2022年2月
まずは、「相手」の主張も真剣に聞きましょうよ。
IFR推進勢力が主張している、IFRの利点をまとめてみますね。
各利点の主張を要約したうえで、「実は、こんな問題が~~」という指摘もします。
主張されている大きな利点1 メルトダウンしにくい
「2010年まで核発電問題に関心がなかったけど、2011年3月から反対するように
なった」方々のうち一部の皆様は、「どーせまた、推進派がウソついてるん
だろ!?」という反応をされるかも。
でも、
\( > O<) / 「どーせ推進勢力のいうことなんてウソばっかだ、とにかく反対
しよ~~!」
というノリで反対運動を進めるよりも、
( ^ _ ^) 「はいはい、推進勢力の御主張は、理解しております、でも~~~~と
いった大問題が ・・・」
という基調で進んだ方が、冷静な人々への説得力が強いですよね。
まあ、すでに日本社会では、そうした「冷静な」人々が少なくなってしまって
いるのかもしれませんが ・・・ もしそうなら、核発電問題を超えて、一つの
国家の劣化・凋落ということでしょう。
「ええ、お話は分かりますよ~~」
私の20分ボールペン クロッキーより
上半身を故意に引き伸ばして、「上昇」感を出そうとしたもの
で、ページ if-1) で述べたように、IFRの前身であったEBR-IIで、「故意に
メルトダウンさせよう実験」が2回実施され、冷却剤 (Na)をわざと遮断させた
そうです。1回目は、一次系のNaの流れを故意に止め、2回目は二次系を止めた
のですね。(一次系Naの熱を移す先が、なくなってしまう) いずれの場合も、
原子炉はフル稼働させていました。
いずれも、人間が外部から介入しなくても、核分裂は「勝手に」終息していった、
とのことです。(passive safetyと呼んでいます)
\( > O<) / 「そんなこと、あるわけねーだろ! ほら、推進派の嘘八百だ!」
などとワメく前に、引き続きIFR推進者の主張を聞いてみましょう。そして、
この実験報告がウソだと言いたいのなら、嘘だと断定する根拠を示さないと。
ここでは、この実験報告をまともに受け止めて考察します。この「原子炉が、
勝手に止まった」要因はいくつかあるのですが、特に次の2つが重要な
要因だったようです:
☆ Naプールの中に原子炉を静めて設置してあるので、自然の対流で冷却
ページ if-1) でも使った図、再掲します。
この図で示すポンプ類が停止、パイプによるNaの流れが止まっても、プール内
では自然にNaの対流が発生しますから、それで冷却が続いたってわけですね。
しかし。冷却が続いても、核分裂そのものが続く限り、膨大な発熱は継続して
しまうわけで ・・・核分裂は、どうやって止まったのでしょうね??
☆ 金属燃料は、温度上昇につれて膨張する ⇒ 核分裂が収まっていく
(温度に応じた feed backward)
これも、ページ if-1) で紹介したものを再掲しています。
上のIFR用燃料棒では、「ガス用スペース」があることにご注意ください。
金属の酸化物と異なり、金属 (具体的には、たとえばU-Pu-Zrの合金)は熱が
高まると膨張しますよね。
同じ個数の核分裂性原子が並んでいるとき、その全体が膨張すると、そう、
中性子線がぶつかる確率が減っていきますよね。
この原理で、核分裂が収まるというのが、「合金核燃料」の特性なのです。
「主張されている大きな利点1 メルトダウンしにくい」の問題点
上の「一次Naプール」の図をもう一度見ながら、ちょっと考えてください。
確かに、Naプール内の液体Naが自由に動ける限りは、原子炉の熱で
「自然に」対流を起こすでしょう。
でも、その自由な動きが妨害されたら??
たとえば、
・ 大地震でプールの「屋根」に当たる部分が崩壊して、プール内に落下して
きたら??
・ テロリストの爆弾で側面の壁に穴が開いて、Naが大量に漏れだしたら??
さらに、高温の液体Naが漏れ出した場合、空気や、場合によっては水蒸気などと
接触したら、激しく反応します。つまり、対応しようにも、対応チームが
プールに近づけない。
常識的に考えて、そうした危険を否定できませんよね?
なお、私が今まで「メルトダウンしにくい」と言ってきており、「メルトダウン
しない」という推進勢力のフレージングを避けてきた理由も、これでお分かり
でしょ?
「テロリストの爆弾で」と上に記しましたが、これを一笑に付してしまう方も、
いまだにいらっしゃるかも。
でも、まずは現在の世界では「自爆テロ」という行為が少なからず存在している
現実を、お忘れなく。
そして、原発のテロ防御には今までのところ少なからず「穴」があります。
これについては、上の黒いメニューでページ g-5) と g-6) をご覧くださいな。
さらに、柏崎刈羽原発ではテロ対策にかなりの落ち度があったことが、昨年
何度も報道されましたよね。
それとページ s-2) で日本語化して紹介した、憂慮する科学者同盟が公表して
いるEdwin Lyman著の SMRの問題指摘、”Small Isn’t Always Beautiful” も、
いま一度お読みくださいませ。
さらに、上の黒いメニューのページ p-1) で私が指摘した「解けないディレンマ」も、
現実上、存続します。p-1) の「核分裂生成物を生む限り、解けないディレンマ」と
いう段落をご覧ください。
「メルトダウンなどの危険が軽減 ⇒ 核兵器を開発したい国などは、安心して
Pu製造装置を保有・稼働できる」ということですね。(IFR推進勢力から
反論があるのは、存じております。詳しくは、次のページ if-3) で)
主張されている大きな利点2 核ゴミを減らせる、また短寿命化できる
冶金学などの技術的詳細を私は学んでおりませんし、本ウェブサイトはそうした
技術にフォーカスしてはいないので、冶金学的な詳細などは専門家の論文などを
お探しください。
ここでは、次のことだけを述べておきます。
・ IFR施設では、原子炉に隣接した使用済み核燃料処理工場で使用済み核燃料を
処理し、リサイクル核燃料にする ⇒ 核ゴミを減らせる
・ まだいくらかの核ゴミは出るが、その中の放射性物質を再処理工場で
「核種変換」し、半減期の短いものに変えるので、保管期間が従来より短くて済む
さて、「メルトダウンしないし、核ゴミも減らして短寿命化できる」とは、
いかにも「夢の新型原子炉」のような ・・・
まるで「お花畑原子炉」 ~~
私がセイヨウヒルガオを描いた作品より
主張されている大きな利点2 核ゴミを減らせる、また一部を
短寿命化できる」の問題点
まず、核ゴミが無くなるわけじゃなくて、IFRからもいくらか出ます。
「ゴミの保管」は、まだ必要なのです。
それにもちろん、再処理工場を巨大な費用で建設・稼働しないといけない。
それと、「核ゴミの保管」というと、どうも何百年という保管期間ばかりが
問題にされやすいのですが、ちょっと常識的に考えてください:
つまり、半減期が短い放射性物質の方が、保管期間は短くて済みますが、
同じ時間内に放出する放射線は強くなりますよね。それだけ、再処理工場などで
作業をされる方々には、危険が強まるわけです。
Friends of the Earth Australiaのウェブサイトで公開されている文書の中に、Jim Greenさんという方が書かれたIntegral Fast Reactorというテキストがあります。
Integral Fast Reactors | Friends of the Earth Australia (foe.org.au)
にございます。
冒頭に公開日付が明記されていないのですが、内容から推察して2009年ごろのものと思います。
そのテキストのWASTEという段落を、私が抜粋・日本語化して紹介しますね。
< >内は、私の補足説明
核ゴミ
IFRであっても、なおいくらかの核ゴミを排出する。(理論上は)、IFRからの
廃棄物は従来の原子炉よりも管理しやすいものではあるのだが。だが、長期的な害を
軽減するための再処理やPuリサイクルなどにより、短期的な公衆への健康被害や
環境リスク、proliferation riskはむしろ増大してしまう。マサチューセッツ工科大学に
よる学際的研から、引用する。
<マサチューセッツ工科大学による、今後の核発電に関する学際研究の成果報告書
から、引用してらっしゃいます>
分割や核種変換などについては、・・・ 燃料サイクルに新たな段階を導入し、
そのために必要な施設を作るのであるから、経済的コストの増大や安全性、環境保護、proliferation riskなどの問題を考慮する必要がある。そうした諸活動のため、
各工場で作業をする人々にとっては、新たなリスクが発生する。一般市民にとっても、
そうだ。しかも、高レベルではない廃棄物がかなりの量、発生する。それには、
超ウラン元素が深刻な量だけ含まれている。そうした廃棄物の多くは有毒で半減期も
長いため、結局は高レベル廃棄物用の保管庫に保管することになる。しかも、
もっとも経済性の良い分割や核種変換などを採用しても、<現在主流の>「1回
使ったら、処分」という燃料サイクルと比べ、かなりの費用増大を招く。
Stephen Ansolabehere 他2003, “The Future of Nuclear Power: An Interdisciplinary MIT Study”(核エネルギーの将来: 学際的研究), <web.mit.edu/nuclearpower>
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分かりやすくするために、私は「核ゴミ」と言っていますが、上の黒いメニューの
ページ b-x) で説明した通り、原子炉とはもともとが「Puという核ゴミ」を製造して
原爆を作るための装置でした。本来、「何十万人も焼き殺すためのゴミ」を作るための
機械だったわけですね。
その「宿命」は、簡単には払しょくできませんね。
疲れてきた~~続きは、次回
私の作品より
それと、やはりNaと水が近接しているのは~~
ページ tw-1) で使った図をもう一度、見てみましょう。特にIFR用の図ではないの
ですが、IFRといっても要は原子炉そのものはFBRの一種なので。
FBRであろうがTWRであろうが、発電を水蒸気タービンで行う以上、どこかで
高温の冷却材(Na)の熱を水に伝えて水蒸気を発生させないといけません。
結局、二次冷却系のNaとタービン用の水(水蒸気)とは二次系の熱交換機
(上の図だと、「蒸気発生器」) の中では近接することになります。
Naと水が接触すると爆発など大変な事態を招くことは、よく知られております。
たとえば、
でんじろうのTHE実験 超巨大ナトリウムを池に!? – YouTube
というヴィデオで、8:55 – 9:42 あたりをご覧くださいな。(なお、これは実に
危険な実験です!何があっても絶対に真似をしないでください!)
これに、上で述べた自爆テロという危険性をプラスしてみましょう。プール
そのものを、テロリストが持ち込む爆弾程度ではびくともしない強構造にしたと
しても、この蒸気発生器をテロリストが爆破してしまえば、原子炉のメルトダウンでは
ありませんが、Naの爆発や火災は発生する可能性がありますよね。
二次系Naなので、おそらくは放射能漏れはないでしょう。でも、発電はできなく
なります。
1つの危険(ここでは、原子炉のメルトダウン)をなくしたら、他の危険が
発生する~~という例ですよね。
主張されている大きな利点3 核兵器用のPu分離がしにくく、proliferation riskも
軽減できる
これはproliferation riskの問題ですから、次回のページ if-3) で説明し、問題点も
指摘しますね。
しばし、お待ちくださいませ。