イランの核施設に対するIAEAの査察がどうなっているのか?これから、どうなるのか?
それがどうも、よく分かりません ・・・
まず、時事通信社による日本語の報道をご覧ください。
時事通信社 2021年6月26日
査察延長の可否、返答なし=イランとの暫定合意期限切れ―IAEA (msn.com)
ずっと下の5月30日の投稿「JCPOAの進展状況、DOHA Newsより」で紹介したように、
その第4ラウンドの会合では、イラン側が柔軟な態度を強めていることをアメリカ側は体験したとされている。その最も明確な表れとして、国連の核監視機関であるIAEAによる検査に関する合意の期間がいったん期限切れとなっていたのだが、イランはそれを1か月延長する決定を下している。(私の日本語訳)
というわけで、IAEAがイランの核施設を査察できるというイランの合意は、この5月にいったん期限切れとなっており、それを1か月延長したものでした。それからさらに1か月が経過したので、再度延長するのか否か、気になるところだったのです。
上のリンク先でご覧になれる時事通信社の報道によれば、イランからそれに関する返答がまだない、とのことです。
他の報道も見てみましょう。(イラストの下へ。)
The Times of Israel, 23 June, 2021
Iran to rule on extending IAEA nuclear site inspections only after deal expires | The Times of Israel
(イランがIAEAによる核施設査察を許可するかどうかの決定は、暫定延長合意の期限が切れてから)
(記事本文)
UN atomic watchdog hasn’t been able to access surveillance cameras at Iranian nuclear sites since late February
Iran will decide whether to extend a monitoring deal with the International Atomic Energy Agency after its expiry on Thursday, presidential chief of staff Mahmoud Vaezi said Wednesday.
“It has been decided that after the expiration of the agreement’s deadline, Iran’s Supreme National Security Council [will] decide about the agreement’s extension at its first meeting,” Vaezi said, according to Iran’s state TV.
The IAEA hasn’t been able to access its surveillance cameras at Iranian nuclear sites since late February, along with data from its online enrichment monitors and electronic seals, hobbling the UN nuclear watchdog’s monitoring abilities.
A temporary agreement was reached whereby Iran committed to preserving the surveillance footage until June 24.
If Iran’s nuclear program remains unchecked, US Secretary of State Antony Blinken has warned, it could shrink Tehran’s “breakout” time down to “a matter of weeks.” That has worried nonproliferation experts.
(まだ続きますが、ここまでにしましょう)
(私による日本語化)
この2月終わり以降、国連の核開発監視機関(IAEA)はイランの核施設の監視カメラにアクセスできず
イランとIAEAは(イランの核施設に対する)監視の合意を締結してきたが、その合意はこの木曜日で期限切れとなる。その後でイランは同合意を延長するか否かを決定すると、イランの首席大統領補佐官Mahmoud Vaeziはこの水曜日に述べた。
「この合意の期限がきた後の最初の会合で、イランの国家安全保障会議がこの合意を延長するか否かを決定するはずだ」とVaeziは述べたと、イランの国営TVは報じている。
IAEA は今年2月下旬以降、イランの核施設に設置した監視カメラや、オンライン式の補強モニター、電子署名システムを利用することができていない。そのため、国連の核監視機関であるIAEAによる監視活動は難航している。
イランが引き続き監視記録を6月24日まで保管するという一時的な合意が締結されている。
イランの核開発プログラムに対する監視がなされないままだと、イラン政府が「核兵器を手にするまでの期間」は「わずか数週間」に短縮されてしまう恐れがあると、アメリカのAntony Blinken国務長官は警告している。そのため、核不拡散の専門家たちは憂慮している。
(まだ続きますが、ここまでにしましょう)
***********
こういう期限の問題も絡んでおり、このJCPOA再建交渉からは目を離せないのですね。
「原発 → 事故、放射能、廃棄物」という問題だけに近視眼的な目を向けていると、「イランのことなんて、日本の我々に関係ない」という反応に陥りやすいのですが、「発電と兵器の不可分性」を理解するなら、注視するべき問題は世界中に散らばっています。「核」は1940年代以降の世界を形成してきた、大きな要因の1つですからね。そして、今までのところ日本政府が、「大事故があろうが、その被害者がどれだけ苦しもうが、血税を何兆円無駄にしようが」核発電を手放そうとしないのも、実は「潜在的核武装」という理由があることを、本「やかんをのせたら…」のページ g-3)、g-4) で説明いたしました。
そうなると、事故、労働者被ばく、放射線医学、核廃棄物、兵器との不可分性、原発ビジネスの不可能性 ・・・ あまりにも広く複雑な問題系ですから、言うまでもなく誰も一人ですべてをカバーすることはできません。組織的・継続的な「脱原発運動」が必要ですよね。
もう1つ、これでもしイランが核武装する日が近づくと、イスラエルが黙ってはいないでしょう。
すでに過去の事実として、イスラエル軍はイラク(本サイトのページ c-1))、シリア(c-2))、そしてStuxnet(d-4))といった、核施設への攻撃がありました。
ここで注意しておきたい軍事面での現実として、
「核兵器を持った国は、その核兵器や核施設を防衛するために、通常兵力も増強する必要に迫られる」
という現実があります。上述の3つの実例からも、明らかですよね。
ページg-3) とg-4) で説明したように、「日本は潜在的核抑止力を持っておくべきだ」→「だから、原発や再処理施設を廃止してはいけない」という主張がいまだにこの国にありますが、
・ まず、「潜在」が「顕在化」するような事態になった場合、つまり日本が実際に核兵器を保有することになった場合、それを守るための通常兵力を急に増強できるのでしょうか??大変な資金も人材育成も必要になりますが。
・ 次に、「潜在」のままであっても、原発や再処理施設などを確実にテロリストなどから守れるのでしょうか??本サイトのページ g-6) をご覧ください。
原発も段階的に廃止していき、「核のない世界」を求める運動の世界的リーダー国に、日本にはなってほしいのですが。それが、私自身の祈りです。そして、そうした方が、「潜在的核抑止」なんかにこだわっているより、よほど「現実主義的」だと私は考えます。