1言語の報道だけに頼ることの危うさが如実に表れている
実例が、現在の日本語報道に溢れていますよね。
はい、確かにドイツ政府は “既存の原発2基を、来年4月
まで予備として置いておく” ことに決めました。しかし、これを
「ドイツ、脱原発を先送り」 といった言葉で報じるとは、
どういう言語理解なのでしょうか?? それとも、日本語圏
での世論誘導を図っている??
みなさん、何も私は 「複数の言語を充分に使えないと、
原発反対活動はできない」 などとは、一言も申しておりませんよ。
ただ、上の黒いメニューの下のほうにある add-4) にある
「ぐちゃぐちゃの図」 をご覧いただければ、すぐにお分かりに
なるはずです。
・ この図の右端にある 「核兵器拡散 → 核抑止理論」 や
「軍事・世界情勢や経済」 の分野で活動したい方々は、
少なくても英語が充分に使えないとお話にならないことは、
すぐにお分かりですよね。
・ 「原子炉工学」 や 「新型原子炉」 分野でも、英語の論文を
読む必要性がとても高いです。
・ 「放射線と健康被害」 でも、英語の医学論文を読む必要は
高いですよね。
でも、たとえば日本の原発での 「作業員の被ばく」 問題や
「原発ホスト自治体の経済や交付金」 問題を扱うのなら、
日本語さえ使えればよいですよね。
各人が自分の能力適性に合った活動分野を選べばよい、
という当たり前なことです。
で、現在の日本語メディアによる報道を見ていて、やはり
「原発広報」 という問題系でも、複数言語を充分に使え
比較ができることの必須性が明らかになりましたね。
しっかりと他言語 (ここでは、英語) での報道内容を読んでみよう
たとえば、カナダの若年株式アナリスト向け情報ウェブサイト、
the deep dive による今回のドイツ政府の決定に関する報道を
紹介しましょう。ご注意くださいね、反原発派団体の主張とか
じゃなくて、株式アナリスト向けの情報ですよ。
Germany Confirms Nuclear Power Phase Out By 2022, Keeps Two Plants In Reserve Until April | the deep dive
September 6, 2022
German Nuclear Power
Germany Confirms Nuclear Power Phase Out By 2022
But Keeps Two Plants In Reserve Until April 2023
(ドイツの核発電
ドイツ政府、2022年での各発電廃止を確認するが、
来年4月まで原発2か所を予備として保持)
以下、いつも通り私の抜粋・日本語化で。
< > 内は、私からの補足説明。
****************
・・・・・ 前略 ・・・・・
ドイツは、国内に残っている稼働中の原発3か所の
うち2か所の稼働可能性を、予備発電施設として来年4月
中旬まで続けると発表した。本来の計画では、核エネルギーは
今年末で終了とする予定であったが、その予定を遅らせる。
ヨーロッパ最大の電力輸出国 <であるドイツ> が
今回の決定を下したのは、送電グリッドのストレス
テストを電力各社が実施した結果を受けてのことだと
されている。その結果によれば、ヨーロッパ大陸の
エネルギー市場の緊迫する中、電力供給が危機的
レベルに落ち込む場合があり得ることが判明した。
「そうした危機的状況や極端な事態を迎える可能性は、
あくまでかなり小さい。安定供給を保証するため、必要な手は
すべて打たねば」 と、ドイツの経済大臣Robert Habeckは
語った。
バイエルンとバーデン・ヴュルテンブルクにある2基の
原子炉を、来年4月まで予備として稼働できるようにしておく
計画だ。上述のテストでは、ドイツの送電グリッドに対する
リスク要因 数種類を取り上げ、その例としては干ばつ
による水力発電への影響、フランスの原発の問題
<上の黒いメニューで 付録 w-10) を参照>、ヨーロッパの
エネルギー市場に緊迫状況をもたらしたロシアの
ウクライナ侵略などがある。
ドイツの総電力供給のうち、5-7%を核発電が供給している。
「ドイツの電力システムは、安定供給を極めて高いレベルで
実現している。ドイツにとって十分なエネルギーが、
国内にある。だが、あくまでドイツはヨーロッパのエネルギー
システムの一員でもある」 と、Robert Habeckは述べている。
ただしHabeckは、今回の決定が核エネルギーへの
依存を2022年で終わらせるというドイツ政府の当初の
計画を破棄するものではないことに、注意を促している。
「政府はあくまで、原子エネルギー法の定めるとおり、
原発を段階的に廃止していくという計画を固守している。
<既存の原発に> 新しい燃料棒を装填することはせず、
来年4月中旬には、予備の原発も廃炉に向かう」 とも
Habeckは述べた。つい最近、同経済相はドイツに残る
最後の原発を延命させるのは、誤った決定だと述べた
ばかりだ。
予備とされている原発 <2か所> は、北部と南部で
発電量に差が開きすぎて送電グリッドが対応できなくなる
場合にのみ、稼働させる。
これとは別にニュースのブリーフィングで、Habeckは
「最悪の事態に備えておく必要はある。この2か所の
原発を再開するのは、発電量が足りない場合だけだ」
先日ドイツ政府は、暖房が必要になる冬に備えて
エネルギーの予備を充分に用意するよう努めているが、
その用意は予定より1か月先に進んでいると発表して
いる。それでも危機があり得るという不安は完全に
収まってはおらず、特に先日ロシアのガスプロム社が
ノルド ストリームのガス パイプラインを無期限で閉鎖する
ことを決めたのが深刻な懸念材料になっている。
ガス漏れの疑いがある、との理由ではあるが。
ドイツ政府による先日の宣言からも、長年続く核エネルギー
政策関連の遅延がうかがえる。2011年にアンヘラ
メルケル前首相が決議では、同国は2022年末までに
核発電を終了させる予定であったが、現在のエネルギー
供給への脅威を目前にして、再検討を始めている。
今回の提案も最終的なものではなく、ドイツ議会の承認を
受ける必要がある。
上述のストレス テストに先立ち、ドイツのオラフ ショルツ
首相は国内のエネルギー源としてドイツに残る最後の
原発を延命するのも 「意味がある」 かもしれないと
述べていた。Habeck も以前、このストレス テストの
結果から冬季の電力供給の安定を確保するために良い
のであれば、バイエルンに残っている原発を延命することも
検討できると発言していた。
************
この報道でお分かりの通り、あくまで 「4か月弱、最後に
残った原発を延命するかも」 ということですよね。原発を
段階的に廃止するという基本方針は、変わっておりません。
英語ニュースを読める方々は、ぜひ上のリンク先にある元の
記事をお読みください。あくまで段階的廃止という基本方針に、
現時点で変わりはないことは明らかだとお判りいただける
はずです。
さらに、もともと2011年の段階的廃止計画で、予備のための
原発は認めていました。
実は私 (ひで) は 2019年5月にある国際会議で、この基本
方針を決めたドイツの倫理委員会のメンバーであった Miranda
Schreurs博士の講演を議場で同時通訳し、ご本人と直接
会話もしたので、これは確認済みです。
雨が降らなきゃ原発も ・・・
では、次の記事をReutersから。
「再生エネルギーは天候に左右されて、あてにならない。
原発なら、安定する」 という主張が日本ではまかり通って
いる現在ですが、上の黒いメニューで 付録 w-10) を
お読みくださった方々はお分かりの通り、現在フランスの
原発多数が 「天候のせいで」 稼働に支障をきたしており
ます。「なんで???」 とおっしゃる方は、付録 w-10) を
お読みください。
それと、2011年以来、日本では一種のフェイク ニュースが
一部にはびこっていて、
「ドイツは電力が足りなくて、フランスから原発の電気を
買ってんだってよ~~」 とか真面目な顔でのたもう方々が
いらっしゃいます。現実は、上の記事にもあったように、
ドイツは今までのところ電力輸出国です。
では、Reutersから、フランスとドイツのエネルギー取引に
関する記事を。
これも私の抜粋・日本語化
< > 内は私からの補足説明
:*Macron: France, Germany to provide each other with gas, electricity, to weather crisis | Reuters
September 6, 2022
Benoit Van Overstraeten 記者、Ingrid Melander記者
****************
Macron: France, Germany to provide
each other with gas, electricity,
to weather crisis
(天候危機に対応し、フランスとドイツは天然ガスと電力を
供給しあうと、マクロン)
パリ発、9月5日(ロイター) – フランスは必要が生じれば
ドイツに天然ガスを供給する一方、ドイツはフランスに
いつでも電力を供給する用意ができていると、月曜日
<9月5日> にエマニュエル マクロン大統領は述べた。
ウクライナでの戦争の影響でエネルギー危機が発生して
いるが、その中でのヨーロッパの連帯を実証するものだと
言う。
ヨーロッパではガス料金が高騰、株価は急落しユーロも
月曜日にはロシアが主要供給ルートでガス供給することを
やめたのを受け、下落した。27か国からなるEUは
冬の訪れを前に緊急体制を整えているが、このロシアに
よるガス供給停止はそこへの新たな打撃となった。
・・・(中略)・・・
「ドイツはフランスのガスを必要とし、フランスはヨーロッパの
フランス以外の諸国、特にドイツからの電力が必要だ」 と、
ドイツのオラフ ショルツ首相との電話会談の後での記者
会見で、フランス大統領は語った。
必要が生じればフランスがドイツにガスを供給することに
関連した各種取り決めは、これから決まると同大統領は
述べた。さらに同大統領によれば、長年フランスは電力の
輸出国であったのだが、現在フランスの原発は技術的な
問題に直面しており <上の黒いメニューで 付録 w-10) を>、
近隣諸国からの支援を必要とすることになろう。
・・・(後略)・・・
*********************
お分かりのとおり、水で冷却する原発 (代表は軽水炉) で
ある限り、原発は大気を温めない代わりに川や海を温めます。
干ばつなどで川の水が不足すれば、原発は稼働できません。
だからといって海岸に立てれば、津波が襲ってきたときに ・・・
かといって、空冷式原発なら、まともに空気を温めますし。
この 「原発の大水飲み問題」 については、
「やかんをのせたら~~」では ウクライナで戦争が始まる
何か月か前、まだ干ばつも始まっていなかった
2021年12月に 付録 w-2) で指摘済みです。
(自慢ではなくて、「水冷式」原発の仕組みを理解して
いれば、だれでも指摘できる問題ですね)
これに放射性ごみの保管問題、そして各種の軍事的リスク
(これが、「やかんをのせたら~~」 のフォーカスです) を
考え合わせるなら、原発は決して 「頼れる電源」 などでは
ありませんよね。
各地域の自然条件や需要に合わせ、各種の安全な電源の
適切なブレンドを考えないと。それこそが安定供給のための
リスク対処だと思うのですが、この11年半もの間、
日本政府は何をやってきたのでしょうか??