★ 「メルトダウン以外」の “事故危険性”
2022年5月
上の黒いメニューにあるページ mr-1) の前半でも記したように、
MSRの開発では、多数諸国で多数タイプの原子炉のR&Dが
進行しています。
そして中国では、プロトタイプが完成したという報道も
ありました。(ページ mr-0) 参照)
当然、近い将来、一部の核発電推進勢力が
\ ( ^ O^)/ 「いぇ~~い、MSRという新型原子炉なら、
核燃料のメルトダウンはありえないぞ~~」
という「原発広報」を始める可能性がありますよね。
この「メルトダウンしえない」については、「正しいけど
無意味」だと、すでに mr-1) で説明しました。液体燃料、
つまり「初めからメルトしている」核燃料を使うので、
「メルトダウンしえない」のはtautology つまり循環論法に
過ぎないのですね。
ですが、私たち反核勢力としては、「事故危険性」も問題に
するのである限り、MSRの「メルトダウン以外の事故危険性」も
指摘しておく必要がありますよね。
原発の「事故危険性」は、メルトダウンだけじゃないのですね。
「今回は長くなりそうね~~」
私の点描練習(途中)より、Croquis Café 104に基づく
★ そこでまた、UCSの”Advanced Isn’t Always Better” より ・・・
・・・ “Safety” という箇所の一部を紹介してまいります。
mr-1) でも述べた通り、Union of Concerned Scientists
(UCS) というアメリカの科学者団体のEdwin Lymanと
いう方による、2021年3月付の論文です。
いつも通り、私による日本語化、
< > 内は私からの補足説明です。
* なお、「希/貴ガス」というのは、ヘリウム、ネオン、
アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンといった元素の
ことで、常温では気体で、化学反応しにくい元素です。
(化学反応しやすい気体、たとえば酸素なら、鉄と
反応させて「サビ」を起こさせれば、そのさびで “捕捉”
したことになりますが、貴ガスはそう簡単に捕捉できません)
ラドンを除き、ヘリウム~キセノンの同位体の多くは
放射性ではないのですが、放射性の同位体もあります。
特にXeの同位体のうちXe 133やXe 135などなどは、
U 235やPu 239の核分裂で、分裂生成物として発生します
ので、核爆発があったかどうかを探るために使用されます。
(後ほど、重要な問題に関係します)
上記のような気体元素を総称して「希ガス」あるいは
「貴ガス」と呼んでいるのですが、日本語ではどちらでも
構わないようです。日本の高校用教科書などでは、今でも
「希ガス」としているようですし、一方英語での名称
noble gasに合わせた表記では「貴ガス」となるようです。
本ウェブサイトでは、どちらも ”無分別に” 使用します。
p.91
安全性
MSRでは固形燃料ではなく液体燃料を使用するが、
これは通常の稼働にも、事故にも大きく影響する。
通常の稼働
固形燃料を使用する原子炉とは対照的に、溶融塩燃料を使う
原子炉は気体の核分裂生成物を大量に放出する。これが、
液体燃料の中にたまる。そうした気体が自ら液体燃料から
出てくるには短からぬ時間を要するので、液体燃料の
圧力上昇と核反応性の低下とを防止するため、こうした気体を
絶えず除去せねばならない。その除去を行うため、ヘリウム
ガスの気泡の流れを通し、液体燃料中の核分裂生成物のガスを
押し出す。押し出されたガスを捕捉したうえで、(1) 長期間
(何年、または何十年か) にわたり保管し、地下の保管施設に
廃棄する、あるいは (2) 短い期間保管して放射性崩壊をさせ、
そのうえで環境中に放出する、のいずれかの処理が必須となる。
こうした核分裂生成物の安全な管理は、LWR<軽水炉> で
よりもMSRでより深刻な課題となる。(Lyman 2019)
LWRでも、通常の稼働中に分裂生成物の一部として貴ガスが
いくらか発生する。これは、<通常の稼働でも> 少数の
燃料棒を囲むクラディングに亀裂などが発生するためだ。
だが、MSRの炉心からの貴ガス放出量は、同程度の
出力容量のLWRと比べ、何十万倍も大きくなりそうだ。
(Lyman 2019) 原則的に、Xe 135(半減期は約9.1時間)
などの寿命の短い核分裂生成物については、補足して保管し、
自然に崩壊 <して、他の元素に変わるのを> 待てばよい。
一方、Kr 85 (半減期は10年を超える)のような寿命の長い
貴ガス生成物は管理が大変だ。だがいずれにせよ、
大量の貴ガスの流れを捕捉し保管するのは困難で、
費用もかかる。貴ガスは化学反応を起こしにくいためだ。
液体燃料のMSRを稼働させるには、核分裂生成物中の
貴ガスの環境への排出上限を守るという深刻な課題に
直面することになる。
Kr 85のような貴ガスの生成物は化学反応を起こし
にくいので、人体の健康や環境への影響は、無視は
できないものの、セシウム 137 (Cs 137) のような
<放射性> 同位体と比べれば、小さい。貴ガスは大気中に
放出すると、急速に拡散する。だがCs 137は地面などの
表面に蓄積して固着してしまい、放射性核種の中でも特に
環境への害の強いものの1つである。Cs 137は半減期が
約30年で、チョルノービや福島第一周辺での放射性汚染が
今も続いている主な原因となっている。
**********************
核分裂生成物中の気体元素という箇所、人によっては
分かりにくいと思います。
下の図で説明しておきますね。
ついでながら、こうしたXe133ガスなどを測定することで、
原子炉事故や「秘密の核実験」を検知することができます。
(そういう事態がないと、存在しないガスですから)
それを大量に出す原子炉が稼働すると、秘密の核実験の
検出にとっては、妨害となりえますよね。これについては、
mr-1) の該当引用個所を、もう一度挙げておきます。
p.90
・・・ これは、安全面でもproliferation面でも問題となる。
特にMSRから大量の希ガス分裂生成物が発生した場合には、
包括的核実験禁止条約で秘密の核兵器実験を発見するために
設定されている国際監視システム <Xe 133などの放射性気体を
測定して、秘密の核実験があったかを突き止めます> の働きを
妨害してしまう危険がある。<← 色文字強調は、私>
さらに、液体燃料を使うMSR設計のほとんどでは、核分裂性
物質の含有量を調整し、また液体塩の中にある核分裂生成物を
除去するため、燃料である液体塩を常時再処理する必要がある。
塩の中に分裂生成物が多いと、原子炉の稼働にも安全性にも
悪影響を及ぼす危険があるためだ。後ほど <この論文原文で
後ほどということですが、ここでは割愛> 述べるように、
こうした常時再処理を行うと、IAEAによるproliferation防止策の
実施に対しては特異な困難となり、proliferation risksを増大
させてしまう。そうしたリスクに充分に対処し解消しなければ、
未来のエネルギー ミックスにおいてMSRは重要な役割を演じる
ことができないだろう。
*****************
放射性物質の放出は、環境汚染だけでなく核兵器拡散
(proliferation)にもつながりかねない、その実例ですね。
引用を続けます。
p.91
例として、Cs 137は核分裂で直接に生成される以外にも、
短寿命のXe 137の自然な放射性崩壊でも出来る。こちらの
半減期は約3.82分である。実際、原子炉で生成される
Cs 137のほぼすべては、核分裂から直接にではなく、
Xe 137経由で生じている。固形核燃料の原子炉では、
こうして生じたCsのほとんどは、固形の核燃料が事故で
痛んでいない限りは、燃料内に留まる。だがMSRでは、
発生するCs 137のほぼすべてが通常の状態では核燃料からの
ものであり、それを捕捉して安全に管理せねばならない。
<出力が> 1000Mwe <現在の商用炉として、典型的な
サイズです> のMSRを2か月間通常通りに稼働させた場合、
その炉心からは福島第一の惨劇で環境に放出された合計と
同程度のCs 137が環境中に放出されえる。実際、MSRは
あまりにも大量のCs 137を生成するため、<アメリカの>
オーク リッジ国立研究所の科学者たちは1972年に、
<MSRのオーク リッジでの実験炉であった> MSREからの
排出ガス流を利用した「高純度Cs 137」製造法を発明し、
特許を取得している。(Lyman 2019)
p.92
その他の核分裂生成物による核燃料の汚染、特に
ルテニウムのような貴金属は、溶融塩に融けないため常時
フィルターで除去せねばならない。そうしないと、こうした
貴金属が原子炉内部の熱交換器などの金属製構造物の上に
集積してしまい、ホット スポットを生み出してしまう。
これは、そうした構造物に損傷をもたらす可能性がある。
(Forsberg 2006) さらにもう1つ厄介な放射性核種として
トリチウムがあり、これは半減期が約12.5年だ。大変移動
しやすい物質で、うまく捕捉することができない。高価な
排出ガス制御システムを用いたとしても、MSRは固形燃料の
原子炉と比べ、通常の稼働でトリチウムをはじめとする各種
放射性同位体をはるかに大量に放出してしまい、しかも
それはほぼ必然的な結果なのだ。
****************
ふう~~ 読みつかれた ・・・
私の20分クロッキー
ではさらに、同論文のAccidentsという箇所から。
p.92
事故
液体燃料MSRの推進者たちは、LWRに対するMSRの利点を
3点挙げており、それらのために事故リスクが減ると主張して
いる。(LeBlanc 2010) まず彼らの主張によれば、固形燃料とは
違って液体燃料は事故でもメルトダウンできない。第2に、
(一部のMSR設計では) 溶融塩燃料が過熱した場合には、
その燃料は迅速に別の容器に流れ込んで冷め、そこに保管される
ので、MSR原子炉はpassive3 safety (人間が介入しなくても
安全を保つ) を確立している。3つ目として、これはナトリウム
冷却の高速原子炉に関する主張と似ているのだが、原子炉の
稼働は大気圧に近い圧力下で行われるので、放射性物質の
環境中への放出リスクが小さく、原子炉の構造も高圧に耐える
必要がないと、推進論者たちは指摘している。この3点それぞれに
ついて、以下で考察する。
*******************
一見、万全な「事故防止策」に見えますよね ・・・ でも:
pp.92-93
<従来の固形核燃料では、燃料はクラディングという容器の
中に収められている> それに対してMSRではもともと燃料が
安定した固体ではなく液体なので浸食性が大変強く、
クラディングもない。MSRでは、核分裂生成物の放出を防ぐ
ための最初の防壁は、<固形燃料炉の場合のような> 燃料棒
<ペレットとクラディングで、この放出を防ぐことになって
います。ページ if-1) にある「LWR(軽水炉)の核燃料棒の例」
という図を参照> ではなく、燃料を収めた原子炉構造物なのだ。
上述のとおり通常の稼働においてさえ、MSRの液体燃料からは
気体の核分裂生成物の放出が続き、それを捕捉するか、いずれは
外部に放出することになる。事故が発生した場合には、
液体燃料が容易に過熱して放射性核種の放出がさらに加速する
危険性がある。だが、溶融塩の物理的特性に関する情報が
ほとんど公開されておらず、こうした事態の放射線発生に関する
問題が明るみに出されていない。さらに溶融塩を高温
(600ºC以上) に保つ必要があり、そうでないと溶融塩が
液体ではなくなってしまう。液体燃料の中のある部分の温度が
低下してしまうと、その溶融塩が結晶化してパイプの内部を
詰めてしまう恐れがある。そうなると冷却材の流れがブロック
され、結局は冷却剤の温度が高くなりすぎるという結果を招き
かねない。(IRSN 2015) 燃料から放射性核種が放出された場合、
それが環境中にまで放出されるかどうかは残る防御壁が機能するか
どうかにかかっている。つまり、原子炉の構造物と排出ガスの
処理システムである。現在入手できる構造物材料では、事故
発生時に発生する場合がある極めて高温の溶融塩を収める能力が、
極めて限られてしまう。そのため、過熱した液体燃料を極めて
急速に冷やす必要がある。そのためたとえば、過熱した液体燃料を
特殊な容器に引き入れる必要があるのだ。そうでないと、
原子炉が破壊されてしまう。そうなると、膨大な量の放射性物質が
環境へと放出されてしまう。
************************
続くpassive safetyに関する記載では、MSRの核燃料が過熱した
場合に融ける「プラグ」について論じています。このプラグが
融けると、重力で液体核燃料が自動的に冷却用タンクに移り、
そこで冷えるという安全策ですね。その問題点を下記は指摘して
いるので、mr-1) で紹介した略図をもう一度お見せします。
p. 93
PASSIVE SAFETY(人の介入が不要な安全性)
冷却機能の喪失が深刻な場合にそれを軽減するため、ほとんどの
MSR設計ではフリーズ プラグという安全のための装置を
備えている。塩を凍らせたプラグを何本か原子炉容器の
底部にある排出口をふさいでいる。冷却が行われなくなった
場合や、外部電源の喪失のために燃料が過熱した場合には、
燃料温度が危険な域に達する前にこうしたプラグが融け、
燃料は迅速に、原子炉容器の下にある冷却用タンクの中に
排出される。こうした冷却用タンクは、その中へと排出された
液体燃料を安全な温度に保ち、臨界に達して再度発電をしない
ような構成になっている。23 このフリーズ プラグの働きは
理論上はシンプルに聞こえるのだが、現実にははるかに複雑だ。
例として、<過熱した> 液体燃料の一部での局所的な崩壊熱
<放射性元素が自然に崩壊していくときに生じる熱> で、
フリーズ プラグを融かすのに充分なのか、あるいは加熱の
ための外部熱源が必要になるのか、明らかではない。
(外部熱源が必要となれば、このメカニズム全体が完全に
passive ではなくなり、その熱減のための外部電源を喪失すれば、
このフリーズ プラグというメカニズムは機能しなくなる)
さらに、この安全メカニズムの効果を判定するには、
<液体燃料が過熱した場合に> プラグが融けて燃料がすべて
タンクへと排出されるには、どれだけの時間を要するのかを
算出せねばならない。炉心からの液体燃料の排出は充分迅速に
行われなければ、炉心を収めている原子炉構造物に破損が
生じてしまう。
p.93
— さらに最近行われた研究によると、「<液体燃料の>
崩壊熱だけで融けるフリーズ プラグという設計は、どうも
実現不能なようだ」(Tiberga et al. 2019) とされている。
このシステムの複雑性を考えるなら、不確実性は高い。
だが、エラーはほとんど許容されないのだ。
*****************
東京・原宿にある教会・・ 「教会建築」の「ありそうな様式」を
超えているので、気に入りました。
過熱 ⇒ プラグが融けるハズ、といった型にはまった理屈には
注意が必要ですよね。
out of the boxな視点が、むしろ現実に合致していることもあります。
私の鉛筆スケッチ
さらに、燃料の違いから「温度に伴う燃料の反応性の変化」という
問題も、絡んできます。
pp.93-94
<温度に対する> 燃料の反応性の変動
passive safety を実現するとされている機能のもう1つとして、
<温度が上がると核燃料の反応性が低下するという>
本性的な負のフィードバック特性がある。つまり、
原子炉の温度が上がり過ぎると、各連鎖反応が収まっていく
という特性だ。<本 “Advanced Isn’t Always Better “ 原著の>
第2章で述べたように、LWR <軽水炉> には、こうした
特性がある。だがMSRでは、このフィードバック特性が
かなり複雑なものになってしまう。<アメリカの>
オーク リッジ国立研究所が開発した thermal <減速させた
中性子線を使う> MSRであるMSREでは、減速材として
グラファイト(黒鉛)を使用していたが、本来は負の
フィードバック<温度が上がると、核反応が小さくなって
いく> を有していたと見られていた。だがこれは、
何十年か後により近代的で正確な技術で測定してみると、
誤りであったと判明した。(Mathieu et al. 2006) さらに、
Transatomic Power社が設計したMSRなど、MSRE以外の
thermal MSRでも、この温度に対する反応性の変化が大変
複雑で、稼働サイクルのある種の段階においては減速材
温度計数 <下の * 参照> やヴォイド係数 <**> が
正になってしまう場合すらありそうだ。 (Robertson et al. 2017)
ヨーロッパの研究者たちは 高速中性子のMSRを追求する
ことを決めたが、その理由の1つとしてthermal のMSRでは
正の反応性フィードバックがあり得るという問題を発見した
ことがある。高速炉であるから、無論 減速材はない。
例として、上で言及したフランスで設計されたMSFR などが
ある。(Mathieu et al. 2009) 固形燃料の高速中性子炉とは
違い、高速MSRでは通常反応性のフィードバックに関する
諸係数がマイナスの値になるのが普通だ。したがって、
安定性に優れる。だが、高速MSRにはほかの安全面での
短所がある。その一例として、冷却が行えなくなった場合
には、大量の液体燃料を <タンクなどへと> 迅速に排出
せねばならない。
******************
* 減速材温度計数
軽水炉の場合、減速材は軽水ですが、その温度が上がれば
水が膨張 ⇒ 密度が低下 ⇒ 中性子が減速されにくくなる ⇒
U235 に吸収される中性子の割合が低下 ⇒ 核分裂反応が低下
という「負のフィードバック」効果を表す係数です。
マイナスの値であれば、炉心温度上昇 ⇒ 反応が低下という
安全性に役立つ効果が得られますが、プラスの値だと
大変なことになりかねない ・・・ お分かりになりますよね。
** ヴォイド係数
本来は、減速材が液体(軽水、重水など)である原子炉の
炉心内部に適用される係数です。減速材中のVoid(気泡)量の
変化にともない、核燃料の反応性が変化するので、それを
表す数値です。つまり、やはり炉内温度が高まると核反応が
小さくなっていくという「負のフィードバック」が安全の
ために必要なので、ヴォイド係数はマイナスの値で
あることが必要です。
さらに、mr-0) で紹介した2022年5月7日付の iMedia という中国の
メディアによる報道では、「炉内に高圧が必要ない」という利点を
述べていましたよね。もう一度、紹介しておきましょう。
溶融塩は大気圧下でも1,000度を超える高温に達し、しかも
液体のままなので、MSRは低圧力下で稼働できる。これにより、
機械の受けるストレスが減り、安全性が向上する。
<軽水炉では、冷却水を高温に保つため、かなりの高圧を
加えます。そのため「圧力容器」なるものがあり、その内部は
高圧なので ⇒ たとえば圧力容器にひびが入ると、内部の
蒸気が放射性物質とともに猛烈に吹き出したりします>
****************
この「高圧不要 ⇒ 安全性向上」という主張についても、
この ”Advanced Isn’t Always Better” では問題を指摘して
らっしゃいます。
ああ、疲れた~~
私の20分クロッキーより
p.94
低圧
MSRは確かにLWRよりも高温で稼働するのだが、稼働する際の
圧力は低い。これは、安全性のためには長所となりえる。IAEAに
よれば、「稼働時の圧力が低ければ、大がかりな破損の危険性を
軽減し、事故の結果としての冷却材喪失も防ぎやすくなる。
そのため、原子炉の安全性が高まる」(IAEA n.d.) だが
<この論文の原文の> 第1章で論じたように、温度と圧力の
両方が急速に上昇するような事故も憂慮すべきである。
さらにシステム内の圧力が低いということは、原子炉内部に
水が侵入しやすいということでもあり、そのため猛烈な水蒸気
爆発が発生するリスクも生じる。(IRSN 2015)
<この論文の原文の> 第1章で論じた HTGR
<High-Temperature Gas-Cooled Reactor、高温ガス炉。
下の * 参照> の場合と同様、thermal MSRの炉内に侵入した
水がグラファイトと反応してしまう危険性もある。そうした
実例として、Terrestrial Energy社のIntegral Molten Salt
Reactor (IMSR) などがある。自然災害のために原子炉が
水浸しになった場合、外部からの圧力のため水が
<圧力の低い> 原子炉内へと侵入してしまう危険性がある。
さらにテロリスト組織なら、炉心へと水をポンプで注入する
だけで、MSRを破壊できてしまう。
**************
* High-Temperature Gas-Cooled Reactor、高温ガス炉
ヘリウム ガスを冷却剤に、減速材としてはグラファイトを
使う高温原子炉。
「プリズム」と呼ばれる従来の原子炉に近い炉心か、
PBR の「ペブル ベッド」炉心(上の黒いメニューで、
ページ シリーズ p-x)参照)かです。
したがって、「やかんをのせたら~~」の新型原子炉関連の
各ページをここまでお読みいただいた方々であれば、
インターネットのHTGR関連のサイトなどをお読みくだされば、
その特徴や問題点などをご自分でご理解いただけるでしょう。
ですので、「やかんをのせたら~~」では、特にHTGR関連の
ページを設けません。
結局、「事故危険性」などに関する結論として、
”Advanced Isn’t Always Better” は以下のように述べています。
p.94
まとめていえば
LWRと比べ、MSRには安全性面での短所がいくつかあるが、
長所は小さなものしかない。短所を挙げるなら、燃料が液体で
あるため、通常の稼働でも炉心から大量の放射性物質が漏れ出し、
事故時にはさらにそれが激しくなる。LWRと比べ、MSRは
核分裂生成物の放出を防止するための防御が弱い。特に排出ガス
処理システムから出る放射性ゴミの中のCs 137などの核分裂
生成物を保管せねばならず、ここからはさらにリスクが増大する。
長所を挙げれば、MSRは低圧で稼働するため、パイプが破断して
大規模な冷却材喪失事故が発生する危険性が少なくなるかも
しれない。だが、溶融塩燃料は高温で出力密度も高いため、
冷却との関連で、パイプ損傷以外の事故が発生する危険性が
増大してしまう恐れがある。MSRでは、そうした事態になった
場合に放射性物質の放出を防止できるか否かは、かなりの部分、
過熱した核燃料を数分以内に排出して構造物の崩壊や核燃料の
蒸発を防止できるか否かにかかっている。だが、passive safety
だけで炉心からの過熱燃料排出ができるのかどうかが、
明確でない。さらにthermalのMSRには、LWRとは異なり
温度に対するマイナスの反応性フィードバックが固有には
備わっていない。そのため、反応性のフィードバックが
プラスになってしまったり、発電が不安定になったりする
恐れがある。長所と短所を考え合わせると、現時点ではMSRが
LWRよりも安全性に優れているという主張を支持できるだけの
納得できる証拠はない。むしろ、その他各種の安全面での
課題を引き起こすような特徴がMSRには見当たり、
しかもそうした課題は深刻なものにもなりえる。
****************
やっと終わり~~
私の20分クロッキー
MSRについてさらに詳しく知りたい読者の皆様は、
この ”Advanced Isn’t Always Better” のpp. 89 – 106 をぜひ
原文でお読みください。強くお勧めします。
ucs-rpt-AR-3.21-web_Mayrev.pdf (ucsusa.org)
にございます。
では、次回は同じく ”Advanced Isn’t Always Better” から、
proliferation risks 関連の記載を紹介します!
「やかんをのせたら~~」の本来のフォーカスですね。