g-3) (ジャパン)「潜在的核抑止」って・・??

2021年1月

2011年から ’13年ごろ、日本の各地ではあれだけ反原発マーチ(デモ)などがありました。福島第一のメルトダウンの被害を受けた方々は、今も数々の苦渋を飲まされています。

それでもなお、日本政府は核発電(「原子力」)推進という基本方針を変えていません。
いったい、なぜなのかと不思議に思うのが当然でしょう。

無論、1つには「巨大なカネ」が原発の背後で動いてきた、という事実があります。例えば昨年広く報道された、関西電力の原発を巡る金品の授受が象徴的に示しているとおりですね。

しかし。「巨大なカネが動くから」でなんとなく納得してしまっていては困ります。「なぜ」そんな巨大なカネが動くのか??
特に政府にとっては、原発や核燃料サイクルは巨大な「カネ(税金)くい虫」である以上、さらに上述のような贈賄行為まで行われてきた以上、むしろ原発にはブレーキをかけたほうが都合がよいハズなのですが。
なにか、政府の基本方針として、巨額を投じ続けてでも核発電を続けるという方針があると見るべきでしょう。

そして。日本に限らず一般論として、国家政府を巻き込んで巨額のカネが動く場合、多くは軍事が絡んでいるものです。

Megabucks氏、真実を語る ・・ 真実A、真実B、真実C、・・・

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正直な政治家 ・・ 稀な存在ですね

で、自民党の政調会長を以前務めておられた石破茂という方が、ある意味「大変正直に」そうした基本方針について語ってらっしゃいます。
一言で言ってしまえば、「潜在的核抑止力」という方針です。
私自身は、その「核の潜在的抑止力」に賛同するものでは決してありませんが、石破さんのこの「正直さ」は高く評価します。
本サイト「やかんをのせたら~~」のページ g-2) の「個人的な補足」で述べたように、かなりの昔に私は都内のあるクリエイティブ エージェンシーでChief Creative Officerをしており、当時の通商産業省(今の経産省)のエネルギー庁の関係から来た原発広報の仕事も担当しておりました。当然、エネルギー庁やその周辺に出入りすることになりますが、そこで学んだことの1つとして、日本政府が原発に固執する主な理由とは、この「潜在的核抑止」だったのです。しかし、「核抑止」とは確かに一般市民の多くから批判を浴びそうな問題ですよね。だから、あまり公にこれを口にすることは当時はありませんでした。

話を元に戻して、「核情報」という日本語のウェブサイトがページを割いて石破さんの発言や関連文書などを列挙してくださっています。

そのサイトの中の「「核の潜在的抑止力」のために原発維持をと石破茂自民党政調会長」というページで、

http://kakujoho.net/npp/ishiba.html
にございます。2011年9月のものですが、日本政府の基本姿勢は今も変わっておらず、この「「核の潜在的抑止力」のために原発維持を・・・」というページの内容は2021年1月現在も有効です ― 残念ながら。

なお、この「核情報」というサイトは、この「やかんをのせたら・・・」よりもさらに詳しい内容を日本語で学びたい皆様には、お勧めできます。そのホーム(フロントページ)は、 http://kakujoho.net/ です。

ヤカンとヒーターと別々にしてるのは、うちだけかよ~

ヤカンとヒーターと別々にしてるのは、うちだけかよ~

では、下記ではその「「核の潜在的抑止力」のために原発維持を・・・」というページの「発言抜粋」という個所に引用されている石破さんその他の発言を参照しながら、核武装に関する日本政府の基本姿勢を探ってまいります。皆様も、http://kakujoho.net/npp/ishiba.html
にある発言抜粋をお読みになりながら、下記をご覧ください。

発言抜粋

石破茂さん、報道ステーション 2011年8月16日

「… 原子力発電というものがそもそも、原子力潜水艦から始まったものですのでね。日本以外のすべての国は、原子力政策というのは核政策とセットなわけですね。」

これは、私がこの「やかんをのせたら~~」でずっと述べてきたことに近く、「原子力政策というのは核政策とセット」となった実例をあれこれ紹介してまいりました。ただ、「日本以外のすべての国」となると、厳密にはカナダは?韓国は?といった検証が必要な例もありますが、大体の話としては石破さんの仰るとおりです。

問題は、その後です。

「しかし同時に、日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる。1年以内に作れると。それはひとつの抑止力ではあるのでしょう。それを本当に放棄していいですかということは、・・・ 同盟国で(あ)るかどうかを捨象して言えば、核保有国が日本の周りを取り囲んでおり、・・・」

結局、「潜在的核抑止力」とは、このことなのでしょうね。「日本を攻撃すると、日本がその気になれば、短期間で核兵器を作れる → 日本を攻撃するのは、やめておこう」と敵国に判断させること。

そして原発を維持することで、その「抑止力」を保っているのだと、石破さんは下記で明言してらっしゃいます。

これにはそれなりの時間が・・

これにはそれなりの時間が・・


発言抜粋

石破さん、SAPIO  2011年10月5日号

「私は核兵器を持つべきだとは思っていませんが、原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという「核の潜在的抑止力」になっていると思っています。・・・
私は日本の原発が世界に果たすべき役割からも、核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発をやめるべきとは思いません。・・・

核の基礎研究から始めれば、実際に核を持つまで5年や10年かかる。しかし、原発の技術があることで、数か月から1年といった比較的短期間で核を持ちうる。」

「日本の原発が世界に果たすべき役割」っていったい何のことなのか?私にはわかりませんが、とにかく核技術もウラニウム濃縮施設も、プルトニウムも持っておくことで、いざとなれば短期間で核兵器を持てるようにしておくこと。それが、「潜在的抑止力」の意味のようです。で、たしかに、その「核の潜在的抑止力」を維持したいのなら、原発のシステム(ウラニウム濃縮やPUREXなども含む)を維持しておくことは必須となります。

そして、そうした「潜在的抑止力」の維持が、日本政府が核発電に固執する理由であるようです。電力が欲しいだけなら、ほかに発電手段は多数ありますし、現実に2012年の春に柏崎刈羽原発が停止して以来、少なくても2021年1月までの約9年近く、東京は核発電からの電力なしでやってきています。(参照: https://www.city.kashiwazaki.lg.jp/genshiryoku/kashiwazakikariwagenshiryokuhatsudenshonojokyo/11580.html )

したがって、次回のページ g-4) では、石破さん以外の実例を紹介して、日本政府が「核発電に固執する真意」を確認しましょう。
それと、この9年近く東京が核発電抜きでやってきている事実については、また後日。

「爆弾を持ってるんだから、もう燃料は売らないよ」

「爆弾を持ってるんだから、もう燃料は売らないよ」

しかし。「イザ、核兵器製造だ!」となると、IAEAが黙っているハズもありませんよね。

その点を、このSAPIOでのインタビュアーの方も、訪ねてらっしゃいます:

インタビュアー
「(核武装を決断して)NPTを脱すると、核燃料が止められてしまい、原発も動かせません。結局は、「核か原発か」の二者択一になってしまうのでは?」

石破さん

「それは今後の「原発」のあり方にもよるでしょう。わが国は、核燃料というフロントエンドは外国に頼り、バックエンドたる核サイクルも未だ展望が見えていないため、そのような二者択一になる。だから、今までのところ、「絶対に軍事利用しない」という条件の下で、IAEAの厳格な査察を受け入れながら原発を進めてきた。日本の核抑止力が「潜在的」である所以です。」

つまり端的に言ってしまえば、

核攻撃を日本が受けた → IAEAを日本が脱退して、独自の核兵器開発を開始 → 日本が核武装
というシナリオを想定して、その核兵器開発期間を短くできるよう、平素から核技術を維持しておく。そのために、平素から原発を保持しておく。
ということのようですね。

謎だらけだ~~

謎だらけだ~~


すると、私にはどうも分かりかねることが

すでに「「核の潜在的抑止力」のために原発維持をと石破茂自民党政調会長」というページで、核情報さんが疑問を列挙してくださっています。いずれも、ごもっともな疑問点だと私は考えます。

加えて私の疑問としては、

・ こうした「潜在的抑止」って、どこまで現実的なのでしょうか??

実際に核攻撃を受けてから核兵器製造を始めても、果たしてどこまで抑止できるのでしょうか??
(即時報復が必要だからこそ、アメリカ大統領は有名な「核のボタン」の入ったケースを所持しているんじゃ?)

・ 核発電所やウラニウム濃縮施設などが、敵国の攻撃標的になるだけでは?

それとも、地下に大規模な秘密の核施設でも構築するのでしょうか??

・ 原発や核施設そのものが、テロ攻撃の対象になりえる

原発を壊すためには、何も大型旅客機をハイジャックして原子炉に突っ込む必要もなければ、ましてやミサイルを叩き込む必要もありません。
ステーション ブラックアウト(発電所への外部からの電力供給が途絶える)を引き起こせばメルトダウンを起こせることを、不幸にして福島第一原発が実例で証明してくれています。

よく報道されたとおり、
1) 送電鉄塔崩壊 * (参照: 2012年2月の東京電力による報告書、「福島第一原子力発電所内外の電気設備の被害状況等に係る記録 に関する報告を踏まえた対応について(指示)に対する 追加報告について (鉄塔倒壊に関わる福島第一原子力発電所内の盛土の崩壊原因)」 https://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120217c.pdf )
2) 津波被害で非常用電源も使えなかった

これで、メルトダウンが実際に発生したわけです。
これなら、自爆テロリストが比較的小型の爆薬など手に入れれば、やってのけられますよね。だからこそ、原子力規制委員会も、原発のテロ対策をうるさく求めているのでしょう。 (参考: 竹内敬二、「原発のテロ対策」で原子力規制委が守ったもの  http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0131.html

* ついでながら、宮城県女川町にある女川原発も福島第一と同様に2011年3月の大地震と津波に見舞われたのですが、ここでは外部電力供給用の幹線が1つ残ったそうです。それも大きな要因となり、メルトダウンには至りませんでした。(参照: 朝日新聞DIGITAL、2011年3月31日、「なぜ女川原発は無事だった 津波の高さは福島と同程度」

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103300517.html )

なお、「え?発電所を動かすために、外部から電力がいるの?」とおっしゃる方がもしいらっしゃれば、本サイト「やかんをのせたら~~」のページ d-2) で、BWRとPWRの略図をご覧くださいませ。いずれも、ポンプで水を原子炉またはその周辺に送り込んでいますよね。このポンプは、電力供給がないと作動しません。外部からの電力供給が途絶えると、原子炉周辺に水が送り込まれない → 原子炉が過熱 → メルトダウン、というパターンが現実化してしまう可能性があるわけです。原子炉内で制御棒を挿入して核分裂を止めても、それですぐに原子炉内が「冷める」わけじゃないですし。加えて、原子炉周辺には使用済み核燃料が保管してあって、水の中で冷却中ですが、その冷却水も止まってしまいますし。それに、発電所をコントロールするコンピューターだって、電源が必要です。

いつまでにらみ合ってるつもり??

いつまでにらみ合ってるつもり??

 

・ 根本的な大問題として、そもそも「核抑止」って、今まで常識的に扱われてきたほど、有効なものなのか???

これについては、将来、本サイト「やかんをのせたら~~」でじっくり考察しますね。皆様からのご教示やご意見も、いまからお願いしておきます!

しかし、いくら石破さんといえど、ひとりだけの見解では、日本政府の基本方針を論じるには不足ですよね。そこで次回の「ページg-4) (ジャパン)その他の政府関係者の見解」では、石破さん以外の政府要人などの「潜在的抑止」に関する見解と関連する研究とを紹介します。やはり、「核情報」さんの上述のページを参照します。

 

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