2022年2月
では、その EBR-II –> IFR –> S-PRISM の概要や特長を紹介してまいりますね。
EBR-IIが「1986年の“わざとメルトダウンさせよう実験”で、メルトダウンしなかった」というのは、アメリカではよく知られていることです。本ウェブサイトでも事実として捉え、「では、他に深刻な問題はないのか?」を if-3) で考えます。
\( > O<) 」 だまされるな~~! メルトダウンしにくい原子炉なんて、あるものか!原発推進派は、ウソばっかり言ってきたんだ!
という非難を、「同志」であるハズの反原発派の方から受けたことが、私にはあるのですが ・・・ そうおっしゃる方はまず、この1986年の実験そのものを調べて、「どこが嘘なのか」、問題点をご指摘願います。
・・・・ こんなことを、まず初めに断っておかないといけない事実そのものが示すように、この「IFRとフォロワー」 は、「原発 ⇒ メルトダウン ⇒ 汚染が怖い!」というパターンでは、反対する理由を見つけにくい難物です。
でも実は、反対する理由はメルトダウン以外にあります。近日アップロードするページ if-3) で説明しますね。
描いていて、難物だった~~ St. Thomas Church, Toronto
私の鉛筆デッサンより
まず、EBR-II から
EBR-II そのものはナトリウム冷却式の高速増殖炉で、アイダホ州にあったArgonne National Laboratoryが建設・稼働していました。稼働開始は1964年で、1994年に
シャットダウンしました。
もともとは増殖による核燃料のリサイクルの実験を目的としていたそうですが、
1969年以降はIFR (Integral Fast Reactor) というアイデアを試験する施設となって
いきました。
ナトリウム冷却式の高速中性子炉であった以上、稼働期間中にナトリウム漏洩が
あったはずだと私は思うのですが、当のアメリカのウェブサイトなどで発見
できません。検索結果の文書の多くがDOE(エネルギー省)の政府関連文書で、
私のような一般人が閲覧できません。
日本語で、わずかに記載が見つかりました。やはり、複数の原語で情報を探すのは
大事ですね。
海外諸国の高速炉におけるナトリウム漏えい事故 (03-01-03-08) – ATOMICA – (jaea.go.jp)
JAEA(日本原子力研究開発機構)のATOMICA、2006年12月
そこから引用すると:
(3)米国における実験炉EBR−2からのナトリウム漏えい
1964年4月に2次冷却系電磁ポンプからNaの漏えいがあった。漏えいの原因は電磁
ポンプのダクトの破損によるものであり、この電磁ポンプのダクト入口付近の圧力
脈動の周波数とダクト部の固有振動数が近かったため、ダクト壁が共振し疲労破壊を
起こしたものと推定された。別の電磁ポンプに代替された。
***************
やはり、ナトリウム冷却炉の宿命ともいうべき、「ナトリウムという物質の扱いにくさ」は、なかなか解決できないようですね。
では、EBR-II 原子炉の概略図を示しておきますね。
あくまで、説明のために極度に簡略化した概略図ですよ。技術者の方々からは、アレコレ間違いの指摘もあろうかと思いますが、これはそもそも原子炉技術解説のウェブサイト
ではないので、ご了承願いますね。
で、「電磁ポンプ」というのは、電気で磁力を起こして液体ナトリウムを移動させる
ポンプです。通常の水ポンプのようなピストンやスクリューを使わないものですね。
この略図で、原子炉全体がナトリウムの「プール」の中に沈められているのにご注意
ください。プール型FBRの概略図をページ tw-1) で示しましたが、それを思い出された方々も、いらっしゃるかも。熱源(原子炉)そのものが冷却材の中にすっぽりと収まっているので、もし一次冷却系が停止しても、プール内の冷却剤(ナトリウム)の自然な
対流で原子炉を冷やせるわけですね。(passive safety、ただし大地震などで大きな異物がこのプールに入り、あるいはプールの壁そのものが破損して冷却材が漏出した場合は、どうなるのか?? この問題については、IFRフォロワー推進勢力が、もっと説明をするべきです。上の黒いメニューからページ s-2) ⇒ 「実は、蒸気系にはポンプがあったりするのです~~」という略図の上にある日本語化引用文章を参照)
次に二次冷却系や水蒸気タービンによる発電系まで含めた概略図も示しておきますね。
やはり、分かりやすくするため、そうとう簡略化しておりますよ。
ページ s-2) の 「実は、蒸気系にはポンプがあったりするのです~~」という略図と、実は似たようなシステムですよね。
で、問題の1986年の「わざとメルトダウン実験」については、重要な問題なので次回のページ if-2) で改めて取り上げますね。
IFR
EBR-IIを発展させた高速中性子炉施設で、上述のとおり1969年からEBR-IIを場に実験が展開されました。これは単に原子炉だけでなく、使用済み核燃料の処理施設が隣に
あります。IFR研究が本格的に始まったのは1984年のことで、それから10年間、
研究開発が続きましたが、1994年に当時のクリントン政権が資金拠出を打ち切り、
IFRは実現せずに終わりました。(proliferation risksが、その理由だったようです)
お分かりのように原子炉だけじゃなく核燃料再処理施設も併設した「施設」でして、
その構成をやはり思い切って簡略化した略図で示します。
つまり、
核燃料を使用 ⇒ お隣の再処理施設で処理して、新たな核燃料に ⇒ それをまた、
原子炉で使う
というサイクルなのですね。それを、1か所の「IFR施設」で完結させる、
というわけです。
これには、使用済み核燃料中の核分裂生成物のうち、半減期の長い核種を短いものに
変換できる(核ゴミ保管期間を短くできる)、といった利点があります。
(次回のページ if-2) でも取り上げます。でも、再処理をする以上、別の深刻な問題も。ページ if-3) をお待ちくださいな)
IFR原子炉の概念図も次に。実は、上のEBR-II などとよく似ていますよね。
あれ?ページ tw-1) の中ほどにある図の再掲載 ・・・ はい、そのとおり!
要するに、「プール型高速中性子炉」ですからね。
それと、燃料に特徴があるのでご注意くださいな。これ、「メルトダウンしなかった
実験」との関連で、重要です。
このEBR-II ⇒ IFRとそのフォロワーの間での、「燃料の違い」については、
推進勢力のテキストも短く見ておきましょう。
archambeau.pdf (stanford.edu) にあるThe Integral Fast Reactor (IFR): An Optimized Source for Global Energy Needs (Integral Fast Reactor (IFR): 世界のエネルギー
ニーズに対する最適のエネルギー源)
Randolph Ware, Tom Blees, Barry Brook, Yoon Chang, Jerry Peterson, Robert Serafin, Joseph Shuster, Evgeny Velikhov, Tom Wigley
(私による抜粋・日本語化、< >内は私による補足説明)
この<EBR-I ⇒ EBR-II ⇒ IFR ⇒ S-PRISMという>歴史の最初のものはEBR-Iであったが、これに続きすぐにEBR-IIが登場した。このEBR-IIはより大型で高度な高速中性子炉で、その燃料には金属燃料を使っていた。現時点では、他のほぼすべての原子炉では、
金属の酸化物を用いている。現在稼働中の高速炉でも、まだ酸化物燃料を使用している。この金属燃料の使用以外にも、EBR-IIとそれ以降の高速中性子炉の設計では、液化金属を冷却剤として使用し、高温度での稼働の効率を高めている。
*****************
つまり、ウラニウムなど金属の酸化物を現在の軽水炉では使っているのですが、
IFRなどでは金属のままで(ジルコニウムなどとの合金にしたりして)使用する、
ということですね。これは重要な点です。ページif-2) で取り上げます。
以上はあくまで、基本的なメカニズムを(私自身も含めた)専門外の人間に分かり
やすく説明するための記載と図示です。専門家の皆様に言わせれば、「なんと
ずさんな説明を!」ということになると思いますが、「やかんをのせたら~~」は
あくまでproliferation riskにフォーカスしたサイトでして、核燃料の技術的詳細を
正確に説明することは任務ではないハズです。
「それは、私の仕事じゃないのよ~~」
私の20分クロッキーより、紙に“ランダム ミックス ワックスパステル”
で、S-PRISM
お分かりのようにIFRには確かに優れた特徴もあるので、アメリカ政府からの
資金が絶たれても、GEでは独自に研究開発を続けました。2022年2月現在では、
GEとHitachiのアライアンスであるGE Hitachi Nuclear Energy社が、PRISM
もしくはS-PRISMという名称で開発を続けています。
基本的には、上述のIFR の構成や特徴を継いでいると思えばよいのですが、
それで終わりにしちゃうとあっけないので、PRISMを推進している
立場からの意見を聞いてみましょう。
POWERというウェブサイトにある、PRISM: A Promising Near-Term
Reactor Optionという紹介です。James M. Hylkoさんの文章で、
PRISM: A Promising Near-Term Reactor Option (powermag.com)
にあります。
例によって、私が一部抜粋して日本語化しますね。< >内は、私による補足説明。
クリンチ リバー増殖炉 (CRBR) プロジェクト (1970–1983) アメリカ議会が
CRBRプログラムを承認したのは1970年のことで、これは産業界とアメリカ政府が
協力して実証規模のナトリウム冷却原子炉を構築しようというものであった。
この発電所はテネシー州のオーク リッジのすぐ西にあるクリンチ リバーという
場所にあるテネシー渓谷公社の施設系の中に設けられることになっていた。
このCRBRのねらいは、豊富に存在するウラニウム238という同位体から
プルトニウムを製造することにあった。(したがって、「増殖炉」という
名称になった) そうしてできたプルトニウムを原子炉内の燃料から取り出し、
ウラニウムとプルトニウムの酸化物ミックス燃料 <いわゆるMOX> を作り、
水冷却式の原子炉で使用することにあった。
認可作業は1973年に始まり、1975年12月31日には、このプロジェクトからの
環境への影響に関する報告も提出されている。この設備の建設は90%完了して
いるものと報告され、1081年9月30日までには合計で5億ドル相当の原子炉
コンポーネントが発注済みであった。<当時のアメリカの> レーガン政権は
このCRBRプロジェクトを、1982会計年度の出資での優先項目としており、
「速やかかつタイムリーに建設すべきだ」としていた。だが、1983年
10月26日にはアメリカ議会はこのプロジェクトへの出資を終わらせた。
(中略)
PRISMの誕生
1980年代前半、CRBR を今後どうすべきかという政治的な論争が続く間も、ゼネラル
エレクトリック(GE)社はほぼ1,000名の人材を雇用、カリフォルニア州サニー
ヴェールというところでナトリウム冷却式の原子炉技術の開発に従事させていた。
さらにGE社のAdvanced Reactorsプログラムからの少数の技術者グループも、小型
モジュール原子炉(SMR)というアイデアの開発に当たっていた。発電容量が
100 から 400 Mweのものだ。 ・・・中略 ・・・ SMRの基本的な利点の1つとして、
同じ発電現場でモジュールを追加していくことで、その発電施設の発電能力を増大
させていくのが容易である、という点だ。このアプローチから1981年には、
GEはPower Reactor Innovative Small Module (PRISM) というアイデアを生み出した。
****************
やはり、アメリカでは伝統的に
共和党は原発推進勢力が多く、民主党は反対勢力が多い
という「傾向」があって、それがレーガン政権の時代にも表れていたようですね。
1994年にIFRプロジェクトをキャンセルしたクリントン政権は、民主党の政権でした。
それと、ある程度は大規模な施設になってしまうIFR以外にも、SMRのアイデアも
あって、それらが融合してPRISMになったということのようですね。
SMRの問題点については、上の黒いメニューのページ s-x) で既に取り上げて
おります。
それと、「モジュールを追加していくことで、その発電施設の発電能力を増大させて
いくのが容易」という判断があったわけですが、「分散化・小型化」という発想が
根底にないように聞こえますよね。つまり、小型水力や各家の屋根のPVパネルなどで
発電を分散化していくという発想が。「需要増大 ⇒ 発電所容量を増大 ⇒ グリッドで
送電」という基底発想が抜けていなかったようです。発電方法の問題となると、
「電力需要が増えていくから、原発は不可避だ」という主張が登場しますが、
原発はたとえSMRであっても、グリッド送電を前提にしています。「個々のビルに
超小型原子炉を配置する」なんてことは、現実、ありえないですからね。発電方法が
何であれ、グリッドは、落雷やテロ攻撃、地震などがあると機能できなくなります。
2018年9月の北海道での大地震でも、発電所 ⇒ グリッド送電という構造のもろさが
露呈しましたよね。
「安全って、言ってたわよね??」
私の作品 “No, Dad, please don’t!” より部分。
紙にオイルパステル
「安全」とは??
それにしても、メルトダウンしにくく、しかも核ゴミの保管期間も短くできれば、
それで安全なのでしょうか??
たとえば、燃料のウラニウム濃縮率は??
英語版WikipediaのIntegral Fast Reactorというページから、抜粋します。
Integral fast reactor – Wikipedia
Fast reactor fuel must be at least 20% fissile, greater than the low enriched uranium
used in LWRs.
(私による日本語化)
高速中性子炉の燃料では、最低でも核分裂性成分が20%なければならない。
軽水炉で使う低濃縮ウラニウムよりも、ずっと高濃度だ。
**************
ページ s-3) の漫画ですが、再掲します
PBRを取り上げたページ p-3) でも、この濃縮率を問題にしましたが、まともにproliferation riskにつながるからですね。p-3) の「PBR用燃料のウラニウム濃縮率」という段落やページ s-3) の「こんなことになりませんように・・・」という漫画の上の文章をご覧ください。
さらに、「メルトダウンしにくい」ということ自体の中に、ある他の危険性が潜むことも指摘しましたよね。
meltdown-resistant à easier Pu dilemma à p-1), p-3)( 「メルトダウン」は危険、
でも「メルトダウンしにくい」も危険)
そうした問題指摘は、ページ if-3) で行いますね。
次回アップロード予定のページ if-2) では、とりあえずメルトダウンや核ゴミに
関するIFRとフォロワーの特長を取り上げます。