Beyond Nuclear Bulletin
2023年11月30日号より
Price-Anderson reauthorization and expansion dropped from US defense authorization bill – Beyond Nuclear
Price-Anderson reauthorization
and expansion dropped from
US defense authorization bill
(アメリカのプライス・アンダーソン法
の再承認・拡大法案、国防承認法案
から除外される)
プライス・アンダーソン法というのは
1957年にアメリカで成立した連邦法律
で、今までにも幾度か改定されて
きました。要は、原発災害はその規模
や損害があまりにも巨大で、保険各社
もカバーしきれません。そこで、原発
運営企業などが負担する賠償額に、
法律で上限を求めようという主旨の
法律ですね。
アメリカ議会での出来事ですし、
「日本に関係ないや」と思われやすい
のですが、日本の原子力損害賠償
基本法などのモデルになったのが、
このPrice-Andersonです。
要するに「保険会社もカバーできない
ほど巨大な損害を招くものなら、
初めからやるな!!」
それが正論ですよね。それでも国が
主導して核発電を推進してきた、
その真の目的とは ?? 「やかんを
のせたら~~」の読者の皆様なら、
もうご存じ。
では、Beyond Nuclear Bulletinの
2023年11月30日号より、そのPrice-
Anderson法のアメリカ議会での再承認
に関する記事を。
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2023年11月30日
プライス・アンダーソン法の再承認と
拡張を行い、核エネルギー産業を深刻な
事故の補償責任から守ろうという動きが
アメリカ下院で進んでいるのだが、
国防承認法の内容からは除外された。
<国防承認法ととりあえず日本語化し
ましたが、日本語での定着した名称は
まだ見当たりません。1961年に最初の
バージョンが成立し、国防相の予算を
議会が審査し適切ならば承認を行う
ことを定めた法律です。国防予算と
核施設の災害の賠償上限設定とが法的
に結びつきかねなかった、という事実
にご注意。核エネルギーと軍事は、
宿命的に結びつこうとしてしまうもの
ですね>
懸念される問題がいくつもあり、
それらに関する公聴会が、まだ問題と
されている。
Price-Anderson Act (PAA、プライス・
アンダーソン法) は20年に一度再承認
を行うことになっているが、その真偽が
下院で進行中だ。深刻な核エネルギー
関連事故が発生した場合に、
核エネルギー産業を全額賠償責任から
保護するという主旨で、<今回再承認
されれば> 2045年まで効力を有する。
福島第一の大事故の現実を見るなら、
たった1つの事故でもあらゆる世代の
人々に人心損害をもたらし、大量の
放射性物質を悲惨させて長期に及ぶ
財産への損害をもたらす。その被害
総額は数十兆円に達しうるが、今回の
Price-Anderson法はその巨額の賠償
にも適用されうる。だが、議会では
民主・共和両党の協力した勢力が、
国防承認法 (National Defense
Authorization Act、NDAA)の最終案
にPAAの再承認を組み入れようと
務めていたのだが、この努力が断念
されたことは明らかだ。また破局的な
事故での有限賠償責任の適用範囲は
今回拡張され、未承認の新型設計による
原子炉の場合にも稼働事業者を全額賠償
から保護するようになる。さらに
こうした未承認の新型原子炉の場合には
敷地外部の放射性物質対策となる
緊急対策地帯が必要とされなくなって
しまう。
この20年間にわたり核災害に伴う賠償
責任の制限の適用対象を設定しなおし
拡張しようという連邦政府の動きだが、
当初はAccelerating Deployment of
Versatile, Advanced Nuclear for Clean
Energy (ADVANCE) Act of 2023
<クリーン エネルギー推進のための
多目的・先端型核エネルギー導入の
加速化のための2023年法律、
ADVANCEという略称> に組み込まれ
ていた。このADVANCE法はその後、
多数の「成立しないと困る」規定と
合わせてNDAAに組み込まれた。
そうした規定は、アメリカ上院で承認
され下院へと送られた上院通過
バージョンでは承認されていた。
ADVANCE法とは民主・共和の両党が
承認した核の福袋、あるいはほしい
ものリストのようなもので、その意図
とは「アメリカの民生用核エネルギー
でのリーダーシップを強化し、先端型
核技術の認可をサポートし、国内の
核エネルギー燃料サイクルとサプライ
チェーンを強化し、核エネルギー関連
の法律を向上させ、その他の目的を
果たす」ことにある。
E&E Daily <というアメリカの
エネルギーと環境問題に関する報道
機関の日報> の2023年11月29日号
の報道によると、上院環境・公共事業
委員会の高位メンバーでありこの法案の
もともとの提出者の一人でもあった
Shelley Moore Capito上院議員 (共和党
ウェスト バージニア州選出) によれば、
ADVANCE 法案には議会のエネルギー・
商業委員会の議員たちから手続き上の
反対があった。国防の承認に関する法案
に民生用の核エネルギーに関する規定を
取り入れるのは不適切だ、という反対だ。
そんな取り入れを認めるには、徹底した
公聴会プロセスを踏んだうえで、委員会
での全面的な折衝を行う必要がある。
E&E Daily はquoted Sen. Capito上院
議員の発言を引用しており、「最後まで
やってみないと分からないが、最終法案
には <民生関連の規定は> 含まれて
いない」とある。
さらにE&E Dailyの報道によれば、
プライス・アンダーソン法の再承認に
対して壁となった手続き上のハードルが
国防承認法案の中に組み込まれている
追加的な民生用核発電関連の法案の成立
にも待ったをかける可能性がある。その
一部として「核燃料安全保障法」
(Nuclear Fuel Security Act)もあり、
これは低濃縮ウラニウム (U-235の
濃度が3%から5%)と特に新たな
原子炉燃料である高濃度低濃縮
ウラニウム (High Assay Low Enriched
Uranium、U-235の濃度が5% – 19.9%,
HALEUという略称)とのアメリカ国内
製造を増大しようという法案だ。現時点
では、HALEUは商業的にはロシアから
の輸入によらねば入手できない。
アメリカのエネルギー省の2023年1月
の発表によれば、第170e項にある
プライス・アンダーソン法は現時点では
「アメリカ国内でのどのような核事故に
ついても、事故1件の法的な賠償金額の
合計を100億ドルまでと制限している。
この金額には5年ごとにインフレ調整を
行う」 Adjustment of Indemnification
Amount for Inflation <賠償金額の
インフレ調整> 83 Fed Reg. 49,374と
いう連邦の規定 (2018年10月1日)
では、法定の公的な賠償上限が137億
ドルに定められ、これが現在の上限と
なっている。アメリカ国外で発生する
ある種の「核事故」については、
賠償上限は5億ドルとなっている。
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日本にも同様の「賠償金額の法定の
上限」があります。
つまり、そもそも核発電というものは
「数えきれないほどの一般市民に損害を
もたらしておいて、その賠償となると
”大きすぎて払えないよ~~”と法的
上限を設けてもらう」という、あまり
にも非常識な過保護を施さないと、
やっていけない代物なのですね。
そして、国家がそこまでして核発電を
進めたがるのは、結局は軍事・国防が
絡むからです。