2023年5月
中国の核武装ですが、当初はあくまで 「抑止
のため」、つまり他国に中国を攻撃させない
ための脅威としての核武装という意図だった
そうです。
ですから少なくても近年までは、核による
先制攻撃をしないという方針を宣言して
いました。
巷での話し合いなど聞いていると、
「先制攻撃を絶対しないっていう方針を
守るのなら、日本も核武装して核抑止を
始めた方がいいんじゃないのか?」
といった主張も耳にすることがあります。
核武装するなら、原子力技術や濃縮U、
そして兵器グレードのPuを保持しておく
必要がありますよね。つまり核発電の
廃止なんて、ありえなくなります。
でも、いったん核兵器を保有すると、後で
「抑止」 に必要な程度を超えて増強して
しまう危険性はないのでしょうか??
近年、アメリカの軍事関係者の多くは、
中国がまさしくその 「抑止を超えた
核増強」 に進んでいると見ています。
本ページでは、そうしたアメリカ側の警戒が
明らかな論説などの例を紹介します。
いつもどおり、
私による抜粋・日本語化
< > 内は、私からの補足説明
です。
まずは、
China Is Building Two secret Nuclear
Reactors. Scientists Are Worried.
These aren’t your average reactors.
というテキスト。
Popular Mechanicsというウェブサイトに
あるもので、
Caroline Delbertさんが執筆。
2021年5月25日
China’s Secret Nuclear Reactors: Why Scientists Are Worried (popularmechanics.com)
**************************
・・・(冒頭部、省略)・・・
中国は福建省にあるChangbiaoという
目立たぬ小島で、中核集団 <China
National Nuclear Corporation、なお
「原子力」とは言わず 「核」 と言ってる
点にもご注意。「原子力」 という日本語
が、一種の言葉のまやかしであることに、
気づいてくださいね> が不可解な原子炉
2基を建設中だ。それが、全世界の強い
関心を集めている。憂慮も。
これら原子炉はそれぞれ2023年と2026年
に発電開始の予定で、ともにChina Fast
Reactor 600 (CFR-600) というタイプだ。
これは 「増殖炉」 というもので、消費
する以上の核燃料を核反応によって生成
する。まさにその故に、全世界の科学者
たちが頭を掻きむしっていると、Al
Jazeeraの最近の記事が報じている。
たいていの原発の用途とは、できるだけ
多くの核燃料を消費することにある。
核燃料の製造では、ない。Puを生成する
原子炉なら、なおさらそうだ。Puは、
核兵器への転用が容易なので。
・・・(中略)・・・
中国は、それが気にならないようだ。CFR-600
はナトリウム冷却の高速中性子炉で、
つまり世界の稼働中原子炉の大半のように
水を冷却剤として使用するのではなく、
液化ナトリウムを冷却剤として用いている。
ナトリウムは水と比べて温度幅も大きく、
反応性も少ない。さらに高速中性子は
熱中性子 <減速材を通過して減速した
中性子> よりも本来的にエネルギーが
高い。熱中性子は、温度を制御した媒体の
中に入れておかないと作用しない。高速
中性子炉なら、その媒体が不要だ。
CFR-600内部にある核燃料はMOXで、使用
済み核燃料から取り出したPuと劣化
ウラニウムとで形成されている。中国は
すでに2003年、China Experimental Fast
Reactor (CEFR) <中国高速実験炉> の
設計を開始しており、その発展がこの
CFRだ。今回建設中の2基のCFR-600は
いずれも熱容量と発電容量が 1500 MWtと
600 MWeである。
ここまでは、結構な話だ。何が問題なのか?
まず、高速炉はウラニウムの使用量が多い。
そのため、数十年前、ウラニウム燃料が高価
なので核科学者たちは高速炉を断念したの
だった。
なら、中国はすでに水冷型の軽水炉を
大量に保有しているのに、わざわざ増殖炉
を建設しているのだろうか?軽水炉が従来
からのタイプで、全世界の原子炉の大半は
軽水炉であるのだが。この点で、問題は
さらに複雑になる。 Nonproliferation
Policy Education Center (NPEC、<「戦略
兵器不拡散制作教育センター」 とでも
日本語化すればよいのでしょうか、
アメリカの教育NPOです>) の専門家たち
が著した新しい論考によれば、高速炉は
大量の兵器グレードのプルトニウムを生成
するため、<CFR2基が予定通り稼働する
なら> 中国は2030年までに1,270発の
核弾頭を保有できる。これは、アメリカの
保有している大陸間弾道ミサイルの総弾頭
数に匹敵する。
上述の論考を執筆したアメリカの国際安全
保障と不拡散担当の前次官2名は、世界
諸国の政府に対し、この2基の原子炉が
中国の兵器プログラムにおいてどのような
意味を持っているのか、中国政府に問い
ただすべきだと強く訴えている。
「どんなに少なくても、環太平洋圏
諸国の指導者たちが外交的取り組みを
展開し、本報告書の提唱する取り組み
に努めるタイミングだと、我々は
考えている。<プルトニウムとは>
世界でも最も危険な物質だが、それを
さらに何十トンも生成してしまう、
それも 太平洋圏という世界でも特に
重要かつダイナミック、繁栄している
地域で生成することが適切なのか、
それとも何か他のもっと賢明な選択肢
を選ぶべきなのか、論じ合って
いただきたい」
この両名によれば、中国はそうした話し合い
を行うのではなく、同国はその核プログラム
をさらに不透明にしている。アメリカ、
日本、韓国はいずれも 「民生用」
(つまり、兵器用ではない)プルトニウム
の現状をIAEAに報告しているのだが、
中国は2017年以降していない。上述の論考
も、そうした報告を中国に強く訴えている
のだが。
中国がプルトニウムを増産し、隠している
のは何のためなのか?「現在、中国は
核兵器の大型増産に取り組んでおり、
アメリカの諜報機関の職員たちの公的な
推定によれば中国の保有する核兵器総量は
少なくても2倍に増えてしまう」と、
専門家両名は述べている。さらにPuを増産
することで、核という深刻な兵器がさらに
増えていく。
ことによると、中国としてはPuを大量に
保有する世界主要国と匹敵していると満足
したいだけなのかもしれない。あるいは、
必要なら他国との交渉で利用できる
<今日迫力としての> 力を求めている
だけかもしれない。増殖炉に関する科学者
たちからの疑問視は消えないだろう。特に、
炭素排出ゼロを目指し他の諸国も核発電所
の建設を計画している現状にあっては。
*************************
FBRのブランケットで核種変換により製造
されるPu-239が、PUREXで分離抽出した
Pu-239などと比べて核兵器にしやすいことは
ページ b-7) でも述べました。
しかも、FBRは商業化に関する限り、世界的
に失敗の歴史です。Superphenixにせよ、
もんじゅにせよ。
ワザワザそんなFBRに固執している国が
あれば、やはり嫌疑の目で見ざるを得ません。
その国が中国であれ、日本であれ。
では、アメリカからのテキストをもう1つ。
やはり私の抜粋・日本語化ですが、原文が
長いので一部だけ抜粋しております。
相変わらず、< > 内は私からの補足説明
です。
それと、原文には引用の元を示す [番号} が
あるのですが、以下の日本語訳では割愛して
おります。
The Heritage Foundationのウェブサイトより、
China’s Nuclear Expansion and Its
Implications for U.S. Strategy and Security
というPatty-Jane Gellerさんの文章で、
2022年9月14日のものです。
Center for National Defense (国家防衛
センター) で以前、Senior Policy Analystを
務められた方です。
ここでは一部抜粋しか紹介できないので、
英語の論考を読める方は
China’s Nuclear Expansion and its Implications for U.S. Strategy and Security | The Heritage Foundation
で原文をお読みくださいな。
***************************
・・・(冒頭部、省略)・・・
中国の核の拡大: 最小限の抑止から、戦略
的な爆発的拡大へ
中国は1964年に核兵器を手に入れたが、
それ以降もアメリカは同国に対し、核に
よるパワーバランスという点では優位性を
甘受してきた。歴史的に見て、中国には
最小限度の抑止という姿勢を貫く必要が
あると、中国指導層は考えてきた。つまり
先制攻撃を受けた場合に敵国の都市を攻撃
できるだけの核兵器があればよい、という
立場である。 中国政府の意図が領土への
核攻撃を防止することにあったのなら、
この攻撃を受けた都市などに相当する報復
をするという脅威を身に着ければ、敵国
からの核攻撃を抑止するためには充分で
あった。この敵国とはまずアメリカ、
そして中国と旧ソヴィエト連邦の対立が
始まった以後にはソヴィエト連邦のこと
であった。当初、「少数で効果的に」
というのが中国の核抑止方針を表す用語
であった。他国からの核攻撃を防止し、
核による強制を抑止するための方針で
あった。「少数で効果的に」というのは、
「先制核攻撃をしない」 という公言して
いた国家方針とも整合していた。そのため
中国は紛争に巻き込まれても、決して核
兵器の先制使用はしないと主張していた。
こうした方針に則り、2010年の時点で
中国が保有していた大陸間弾道ミサイル
(ICBM) はわずか約65発であり、加えて
核弾頭にも通常弾頭にも対応する中距離
弾道ミサイルが少数あった。
・・・(中略)・・・
<時代は移り、現在では中国はアメリカに
核武装で肩を並べようとしている様子だが、>
そのために最重要となるのは、アメリカに比肩
するほどの、あるいは凌ぐほどの核兵力を身に
着けることかもしれない。したがってこれは、
世界最高水準の軍事力を育成し世界という
舞台でアメリカに勝る力を得るという、習近平の
戦略には不可欠な要件である。国家の通常
兵力を支える 「裏支え」 として、核兵器を
とらえている。核保有国同士で衝突があった
場合、それが核戦争へと悪化してしまう
危険を考えたうえでしか、攻撃国は攻撃
を展開できない。そのためアメリカと
ロシアは、かなりの核兵力を手にして
以来、深刻な軍事侵略を受けたことが
ないのである。中国は以前には最小限度
の抑止という方針のため、本土への
大規模な攻撃を抑止できていた。だが
アメリカの核兵力の優位性のため、人民
解放軍が深刻な軍事的リスクを担うのが
さらに困難となった。 今となっては、中国
の核兵力が大型化し柔軟性も向上したため
中国は今まで以上に果敢にリスクを冒し、
他国による強制力に屈することを回避
できるようになった。中国の核兵力増強に
よって世界の核兵力バランスが中国に
とって都合の良い方向に傾くなら、中国が
紛争に巻き込まれた場合、アメリカの被る
核災害のコストよりも自国の被るコストの
ほうが小さいと判断すれば、中国は従来
よりも大胆に紛争を拡大することだろう。
中国の核兵力の拡大による影響は、台湾
併合を狙う軍事活動に明らかとなろう。
台湾から第二列島線 <下の * 参照>
に至るまでの攻撃目標地域を破壊できる
核ミサイルを背後に控え (さらに戦略
核兵器部隊は、アメリカ本土までリスクに
晒しうる)、中国は通常兵力での戦闘でも
さらに自信を深め大胆に戦える。台湾を
めぐる戦闘がエスカレートした場合、中国
は核兵力を背景に台湾はもとよりアメリカ
が関与しても、両者に強制力を行使して
撤退を強いることができる。さらに悪い
可能性として、中国にとって好都合な条件
で停戦させるため、核兵器の使用に打って
出る危険性もある。この場合、中国の増強
した核兵力は台湾の併合という目標には
実に好都合であるうえ、インド洋から太平洋
における中国の支配を拡大することにも
つながる。実際、こうしたシナリオに
おいては、中国の核兵力によって紛争の
結末が決まってしまう恐れもある。その他
のシナリオでも中国の増強核兵力が同様に
利用可能で、中国は地域内ならびに世界
での勢力を確保できる。勢力をめぐる
凌ぎあいで、アメリカは中国の核兵力に
よるリスクをこうむることになる。
<* 朝鮮戦争ただ中の1951年に提唱
された太平洋上の対中国防御ラインのこと
で、2本あります。第一列島線は鹿児島の
南から台湾東岸 ⇒ フィリピン北岸 ⇒
ブルネイとマレーシアの北岸 ⇒ ベトナム
南部東岸へと至ります。第二列島線は静岡
沖から南に延び、インドネシア東部の北岸
へと走ります。>
アメリカの戦略と安全保障にとっての
意味合い
中国の核兵力の増強そして核兵力が通常
兵力の下支えとなることには、アメリカが
中国と競っていくうえで、深刻な意味が
ある。まず、アメリカは中国に対し、核に
よる強制力を行使できなくなる。また、
中国からの核による強制力も受けることに
なろう。アメリカが中国との軍事的危機や
衝突を経験した場合、関連する意思決定の
プロセスでは、中国の核兵力も計算に
入れることが必要となる。そうなると
アメリカ軍も、核戦争へのエスカレー
ションを気にせずに自由に行動することは
できなくなる。中国の核兵力がアメリカを
上回らずとも、比肩するほどとなれば、
アメリカ軍は中国の核の陰に肝を冷やし
ながら慎重に行動せざるを得なくなるのだ。
・・・(中略)・・・
・・・ <中国の台湾進攻が始まった場合に>
アメリカ軍が台湾の防衛に参加するなら、
習近平はロシアのヴラディミール プーティン
大統領の格言集からページを引用し、さらに
自信をもって 「未曽有の事態を招くことに
なるぞ」 と脅すことができよう。これは、
ロシア軍がウクライナへの侵略を開始した
際に使った脅し文句だった。実際、
ウクライナ戦争でNATOが今まで戦争の
エスカレーションにつながりかねない
行動をすることに抵抗を示してきている
ように、東アジア地域では中国が核兵力に
おける優位性を得ているがために、
アメリカ軍やその同盟諸国は台湾侵略
への介入に二の足を踏む恐れがある。
核保有国同士の衝突を回避したいためだ。
人民解放軍の2020 年Science ofMilitary
Strategy <軍事戦略の科学 という
出版物> にも、危機時に脅威を感じさせ、
あるいは中国側の決意を伝えるための
「デモンストレーション攻撃」 として
核兵器を発射することに関する記載がある。
・・・
・・・(中略)・・・
次に、中国とアメリカとの間の核兵力のバランス
が中国側に傾くなら、軍事紛争で実際に核兵器
を使用しようとする誘惑を、中国は感じやすく
なる恐れがある。例として、中国軍が通常
兵器の戦闘で劣勢にあると判断した場合、
核兵器の限定的使用が適切だと判断する
可能性もある。中国がこうした戦略を意図
的に選ぶ危険性さえあり、人民解放軍の指導
者の一部は 「核の先制攻撃はしない」 と
いう姿勢を放棄せよと提唱しており、
そうした現状ではあり得る危険性だ。・・・
・・・(中略)・・・
第三に、中国の核兵力増強により、アメリカ
の核の傘による拡大抑止という取り組みの
信頼性が失われる恐れもある。アメリカ本土
が中国からの核攻撃を受ける危険性が高まる
と、東アジア地域のアメリカ同盟国が攻撃を
受けてもアメリカが防衛に参戦する意欲を
失っていくと、中国が認識する可能性が
ある。つまり、台北やソウル、東京の防衛の
ためにロサンゼルスが攻撃されてしまう
<のはごめんだ> というわけだ。言い
換えれば、中国はICBM兵力をはじめ戦略
核兵力でアメリカ本土をリスクに晒し、
それによってアメリカとその同盟諸国の
つながりを切り離す危険性があるのだ。
あるいは逆に、中距離核兵器でアメリカの
同盟諸国のみを脅し、アメリカから同盟
諸国を切り離す危険性もある。つまり、
アメリカ本土には脅威を及ぼさないことで
アメリカの同盟諸国防衛のための意欲を
そぐわけだ。これは、1970年代に当時の
ソヴィエト連邦がヨーロッパにSS-20
パイオニアという核ミサイルを配備した
戦略の模擬である。これは、ヨーロッパ
での衝突からアメリカを排除しようという
狙いだった。インド洋・太平洋にアメリカ
の核兵力がなくなり、しかも中国の核兵力
が拡大するならば、同盟諸国もアメリカの
核の傘への信頼を失う恐れがある。日本
なり台湾なりが、有事の際にアメリカ軍が
助けに来てはくれないと考えるように
なれば、自国で独自に核兵力を構築する
能力がこうした諸国にはある。アメリカの
核兵器不拡散のための努力が無駄になり
かねない。
最後に、中国の核兵力のため、何らかの
誤算のため紛争が意図せずに核使用レベル
にまでエスカレートしてしまう可能性も
ある。 ・・・
・・・(中略)・・・
・・・ アメリカ軍が中国の核・通常兵器療法を
使用できるシステムを攻撃した場合、その
攻撃を中国は報復能力への脅威と認識、
抑止力維持のために核の先制攻撃をして
しまうリスクもある ・・・
・・・・以下略
*********************
あの映画、陰鬱・・・
私の昔の点描作品
1959年の映画で On the Beachという、
核戦争によって全世界の生命体が滅んで
いく様子を描いた黙示文学的な悲劇が
ありましたよね。
その2000年バージョンでは、核戦争を
展開するのはアメリカ VS 中国という
設定だったと覚えております。
映画はあくまで、映画のままで終わって
ほしいものです。
現実には、核兵器というものがある限り、
上に紹介したようなリスクはいずれ生じて
しまうものでしょうし、実際にこうして
発生しつつあるわけですね。
やはり、核は廃絶するしか選択がない
ですね。
ではこれで、新たな発見事項でもない限り
ページ シリーズ b-x) は終わりとします。
いわゆる「核保有5大国」のいずれに
おいても、核発電と核兵器が不可分で
あったという事実をご理解いただけ
ましたでしょうか?
ご質問・ご意見などあれば、私 (ひで)
まで:
yadokari_ermite[at]yahoo.co.jp