パキスタンの核兵器がアフガニスタンに入り込む危険性、他の論者の指摘

では、そのタリバンが核兵器を入手する危険性を指摘する見解の実例を、さらに紹介しますね。
The Washington Post, 2021年8月23日
John R. Boltonによる主張

元の記事は、以下のリンク先に。
Opinion | John Bolton: Kabul’s fall poses a risk that Pakistani extremists will increase their influence in Islamabad – The Washington Post
(主張: ジョン ボルトン氏 ー カブール陥落で、パキスタンの過激派がパキスタン政府への影響力を強める恐れ)

(私による日本語化)

John R. Bolton(以下、「ボルトン氏」)はアメリカのトランプ政権で国家安全保障問題担当顧問を務め、「The Room Where It Happened: A White House Memoir」(このタイトルを翻訳しておくと、この部屋でそれは起きた ― ホワイトハウス回顧録)というトランプ政権の回顧録を著している。

・・・(ポッドキャストに関する告知が、英語の元記事にはあります。ここでは省略) ・・・

闇の中で政府から ・・・

闇の中で政府から ・・・

(本文)

アメリカがアフガニスタンから「脱出」したが、これが及ぼす深刻な波紋は多数あって、いずれに着目すべきかに頭を悩ませるほどだ。特に重大な課題の中でも、最も突出しているのがパキスタンの今後だ。この数十年間、パキスタン政府は無謀なまでに核兵器保有に躍起で、しかもイスラム主義テロ勢力を支援してきている。その脅威をアメリカの政策担当者たちは今まで一貫して過小評価してきたか、対処を誤ってきた。カブールがタリバンに陥落した今、無視や言葉濁しができる時代は終わったのだ。

すぐ隣のアフガニスタンをタリバンが掌握した以上、パキスタンの政府に対する影響力が既に強大な過激派がその影響力をさらに増大させ、いずれは全権を掌握してしまう脅威を無視できない。

18から19世紀にかけて今のドイツの主要勢力であったプロシアという王国では、他の諸国が軍を有しているのに対し、プロシア軍が王国を有しているといった表現がよくなされた。この言葉は、パキスタンにも良く当てはまる。「鋼鉄の殿堂」とも呼ばれるイスラマバードの軍部は、確かに国家安全保障に関しては実質上の政府であり、軍部以外の政府部門はベニア板の構造物のようだ。同国の諜報機関であるInter-Services Intelligence(ISL、インターサービス インテリジェンス)は以前から過激派の温床となっており、しかも過激派は軍部全体にも入り込んでいてより高いランクへと歩を進めている。現在の首相イムラン カーンも今までの選挙で選ばれた指導者たちの多くと同様、「表向きの顔」を務めているに過ぎない。

アフガンへの旧ソヴィエトの侵攻と敗退の略述

アフガンへの旧ソヴィエトの侵攻と敗退の略述(画像をクリックすれば、拡大します)

旧ソヴィエト軍がアフガニスタンに侵攻し戦闘を展開していた頃(主に1980年代)、ISIはアフガニスタンのムジャヒディンという反ソヴィエト軍の勢力を広範に支援していた。これには宗教的な理由と、国家安全保障上の理由とがあった。アメリカ政府も、「ムジャ」にパキスタン経由で支援を送るという誤りを犯した。パキスタン経由だったため、実際にどのような政治家や軍人が援助を受けていたのかが、分からなかったのだ。さらにパキスタンはテロリスト組織がカシミールでインドを攻撃目標とすることも可能にした。インドとパキスタンが別々に英国から独立した1947年以来、インドとパキスタンは敵対を続けており、その一触即発の対立地域がカシミールなのだ。

カシミールの現状

カシミールの現状

旧ソヴィエト軍は1989年にアフガニスタンから撤退したが、ISIは当然のようにタリバンなどの勢力を支援、そうした勢力がアフガニスタンを1996年に掌中に収めた。パキスタン軍部の基本認識として、カブールの政府が親パキスタンであれば、インドに対抗するうえで「戦略的深さ」が得られる。パキスタンの指導層は、それをタリバンが実現してくれたと考えているのだ。2001年にアメリカ軍と反タリバン勢力などの連合軍がタリバン政権を打倒した際、ISIはパキスタン国内にタリバンの避難地を設け、武器や必要物を支給した。もっとも、パキスタン政府はそれを以前から否定しているが。

そして今、タリバンがアフガニスタンの政権を再度握った。パキスタン国内のタリバン勢力やその他の過激派に対して、アフガンのタリバンが避難地へのお礼をする可能性がある。パキスタンのタリバンとは、アフガニスタンのタリバンと同盟している過激派だ。世界にテロリスト政権がもう1つ増えて欲しくはないのは、明らかだ。だがパキスタンの抱えているリスクは、他の多くの国とは規模がまったく異なる。アフガニスタンではISIS(イスラム国)も基盤を獲得しつつあるが、それやアルカイーダと比べても、タリバンの危険性は見劣りしない。

イランは今も核兵器を手に入れようと躍起だが、パキスタンは既に数十基の核兵器、おそらくは150以上をすでに保有している。この数値は、公に発表されている情報源によるものだ。そうした核兵器が過激派の手にわたるなら、インドにとってのパキスタンの脅威は強大なものとなり、南アジア地域の緊張は歴史上前例のないレベルに達するだろう。特に、パキスタンの核兵器プログラムや弾道ミサイル プログラムでは、中国が中心的な位置を占めているという事実を考えるならば。さらに、パキスタンの核兵器がテロ集団の手にわたり、世界のどこかで爆発するという危険性を考えるなら、新たな9/11的テロ事件が発生する恐れもある。その被害は、2001年のものを上回ることになろう。
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この記事も長いので、後半は次回に。

なお、あくまでBolton氏の主張の紹介であり、私(フランシス)個人の主張では
ないことは、忘れないでくださいね。
私は「アフガニスタンの何れかの武装勢力が、パキスタンの核兵器を入手する危険性」を
心配しているのですが、Bolton氏のような安全保障の専門家もその危険を指摘している、
ということです。Bolton氏の主張を何もかも、私が肯定しているわけでは、
ございません。

それと、Kemp氏やBolton氏に限らず、同様の危険性を憂慮する声は、
英語の報道には他にも見当たります。

 

About FrancisH

A freelance painter, copywriter, and beading artist
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