4月22日付のAERA dot. に「ウクライナ侵攻は「宗教戦争」
泥沼化の可能性も プーチン氏に「ロシア正教を守る」使命感」
という記事があって、ロシアのウクライナ侵略の背後にある
ロシア正教会総主教 (「東方諸正教会」全般じゃ、ないですよ!
そもそも、ウクライナにはウクライナ正教会がありますから) の
存在を説明しています。
ウクライナ侵攻は「宗教戦争」泥沼化の可能性も プーチン氏に「ロシア正教を守る」使命感 (msn.com)
この記事を私は全部読んだのですが、どうも話を簡略化しすぎて
いると思えてなりません。
たとえば、
「カトリックとロシア正教は同じキリスト教ですが、似て非なるもの。
その違いは、イエス・キリストをいかに考えるかの違いです。
カトリックではキリストは神であると同時に人間であるのに対し、
ロシア正教は思考の上では同じように理解しながら、感性の上では
キリストが人間であることが迫ってきます。つまり、ロシア正教は
神と化した人間を求めるのです」
とありますが、おそらく古代からある θεωσιs (「神化」と訳して
いるようです) のことを述べてらっしゃるのでしょう。
ただ、本来は聖三位一体が被造世界(特定個人ではなく)を
ご自分に近づくものへと再創造されるという教説のハズで、
国家指導者を神格化するということじゃありませんよ。
このへん、有名なイコノクラスマ(聖像破壊運動)とそれに
対応した公会議の決定なども背後にあるのでしょうけど、
それについては本ウェブサイトのフォーカスから外れすぎるので、
ここではやめておきますね。
とにかく、研究者の方がこの程度のことをご存じないハズはないので、
おそらくは「平均的日本語読者に分かりやすくするため」 記載を
編集した結果、こうした誤解されやすいテキストになったのでは?
と推察します。もしそうなら、よく起きる問題ではありますが。
* ついでながら、本「やかんをのせたら~~」では、たとえば
「同位体」、「α崩壊」、「減速材」といった核発電の基本用語や、
「(旧)冷戦」、「秘密都市」、「IAEA」といった核軍事関連の
基本事項については、説明をしておりません。今後も、しません!
「イジワル!!」という非難を浴びるのは、承知の上です。これは、
・ そういう基本をまだ学んでらっしゃらない方々は、まず
それを学ばれた方が良いからです。核問題(兵器も発電も)に
関する記事や論考を読むうえで、理解度が大幅に向上しますので。
・ 基本を知らない読者にも分かりやすく ・・・ という文章を
書こうとすると、上のAERAからの引用にあるような「誤解を
招きやすい」文章ができやすいので、それを避けるためです。
・ 基本を解説しているウェブサイトや書籍は、すでにアレコレ
出ています。
「いじわる!」
私の20分クロッキーより
さらに、AERAの記事から:
「・・・ そもそもカトリックとロシア正教は対立関係に
あります。また今回、ロシア正教の最高指導者の総主教は
プーチン氏のウクライナ侵攻を支持しています。仮に
カトリックの最高指導者である教皇が総主教に何か言えば、
火に油を注ぐことになりかねません。」
これも「分かりやすくするため」なのか、話を単純化し
すぎていますね。
・ 現実には、東方諸正教会とローマ教会の間の対話は
既に進んでおり、英語版Wikipediaにはそれを概説した
ページすらあります。
Catholic–Eastern Orthodox relations – Wikipedia
その中でも、比較的最近ウクライナ正教会が「独立」した
ことに関し、東方諸正教会の中でモスクワVSコンスタンティノ
ポリス(ギリシャ正教会) という対立があります。これに
ついては、上の英語Wikipediaにも以下の記載があります。
In 2018 the ecumenical effort was further complicated by
tensions between the Russian Orthodox Church and
Greek Orthodox Church which resulted in the
Ecumenical Patriarch establishing an independent
Ukrainian Orthodox Church.[52] Furthermore,
Pew Research has shown that as of 2017 only 35% of
Orthodox practitioners are in favour of communion with
the Catholic Church, with a low of 17% among Russian
Orthodox adherents.
この「モスクワVSコンスタンティノポリス」という対立に
ついては、上の黒いメニューの最後にある「付録の付録」で
ANGELUSの記事などを紹介しております。
上のAERAの記事の取材元である研究者の方がこの程度のことを
ご存じないとは思えないので、やはり記事の編集の時点で、
「平均的な日本語読者にとって分かりやすく」 しようとした
あまり偏った記述になったのでは、と私には思えます。
現時点での東方諸正教会間の分裂の様子については、
The New York Timesが2022年4月18日付で Ukraine War Divides
Orthodox Faithful (ウクライナ戦争で、正教会の信徒間に分裂)
という記事を
Ukraine War Divides Orthodox Faithful – The New York Times (nytimes.com)
に公表してらっしゃいます。
そこから抜粋・日本語化して、紹介しますね。
いつもどおり、< >内は私からの補足説明です。
私のTシャツ作品より
Neil MacFarquhar and Sophia Kishkovsky
イタリア北部にある、ロシア正教会と関係した小さな教会には、
ほぼウクライナの人たちが集まっている。IT技術者や工場
勤務の移民、ナースや清掃員といった人たちだが、モスクワの
キリル総大主教によるウクライナ侵略への全面的な支持を、
非難することに決定した。
モスクワ総大主教は既に幾度もロシア軍を祝福しており、
その一例として同軍の司令官に歴史的価値の高い金の生神女イコン
<聖母マリアのこと、東方正教では「生神女」と日本語化しています。
ギリシャ語θεοτοκοs より> を授与したりしている。また今回の戦争を、
「ゲイ プライド パレード」のような同主教が西側の過ちと呼ぶ
問題からロシアを守るための聖戦と位置付けている。
ヴラディミール V プーティン大統領を同主教は明確に指示しており、
その見返りにロシア正教会は大規模な財政面での支援を受けている。
<「付録の付録」で紹介した記事も、ご覧ください>
イタリアのウディネ<イタリアの東北端> にあるキリスト昇架教会の
司祭長ヴォロディミール メルニチュクによれば、「モスクワ総大主教は
神学を無視し、国家のイデオロギーをただ支持してしまっています。
結局のところ、総大主教はウクライナ系の羊たちを裏切ったのです」
結局今年の3月末日、ウディネの同司祭はモスクワ総主教座との
すべての関係を遮断するという旨の書簡を記した。
この4月24日の日曜日は東方諸正教会ではイースターとなるが
<東方では今もユリウス暦を採用していますので、イースターや
クリスマスの日付が西側とは異なります>、東方諸正教会の2億人を
超える信徒たちの間では、上記と似たような緊張の波紋が広がっている。
こうした信徒たちは主に、ヨーロッパの東部と南部に集中している。
世界的に見ても、今回の戦争のためキリル総大主教やロシア正教会
との関係を考え直す動きが広まっており、各国の東方正教会や
教会間、教区間での分裂が生じている。
アメリカでは、一部の信徒たちが教派を変えている。フランスの
東方正教会神学校の学生たちが担当の主教に対し、モスクワ主教座
との決裂を求める請願を出した。オランダのロッテルダムにある
東方正教会では、今回の戦争のことで信徒たちの間に争いが生じ、
警察が介入せねばならなかった。
・・・(以下略)・・・
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武力で目立つのは ・・・ しょせんは「裸の王様」
私の20分クロッキーより
たとえばゲイ パレードが気に入らないのなら、その根拠を
神学的に示すべきですね。そして、神学的な議論を重ねればよい。
武力を祝福してしまった時点で、モスクワの敗北ですよね。
では今後も、ウクライナ情勢についても気になる報道など
見つけたら、言及していきますね。
でも、早く平和が訪れて、その必要がなくなることを
祈っております!