Bulletin of the Atomic Scientists
https://thebulletin.org/2023/08/there-should-be-no-saudi-uranium-enrichment/
下の2023年9月24日付記事で、
サウディ アラビアでのアメリカ技術に
よるU濃縮をイスラエルが容認するか
否か、というかなり深刻な問題を紹介
しました。中東の平和に強くかかわる
問題でして、しかも日本は原油での中東
依存率が極めて高いとエネ庁も認めて
いる
(日本のエネルギーと中東諸国~安定供給に向けた国際的な取り組み|エネルギー安全保障・資源|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp))
のに、日本語メディアがこの問題を
あまり紹介していないのは、どういう
ことなのでしょうかねえ??
このU濃縮計画について、「終末時計」
で有名な Bulletin of the Atomic Scientists
には、すでに2023年8月28日付で
批判が発表されていました。
Victor Gilinskyさんという物理学者による
もので、彼はフォード、カーター、
レーガンの各政権時にアメリカの原子力
規制委員会のコミッショナーを務めて
いました。
それを、いつもどおり
私の抜粋・日本語化
< > 内は私からの補足説明
でお届けしますね。
*****************************
中東の安全保障のための「グランド
取引」をアメリカが進めており、それが
話題として関心を集めている。その取引
の主眼となっているのが、イスラエルと
サウディ アラビア間の国交正常化だ。
今の状況にあってジョー バイデンが
この取引を進めている真意は、明らか
ではない。言うまでもなく、この取引の
目標とは中東での平和という今までに
実現したためしのない理想の追求に
関連したものだ。だがどうも、この
取引の真意は中国の影響力からサウディ
を遠ざけることにあるのでは、と
思われる節がある。1つ明確な事実と
して、バイデン政権の担当者たちは
上院でのロビー活動に躍起で、サウディ
のモハメド ビン サルマン皇太子から
のかなり無理な要望の一部を認めさせ
ようと努めている。そうした要請の
1つとして、皇太子はサウディでの
ウラニウム濃縮技術の利用を求めている。
表向きは、将来のサウディの原発で使う
燃料を確保するためだ。確かに、
ウラニウム濃縮は核燃料製造の中の
ステップの1つだ。同時に、核兵器
製造のための2種類あるプロセスの
1つでもある。
恒例のように、「現実主義者たち」の
主張では、パートナー諸国に対しては
あまり厳格に対応すべきではない。
サウディの核に対する食指をアメリカ
が拒否してしまうと、ロシアや中国が
割って入ってしまい、アメリカの中東
での影響力は低下してしまうだろう。
だがそうした「現実主義的な」外交
政策の今までの実績を見ると、決して
その成果は優れたものではない。
この皇太子の不当な要求をそのままに
しておくのは、危険がありすぎる。
同皇太子は、<元は> 民生用の
核エネルギー プロジェクトであっても
他に転用する可能性を恥ずかしくも
なく明言していた。2018年のCBS
Newsでのインタビューでのことだ。
彼はこう述べた。「サウディ
アラビアは、核爆弾を一切手に入れ
たくはない。だがもしイランが
核爆弾を開発した場合には、可能な
限り早急にサウディもそれに続く。
これは、疑いようのないことだ」
そうした事態になって、核開発を行う
日が来るのを待っているのだろうか?
国際的なシステムによってイランの
核兵器開発をやめさせるという選択に
ついては、皇太子は全く言及して
いない。すぐにでも核兵器開発に
転用できるような核エネルギー
プログラムを彼は望んでいるのだ。
まあ、皇太子の核関連の計画は、
そうした露骨なものだけではない。
彼の発言によれば、国内のウラニウム
を使用したいそうだ。サウディ国内
には、大量のウラニウム鉱山がある
という。それを使用して民生用原子炉
の燃料としたいようだ。国内で核燃料
を製造したいので、濃縮技術が必要
なのだ、という。だがそうした
サウディの主張とは裏腹に、実は
同国にはウラニウム鉱山はあまりない。
最近の報告書いくつかによれば、
地質学者のチームがウラン鉱脈を探す
べくサウディに送り込まれたのだが、
全く成果なく戻って来たそうだ。だが
それでも、この皇太子は濃縮への関心を
失ってはいない。この事実だけからでも
彼の真意が窺える。そしてその真の
意図に基づき、彼はアメリカの支援を
求めているのだ。他国からそうした
強力な嫌疑の目を向けられていること
に当惑したサウディは、対応として
核施設などの監視をある程度強化して
くれても構わないと言い出した。
皮肉なことに、アメリカ議会が多少
顔をしかめながらも、こうした監視
強化策を承認してくれることを
サウディは望んでいる。
アレコレ制限のついた濃縮でもよい
から濃縮をこの取引に含めよと
サウディが固執しているのだが、
だからといってアメリカとサウディが
それから「ワンツースリー(123)」
で核協力を進めていくとは限らない
じゃないか、と考える読者諸氏も
おられよう。(アメリカとサウディが
実質的な核関連の通称を始めるには、
アメリカのAtomic Energy Act
<核エネルギー法> の第123条に準拠
せねばならない。 こんなことは常識
なのだが、アメリカ政府での核関連
政策という問題になると、こうした
常識があてにならない。強力なロビー
団代が議会で蠢いており、何年間も
原子炉の中東への販売許可を求め、
さらにそのための巨額の補助金を
催促している。エネルギー相や
国務省もそれを支持しており、
国際的な safeguards <転用防止策>
で民生用核エネルギー施設の転用を
防げるはずだと主張している。核
エネルギー政策での公式な方針とは、
いまだに <1953年の> Atoms for
Peace, <核の平和利用> なのだ。
アイゼンハワー大統領が <国連総会
での>演説でそれを提唱した時以来、
変わっていない。思い返していただき
たいのだが、ジョージ W ブッシュ
前大統領 <在任2001年ー2009年>
はイランの発電用原子炉についてさえ
それ自体は全く適正なものだと述べて
いた。
これが実に問題なのだが、アメリカ議会
には、核技術を正しく理解している
人間は、ほとんどいない。安全だ、
炭素排出のないエネルギー源だ、と
いった核推進勢力の主張を聞いて、
舞い上がってしまうのだ。特に、
「小型」や「モジュール式」、
「改良型」といった形容詞を耳に
すると、真に受けてしまうのである。
国際情勢を議会で論じるにしても、
「核エネルギーにおけるアメリカの
競争力を回復する」以上の話し合い
は、ほとんどなされない。
さらに国際的なsafeguardsつまり
IAEAによる監査システムには限界が
あることについても、理解はほとんど
見られない。(たとえば、サウディが
何か <IAEAの> ルールを破った場合、
現実にはどこに訴えられるという
のか?) サウディ アラビアは
あらゆる方策を講じて自国の
safeguards関連の任務を最小限度に
抑えようと努めてきているが、
ここからも同国のIAEAに対する姿勢
が窺える。そうした最小責任という
方策そのものは、確かにIAEAの要件
に違反するものではない。だがある
国が自国の核発電が非軍事目的である
ことを実証したいのであれば、
proliferation<民生用核技術や物質が
核兵器にあくっ用されてしまうという
意味での、核拡散> 防止対策にもっと
積極的に協力するべきだ。
この点で、2008年のアメリカとインド間
で締結された民生用核合意を忘れては
ならない。大統領も議会も中国に対抗
するうえでの同盟国が得られる、しかも
何十基も原子炉を販売できるという
展望に浮かれてしまうと、アメリカの
国際的な核政策が脱線してしまいかね
ない、。という実例がこの核合意
だったのだ。このインドとの核合意は
核比較さん条約に横穴を開ける結果と
なり、しかも原子炉の販売は1つも
実現していない。.<この合意以前
には、インドの核実験を受けアメリカ
はインドへの核技術や核物質の輸出
などを制限していました。しかしこの
合意の結果、ウラニウム濃縮や
プルトニウム抽出に転用できる技術を
インドに提供できる結果になって
しまったようです>
サウディも、アメリカに減速に関する
妥協をさせることが可能だと分かって
いる。最近も、人権や石油価格に
関してアメリカ大統領に苦汁を飲ま
せた。<石油価格と引き換えに、
人権問題での妥協がありましたよね。
英語報道ですが、
Oil vs human rights: Biden’s controversial mission to Saudi Arabia | Financial Times (ft.com)
参照> したがって、第123条に
基づく合意であっても、ウラニウム
濃縮を認めさせたいという姿勢を
弱めることはなさそうだ。ホワイト
ハウスはそれを受け入れるための
方策を探すだろうが、同時に何らか
の製薬、もしくは製薬のように
見える規定を取り入れるだろう。
たとえばパレスティナ人の人権の
ような「甘味料」を取引に加える
のだ。それに騙され、上下院の議員
たちもこのアメリカとサウディ間の
合意にウラニウム濃縮を受け入れる
というわけだ。
それを妨害するのは、誰だろうか?
共和党では、ありえない。共和党は
ソモソモ、サウディのことが好きだ。
唯一考えられる妨害者として、
イスラエルがいる。サウディとの
合意がウラニウム濃縮を含む場合、
イスラエルがそれに反対する可能性
があるのだ。イスラエルの野党指導者
Yair Lapidが、最近イスラエルを
訪問したアメリカ民主党の議員団に
対し、サウディでのウラニウム濃縮を
含むサウディとイスラエルの外交関係
正常化取引には反対すると告げた。
そうした濃縮が行われれば、
イスラエルの安全保障上にとって有害
となりえるためだ。だが今までの
ところ、イスラエル政府つまり
ネタニヤフ首相からの応答が、
あいまいなのだ。
誰かが、立ち上がる必要がある。
アメリカはサウディでのウラニウム
濃縮にノーというだけでなく、
そもそもサウディ アラビアにある
原子炉という事実そのものを考え直す
必要がある。サウディに原子炉があり、
しかも同国は使用済み核燃料から
プルトニウムを抽出する再処理施設も
欲しがるのは確実だ。この両者が
そろえば、<ウラニウム型ではなく>
もう一種の核兵器つまりプルトニウム型
を作る道が開かれてしまう。
中東には、常に紛争の火種が絶えない。
そんな地域に、原子炉はあってはなら
ない。中東では既に今まで、原子炉が
空爆の標的とされたことが幾度も
あった。ロシア軍がウクライナの
ザポリージャ原発を占拠したが、それに
よって安全面での問題が発生している。
その現実からも、我々は学ぶべきだ。
紛争の危険性がある地域には、原子炉は
あってはならない。
今回のアメリカとサウディ間の合意に
対する最終的な反証とは、この皇太子
その人なのだ。彼は王位継承権を有し
すでに実質的には王である。その彼が
ウソつきで忌まわしい殺人者なのだ。
サウディ アラビアは現代的な国家の
ような体裁をしているが、実は
原始的な国家であり、王の権力の
乱用を防止できるようなチェックが
できない。王が法を定め、王の命令
がルールとなり、最高裁判官も王で
ある。英国の王が13世紀に放棄した
権力を、サウディの王はいまだに保持
している。サウディ アラビアが核
エネルギーを利用しても安全な国家に
なるまでには、長い道のりがあるのだ。
***********************************
地域の安定性や民主制も、核発電を
利用するための必須条件だとする主張
は納得できますよね。日本に暮らす人
であれば、「将軍様王朝」という独裁
国家の核兵器が常に不安の種になって
いますもんね。
ただ、日本自体もはたして原発を
再稼働できるだけの安全で民主的な
国家なのか、常に私たち市民が目を
光らせていませんとね。
それと、アメリカ議会で核技術を
正しく理解している人が極めて
少ないという指摘、この著者自身が
アメリカのNuclear Regulatory
Commissionのコミッショナーを長
年務められた方だけに、悪寒が走り
ますよね。日本の政界にも、「新型
の小型原子炉なら、メルトダウン
しない」とSMR導入を提唱して
いた幹事長がいましたよね。
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