2021年12月
ページ tw-2) でも申しましたが、TWRは「高速中性子線」を使って 238U ⇒ 239Pu という核種変換 (核燃料の“増殖”) を行うという原理が FBR (高速増殖炉) と共通です。
そこでまず、高速中性子原子炉のproliferation risks(核兵器につながるリスク)から見てまいりましょう。
「なんだあ、作ってる本人が認めてるんじゃないの~~」
私のクレヨン描画練習より
まず、AREVA (ORANO) 自体が、proliferation riskを認める
まず、フランスの原子力企業として世界的に有名なAREVA社 (現在のORANO社)のSominique Grenecheさんという方がInternational Conference on Fast Reactors (FR09、高速中性子原子炉国際会議) という国際会議で紹介されたスライドから抜粋します。この会議は、2009年12月に京都で開催されたものです。
ついでながら、ORANO社は六ケ所村にある日本原燃の核燃料サイクル施設に技術を提供しています。
このスライドは、
05-15.Grenêche (iaea.org)
の8番目のスライドです。
私が抜粋して、日本語化します。
- 懸念事項: U238 (あるいはTH232 [トリウム232、トリウムについては後日機会があれば説明] ) を配置したブランケットには、「兵器グレードのプルトニウム」(あるいはトリウム サイクルの場合なら、Th233という不純物が大変少ない、ほぼ純粋なU233)が生成される
<Heedayより: 原文には — “weapon grade plutonium (or almost pure U233 with very low content of U233) とあるのですが、明らかに誤りですよね。おそらく、あとの方のU233はTh233の誤りでしょう> - だが、ブランケットを使わなければ、核燃料の増殖は極めて困難になってしまう
・・・・・ 中略 ・・・・・
- したがって、問題の解決は「問題」(ブランケット)をなくすことにはなく、必要に応じてプルトニウムを「変性」させる方法が数種類ある。ブランケットの新しい燃料に軽水炉用のPu(純度2-3%)を混ぜる、Np(ネプトゥニウム)あるいはU236(RepUつまり再処理ウラニウムとも呼ばれる)を混ぜてPu238を発生させる<← 238は核分裂性ではないので>、マイナー アクティノイド<MA、たとえばネプトゥニウムやキュリウムなど>を添加する、減速材として働く元素を混ぜる、その他 ・・・*******************
つまり、FBRなどの「ブランケット」には、兵器グレード (上の黒いメニューにある固定ページ c-1) の「その「オペラ」のあらまし」という箇所で説明しました) のPuができてしまうわけですね。これは大変危ない。(ついでながら、「もんじゅ」も例外ではありません。)
でも、ブランケットを使わないと、核燃料の増殖はできない。
要するに、FBRなどの高速炉が、いかに深刻なproliferation riskを抱えているのか、上記だけでもお分かりと思います。
次に、その問題をもう少し詳しく。科学論文から抜粋して日本語化します。
ScienceDirectのウェブサイトに掲載されている、2015年9月の論文です。
Fast reactors and nuclear nonproliferation problem – ScienceDirect
にあります。
Fast reactors and nuclear nonproliferation problem
(高速中性子原子炉と核兵器不拡散という問題)
E.N.Avrorin A.N.Chebeskov
(上の黒いメニューのページ、付録w-1) でも引用した論文です)
Startup and operation of fast reactors on plutonium (プルトニウム燃料での、高速中性子炉の始動と稼働)という箇所から私が抜粋、日本語化
・・・・・ したがって、サーマル原子炉 <Heedayより: 従来型の、減速中性子を用いる原子炉のこと>をプルトニウム燃料で始動し稼働させても、炉心に発生するプルトニウムは貧弱なもので、核兵器には使用しにくい。
これが、炉心の外に増殖部がある高速中性子炉になると、まったく話が異なってくる。この増殖部のことを、ブランケットと呼んでいる。高速炉のブランケット<Heedayより: 原文にはThe blankets of thermal reactorsとあるのですが、明らかにおかしいので、fast reactorsの誤りでしょう> に蓄積するプルトニウムは、同位体の構成比が兵器グレードのプルトニウムに近いことが知られている。このプルトニウムは質量数の高い同位体や238Puを少量含んでおり、準備的な処理なしで核兵器に実際に使用できる恐れがあるのだ。
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もうお分かりですね。ブランケットで「増殖」する高速中性子炉には、深刻なproliferation riskがあるわけですね。
ついでながら、上の黒いメニューの中ほどやや下にあるページ g-3) や g-4) の内容と考え合わせれば、日本政府が「もんじゅ」廃炉決定後も次の高速増殖炉を考えていることから明らかなように、高速増殖炉に固執しているのはなぜか?その「本当の狙い」も浮かび上がってきませんか?
「で、TWRの話はどうなったの?」
私の100分デッサンより
では、TWRそのものについては?
上の黒いメニューにあるページ tw-2) でも引用紹介した
https://ieer.org/wp/wp-content/uploads/2013/09/TravelingWaveReactor-Sept20131.pdf
Arjun Makhijani博士、2013年9月
から抜粋・日本語化しますね。
(私による日本語化)
P5より抜粋
・・・・・ さらに、<現時点で進められているようなTWRの> 設計では、既存の軽水炉から出る使用済み核燃料の蓄積の中にあるプルトニウムやウラニウムを反応させて核燃料として使うことができない。そうするには再処理が必要となるが、再処理を実施すると経費もかかり、proliferation riskが増大してしまう。・・・中略・・・ 再処理(reprocessing)はTWR推進者たちからはrepurposing(用途変更)とも呼ばれ(Ellis et al. 2010 [Heedayより: 原文ではこうした参照文献を明記しており、Ellisさんその他による2010年の論文を参照、ということです] )、使用済み核燃料を再処理すると、実際に核反応するウラニウムの含有率を、<現在のTWR設計で実現されそうな>15%から、50%超にまで高めることができる。だがそれには、proliferation riskの増大が伴ってしまう。TWR推進勢力の主張によれば、「分裂性物質を分離抽出するというproliferation riskなしに」使用済み核燃料の「用途変更」は可能であるそうだ。(Ellis et al. 2010) だがこの主張は、よく精査すると受け入れられない。Ellisその他は、<Heedayより: 1965年に臨界に達し1994年に閉鎖されたナトリウム冷却の高速増殖実験炉の> Experimental Fast Breeder II 用に開発されたのと同じ核燃料プロセスを採用するよう、提唱している。<Heedayより: Experimental Fast Breeder II はアメリカのアルゴンヌ国立研究所が運用、アイダホ州にありました。EBR II という略称でよく知られています> Figure 3 <←英語本文の7ページにあり>に、<そのEBR IIのあった> アイダホ国立研究所で使用していた実験的electrorefiner (電気式精錬機)を示す。この研究所では世界初の高速増殖実験炉であったExperimental Breeder Reactor I (EBR I) も稼働した。こちらは1951年に建設された。この核燃料処理技術は「乾式再処理」とか「電気冶金処理」とも呼ばれ、ナトリウム冷却原子炉で使用されるナトリウムが結合した金属材料を処理するために開発されたものだ。(Benedict et al. 2007) 2009年にアメリカの国立研究所の専門家たちが実施した研究の結論によれば、Ellis et al. 2010論文で論じられている乾式再処理も含む各種の再処理技術によっては、核兵器を保有しようとする国家に関する限り、proliferation riskを軽減することはほとんどできない。既存のPUREX処理と比べ、このリスクをあまり軽減できないのだ。PUREX法は既に、強い懸念の原因となってきている。 (Bari et al. 2009) 問題は、こうした技術があれば現時点での核兵器保有諸国がどうするか、ではなく、<現時点ではまだ核兵器を保有してはいないが> 核兵器保有を検討している諸国がこの技術を得たら何をしうるか、なのである。
P5から、もう少し抜粋・日本語化します。
<1回きり使用して地下に埋める> 「ワンス スルー」の核燃料サイクルで動くTWRなら、従来の増殖炉と比べて、再処理をおこなわないという利点がある。再処理なしで、既存の軽水炉よりもウラニウム資源を有効に活用できるのだ。確かに、既存の増殖炉と比べれば、使用済み核燃料を直接に地下に保管廃棄することで、proliferation riskは軽減される。だがこれにはこれで、相当な困難が伴う。特に、核燃料の伝熱ボンドとして使用されるナトリウムを、まず除去せねばならない。既存の原子炉ではそんな廃棄プロセスは存在しておらず、そうした中間的なステップやリスク、経費なしで処分用コンテナーに使用済み核燃料を収めることができる。
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TWRから出る使用済み核燃料にはナトリウムが含まれるので、処理が大変だというわけですね。困ったもんです。
では、同じテキストのP8から抜粋します。
(私による日本語化)
TWR では<始動のためなどに> ウラニウム核燃料も使用する必要があるのだが、そのウラニウムの濃縮率が現在の軽水炉のものよりもずっと高い。軽水炉の燃料ウラニウムが4-5%であるのに対し、TWRでは15%になってしまう。15%ともなると、兵器グレードのウラニウムつまり90%への濃縮も比較的易しくなってしまう。また誇大化された首長があって、「地球上にウラニウム濃縮工場が1つだけあれば、TWRなら稼働できる」 (Wald 2009) と言っている。現実は、まったく異なる。再処理をおこなわない場合、最初の世代のTWRはそれぞれ毎年、15%濃縮のウラニウムをおよそ1トン必要とする。 (Garwin 2010). これにより<Heedayより: 平均的な軽水炉の年間消費がおおまかに4-5%濃縮で25トン程度なので>、軽水炉と比べてウラニウム分離作業がおよそ1/5程度に減るのだが、TWRを世界的に多数導入すると、現在の原子炉よりも濃度の高い濃縮ウランを製造する濃縮工場が多数必要になってしまう。濃縮工場を15%濃縮に改造した場合、それを1トン生産する工場であれば、HEUつまり90%の高濃縮ウラニウムをおよそ146㎏ 製造できてしまう。これは、原爆6個にほぼ相当する。
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要するに、TWRは従来の軽水炉以上に深刻なproliferation riskをもたらしかねない、ってことですね。
「核発電」と「核兵器」とは、どちらも核分裂をエネルギー源にしています。
核発電では、核分裂を徐々に進める ⇒ 発生する熱でお湯を沸かして、発電用蒸気タービンを稼働させる
核兵器では、核分裂を一瞬で起こして周囲を破壊する
という「程度の違い」なのですね。
そうである限り、両者の結びつきを完全に切断することなど、できないわけです。
単に「新型の原子炉だよ~~」では、このproliferation riskを消し去ることはできないのですね。
私のかなり昔の作品より、”Undercover Treaty”(密約)
特に増殖型の高速中性子原子炉は、言葉を換えれば「原爆にも転用しやすいPuの増殖装置」とも呼べるわけですよね。そんな物騒なものが、この惑星にあってよいのでしょうか??
Puの背後にある密約??
そのPu増殖について、非合法な結びつき/協力が日米間に存在しているという指摘が、とっくの昔になされています。
retf_report_sept_1994.pdf (srswatch.org)
をご覧ください。Greenpeace InternationalのShaun Burnie, Tom Clementsによる問題指摘です。
「とっくの昔に」と申しますのは、このリンク先の文書、1994年9月のものなのです。そのころからFBRのproliferation riskをこの文書などが指摘していたのにも関わらず、いまだに(2021年)日本政府はFBRをあきらめていません。つまり、この問題は一時的な現象などではなく、「核」の本質に関連するもののようです。
ではこのThe Unlawful Plutonium Allianceという文書から、特にFBRに関する記述を短く抜粋・日本語化して、この固定ページを終わります。
(私による抜粋・日本語化、本文のP5)
日本と長兵器グレードのプルトニウム
プルトニウムは原子炉の中で人工的に作り出す元素で、大半の核兵器の爆薬として使用されており、したがって世界でも最も危険な物質の1つだ。原子炉はいずれもその本質においてプルトニウム製造施設なのだが、高速増殖炉(FBR)と呼ばれるタイプのものは特に問題が多い。FBRの使用方法としてもっとも広く見られるのは、プルトニウムを燃料として使い、稼働中にさらに多くのプルトニウムを作り出す、というやり方であるためだ。
高速増殖炉はまだ実験的な設計であるが、核兵器拡散防止に対する大きな脅威であると、長年見なされてきている。兵器向け品質のプルトニウムを製造でき、しかも再処理という商用原子炉の使用済み核燃料からの化学処理によるプルトニウム分離を前提としているためだ。他に類を見ないほど強力な、proliferation riskを生み出してしまうのだ。
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高速増殖炉やそれに類似した原子炉あるところ、プルトニウム型核兵器のリスク/闇計画もないか、注意が求められます。
なお、このGreenpeace Internationalによる文書、サブタイトルがJapan’s supergrade plutonium and the role of the United Statesでして、日米の「共謀」による高純度プルトニウムの日本での製造を指摘しています。
問題が深刻なだけに、特に日本の反核 (もちろん、反原発も含む) の皆様には重要な文書のはずです。英語の国際関係文書などを読める方々は、上のURL で、ぜひお読みください。
「読みたいけど、30ページほどもある英語の報告書なんて、読めないよ!」とおっしゃる方々は、私(ひで フランシス)までお知らせくださいな。yadokari_ermite[at]yahoo.co.jp です。
読者の皆様からのご依頼があれば、私が全文を日本語化して、何回かに分けて「やかんをのせたら~~」で掲載しますので。