下の7月21日に前半を紹介したユーメン近郊でのサイロ新設?報道に関する
Fred Kaplanさんの論考、後半を私の日本語化で紹介します。
記事本文は、
https://slate.com/news-and-politics/2021/07/nuclear-weapons-china-missiles-yumen.html
にございます。
第2に、アメリカは以前から弾道ミサイルに対する防衛システムの開発を進めてきている。そうした防衛システムの効果は、テスト結果からはあまり芳しくはないが、 軍の指導層というものは敵国の兵器などについては控えめな見方をするものだ。つまり、中国やロシアの軍指導層は、アメリカのミサイル防衛システムがかなりの効果を有しているものと想定することであろう。アメリカからの先制攻撃を抑止するためには、先制攻撃を受けても生き残るよう1,000基の核兵器が必要であるとロシアや中国が判断していると想定しよう。加えて、アメリカのミサイル防衛システムがミサイルを500基破壊すると彼らが考えているとすれば、実は合計で1,500基の核兵器が必要だ、との計算になる。(こうした数値はあくまで説明のためだけの例であり、要は敵国がこちらが発射したミサイルの一部を撃墜できると判断したなら、その分を埋め合わせようとさらにミサイルを製造することを決定しやすい、ということだ)
第3に、今回の120基のICBMを追加したところで、中国の核兵器備蓄はなお、アメリカやロシアに比べれば子供のようなものに過ぎない。ICBMも爆撃機搭載用も潜水艦発射も併せて、現時点で中国が保有する核弾頭でアメリカを攻撃できるものは300個ほどである。それに対しアメリカが保有している核弾頭で中国を攻撃できるものは、2,000個を超えている。今回中国で発見された120か所のサイロすべてに核ミサイルを装備しても、各軍事面でのバランスが変わることはない。
ではそもそも、中国は何のためにサイロなど新設しているのだろうか?やはり可能性が最も高い答えとして、アメリカが中国に先制攻撃を仕掛けてきた場合、300ほどの核兵器でアメリカに反撃を行う能力を維持しておきたいのだ。軍事専門家の大半は、タカ派の人たちも含め、長年中国は「最初限度の抑止」戦略を採用しているものと見なしてきている。つまり、敵国が中国を攻撃しないよう、抑止するのに充分なだけの核兵器を保持しておく、という戦略だ。今回のサイロ新設も、世界情勢が変化する中でアメリカからの先制攻撃抑止を維持するにはどれだけの核兵器が必要なのか、その計算を中国がやり直したに過ぎない可能性もあるのだ。
佐賀、新しいミサイルをサイロに配置するのは、なぜか?DF-41は本来、移動発射式ミサイルなのだ。移動発車式ミサイルの利点として、存在位置を敵に知られることがなく、そのため敵からの攻撃を受けにくい。逆にサイロ発射型ミサイルの弱点とは、位置が固定しているため、どこにあるかを敵国が正確に把握できることだ。したがって、敵からの攻撃を受けやすく、特にTrident IIでの攻撃は容易だ。
だが、移動式ミサイルにも欠点はある。維持に費用がかかり、固定発車式と比べると精度が劣る。つまり、標的に命中する確率が下がるのだ。
ことによると、中国はアメリカからヒントを得たのかもしれない。もう何年も昔のことだが、今のアメリカでいえばMinuteman III のようなサイロ発射式ミサイルしか、敵のミサイル用サイロを破壊できるだけの爆破力と速度と精度とがある核兵器を、アメリカが保有していなかった時代があった。だが、1990年代にTrident IIの配備が実現したころには、アメリカの潜水艦発射ミサイルはまさしく敵のサイロ破壊が可能であった。今では実際のところ、アメリカの戦争プランにおいては、陸上発射型のICBMで何らかの標的を叩く必要はなくなっている。陸上発射型ミサイルを配備する唯一の理由は、敵からの先制攻撃を「複雑なものにする」ということだ。アメリカの抑止力を強化するうえで、軍部高官たちは「スポンジ理論」(すぐ次の段落で説明)を公に口に出している。
そのスポンジ理論とは、次のような主張だ。陸上発射型のICBMがなければ、敵国が破壊すべきアメリカ本土内の標的は6か所ほどだけで済んでしまう。それだけで、アメリカの核兵器インフラストラクチャーを壊滅させることができるのだ。つまり、潜水艦港2か所、爆撃機基地2-3か所、そして「国家指揮最高部」(ワシントンのことを指す婉曲表現)である。その損害は些細なものなので、アメリカ大統領は報復を命じない。報復してしまえば、ロシアはさらに大掛かりな核兵器で攻撃してくると分かっているためだ。それに対し、ICBMを400基維持しておけば、敵国はそれも攻撃せねばならなくなる。しかも、各標的に2つの核弾頭が必要となる公算が高い。(1発目の核弾頭があまり効果を発揮しない場合に備えてのことだ) 合計で800発の核弾頭をアメリカめがけて発射すれば、明らかに本格的な攻撃であり、アメリカ大統領も報復を命じることになる。それが分かっていれば、敵国の首脳も先制攻撃をそもそも思いとどまることになろう。
これは実に奇妙な主張だ。まず、上述の6か所ほどに核攻撃を加えれば、アメリカ市民が何十万人と命を落とすことになろう。標的の中にワシントンも含まれていれば、その犠牲者数は数百万に達する。それでもアメリカ大統領が報復してこないと想定するのは、イカれたギャンブルだ。次に、そうした6か所の標的を攻撃しても、致命的な損害にはならない。潜水艦港2か所を喪失しても、アメリカはなおなん十隻もの潜水艦を海洋に有している。それだけの数の潜水艦が、何千発もの核弾頭を発射できるのだ。
それでもなお、敵にとっての標的を増設しておくことに何らかの意味があるものと想定してみよう。それにより、敵国はわずかなミサイルで核の「王手」へとアメリカを追い詰めることができなくなる、と仮定してみよう。それこそ、中国の今回の動きの意図なのかもしれない。つまり、アメリカの将軍たちの思考をまねて、中国流のスポンジ理論を実行している、ということだ。アメリカの考えが、ミサイル用サイロを増やせば、つまりアメリカ本土にある標的を増設すれば、ロシアや中国の核先制攻撃を抑止できるというものであるのなら、中国としても120か所のサイロを中国国内に新設しておけば、同じようにアメリカからの先制核攻撃を抑止できると踏んだのかもしれない。
以上の論考は、中国が攻撃的な行為に出ていることを否定するものでは、まったくない。特に、台湾海峡そして南シナ海での行動は懸念の対象だ。だが、中国がアメリカに対して先制核攻撃を計画している、あるいはその可能性がある、という根拠となるものはまったく見受けられない。あるいは、中国が核兵器を増大しているからと言って、アメリカも核兵器備蓄を増やさねばならないという根拠も見当たらない。そうした野心的攻撃を抑止して余りあるだけの核兵器を、アメリカはすでに有している。さらに、どこかの国の首脳が乱心したとしても、どの将軍であれ必要だと考えるだけの標的をすべて攻撃できる以上の核兵器を、アメリカはすでに持っているのだ。
アメリカの高官たちは、諜報データの中でも特に機密性の高いデータを利用できるのだから、アメリカの行動(中国の目に、それがどう映るのか)への対応として中国が今回のサイロ増設に踏み切ったのではないか、という可能性を検討・研究してみるべきだ。両国が新たな核武装競争に血道をあげるようになってしまう前に、そうした検討を行うべきだ。
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確かに、中国が核兵器増やす! → こちらも増やさないと、核抑止バランスが崩れる! といった発作的な論調がまかり通っては、困りますよね。
いずれにせよ、核抑止という概念は現在の「核兵器・核発電体制」の根底にあるものなので、今後も各種論考を取り上げ、紹介してまいりますね。
次回は、このユーメン近郊の「新建造物」は実は何なのか?中国側の主張も紹介します。