では、すぐ下で予告した Nuclear Age Peace Foundation (NAPF)
という国際的 NPOが公表しているTEN SERIOUS FLAWS IN
NUCLEAR DETERRENCE THEORY (核抑止理論に見られる10の
欠陥)という文章を、少しずつ紹介してまいります。NAPF の
設立者の一人、David Kriegerさんの考察です。2011年2月のもの
ですが、核抑止という問題に関する限り、2022年7月現在でも
有効な考察です。
いつもどおり私による抜粋・日本語化、< > 内は私からの
補足説明です。
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Ten Serious Flaws in Nuclear Deterrence Theory (wagingpeace.org) より
TEN SERIOUS FLAWS IN NUCLEAR DETERRENCE THEORY
(核抑止理論に見られる10の欠陥)
David Krieger | 2011年2月7日
核抑止とは、所定の行動に対する核による報復という脅迫のことで、
一般的には<その「所定の行動」とは> 核抑止に訴えている当該国に
対する <敵対国からの> 攻撃のことである。核抑止理論によれば、
こうした脅迫を <敵対国が> 現実のものであり充分な被害を
もたらすものだと認識すれば、<その敵対国は> 攻撃その他の所定の
行動をとらないはずだ。
核抑止を求める願望は、核兵器そのものが出来上がる以前から
存在していた。二次大戦中にヨーロッパから <アメリカへと>
避難していた科学者たちは、ドイツが核兵器を開発する可能性を
憂慮し、アメリカ政府に対してウラニウムの核兵器製造における
利用を研究するよう促した。アルバート アインシュタインも、
<当時のアメリカの> ルーズベルト大統領に対して核爆弾の実現
可能性を調べるプログラムを発足するよう強く勧めた科学者たちの
一人であった。ドイツが核兵器の製造に成功した場合、その核兵器の
使用を抑止するため、というわけだ。のちに広島と長崎で核爆弾が
使用されたが、それを知ったアインシュタインは <このアメリカ
政府への提言を> 自分の人生での最大の誤りの1つだと認識を変えた。
アメリカが核兵器を開発したのは1945年7月のことだったが、その
時点でドイツは既に降伏していた。アメリカはその強力な新型爆弾を、
広島と長崎に投下した。そうすることでアメリカは、核抑止の
メッセージを他の諸国、特に <当時の> ソヴィエト連邦に送ったのだ。
アメリカは核兵器を保有し、それを必要なら使うぞ、というメッセージだ。
当時ソヴィエト連邦は秘密裏に核兵器プログラムを進めていたが、
アメリカに今後核兵器を使用させないように、ということでその
秘密プログラムが加速される結果を招いた。その他の諸国も同様の
動きに出た。ソヴィエトを抑止するため、英国とフランスも核兵器
装備を始めた。イスラエルも、自らの独立を守り他の核兵器保有
諸国からの介入を防止するため、核兵器開発を進めた。また
インドは、中国とパキスタンを抑止するために核兵器を開発し、
パキスタンはインドを抑止するため同じ動きに出た。北朝鮮は、
アメリカを抑止するために核を保有した。
核時代 (Nuclear Age) に常に見られる要因の1つとして、
核兵器保有国は必ず核抑止理論を信奉する。核兵器を開発した国は
いずれも、核抑止の実現であるという理由で、その開発を正当化
してきた。その核保有国自体だけでなく、人類の文明そのものの
安全が、核抑止理論の信頼性にかかっている、というワケだ。
全世界の多数の人たちが、核抑止が地球の安全に、さらには自分や
家族の安全に、寄与していると考えている。だが、本当にそうなのか?
核兵器保有国すべての政治・軍事的指導者たちは、核抑止理論を
金科玉条、あたかも神聖不可侵な教えであるかのように扱ってきた。
核抑止があれば、安全が守られる、という非現実的な教義だ。
だが、そうした指導層が間違っていたら? その場合、人類の未来は
致命的な危機を迎えることになりかねない。核抑止が現実には
機能しなくなった場合、人類の存在そのものを脅かす脅威が
訪れかねないからだ。
アメリカ戦略軍の前司令官であったジョージ リー バトラー将軍は、
在任期間中にはアメリカの前核兵器を管轄していた。アメリカ空軍を
退役した後、バトラー将軍は核抑止理論を批判、「国家の安全保障の
究極の目的に関して、この核時代における合理的な思考を危うくして
しまっている。国家安全保障の最終目的とは、その国家を存続
させることだ」 と語った。バトラー将軍の結論として、核抑止とは
「危うい知的構築物で、現実の世界にはほとんど該当しない。
現実世界には、偶発的な危機もあれば動機説明が不可能な動き、
諜報活動の不完全さ、人間関係のもろさといった諸問題が溢れている」
火山が噴火する前には、明確な兆候が見られ警告となる。同様に、
核兵器の使用と核抑止の崩壊にも先立つ兆候があり、我々はこの
核時代においてそうした実例を見てきている。噴火のような力の
ために核兵器群が急激に 「噴火」 し、核抑止理論による比較的
脆いものでしかない 「防御」 をぼろぼろに壊してしまう場合も
あり得る。そうした危険を考えるなら、我々は現状に満足しては
ならない。また、核兵器が自分たちを守ってくれると主張する
「専門家」 たちの意見で安心し続けているわけにも、いかない。
実は憂うべきことは実に多数あり、核兵器保有各国の核政策決定者や
理論家たちが説いているよりもずっと多い。下記 <次回以降に紹介>
では、核抑止理論に私が認める10点の深刻な欠陥を考察する。
こうした欠陥を考えるなら、核抑止理論は安定性にかけ、
信頼できず無効な理論なのだ。
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今回は、イントロですね。
次回から、少しづつ 「10の欠陥」 を紹介してまいります。