Hans Petter Midttun氏による論調、
パート2
OPINION:
Europe in Flames: the Factors of
Concern (part 2)
(論調
炎に包まれるヨーロッパ: 憂慮すべき
要因 (パート2) )
ウクライナで最も長い歴史を誇る英語紙
Kyiv Post にあるEurope in Flames: the
Factors of Concernのパート2です。
今回は、いよいよ核リスクに関する
言及も登場します。
英語の元記事を読みたい方は、下を
クリック:
Opinion: Europe in Flames: the Factors of Concern (part 2) (kyivpost.com)
ロシアVSウクライナ戦争は決して、
特定地域だけの紛争ではない。
ヨーロッパの未来が左右される。
西側を待ち受ける選択肢を考察する、
5つのパートからなる徹底論調の
パート2。
かなり長い論考ですが、読む価値は
あります。お時間のない方は、
何回かに分けてどうぞ。
いつもどおり、
私の日本語化
< > 内は私からの補足説明
です。
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Hans Petter Midttun
2023年12月27日
核リスク
今回の全面戦争が始まって2年近くに
なり、<ロシアによるクリミア侵略の
開始からだと> ほぼ10年になる。
クリミア侵攻が始まった際に西側は
軍事的には介入しないことにしたの
だが、それは核での衝突という極めて
仮説的な不安のためであった。今や
我々は、数種類の核災害のリスク
<たとえばザポリージャ原発の状況
など> が現実に存在し、しかも増大
を続ける中で生き続ける術を得て
しまっている 。
人類史上初めて、15機もの原子炉が
ある場所で熾烈な戦闘が繰り広げられ
ている。ザポリージャ原発は、2022年
3月以来今も <ロシア軍に> 占拠され
ている。人員が不足しており、定期的な
外部電源供給の喪失が発生している。
メインテナンス作業のできず、本来の
設計や既存の規則とは食い違った稼働が
なされている。
1986年のチョルノービ原発大事故を
上回る核大災害のリスクが、日増しに
増大している。
防空
ウクライナの防空装備(air defense、
AD)は旧ソヴィエト時代の遺産の
ような代物で、徐々に劣化している。
しかも西側からのADの供与は時間が
かかり、限定的なものだ。NATO加盟
諸国の大半は、冷戦の終結以来現在
まで、頑強なADネットワークへの
投資とメインテナンスを怠ってきて
いる。そのためそうした諸国には、
ウクライナに供与できる装備備蓄が
少ないのだ。しかも多くの諸国では
大急ぎで自国のADを再構築し深刻な
脆弱性をなくそうと慌てている始末だ。
最近供与の約束があったものの多くは
まだ出来ていないシステムの供与で
あったりする。たとえばドイツは
IRIS-T というシステム8つをウク
ライナ軍に支給すると約束したのだが
そのうち3つが納品済みだ。<まだ
5つ残っている> アメリカは
NASAMS12個のウクライナへの供与を
約束したが、そのうち最低で6個は実際
に供与されることになりそうだが、
時間がかかる。(2025) カナダも
NASAMS1個の供与を約束したが、
まだ実際に引き渡せてはいない。
すぐに供与できるADが不足している
ことに困ったアメリカは、Franken
SAMUS 防空システム(ハイブリッド
型のADシステム)用の技術を供与
した。ウクライナの軍事力を増強する
ためである。このアメリカが実施した
FrankenSAMプロジェクトでは、次の
3種類の作業を合体させている。1つは、
アメリカのSea Sparrowというミサイル
を <ウクライナが保有する>
ソヴィエト時代のBuk発射機で発射
できるようにするというものだ。2つ目
として、アメリカのSidewinderという
空対空ミサイルとソヴィエト時代の
レーダーの組み合わせ。3番目のプロ
ジェクトは秘密とされているが、最も
効果の高いものとされている。
ロシアの戦闘機は、昨年
<2022年> 春以来、ウクライナの
制御している領空を飛んではいない。
だがロシアは長距離ミサイルと
ドローン両方の製造を増大させており、
2024年に入りウクライナのADネット
ワークが弱体化した場合には、戦況は
ロシア寄りに劇的に変化してしまう
だろう。
防衛産業
エストニア国防省の推定によれば、
「西側同盟の155mm 砲撃システムは
ロシアの相当砲撃システムである
152mmシステムよりも射程が長く、
発射速度も高く、精度もよい。 現地
での火力での優越性をウクライナが
維持するには、最低でも毎月 200,000
発の砲弾を必要とする。これだけの
砲弾を供給すると、ヨーロッパと
アメリカの2024年用砲弾備蓄がなく
なってしまい、弾薬をその他諸国から
大量に買い入れる必要が生じる」
ウクライナは既に、弾薬の不足に悩んで
いる。ウクライナ軍の砲兵たちは弾薬を
散発的に使用するしか選択がない。
ウクライナの同盟諸国が現在供給できる
以上の弾薬を、ウクライナは必要として
いるのだ。この不測のためウクライナ軍
は、弾薬の割り当てを変更し軍事任務の
作戦を変更することを余儀なくされて
いる。「砲弾がないままでは、単に
ロシア軍に占領されている領土を取り
戻せないだけでなく、ロシア軍の攻撃を
止められず、結局はこの戦争に敗れる
ことになってしまう」 砲弾不足のため
ウクライナ軍(Armed Forces of Ukraine、
AFU)は一部の作戦の中断を余儀なく
された。
戦闘の前線全体にわたり、ウクライナは
今までソヴィエト時代の遺物兵器である
122mm と 152mm の砲弾の不足に
悩んできている。
今年9月、ウクライナは初めてロシア
軍と同等の火力を得た。だがその後、
ロシアは砲弾の輸入と製造量を増やし、
一方でウクライナへの西側からの国防
支援が減少していき、今ではロシア軍
からの砲弾発射量はウクライナからの
砲弾の5倍から7倍に達している。
それに応じウクライナは、国内での
砲弾製造の再建にフォーカスしている。
最近ウクライナは国際的な兵器企業
数社と数件の契約を締結、兵器と弾薬
の合弁製造の体制を固めた。だが
そうした製造ラインが稼働を始める
には、2から3年を要する。
この戦争が始まって約10年になるが、
アメリカとヨーロッパの防衛産業は
いまだに製造の増産に悩んでいる。
これは、国家政府が長期的な生産契約を
渋っているためだ。<その戦争が
始まった直後の2014年にNATO諸国が
集まりサミット会議をウェールズの
ニューポートで開催したのだが> その
ウェールズ会議から既に9年が経過して
いるものの、しかも戦争は拡大激化して
いるにも関わらず、その会議での決定
事項を守って実行しているのは出席
31か国のうちわずか11か国に過ぎない。
GDP比率で2%を防衛費に充て、防衛費
の中の20%を設備費とする、という
目標であったのだが。31か国のうち
5か国は、いずれの目標にも到達できて
いない。 その結果、西側はウクライナに
供与できる兵器と弾薬とが多かれ
少なかれ不足しているのだ。だがこの
欠乏は既に1年半前に「はっきりと警告
があった問題」<writing on the wall、
ヘブライ聖書(旧約聖書)のダニエル書
5章を参照> であり、西側は適切な
戦略を採択できなかったのだ。
これに対しロシアはその国防産業ベース
(defense industrial base、DIB)を
徐々に動員、ウクライナでの深刻な
損失に対処し長期的な戦争努力を維持
できるように努めている。経済制裁の
作用を軽減するための策略も、以前から
設定済みだ。プーティン大統領はロシア
経済と社会とを戦時体制に以降させつつ
ある。2024年のロシアの国防予算は、
同国の予算総額の29.4%に達しており、
1/3に近い。こうした動きには必ず問題
が伴うものだが、勝つためなら何でも
するという決意の実証であることに
間違いはない。
NATOによる抑止
NATOによる抑止は、作用しない。
なぜ作用しないのか、その理由には
いくつかあるのだが、最も重要な理由を
1つ選ぶとすれば、そもそもNATOと
いう抑止が作用するのであれば、今回の
ようなウクライナでの全面戦争は
始まっていない。なぜか?NATOという
同盟は「NATO諸国の安全保障に影響し
うる発生中の危機が軍事紛争に発展して
しまうことを防止し、すでに発生した
紛争が同盟諸国に影響するのを防止
する」ためのものなのだ。NATO は
ウクライナを守るという使命を認めて
おらず、あくまでウクライナを支援する
ことで時刻を守ろうとしているのだ
(その例が、ポーランドやエストニア、
ラトヴィア、リトアニア、チェコ
共和国、ルーマニアなどであり、
しかもそうした諸国が増えつつある)
侵略を検討しながら、ロシアは2010年
の戦略コンセプトで定めたところに則り
NATOの関りを査定していたこと
だろう。そして、NATOは恐れるに
足らずと判断したようだ。困ったことに
ロシアの判断は正しかったことが実証
されてしまった。
NATOの凋落
私 <Midttun> は以前、NATOという
同盟の今後に疑問を呈した。
(Will NATO survive the war? – Euromaidan Press)
NATOは言葉の上では団結を標榜して
いるが、その関与意識のレベルの
メンバー諸国間の違い、共通の戦略の
欠落、政治的意志の欠如や軍事力の
差などで不協和音を奏でている。
ヨーロッパは安全保障や国防への投資
において失敗を続けており、アメリカ
もヨーロッパへの関りという点では
目標に到達できず、さらには価値観や
原則の共有ができず統一性に欠ける。
NATO加盟諸国の間では、そのため
不整合が見られるのだ。
その結果、今回の <ウクライナでの>
戦争は規模と範囲という面でヨーロッパ
を巻き込んで拡大しつつあるのだ。
選挙
アメリカでもヨーロッパでも2024年
には重大な選挙がいくつかある。2024年
の大統領選挙でドナルド トランプが勝利
したら ・・・ というのが多くの人たち
の深刻な懸念事項になっている。
トランプはヨーロッパへのアメリカから
の支援を削減し、NATOからも脱退する
恐れがある。
だがアメリカ議会では民主・共和両党
ともウクライナへの強い支援方針を
示しており、アメリカの国益にとって
ウクライナの勝利がいかに不可欠かも
認識されている。そうであれば、
アメリカからの支援がなくなってしまう
ことは考えにくい。むしろ、支援の規模
や範囲が問題となろう。
そうはいっても、アメリカ政治では孤立
主義的な感情が長年存在してきている。
ウクライナそしてヨーロッパの安全保障
をめぐる安全保障や防衛政策の検討に
おいても、この孤立主義は大いに浮かび
出ている。バイデン政権は結局のところ
ウクライナを勝利に導くことはできて
いないのだ。
私 <Midttun> としては、ヨーロッパ
で予定されている選挙が気がかりだ。
生活費の高騰のため前例がないほどに
抗議活動が急増しており、ストやデモ
行為、暴動なども増え、世界的に
過激な活動が増大している。
そのため、政治的な局面も徐々に変化し
つつある。ヨーロッパ全体で極右政党が
勢力を拡大、NATOもEUも今後の結束
が危ぶまれている。オランダでは先日の
選挙で極右視力の政府が成立したが、
これもあくまで最新の「被害国」で
あるに過ぎない。
チェンバレインが大勢なのにチャーチル
がいない
(この下にある「パート1」で、
最後の段落を参照)
アメリカにもヨーロッパにも、戦略的な
思想家がいない。「この時代における
平和」が何十年も続いた時代の後と
なった現在、各国政府も省庁も軍部も
学術界もメディアも、安全保障に関する
リスクや通常兵器ならびに核兵器による
戦争、危機管理、全体的な国防、抑止、
準備態勢、持続可能性、その他の問題を
大人の話し合いとして討議するための
経験も知識も、そしてヴォキャブラリー
さえも、失ってしまっているのだ。
この戦争が始まって10年になるが、
西側は今も今迄からの戦略を踏襲して
しまっている。その戦略のおかげで、
ロシアは平和を危機と紛争、戦争に
変えてしまったのだが。ロシアは対立を
激化させ拡大しつつあり、グローバル
サウスとの関係強化を進めているという
のに、西側はこの戦争からの「津波の
ようなさざ波効果」を甘んじて受け
止めているのだ。
新たな、より勇気ある戦略が間違いなく
必要だ。ウクライナでロシアが勝とう
ものなら、ヨーロッパの安全と安定も
破壊されてしまう。
本論調にある見解は著者自身のもので、
Kyiv Postの見解でもあるとは
限りません。
Hans Petter Midttun氏について:
独立系のアナリストで、Hybrid Warfare
を専門とする。Centre for Defence
Strategies(防衛戦略センター)の非常勤
フェロー、Ukrainian Institute for Security
and Law of the Sea(ウクライナ安全保障・
海洋法研究所)の理事会メンバー、また
ノルウェーの対ウクライナ国防アタッシェ
も歴任、またノルウェー軍士官でもある。
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核兵器保有国が「イカレて」しまったら
・・・
全世界が手に負えない事態になりかね
ない。
それが現実化してしまった実例が、
今現在進行しているわけですね。
核兵器と核発電の廃絶は人類の必須
課題の1つですが、「発電は平和利用
でしょ?」という無知な認識を、いま
だに目にします。日本では、反原発運動
の中でも、そうした誤認識を目撃して
きました。
そこで、日本語で「核兵器と核発電の
不可分性」を説明するウェブサイトと
して、本「やかんをのせたら~~」の
運営を続けております。