2021年11月
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では、本日の本題、「SMRは本当はどこまで安全?」という問題に入りましょう。
小型 → メルトダウンしにくい、というのは本当でしょう。原子炉1基当たりの核燃料が少ないのですから。でも、メルトダウンさえしにくければ「安全」だとは限らない。
メルトダウンまで至らずとも、周辺環境を汚染する原発事故は他にもあります。そしてそうした事故は、「小型」でも起こりえるのです。
・・・ なんてことを私が言っても、誰も信用してくれるものじゃ、ありませんよね。
でも、世界的に高名なThe Union of Concerned Scientists(憂慮する科学者同盟)が
SMRの安全面での問題を指摘していたら?
しかも、単に短いTweetとかじゃなくて、A4で20ページほどの報告書を公表していたら?
そんな報告書を紹介します。例によって原文は英語で、日本語版が見当たりません。
甘利さんに限らず、政策決定に関与する人たちには、推進と反対両側の見解を読んでいただきたいものですが、反対側からの情報が日本語になっていないケースが少なくないのも、問題の1つなのか??
とにかく以下で紹介するのは、憂慮する科学者同盟が公表しているSMRの問題指摘、”Small Isn’t Always Beautiful”(小さければ美しいとは、限らない) です。著者はEdwin Lymanという、同科学者同盟のグローバル セキュリティ プログラム担当の上級科学者です。
2013年公表の文書で、
small-isnt-always-beautiful.pdf (ucsusa.org)
で原文をお読みいただけます。
まずはともあれ、この文書全体の冒頭にある Executive Summaryをお読みいただきましょう。
(私による日本語化)
小型のモジュール式原子炉(SMR)、発電容量が従来の平均的な商業発電用原子炉の1/3程度までの小さい原子炉というものが、アメリカ議会などで注目を集めており、今までよりも小規模の発電単位から発電所を導入し、その後コスト効率よく段階的に発電量を増やしていくための方法として、可能性が検討されている。SMRの推進者たちによれば、SMRの主要コンポーネントは工場で標準化されたモジュールとして製造するため、そしてそこから原発現場へと輸送するため、コストをカットできる。従来の原発のように、個別の原発を独自に設計して建設する必要がない。支持者たちの主張としてさらに、小型モジュール式原子炉(SMR)の設計は本質的に従来の原子炉よりも安全性が高く、今までの大型原子炉と違って人口密度の高い地域に比較的近い場所にも設置できる。既存の石炭火力発電所をSMRに置き換えることもできる。さらに、アメリカの原子力規制委員会(NRC)による原発安全性に関する規制の一部も、SMRに関しては緩和できるという主張さえ、推進側からは出ている。だが、費用が少なくて済むからと言って、本当にコスト効率が良いとは限らない。しかも、提唱されている小型設計の安全性は、まだ実証されてはいない。たとえば、設計の大半では格納容器に相当する構築物が従来の原発よりも脆弱なものになっている。さらにSMRで全体的なコストが削減できるという主張の前提として、NRCが従来の原発よりも緩和した安全性基準をSMRには適用する、という説得工作がある。
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続く本文も紹介したいのですが、何しろ全部で20ページ前後ある文書です。ここで問題にしているのは「SMRの安全性」なので、P8の終わりにある SMR Safetyにまで飛びます。
(私による日本語化)
全体として、SMRの安全性を確保するための工学上の課題とは、質的には従来の大型原子炉の場合と異なるものではない。サイズとは無関係に、平常運転時と緊急時の両方で炉心で発生する熱を確実に排出するシステムが必ず必要なのだ。それも、核燃料の過熱や損傷、放射性物質の漏れを防ぐために充分なだけの放熱が必要だ。そうした廃熱システムの効果は、システムの設計によって異なる。さらに使用済み核燃料の保管冷却用プールでさえ、適切な冷却が行われないと過熱して爆発する危険がある。こうしたプールの熱負荷は大抵の場合、炉心よりもずっと小さいのだが。1つの判断材料として福島第一の事故では、4号機の使用済み核燃料プールには過熱の危険が迫っていた。だが、その熱負荷はわずか2.28 MWth (発電ワットではなく、熱メガワット)だった。これは、NuScale社(というSMRメーカー)の原子炉モジュール1つをシャットダウンしてから1時間後に残っている(炉内の放射性物質からの)崩壊熱とほぼ同程度だ。またこの2.28 MWth は、300MweのSMR原子炉を緊急停止(スクラム)させてから2~3時間後に炉内に残る崩壊熱と比べるなら、1/10程度の熱負荷なのだ。
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つまり、福島第一でのメルトダウンの実情から見ても、「小型だから安全」とは断言できないってわけですね。“わずか” 2.28 MWthの崩壊熱が福島第一4号機の使用済み核燃料プールで危険を招いた → ところが、典型的な300MW規模のSMR 1基を緊急停止させ、2-3時間経過した後の炉内に残る放射性物質からの崩壊熱は、その10倍ほどになる → つまり、SMR 1基の停止後に残る崩壊熱だけで、充分に危険だ、ということです。
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2021年11月25日に追加、挿入 ↓
地下に建設した原子炉のメルトダウン、実例がありました。
SMRではなく、1968~69年というかなり昔の惨事では、ありますが。
詳しく知りたい方は、YouTubeでPlainly Diffucultという方による
A Brief History of: The Lucens Reactor Meltdown
というビデオをご覧くださいませ。
A Brief History of: The Lucens Reactor Meltdown (Short Documentary) – YouTube
にございます。
スイス西部のLucensという小さな町に建設された核発電所(原発)での事故で、
この原子炉は山腹の横穴トンネルの中に建設されていました。
少し変わったタイプの原子炉で、グラファイト(黒鉛)のなかに燃料棒を何本か入れ、
減速材としては重水を使い、冷却剤はCO2だったそうです。
この重水が燃料棒集合体の1つに侵入、腐食を招きました。
その腐食した集合体が原子炉稼働中に過熱、メルトダウンしたようです。
この原子炉がトンネル内という地下にあったため、
検査や作業がしにくく、
漏れ出した放射性物質が主にトンネル内にとどまったため、
トンネル内の放射性物質密度が大変な高さに達した
という「地下原子炉の弱点」が露になった、とのことです。
結局、解体や除染が終わったのは、1973年になってのことでした。
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憂慮する科学者同盟の報告書に戻って、本文の続く個所では、SMR推進勢力が
主張しているpassive safety(人間の介入がなくても安全性を保てる仕組み)に
ついて論じています。
(私による日本語化)
SMRの利点の1つとされている特徴の1つに、炉心の冷却に「パッシヴな」つまり自然に発生する水の対流を利用している点がある。炉心の過熱を防ぐのに、モーターで駆動するポンプのような「アクティヴな」システムを必要としないのだ。「アクティヴな」システムは、故障する恐れがある。実はこの技術はSMRに限ったものでは、ない。ウェスティングハウス社のAP1000という大型原子炉や GE社の ESBWR という大型原子炉はともに従来の原子炉と同じ規模の大型原子炉だが、パッシヴ セーフティー機能を取り入れている。ただし、一般的に小型炉心の方がパッシヴ セーフティーの信頼性が高まるのは確かだ。エネルギー密度が低いためだ。
本報告書で上述した4種類のiPWR(という加圧水型SMR原子炉、この日本語化紹介では割愛しました)などの一部SMR設計では、原子炉が充分に小さいため、ステーション ブラックアウト(外部電源喪失、上の黒いメニューの中央よりやや左下、g-6)(ジャパン)発電所内部からのサボタージュ というページで、「実際にメルトダウンを引き起こした条件」という箇所で説明)などの深刻な事態が発生した場合でも自然な水の対流だけで充分に炉心温度を安全な程度に維持できる。だが、一部の原発メーカーではこのパッシヴな設計のことを「本質的に安全」だとして販売宣伝しているが、これは誤解を招く用語だ。自然対流による冷却がこうした小型原子炉では多様な条件下で効果的であることは疑いないが、いかなる事故条件下でもこうした原子炉が「本質的に」安全だというわけでは、ないのだ。熱伝導の進み方が想定通りではなく、自然な対流による冷却が阻害されてしまうような事故も発生しうる。たとえばNuScale 社が設計している原子炉では、強い地震が発生するとコンクリートの破片が冷却水プールの中に入り、冷却用の水や空気の循環を妨害する場合が考えられる。実際には、いかなる場合にもパッシヴであるような信頼できる原子炉設計などというものは、存在しない。何があろうと人の介入なしに勝手にシャットダウンして冷却するような原子炉設計は、ありえないのだ。パッシヴ セーフティーの原子炉といえど、弁など何らかの装置が必要だ。そうした装置は、自動的に作動するよう設計されていないといけない。だが、100%完全に作動する弁などというものは、ありえない。さらに下で述べるように、複数の小型原子炉に影響するような事故が発生すると、その問題は複雑なものとなり、複数の故障に対応できる能力を超え、1基当たりでは排熱量が少なくて済むという利点も意味を失ってしまうことがあり得る。
結局のところ、どのような安全システムであれ、それが実際にどこまで機能するかは、設計で想定されている対応事故がどのようなものか、によって決まる。パッシヴ セーフティーのシステムだけで対処できる事態のシナリオとは限られたもので、想定外の事故が発生した場合には意図した通りに作動しない恐れがある。そのため、パッシヴ セーフティーの設計であっても、アクティヴな(人の介入を要する)バックアップ用冷却システムを各種、複数装備することは必要である。しかもそれらは、信頼性の高いものでなければならない。必然的に、そうしたシステムはさらに複雑なものとなるのだが、その工学上の課題には優れた設計による機材配備と制御システムのアーキテクチャーとによって対応せねばならない。そうはいっても、バックアップ システム が増えれば、それだけコストもかさむ。そのため、複数のバックアップという設計思想を採用すると、そもそも小型でコンパクトで無駄のない原子炉という現在検討されているSMRの設計思想とは矛盾してしまう。現実にパッシヴなSMR設計は、同じくパッシヴな安全性を採用している大型原子炉、たとえばAP1000などの戦略を踏襲しており、アクティヴな安全システムをすべて「安全性とは無関係なシステム」と指定している。つまり、「安全のためのシステム」に要求される厳格な基準を満たす必要のないシステムとされているのだ。加えて、mPower社のSMRのような設計では、隣接している複数のSMR原子炉がバックアップ用安全システムを共有することになっている。そうした共有化によって経費は削減できるが、複数の原子炉で同時に事故が発生した場合や、設計の想定以外の事態が発生した場合に、アクティヴ型安全性システムをすべての該当原子炉が利用できるという確率は低下してしまう。
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要するに、原発メーカーや電力会社にとってみれば、SMRなら工場で量産するので初期投資が少なくて済む、という経済的動機が大きいのが明らかですよね。
それが安全面に及ぼす影響について、さらに本文の続く個所が論じています。
(私による日本語化)
SMRの初期コストを削減するという必要性のため、パッシヴ セーフティーのシステムのうち重要なものの1つ、つまり格納容器に相当する構造物をより小型で耐久性の少ないものにしようとする圧力がある。iPWR (integral Pressurized Water Reactor、統合型加圧水型原子炉、従来の原子炉では蒸気タービンや制御棒駆動装置などは炉心を守る圧力容器の外部に配置されていたが、それらも圧力容器内に取り込む設計)の設計の場合、過酷事故の場合の異常な圧力や水素爆発からの力に耐えられるだけの大きさと強度とが、原子炉の格納容器には求められるはずだが、そうした大きさや強度を備えた格納容器を設けるiPWRの設計は、(今のところ)皆無なのだ。そのため(現状の設計の)SMRでは、水素濃度が爆発レベルに達することを防止する何らかの手段が必要となる。だが、そうした水素制御手段(の例である)アクティヴな手法(たとえば水素点火装置)も、パッシヴな手法(たとえば、水素再結合装置)も、頑丈な格納容器と比べれば、信頼性に劣る。また、格納容器を小型に設計すると、一般に炉心と格納容器との距離が縮まり、安全性に悪影響をもたらす恐れもある。この危険性は、福島第一の惨事で明らかになっている。「マーク I」 型の、沸騰水型原子炉を収める容器と格納容器とが近接化しているという特徴から、1号機、2号機、3号機の格納容器で圧力が過剰になり、原子炉を収めている容器の中へ緊急冷却水を注入するのが困難になった。
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本文では続いて、SMRを地下に埋めることの安全性に及ぼす効果について論じています。
ずいぶん長い紹介になっているのは承知の上で、紹介を続けます。日本語ではあまり得られていない重要な問題の指摘なので。
(私による日本語化)
SMR メーカーの一部は、SMR原子炉を地下に設置することを提唱している。そうしたメーカー各社の主張では、地下に設置することで大きな安全面での利点が得られる。確かに地下設置によって、飛行機の衝突や地震などの事態では原子炉の保護を強化できる。だが、不利な側面もあるのだ。やはり福島第一の事故から実例を紹介するが、緊急用のディーゼル発電機や開閉装置が地下に設置されていた。自身の場合の損傷を防ぐためだ。だが地下にあることで、洪水被害には弱くなってしまったのだ。さらに過酷な事故の場合、地下に原子炉があると、緊急対応の人員が原子炉に到着できにくくなってしまう。原子炉を地下に設置するというのは、実は斬新なアイデアではない。もう数十年も昔、Edward Teller と Andrei Sakharov とは、安全性強化のために原子炉を地下深く設置することを提案していたのだ。だが、地下に原子炉を建設するとコストが増大することは早くから分かっていた。1970年代には多数の研究が行われ、地下原子炉の場合の建設コスト増大は11%から60%にのぼることが判明した。(Myers と Elkins) そのため、原子炉業界は地下原子炉への関心を失った。地下建設に伴うコスト増大と安全性の関係については、新たに詳細な研究が必要だ。そのうえで安全性の強化のためには良いと判明しても、地下設置のための増加コストを原子炉のオーナーが喜んで負担するか否かは、分からないのだ。*********************
地下にある → イザってときに、作業員が入りにくい/介入しにくい、というのは常識的にわかりますよね。
本文では次に、SMRの定義上の宿命ともいえる「大量の発電をするには、いくつもSMRを並べて設置しないといけない」という問題を取り上げています。
これで今回の紹介の最後としますので、長くなっておりますが、もう少しおつきあい下さいな。
(私による日本語化)
1か所に複数の原子炉を設置することによる複雑性
SMR の推進論者たちは頻繁に、SMR炉心の損傷が発生する確率が既存の稼働中の原発よりも小さくなると主張している。次世代型原発の推進論者たちも、同じようなことを言っている。それはその通りなのだが、この主張がパイプの破裂など内部の事象の発生頻度に関する主張だということに注意が必要だ。地震や洪水、火災といった外部事象も確率論的なリスク評価に取り込む場合には、原子力業界の政策組織である原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute、NEI)の指摘によれば、「新型原子炉の推定リスクは今後、増大する見込みで、現時点で主張されているよりも従来の原子炉のリスクに近づいてしまうとみられる」(NEI) そうだ。さらに注目すべきこととして、NRCには、既存の稼働中原子炉と比べて安全性に優れていることを新型原子炉に要求しないという、長年の固まった方針がある。これは、原子炉の大小を問わない。そのため現在の規制制度では、炉心損傷の確率が優位に減ることは、要求されてはいないのだ。
SMR の推進論者たちはさらに、大型原子炉と比べて小型原子炉では一般住民へのリスクも小さくなると主張している。これは単純に、炉内にある放射性物質の量が従来の大型炉よりも少なくなるためだ。それは確かにその通りなのだが、特に役に立つ比較だとは言えない。社会にとってのリスク評価で検討すべきは1基当たりのリスクではなく、発電1メガワット当たりのリスクなのだ。その観点で評価するなら、SMRは複数台設置して使用することを考えているので、SMRが社会に及ぼすリスクが小さくなるとは限らないのだ。*****************
長い紹介、最後までお読みくださり、ありがとうございます!
そもそも、工場で量産するということは、SMRメーカーはSMRをいくつも販売しないと、利益が出ないわけですよね。ですから国のトップ集団にいる政治家が「小型炉ならメルトダウンしない、小型炉で建て替えを」と言い出した場合、実は何を考えているのか、賢明なる読者の皆様は既にお察し済みですよね。
そして大地震や津波、多発テロなどで複数のSMRで異常が発生したら ・・・ 「心配性」などでは、決してありません。最近も、柏崎刈羽原発でのテロ対策のずさんさという問題が、日本語メディアによっても広く取り上げられていますよね。
本文にはさらに重要な問題指摘が続くのですが、あまりに長くなったので、この辺で終わりますね。
次の固定ページ s-3) では、「やかんをのせたら~~」の「本業」である問題、proliferation risks(核兵器拡散につながるリスク) やSMRがテロリストに攻撃されるリスクを考えます。
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2022年1月16日追記
SMRの「事故発生という面での危険性」(proliferation riskではなく)については、
元東芝の原子炉設計技術者でいらっしゃった 後藤政志さんという方の説明が、
CCNE(原子力市民委員会)による2021年6月23日付のヴィデオにありました!
第8回「新型原子炉」に未来はあるのか?「原発ゼロ社会への道」【2021/6/21】 – YouTube
です。
7:40あたりから10:43あたりまででSMRの安全面での問題点を紹介し、
続く — 11:38までは、TWRの説明をしてらっしゃいます。
SMRであれ、TWRであれ、「事故安全性」(奇妙な言葉ですが)は、
「やかんをのせたら~~」のフォーカスではありません。
ですから、事故安全性についての説明は、あくまで最小限に留めております。
「やかんをのせたら~~」の主眼は、あくまで proliferation risk つまり
核兵器につながってしまうリスクにありますからね。
そんなわけで、事故安全性の詳細を知りたい方々は、後藤さんのような
「正直な」専門技術者の皆様による説明を、ぜひ拝聴なさってください!