、過疎地の海岸または
大河のそばに原発や核施設を建てることになる。
→ 立地自治体を、交付金で黙らせたりする →
その自治体の経済は、原発依存症に

6) 当然、原発やU濃縮工場などなどに勤務
する作業員の方々の被ばくも発生
すでにマンハッタン プロジェクトでも、有名な
Harry Daghlian and Louis Slotinの被ばく
死亡事故がありました。(このページの
終わりで説明

・・・ 以上6点は、「本来原爆用Pu製造
装置に “やかん” をのせて蒸気タービンで
発電する」 という時点で、当然予想できます
よね??

・ 原子炉の正体 (原爆製造のための装置) を
知り、
・ それに 「やかん」 をのせて発電している
ことを理解すれば、現在までの核発電とそれに
伴う問題の全体像を、きれいに把握できる
のですね。

夜中にゴソゴソ ・・・ 正体を知れば、対応しやすい

夜中にゴソゴソ ・・・ 正体を知れば、対応しやすい

それと、いったん核発電を広めてしまえば、
「既成事実」 となってしまう

上記の通り、核発電 (原発) に伴う諸問題の
多くは、原子炉が本来は原爆製造用装置なの
だという 「正体」 を理解していれば、予想
できることです。でも、それを 「広報活動」 など
でマヤカシ、ある程度原発を建ててしまうと、
それが 「既成事実」 となっちゃいます。
この既成事実ができてしまうと、「原発反対
~~!」 をいくら唱えても、「じゃあ、電気が
不足してもいいんですか~~??」 という疑問
ないし主張が、どこかから聞こえるものです。
少し調べてみると、「電力危機」 が叫ばれて
いた日時の火力発電所の稼働率が、50%
にも達していなかった ・・・ なんてこともあるの
ですがね。。

既成事実 ・・・ 鎖を断ち切らないと、リンゴにありつけません

既成事実 ・・・ 鎖を断ち切らないと、リンゴにありつけません

日本の反核派の皆様へ

そうであっても、現在の日本に暮らす私たちの
場合、すでに上記の 「既成事実」 がとっくに
成立している社会にいることにご注意ください。
そうした社会では、
原子炉 = 実は原爆製造用装置
という 「正体」 が忘れ去られ、
原発= 発電 = 電力が ~~
という側面だけが強く認識されてしまって
います。

ですから、
福島第一のような大事故が発生 → 「原発
反対」 の声が高まった
しかし、「ほとぼり」 が冷めるにつれ
電力供給
新型原子炉なら安全
といった主張のもと、原発マフィアが巻き返し
てくる
という予想を私は2011年にすでにしていました
し、2022年12月現在、現実にそうなっちゃっ
てますよね。

自慢話じゃなくて、当時から心配していたのです

自慢話じゃなくて、当時から心配していたのです

反核派のみなさま、「軍事装置という正体」 を
しっかり発信しましょう!

2011年―12年ごろの反原発運動の高まりは、
いうまでもなく福島第一の大事故をトリガーと
したものでした。その意味では仕方がないの
かもしれませんが、当時の反原発派の多くは、
次の二項対立に陥ってらっしゃいました:

原発事故、放射性物質 + 核ゴミには捨て場がない
VS

電力供給 + CO2削減

* なお、この二項対立の中で、CO2削減が
いかにマヤカシかは、
上の黒いメニューの下部にある 付録 w-1),
w-3), w-8) で詳しく述べました。

日本の反核派の一部には、今でもこの二項
対立の中に拘泥してらっしゃる方々もいらっしゃ
ることは、私自身の実体験から存じております。
そして。
この二項対立からは、「原子炉の正体」 が
欠落しております
この 「正体」 のない二項対立の中にとど
まっている限り、
(電力供給 + CO2削減) を唱える勢力が
いずれ「新型原子炉なら安全」 などと吹聴して
巻き返してくるのは、当たり前です
(なお、その 「新型原子炉」 各種の問題点に
ついては、上の黒いメニューにある該当項目を
クリック! すでに、ほとんどの新型炉について、
問題を紹介済みです)

「これもあるぞ、あれもあるぞ~~」 「全部、問題指摘済みです!」

「これもあるぞ、あれもあるぞ~~」
「全部、問題指摘済みです!」

じゃあ、上の二項対立に 「正体」 をしっかりと
入れてください。
核兵器拡散 + 原発事故、放射性物質 +
核ゴミには捨て場がない

2022年12月現在の私たちは、ロシアが
ウクライナへの侵略を開始して以来、「核
兵器をもし使われたら~~」 という不安が
どれだけ国際社会を動きにくくしてしまうか、
実体験中です。
ザポリージャ原発をロシア軍が爆破などして、
巨大ダーティボムとして転用しちゃったら?
というリスクも現在進行中です。
そうこうしているうちに、ウクライナからの
穀物輸出に支障が生じ、世界中で餓死者の
増大する懸念もあります。
もし原発のダーティ ボム化が実際に起きて
しまえば、「放射性穀物」 は廃棄するしか
ありませんから、餓死者はさらに ・・・

船が通れない  さらに、ダーティ ボム → 餓死者続出のリスクも

船が通れない  さらに、ダーティ ボム
→ 餓死者続出のリスクも

それでも核発電を推進する連中は、もはや
デカダンスとでも呼ぶべきでしょう。

本 「やかんをのせたら~~」 では、よく
英語圏の報道や論文などを紹介しております
が、本格的な論文の中で Proliferation risks
という項目が頻繁に存在しているのに、お気
づきの読者諸氏もいらっしゃるでしょう。
そもそもIAEAが何のために存在している
のかを考えてみれば、各発電を論じる場合
にはproliferation(核兵器拡散)というリスクを
しっかりと視野の中心に据えるのは、当たり前
のことなんです。
ところが、2011年ごろの反原発運動の人たちと
話していると、proliferation risksという言葉
すらご存じない方々が、少なくありません
でした。
「これじゃ、数年先が思いやられる ・・・」 と
私は正直、憂いていたわけです。

Atoms for Peaceとマンハッタン プロジェクトについての、補足説明ね かなり昔の、私の15分クロッキー

Atoms for Peaceとマンハッタン プロジェクトについての、補足説明ね
かなり昔の、私の15分クロッキー

では、補足的な説明を

* Atoms for Peaceの自己矛盾

これ、自己矛盾を孕んでいるだけに、少し
分かりにくいのです。

ストレートに考えれば、旧ソヴィエト連邦と
アメリカだけが核兵器を保有していた時代なら、
ソヴィエトと話し合ったうえで、相互検証の
もとで両国が核兵器を廃止すれば良かった
のですが ・・・

当時のアイゼンハワー政権は、次のように
考えたようです:
・ 核兵器の拡散は、危険極まりない
・ だが、アメリカは核兵器を今後も保有して
いたい
・ 核発電 (原発) という 「アメ」 がある
・ そのアメを提示しよう。その代わり、アメを
受け取るには、核技術や放射性物質を兵器に
使わないという宣誓をしてもらう。
・ そして、軍事転用をせず発電だけに使用
していることを検証するため、監査を受けて
もらう。(結局、この監査を行うのがIAEA)
・ そうすれば、世界の核技術をアメリカが
管理できる (現実には、核技術の拡散 ⇒
核兵器も一部諸国に拡散、という結果を
招きましたが)

悪用してないか監視することに同意したら、このナイフあげるよ

悪用してないか監視することに同意したら、このナイフあげるよ

かくして、「平和利用」 というお題目の下、
核技術は世界に広まってしまいました

この転用が懸念されたため、イスラエル軍が
他国の各施設を爆撃破壊した実例は、
ページ c-1)、c-2)で紹介済みです。
また、インドやパキスタンの保有する核兵器は、
原子炉からのPuを用いていることは有名です。
そして、最新の実例が北朝鮮。
ヨンビョンにある研究用原子炉からのPuを
悪用していたようで、その嫌疑から西側は
1990年代にKEDOという商用発電施設を
作るようにさせたのですが ・・・
北朝鮮は急にNPTを脱退、それからどう
なったかは、皆様もよくご存じのとおりです。
日本でも J-Alertが嘆きわめく現実が。
簡略な年表を、ページ c-5) に紹介しており
ます。
また、右の 「アーカイブ」 の下で2021年
9月をクリック → 9月4日と6日の投稿も、
ご覧ください。

NPT加盟、IAEAの監査を受けながら、
核技術を習得 → NPT脱退、核兵器を製造
という 「核の抜け道」 が実際に存在しており、
北朝鮮は現実にその抜け道を通って
現状に至ったわけですよね。
今後、この抜け道を通ってしまう国が新たに
登場しないという保証は ・・・

ナイフだけ持って、「おいら、イチ抜けた」

ナイフだけ持って、「おいら、イチ抜けた」

** マンハッタン プロジェクトでの、作業員の
被ばく事故 → 死亡実例

まず、そうした実例が何十件もあることを、
Atomic Heritage Foundationのウェブ
サイトから。

Article on Deaths during the Manhattan Project | Atomic Heritage Foundation

例によって、
私の日本語化
< > 内は、私からの補足説明
です。
************************
2015年2月26日(木)

マンハッタン プロジェクトでの死亡事故

Atomic Heritage Foundation (原子の遺産
財団) では、マンハッタン プロジェクトの歴史
に関するご質問を多数いただいております。
よくお寄せいただく質問の1つに、マンハッタン
プロジェクトでの死亡者数はいかほどか、と
いうものがあります。

歴史家のAlex Wellerstein (アレックス
ウェラースタイン) が、1943年から1946年
9月までにロス アラモス <ニューメキシコ州
にある国立研究所、マンハッタン プロジェクト
の拠点の1つだった> で発生した死亡事故
をすべて列挙したリストを発見しました。同
期間に発生した死亡事故は全部で24件
でした。その例として、<有名な2件の>
核臨界事故もあり、それぞれHarry Daghlian
(ハリー ダフリアン) とLouis Slotin (ルイス
スローティン) が死亡しました。さらにその他
の死亡例には、池で溺死した少年や建設事故、
自動車事故、乗馬での事故などもありました。

ハンフォード <ページ b-1) 参照> と
オーク リッジ <テネシー州、これも国立
研究所> での死者合計は1943年 –
1945 年の期間で62件。そのうち54件は
建設事故でした。障がいを招いた負傷をした
作業員は、これら両サイトあわせて3,879 名に
のぼりました。(page 78 of Manhattan District History,
Book 1, Volume 11, Part 1, General Safety
Program, Appendix B-3を参照)
Wellersteinは、「オーク リッジとハンフォード
では、職業安全性の面で例外的な実績を保持
していると主張しています。負傷率は、民間
産業より62%も低いと主張していた」
Many Manhattan Project veterans recalled )
マンハッタン プロジェクトの退役者たちは、
デュポンがハンフォードで実施していた厳格な
安全規則のことを覚えていました。
*********************

続いて、とくに有名な実例であるHarry
Daghlianさんの死亡例を、英語版
Wikipediaより。

デーモン コア

デーモン コア

Harry Daghlian – Wikipedia
(ハリー ダフリアン)

やはり、
私による抜粋・日本語化
< > 内は、私からの補足説明
です。
********************

Haroutune Krikor Daghlian Jr. (1921年
5月4日 – 1945年9月15日) は、
マンハッタン プロジェクトに勤務したアメリカの
物理学者。このプロジェクトは、第二次世界
大戦で使用された原子爆弾を設計・製造した。
1945年8月21日、ニュー メキシコ州にある
ロス アラモス研究所の人里離れたオメガ
サイトで臨界量に関する実験中に誤って
放射線を浴びてしまい、その25日後に
放射線中毒で死亡した。

ダフリアンはこの実験中に、Puとガリウムの
合金で出来た6.2 kgの原爆用コアの上に、
誤って炭化タングステンの塊を誤って落として
しまい、このため意図せざる臨界が発生した。
<簡単に言ってしまえば、継続的な (連鎖的な)
核分裂が発生したということ> このコアは後に
「デーモン コア」 と呼ばれるようになり、もう
一人の物理学者ルイス スローティン
Louis Slotin) もこのコアで命を落とすこと
になった。
******************

正しく並べないと、爆発が ・・・ ボンベとバーナー

正しく並べないと、爆発が ・・・ ボンベとバーナー

放射性物質というのは、保管などする際の
配置も重大な問題でして、下手な配置をする
と勝手に核分裂が連鎖的に起こる状態、
つまり 「臨界」 が発生してしまう場合があり
ます。二次大戦中には上述以外にもこうした
事故が発生したと聞いておりますし、
日本では1999年の東海村でのJCO臨界
事故が有名です。

では、このページも、ずいぶん長くなりました。
これで、終わりにしましょう。

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