The Moscow Timesより (5月17日の時点ですが)
ロシア軍が核兵器を使う可能性について
西側の報道では、「ロシアをあまり追い詰めると、核兵器を
使ってくる恐れがある」 といった主旨の発言が目立ちますが、
当の 「ロシア出身の」 メディアは、どう報じているのか?
ロシア国内の報道には政府による検閲やプレッシャーが
かかっているので、「ロシア出身の」 メディアがどういって
いるのか、以前から気になっていました。もっと早く見つけ
たかったのですが、MSR関連の調査などを優先したので、
今になってしまいました。
The Moscow Timesという、「モスクワ出身の」 報道機関です。
まず同社の概略を、英語版 Wikipedia より私が抜粋・日本語化します。
その後で、同紙による 「ロシアが核兵器を使う可能性」 に
関する記事を私による抜粋・日本語化で紹介します。
元記事がかなり長いので、覚悟してくださいね。
いつもどおり、< > 内は私からの補足説明です。
Something wicked this way comes —
私の、かなり昔の作品より
英語版 Wikipedia より:
The Moscow Times – Wikipedia
The Moscow Times は、英語とロシア語による独立系の
オンライン新聞。1992年から2017年まではロシア国内で
印刷媒体として発行され、英語を使う観光客や元ロシア国籍で
あった読者が多いホテルやカフェ、大使館、航空機内などで
フリー ペイパーとして配布されていた。また、定期購読も
受け付けていた。モスクワ在住の外国籍の住民や英語を話す
ロシア市民の間で、同紙は人気を博した。2015年11月、同紙は
デザインを変更、日韓から週間に切り替わった。毎週木曜日
発行となり、ページ数が24ページに増えた。
2017 年7月に同紙はオンラインのみでの発行となり、2020年には
ロシア語での発行も始めた。さらに2022年、ロシアのウクライナ
侵略に次いで同国でメディアを誓約する法律が成立したことを受け、
本社をオランダのアムステルダムに移した。その後、ロシア国内では
同社のウェブサイトは非合法とされた。
・・・ (以下略) ・・・
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Light Gazing
闇の中で、見通しがきかない ・・・
私の昔の作品
では、そのThe Moscow Timesの記事を紹介しますね。
Pyotr Topychkanov記者 (SIPRIのシニア フェロー) による、
2022年5月17日付の記事です。
原文は
McDonald’s to Sell Russian Business, Ending 32-Year Presence – The Moscow Times
にありますので、ぜひ原文を読める方は原文をお読みください。
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ロシア、核という選択肢を使うのか?
核兵器使用の可能性は小さいが、ありえないわけではない
ウクライナへの核攻撃という脅威については、各種メディアや
SNSで議論が喧しい。この脅威については、懐疑的に見るべき
理由もあれば、大いに心配すべき理由もある。
だが初めに、注意を促しておきたい2月24日に始まった戦闘は
今もウクライナで続いているが、核戦争へとエスカレートして
しまうとの思弁は建設的でなく、無責任である。
まず、国営の公式メディアであれ、その従業員であれ、専門家で
あれ、誰が公言したのかに関わらず、武装闘争にあっては核戦争
へのエスカレートという脅威を持ち出すと、防衛側やそのパートナー
諸国が思い切った手を植えてなくなってしまうので、攻撃国に
とって好都合な言説である。
核の脅威を口に出すと、防御側が戦意を失ってしまう危険性が、
常に存在する。
第2に、ロシアが核攻撃を仕掛ける可能性があるとの思弁は、
現実のデータに基づいたものではない。現実には、ロシアが
ウクライナ侵略で何を目指しているのか、公にされている
検証済みの情報はわずかしかない。さらに視野を広げると、
ロシアが西側と対立している意図や、ロシアがその目的を
実現する方法についても、そうした情報はわずかなのだ。
ウクライナへの侵略について、ロシア側からは正当化の口実が
アレコレと提示されている。そうした口実は多数あるので、
ロシアが軍事侵攻に踏み切った本当の理由がどれなのか、
それともまだ公表されていない理由が何かあるのか、見極める
のは難しい。
Dead End
誰が決めてるの??
かなり昔の、私の作品
さらにロシア ウォッチャーたちがすぐに気づいたことだが、
ロシアでの意思決定のあり方が分からないのだ。最高司令官
一人の意志だけで、1国が核攻撃を始められるのか? それとも、
あくまで関係者たちの同意が必要なのか?大統領以外の誰かが
核という選択に対し断固として 「ノー」 と言えば、核攻撃
という選択肢は消えるのか?
現実をほとんど、あるいはまったく知らない政府高官たちが
さまざまなことを言っているが、それらは互いに食い違っている。
ロシアが核攻撃を始めるとも、始めないとも、どうやって
判断できるのか?
そうした疑問にいずれに関しても、公にされている情報では
明確な回答が得られないのだ。
そのため、現実を無視した判断ではいずれかの陣営を有利に
してしまうので、そうした判断は抜きにして、核の脅威論には
懐疑と警戒の両方をもって対応すべきであることを、本記事
では述べる。
ロシアは今も、ウクライナでの戦闘のことを <「戦争」とは
呼ばす> 「特別軍事作戦」 と呼んでいる。こういう扱いである
以上、国家総動員は除外されており、ロシア側の視点に立てば
核兵器を使用する法的根拠はない。ロシアにとってこれが特殊
作戦である限り、局地的な紛争でありその目的も限られたもので、
リスクも大きなものではない。
ウラディミール プーティン大統領もその大臣たちも、いわゆる
ドネツク人民共和国やルハンスク人民共和国、ならびに
ウクライナ国内のロシアが一時的に占拠している領土の併合に
ついては何も語っていない。したがってロシア軍やドネツク、
ルハンスクの部隊がウクライナ軍による反攻に対抗するとき、
ロシアのものではない領土を守っていることになる。
確かに、ロシアの与党である統一ロシア党の党首は最近
ケルソンで、「ロシアはいつまでも、ここを収める」 と述べた。
またウクライナ国内のロシア軍が占拠している地域では、
ロシアの通貨が流通している。ウラディミール プーティンが
考えを変え、占拠した地域やドネツク、ルハンスクを併合する
可能性はある。またウクライナそうした地域やクリミアの奪還に
努めれば、ロシアには自国領土の防衛のためという、核兵器使用の
正式な正当化ができる。だが現在までのところ、そうした発言も
行動も、政治面でも法的にも正式なものとはなっていない。
現状では、ロシアのマスメディアのレトリックに反し、ロシア軍が
NATO加盟諸国に核攻撃を行う可能性は、さらに小さい。今回の
軍事侵攻の開始時点で、ウラディミール プーティンは第3国による
介入があれば未曽有の結末を招くぞ、と脅していた。この脅迫は
効果的で、直接的な軍事介入を避けようとする西側指令層の立場を
固めた。その一方、部隊を派遣はしないものの相当な兵器や経済的な
支援を行うこととした諸国は、同盟諸国にも非同盟諸国にもある。
その一方で、NATOの部隊はまったくウクライナには入って
いない以上、ロシア側は納得すべきである。だがその反面、
ロシア軍の作戦の先行きは曇りつつある。ウクライナには諸外国
からの援助が大量に流れ込んでおり、その軍隊の力を維持さらに
向上することを可能にしているからだ。NATOによる直接の軍事
介入を抑止する以外に、ロシアの核兵器にどのような役割がある
のか、不明である。
Flower of the Sunset
実像はどちら??
私の昔の作品
核兵器が抑止という役割を演じている限り、西側諸国が核戦争への
エスカレートを警戒することは明らかだ。一部のロシア メディアに
ある無責任な呼びかけにロシアが万一応答してしまい、NATO加盟国に
対する核攻撃を実行してしまった場合には、その核兵器は抑止のため
ではなく、積極的な戦闘の手段になってしまう。さらに今回の
「特殊作戦」 という扱いでは、第3国への攻撃を行う根拠がない。
核攻撃なら、さらにそうだ。
核攻撃は、一種のレッド ラインである。万一ロシアがそれを
超えてしまった場合には、西側諸国もがウクライナ側について
直接の戦闘に加わる要因は、何もなくなってしまう。
そうなれば、全世界が核戦争の危機にさらされることになる。
さらにロシアの将来も、長年プーティンが構築してきた政治構造も、
機器に曝されてしまう。
ロシアがウクライナに核攻撃を行うのも、レッド ラインとなるの
だろうか?これは、よく分からない。アメリカでは、ホワイト
ハウスに陣取る政権がウクライナ側について戦闘に参加すべしとの
強力なプレッシャーを受けることになろう、との見方が広まっている。
だが、アメリカとその同盟国とがそのような場合に結局どうした
対応に出るのか、予想するのは難しい。ロシアへの制裁が強烈になり、
ロシアの孤立が深まることだけは確かだが。
ウクライナでの特殊作戦の一環として、ロシアが核兵器を使う理由が
あるだろうか?想像力を覆いに働かせるなら、核攻撃が軍事的に意味を
持ち得るシナリオが少なくても2つある。
第1に、核攻撃によって主要都市を攻略し、ウクライナ政府にロシア側に
好都合な和戦協定を呑ませることができる。(先例として、
アメリカ軍が広島と長崎に原爆を投下して太平洋での第二次大戦を
終結させた例がある <← 下線部は原文記者の見解でして、私 (ひで) の
見解では、ありません>)
2番目のシナリオとして、ロシア、そしてドネツク人民共和国や
ルハンスク人民共和国の通常兵器軍では、ウクライナ軍による強烈な
反攻を抑止できない場合がある。
つまり、ロシア軍は1つ目のシナリオでは一般市民への攻撃として、
2つ目の場合にはウクライナ軍への攻撃として、核兵器を
使用することになる。
ウクライナの一部都市をロシア軍が完全に破壊するようなら、
第1のシナリオの現実性が窺えよう。こうした都市の完全破壊が
現場の司令官の判断による孤立したケースではなく、ロシア側が
こうした完全破壊を容認しており、非戦闘員の殺戮も戦いを
優位に進めるために認めているのであれば、ロシア軍をはじめ
ドネツク、ルハンスクの軍人たちの,死亡数を減らすためロシアが
さらに強力な兵器に訴えてくると見るのも、あながち非現実的とは
言えなくなる。
2つ目のシナリオは、戦場の状況とは切り離されたもののように
見受けられる。一番最近にこの種の核戦争シナリオが考慮されたのは、
冷戦時代にNATO軍とワルシャワ条約機構軍が対立していた時代の
ことであった。だが現時点でウクライナで起きていることは、
規模においても形態においても実質においても、冷戦時代の状況
とはまった似ていない。
いずれのシナリオに対してもあり得る反論として、ロシア軍は
今もウクライナ市民に対するロケット弾や爆撃攻撃を実施して
いないと主張しており、ウクライナ軍がしでかしたことにしている、
という事実がある。ロシア軍は、クラスター爆弾のような国際
条約で禁じられている武器を使用したことを否認している。
この否認方針は、ウクライナでの戦闘が停戦に至った場合に、
ロシアが諸国との関係を正常化、あるいは最低でも改善できる
ようにすることが狙いだ。
ウクライナでロシアが核兵器を使用した場合、核兵器の使用は
否認することは不可能であるし、ウクライナ軍のせいにする
こともできない。<つまり、一度でも核兵器を使用してしまうと>
ロシアが西側との関係の改善をどれだけ臨んだとしても、
その望みは完全に崩壊してしまう。
現在の状況では、ロシアがウクライナに対して核兵器を使用する
軍事的あるいは政治的根拠はないし、ましてやNATO諸国に
対して使用する理由は見当たらない。
だが、今回の戦争でロシアが苦しみ、クリミアなどロシアが
自国領と認識している地域に敵の勢力が入り込む可能性が高くなり、
しかもロシアが政治的にも経済的にもまったくの孤立に陥った場合
には、ロシア政府が核という脅迫に訴える理由が強まってしまう。
すると、いったいなぜ、プーティンは核兵器という選択肢に言及するの
だろうか?我々の思弁では、ロシア当局が 「核という盾」 で自らを
守り、最悪の事態を防止しようとしているのだ、という理解に至る
かもしれない。だが、この 「盾」 は、ロシアが核兵器を使用
しない場合にのみ機能できるのだ。
**************
常に理性的でいられるのか?
私の昔のスケッチ、ミネソタ州 Long Lake
現実的に考えれば、実際に核兵器を使用するケースは考えにくい
のかもしれません ・・・ その決断を下す人たちが合理的な判断を
する限り。
ただ、
そうした人たちが 「正気」 を失った場合は?
核兵器以外に局面を打開できそうな選択肢がなくなった場合は?
といった心配が残るわけですね。
つまり核兵器とは、心理的に他国を行動しにくくさせる効果が
大きい兵器ですよね。
極論すれば、仮にある国が実は核兵器を保有していなくても、
「持っていると他国に信じさせて」 おけば、「核の脅迫」 が
できてしまうという、厄介な代物です。
それが巡り巡って、たとえば食糧危機を招き、餓死者が出る
・・・ そんな危険性も笑えなくなってきております。
いうまでもなく、最も賢明な対応は、世界から核兵器や大量破壊
兵器をなくすことですよね。
そして核発電は、核兵器開発の 「隠れ蓑」 に幾度も悪用されて
きたのです。(付録 w-4) のゴア元副大統領のインタビュー参照)
「やかんをのせたら~~」では今後も、proliferation risksを
中心に核発電と核兵器の不可分性を問題にしてまいります。
当然、今回のような核兵器問題に関する報道・論考などの
紹介も時折していくことになります。