u-6) (ウクライナ) もう一度核を~~

u-6) (ウクライナ) もう一度核を~~

2024年12月

Bulletin of the Atomic Scientists
(Dooms Day Clockで有名ですよね)
“NATO or Nukes”: Why Ukraine’s nuclear revival refuses to die – Bulletin of the Atomic Scientists

”NATO or Nukes”: Why
Ukraine’s nuclear revival
refuses to die
(NATO加盟か、核兵器保有か: ウク
ライナの核兵器を再度保有せよ
という動きが消えないのは、
なぜか?)

日本語メディアでも取り上げられた
本件、皆様もご関心がおありと思い
ます。
ご存じのとおり、ウクライナは
1994年にいったん核兵器を放棄した
のですが、ロシアの侵略を受け再度
核兵器を保有するかも、とほのめかし
ていますよね。
その真意とは?
ハーヴァード大学ケネディー
スクールのBelfer Centerという国際
問題などの研究センターで上級研究員
を務めるMariana Budjerynさんに
よる考察を、Bulletin of the Atomic
Scientistsに見つけました。

「捨てろ」と言われても、その辺にポイってわけには~~

世界の現実においては、ある国が
核兵器を放棄するにしても、アレコレ
面倒な問題が伴うことが良く分かる
考察です。

いつもどおり私が日本語化
して紹介しますね。
<  >内は、私からの補足説明です。
*************************

2024年11月1日

このところ、ウクライナのヴォロディ
ミール ゼレンスキー大統領は同国が
再び核武装する可能性をほのめかして
おり、国際社会の驚嘆を招いている。

10月17日にブリュッセルで開催された
欧州評議会(European Council)の
会議で、ゼレンスキーは1994年のブダ
ペスト合意 <あるいは「ブダペスト
覚書」、Budapest Memorandum> の
定めるウクライナの核兵器放棄を取り
上げた。旧ソヴィエト連邦から <その
崩壊後にウクライナが引き継いだ>
核兵器をウクライナが放棄する代わり
に、アメリカ、英国、ロシアという
核兵器保有国からウクライナの安全
保障に取り組んでもらう、という
合意であった。<ウクライナは
旧ソヴィエト連邦を構成していた国家
の1つで、1991年末のソヴィエト崩壊
で独立しました>  (中国とフランス
も別の文書で、同様のウクライナの安全
保障への取り組みを約束した) この
ブダペスト合意の約束だが、ロシアに
よるウクライナ侵略により、誰の目にも
明らかに破られてしまった。そこで
ゼレンスキーは2つの選択肢の概略を
示した。「ウクライナが核兵器を保有
するか、NATOに加盟するかのいずれ
かだ。核兵器は抑止力になる。現時点
で、NATOは戦争状態にはない。NATO
加盟諸国で、戦争による死者はいない。
だからこそ、ウクライナとしては
核兵器保有よりもNATO加盟を
優先するのだ」

「持つぞ~~ いや、ジョーダンです」

同日、9月下旬に同大統領がアメリカを
訪問した際、<当時アメリカの大統領
候補であった> ドナルド トランプにも
同様のことを話したとも明らかにした。
さらにトランプからの反応として、
ゼレンスキーの考えは理に適ったものだ
と言われたとも、述べた。

だが同じ日の後ほどNATOのマーク
ルッテ(Mark Rutte)事務総長と
ともに行った記者会見では、ゼレン
スキーは発言を後退させた。ウク
ライナには、核兵器を求める意図はない
としたのだ。ウクライナの外務省も、
核不拡散条約(NPT)の非核兵器保有国
としてウクライナは核の不拡散に尽力
していると、別の声明で慌てて
発表した。

ゼレンスキーの発言は、信頼できる
脅迫とも取れれば、西側諸国からウク
ライナをNATOに加盟させようという
意図の動きを引き起こすためのやむを
得ないブラッフとも解釈できる。NATO
加盟は、同大統領が先日発表した「勝利
への計画」の最重要事項である。だが
実際には、彼の発言は上記のいずれでも
あるまい。発言の真意とは、1990年代
前半にウクライナが信義に基づき核兵器
不拡散に貢献したこと、現在ではウク
ライナの安全保障が深刻に脅かされて
いること、したがってウクライナの長期
的な安全保障を実現するソリューション
を見つけヨーロッパの持続する平和を
実現する必要性を、世界に思い起こ
させることにあったとも見られる。

ミサイルは放棄したけど、もう一度 ・・・


そして再び、「
NATO加盟か、
核保有か」  ゼレンスキーの提言は、
ウクライナにとって新しいものでは
ない。2014年にロシアがクリミア半島
を占拠・併合するとともに、<ウク
ライナ東端の> ドンバス地方でも
きな臭さを漂わせた。その時点で既に、
ウクライナの政治家の一部はNPTから
の脱退とウクライナの核開発プログラム
の再開とを求めだした。2021年春に
なるとウクライナとの国境地帯に大量の
ロシア軍が集結したが、当時のウク
ライナの対ドイツ大使であったAndriy
Melnykは、ウクライナがNATOに加盟
できない場合にはウクライナには
「軍備を増強する、場合によっては再度
核装備することも検討する」しか選択肢
が残っていない、しかも「そうしな
ければ、どうしてウクライナは国を
守れるのか?」という発言をしたのだが
そのために同大使は非難を浴びること
となった。

2022年2月19日、ロシアがウクライナ
への全面的侵略を開始した僅か5日前
には、 ミュンヘン安全保障会議
<1963年以来毎年開催されてきて
いる、国際安全保障に関する国際
会議> においてゼレンスキーは演説を
したのだが、それが似たような内容で
あった。ウクライナが安全補償の確約
を得られないのであれば、「ブダペスト
合意が機能していないと認識しても、
当然である。1994年に締結された安全
保障に関する決定事項のパッケージ
すべてにも疑惑の目が向けられる」と
いった主旨であった。ウクライナに
よる核兵器放棄とNPTのメンバーで
あることに関する発言だった。

90%越えのU濃縮、または高純度のPu-239の再処理での抽出、いずれかができないと核兵器は製造できません
* それにしても、日本政府が再処理にこだわっているのは、なんのため?


ウクライナの核兵器?おそらく、

あるまい。  今になって、ゼレン
スキーは「NATO加盟か、核保有か」
という提言を再度持ち出してきた。
アメリカの同盟諸国・パートナー諸国
の一部は昔から、定型的なプレイ
ブックのあるページを踏襲し、成功を
収めてきた。つまり、アメリカに
核兵器の拡散という不安を引き起こす
→ 核を諦める代わりにアメリカに
よる安全保障の確約を取り付ける
という取引だ。今回のウクライナが
NATO加盟を求めているやり方も
そうした取引と理解しうるし、
冷戦時代の西ドイツ <旧ソヴィエト
があった時代、その陣営はアメリカ
率いる資本主義陣営と対立していまし
たが、それを「冷戦」と呼んで
いました。その時代、ドイツは東と
西に分割されていました> もそうで
あった。それ以外にも台湾、日本、
韓国も、潜在的な核保有能力を
ちらつかせることで、アメリカからの
安全保障の取り組みを強化させた。
(実際、たとえば南アフリカ共和国
<昔、核兵器を保有していたのですが>
は1991年に自国の核兵器プログラム
を廃棄したのだが、その核プログラム
の真の狙いの1つとしてアフリカ南部
にアメリカ政府の眼をくぎ付けにする
ことがあったと見るだけの根拠は充分
にある。現時点でのイスラエルの核に
ついても、同様の狙いがあり得る)

あんた、再処理なんてできるんかいな??
無理でんなあ~~

だがこの <「核をやめてほしければ
~~」という> 戦略が成功しうるため
には、その国には確実に核兵器を開発
できる能力がなければならない。今回
の戦争中に、あるいは今後10年以内に
はたしてウクライナが実際に核兵器に
よる抑止を実現できるかというと、
できそうでないと言うしかない。ウク
ライナは核燃料サイクルの全体を営ん
ではおらず、核兵器開発プログラムに
不可欠な諸要素を構築するには時間も
かかり、経済・政治・国際関係の
各面で大変なコストが生じる。

仮にウクライナが核兵器プログラム
を始められるだけのリソースを手に
入れたとしても、ロシアもアメリカも
手をこまねいてウクライナの核兵器
製造を傍観したりはしない。つまり
ウクライナは西側からの支援を失う
羽目に陥る。安全保障と経済の両面
で、ウクライナは西側からの支援なし
には生き残れないのだが。EU加盟も
ご破算となるであろうし、ロシアは
全力を挙げてウクライナの核開発を
摘み取ろうと躍起になろう。

つまり、ゼレンスキーの「NATO加盟
か、さもなくば核兵器」という話術は
即座にNATOに加盟しようとする取引
技術であり、信頼性に欠け、成果を
上げるとは思えない。

3D combination of the three 2D croquis / その3枚の2Dクロッキーを3Dで組み合わせる実験
裏を見てみると~~
私の20分クロッキー3枚を重ね、上のクロッキーの一部を切り開いたもの

何とかせねばならない問題.  ゼレン
スキーの取引話術にどのような利点が
あるにせよ、それは明白な事実を前提
としているので、国際社会もこの話術
を非難するわけにはいかない。つまり、
NATO諸国は核の傘の下で平和を享受
しているのに対し、ウクライナは戦争
状態だ、という事実だ。ロシアと
NATOとは相互に抑止を働かせている
が、その基底にはある共通の認識が
ある。つまり、核兵器を保有する両者
が通常兵器で直接に対立することに
なっても、核使用へとエスカレート
してしまうリスクを本質的に宿して
おり、核兵器に至ってしまう危険性すら
ある、という認識だ。ウクライナは
非同盟であり、核兵器も保有していない
ため、ロシアはそうした抑止の必要性を
ウクライナに対しては認めなかった
のだ。ウクライナにとっては泣きっ面に
ハチとでもいうべきか、ロシアは核使用
をちらつかせることで、ウクライナへの
西側からの武器供与のタイミングや条件
にもある程度の影響を行使できた。
これは、ウクライナの自衛努力を妨害
する結果となった。要するに平和とは、
運よく核抑止の恩恵にあずかっている
幸運な人達の特権なのだ。その恩恵に
あずかれていない人たちは、戦火に
苦しまねばならない。

だが実は安全保障とは決して個人の資産
などではなく、国際的な公共の利益で
ある。ウクライナでの戦争が泥沼化し、
ヨーロッパをはじめ世界に深刻な影響を
及ぼしているという事実から、ウク
ライナの安全保障という問題を解決
しない限りヨーロッパ大陸の平和維持
することなどできないと分かる。

20-min croquis / 20分クロッキー
先を考えると~~
私の20分クロッキー、男性のモデルさん

ゼレンスキーが概略を述べた安全
保障上の危険性は、その本質において
容易に無視できる問題ではない。ウク
ライナには現時点で核兵器製造能力
などないではないか、で済ませて
しまうわけには いかないのだ。これを
解消しない限り、ウクライナの核開発
という選択肢はいずれ再燃することで
あろう。ポスト冷戦時代の世界に
おいて、核兵器を失ったウクライナは
安全保障という点で空白のバッファー
ゾーンになっていた。拡大したNATO
と <旧ソヴィエトに幾ばくかの修正を
施した> ロシアとの間での空白で
あった。ウクライナは非核・非同盟の
国家という立場であったが、それでは
安全保障のための戦略としては機能しな
かった。同国が今後平和と繁栄を享受
できるような持続的安全保障の選択肢と
しては、何があるのだろうか?自明な
選択の1つとして存在するのが軍事
同盟への参加だ。相互防衛の取り組みと
アメリカによる安全保障により抑止が
できたことは確かであった。だがそう
した同盟関係が存在しない場合には、
何であれ手に入れられる対抗策をとら
ざるを得ない。ロシアとウクライナ
では力の関係が本質的に不均衡であり、
そうである限り核兵器を今後も力の
均衡をもたらすための手段と、
ウクライナは見なすことであろう。
この主張はやむを得ざるもので、
ウクライナの人々はかつてソヴィエト
時代の核兵器を放棄したこと、国連や
NPTといった国際的な安全保障制度に
信頼を置いたことを、これからも
問題視続けるはずだ。こうした核放棄
や国際的制度は結局、ウクライナを
護ってはくれなかったのだから。確かに
ウクライナが核兵器を放棄したのは前例
なき決断であり、それにより同国は高い
評価を得たのではあるが、今回の戦争で
ウクライナの戦場において戦死し、
あるいは腕や脚を失い、あるいは生活
基盤を失くした人々にとっては、そんな
評判はほとんど何の役にも立たない。
今では大半のウクライナ市民が核兵器
放棄の決定のことを誤りだったと後悔
しており、2014年 <にロシアがブダ
ペスト合意に違反してクリミアに
侵略・併合した> 後では核の再装備を
支持している。この侵略後、ブダペスト
合意に加盟していたアメリカと英国とは
生ぬるい対応しかしなかった。


Let there be lightー
私のスケッチ、紙にオイルパステル

ウクライナの核の亡霊を鎮める  政治
と安全保障に関する現時点での環境に
おいては、ウクライナが核兵器を開発
できる能力には限界がある。だが今回
の戦争から何らかの学ぶ教訓があると
すれば、昨日にはまったく考えられ
なかったことが、明日には可能となる
場合もある、という事実だ。実例と
して、<今回の開戦時には> ロシア軍
が全面的にフル攻撃を仕掛けたのだが、
それにウクライナは72時間以上耐え
抜いた。ロシア海軍の黒海艦隊の旗艦
であった巡洋艦を沈めた。ウクライナ
が自国で開発したドローンでロシア
領土内深くにある戦略爆撃機基地を
攻撃した、ドイツ製の戦車を走らせて
いる、アメリカのF-16戦闘機を飛ば
している、などなどだ。

Silent yet emerging future —

だが、未来とは明日だけのことでは
ない。そのずっと先も、未来なのだ。

NPTなどの制度は過去においては
核兵器の未制限な拡散を防止できて
いた。だが今や深刻なひずみを起こ
しており、20年もすれば効力を失う
恐れがある。アメリカでは国際問題
からの孤立を基本とする政権が今後
生まれる可能性もあり、そうなると
核不拡散は優先課題ではなくなる
恐れもある。核兵器が誕生してから
もう80年ほどになるが、軍縮と
核拡散防止に最大限の努力がなされ
てきたにも関わらず、核兵器が世界
から消える日は見えてこない。核兵器
保有諸国はいずれも自国の核装備の
近代化に努めており、中には装備を
拡大している国もある。ロシアは今後
も核保有国であり続けるであろうし、
ウクライナはその隣国であり続ける
ことになる。かつてのソヴィエト連邦
の崩壊に匹敵するほどの大規模の変化
がない限り、安全保障に関するウク
ライナの環境は不安の絶えないもので
あり、核保有国であるロシアを抑止
する必要も予測可能な未来に関する
限りはなくなりはしない。


いすれ、亡霊は再現する??
私の20分クロッキーに後で背景を加えたもの

ウクライナが過去に保有していた
核兵器の亡霊。現在の、核兵器はない
が戦火に引裂かれた姿。そして、核を
保有した未来の像。ウクライナの都市
は爆撃被害にさいなまれ、黒い土地の
野原は地雷に毒されている。今回の
戦争で殺された人々の魂、生き延びた
人々の意識。これらすべてに核兵器の
亡霊が今後何十年も憑依して離れない
のである。

この核武装したウクライナという亡霊
を鎮めるには、長年にわたって維持
できる安全保障策が必ず必要だ。たと
えば、NATO加盟によって核兵器
保有国であるロシアを抑止する、
といった方策である。そうした策が
実際に存在していない限り、ウクライナ
市民も大統領も、ウクライナが核兵器を
保有する可能性を言及しただけで過激な
反応をしてしまう諸国の偽善性を問題に
するはずだ。実際に保有しようという
発言であれ、想像段階であれ。しかも
そうした諸国は、自らはアメリカの核の
傘の下で安全を享受しているか、自ら
保有する核兵器で抑止を実現している
のだ。そのいずれも、ウクライナには
ないものなのだが。
***************************

20-minute croquis  Moms are great!
思い返せば ・・・
私の20分クロッキー

確かに、ウクライナが仮に本気で
核兵器開発を目指したとしても、少なく
ても数年以内に核兵器を手にできる
とは思えません。したがって、核開発
云々は単なるレトリックと見るべき
でしょう。
あくまでNATO加盟が本来の狙いと
考えるべきでしょうが、本来なら
1994年の時点でそうしておきたかった
ですね。それから10年後には、ロシア
がクリミアを侵略、勝手に併合しました
ので。西側諸国も2014年の時点で、
ロシアによる将来の侵略を防止する
ための同盟関係などを考えておくべき
でしたね。
核兵器というものをいったん保有する
と、それを放棄するにも大変な問題が
付き纏うってことですよね。特に核兵器
保有国の隣国が核兵器を放棄したくて
も、今回のウクライナ戦争が「核に
しがみつく」正当化の根拠にされて
しまいそうです。

しかし。
1) 核兵器を保有していれば、通常兵器
でもどの国も攻め込んでこない(抑止)
という前提をよく見かけますが、その
保証はあるのか?(⇔ 例えば1981年
のマルヴィナス戦争)
果たして、仮にウクライナが1994年
以降も核兵器を保有していたら、ロシア
は侵略しなかったのか?(そもそも、
核ミサイルがウクライナにあったと
しても、その発射スイッチはどこに?)
2) 現在の日本の一部では、「日本は
核保有国複数を隣国としているので、
日本も核を保有して核抑止を実現せね
ば、安全保障が不可能になってしまう」
といった主旨の主張が見られますよね。
じゃあ、その通りにしたとして、核兵器
を保有した隣国同志がにらみ合いを
続ける地域って、どこまで「平和」
なのでしょうか??
3) 上述の 2) の発展ですが、たとえば
中東でイランが核保有 → 対抗して
サウディ アラビアも核保有となった
場合、中東はその分「より平和に」
なるのでしょうか??

消えてくれ!

つまり、
核兵器は世界から廃絶することが
マストですが、
その廃絶の過程においては、各国の
事情に合わせた安全保障処置が
必要になる
(そうでないと、ウクライナの
ような犠牲者が出てしまう恐れが)
ということでしょう。

私たち反核勢力は、そうした複雑
極まりない状況や問題に取り組んで
いかないといけないわけですね。
「核兵器なんて、直ぐに全世界で放棄
してもらえばいいじゃん」なんていう
簡単な話では済まないのです。
「お花畑思考」では、核兵器の廃絶
などできないのですね。現実の複雑な
諸問題に取り組んでいくという覚悟
が、核廃絶(兵器も発電も)には
不可欠だというわけです。

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