2020年10月
d-3) では、ウラニウム濃縮には「発電用燃料の濃度を超えて、
核兵器グレードの濃度(90%以上)に濃縮してしまうリスク」が
付きまとうことを示しました。
その懸念が現実の濃縮工場で現われたと見られる実例の1つが、
イランのナタンズというところにあるウラン濃縮施設で発生しました。
2010年秋のことでした。
遠心分離器にご用心
英語版WikipediaのStuxnetというページ(https://en.wikipedia.org/wiki/Stuxnet)で、中ほどのNatanz nuclear facilitiesという箇所によれば:
この秋、濃縮用遠心分離機の処理キャパシティが30%ほど低下していた。
さらに同年11月23日までに、濃縮作業が数回停止していた。
その遠心分離機を制御していたコンピューターが、Stuxnetというワームに
感染していたといわれている。このワームのため分離機が異常な稼働をし、
故障してしまった、というのである。
さらに同じページの Iranian reactionという個所によると:
An analysis by the FAS demonstrates that Iran’s enrichment capacity grew during
2010.The study indicated that Iran’s centrifuges appeared to be performing 60%
better than in the previous year, which would significantly reduce Tehran’s
time to produce bomb-grade uranium. The FAS report was reviewed by
an official with the IAEA who affirmed the study.
(FAS [Federation of American Scientists、米国科学者連盟] の分析により、2010年にはイランのウラン濃縮キャパシティが増大していたことが明らかになった。
その分析によると、イランの遠心分離機の稼働は前年より60%も増大しており、
そのため同国が兵器グレードの濃縮ウランを製造するための期間が大幅に短縮される。このFASによる報告書をIAEAの役員もレビューしており、その研究内容を認めている)― 日本語中の赤字は、私が設定したものです。
要するに、ウラン濃縮施設では看板が「発電用」と言っているとしても、
内密に兵器グレードまでの濃縮もできてしまう、それが大きな懸念だったので、
何者かがStuxnetを感染させたのではないか?って事件でした。
じゃあ、だれが??
確定的なことは私にはわからないのですが、有名なエドワード
スノーデンさんが2013年7月に述べたところでは、アメリカとイスラエルが
共同でStuxnetを開発した、とのことです。(英語Wikipediaの同じページの
Joint effort and other states and targets という個所)
なお、ナタンズと同じころに北朝鮮の核施設にもStuxnetを感染させようと
いう作戦があったそうです。(英語Wikipediaの同じページの Deployment
in North Koreaという個所)でも、これは失敗に終わったとのこと。
そして10年後
今年(2020年)の6-7月にも、やはりナタンズやその他のイランの
核施設(ウラン濃縮やミサイルの施設も含む)で、火災や爆発がありました。
特に、ナタンズの地上部分にある濃縮用遠心分離機の多くが、破壊された
そうです。これについても、イスラエルの関与を指摘する声もあります。
(英語Wikipediaの2020 Iran explosion というページ、 https://en.wikipedia.org/wiki/2020_Iran_explosions )
この爆発事件に関するアル ジャジーラの報道は、 https://www.aljazeera.com/news/2020/8/23/iran-says-sabotage-caused-explosion-at-natanz-nuclear-site にございます。(英語)
謎の多い2つの事件ですが、要するにウラニウム濃縮施設がこれだけ
狙われたという事実は、核兵器用グレードへの濃縮も可能だからですね。
ページ d-5) では、「余り物」のはずのU238までもが、「兵器」に悪用されている実例を取り上げます。