Ramana博士、IAEAの raison d’etre に宿る自己矛盾を指摘

CounterPunch (アメリカに本拠を置く
オンライン雑誌) より
More Nuclear Reactors? Deceptive Tunes from the Pied Piper of Vienna – CounterPunch.org

IAEAのラファエル グロッシ事務局長、
ここ数年、大忙しですよね。
ザポリージャ原発、イランの「軍事
目的としか思えない」高濃縮U、北
朝鮮の核武装とそれに対抗しての
韓国内での核武装論の高まり ・・・

半分スカート、半分パンツって ・・・
要するに、自己矛盾やんか!

では、そもそも1957年の創設以来、
IAEAのミッションって?
要するに
・ 核発電を世界に広める
(その条件として、IAEAによる査察
などを受けさせる)
・ そうすることで、核発電を普及
しながら核兵器の拡散を防ぐ
ということでしたよね。

この2つが本質的に自己矛盾を孕んで
いることは、すぐにお分かりですよね?
そんなIAEAのraison d’etreそのもの
にある自己矛盾を、「やかんをのせ
たら~~」ではすでに幾度も指摘して
きました。

そして今回、アメリカに本拠を置く
オンライン雑誌CounterPunchに、
Ramana博士という専門家による
このIAEAのraison d’etreに宿る
明らかな自己矛盾の指摘を見つけ
ました。

早速見ていきましょう。
2024年7月26日付の記事で、
M. V. Ramanaならびに
Jixiang Wang
によるものです。

いつもどおり、
私による日本語化
< > 内は、私からの補足説明
です。
*************************

核推進笛吹きの大嘘

Nuclear Reactors? Deceptive
Tunes from the Pied Piper of Vienna
(原発の増設だと?ウィーンから
聞こえる、欺瞞の笛の根)

IAEAの事務局長ラファエル グロッシ
は、ここ何年か極めて多忙だ。
メディアではグロッシの苦労を取り
上げる記事が頻繁に見受けられ、
ザポリージャ原発での「大型核事故の
リスク」が取りざたされている。
さらにグロッシはロシアのヴラディ
ミール プーティン大統領とも2度の
会談を持ち、ザポリージャ原発の状況
を話し合った。グロッシは、
「深刻な核事故が発生すれば、その
惨状に国境はない」、そうした事故を
「防止するため、あらゆる手を尽くす」
と主張した。

だがそれと同時にグロッシは、自覚せず
に核事故発生のリスクを増大させて
しまっている。同事務局長は、
<世界での> 原発の増新設を推進して
いるためだ。その推進方法には、多様な
形態がある。Foreign Affairs <という
外交問題専門雑誌、https://www.foreignaffairs.com/united-states/nuclear-must-be-part-solution >
のような名高いメディアにグロッシは
署名入り記事を発表、各国をめぐり
核発電プログラムを始めようと呼び
かけているのだ。2024.年3月には同
事務局長はバグダッドに向かい、
イラクと協力して「平和利用の」原子炉
建設を進めると約束した。さらに原子炉
建設の費用をイラクは捻出できないの
だが、そこでグロッシは世界銀行ならび
にアジア開発銀行に対し、原発建設の
ための資金提供を強く要請した。

原発建設資金、出してよ!
あんな不確かなプロジェクトに、出すカネなんかあらへん!

そうした行為はいずれも意味をなさない。
この資金提供依頼を銀行への投資アド
バイスの一種と見るならば、グロッシの
原発建設推進の理屈は、笑うにも笑え
ない。彼によれば、両銀行が核エネル
ギー用の資金を用意していないのは
「時代遅れで、世界の情勢にリズムを
合わせていない」そうだ。だが実際に
情勢からずれているのは、グロッシの
核エネルギー推進策なのだ。

全世界の発電量に対しどれだけの比率を
核エネルギーが占めているのかを調べて
みると、この25年間その比率は低下の
一途をたどっている。1996年の17.5%
から2022年には9.2%にまで低下した。
後に説明する事情のため、この低下傾向
は今後も続きそうだ。言い換えれば、
核エネルギーの重要性は減少しつつある
のだ。一部の学者たちは核エネルギーを
「衰退をたどるしかない技術」と呼んで
おり、そんなものにさらに資金を拠出
するのは無意味でしかない。.

上述の開発銀行に対するグロッシの要望
を検討する際には、この種の銀行の
在り方をよく弁えておくべきだ。世界
銀行の使命とは、「極度の貧困を撲滅
し、生きていける地球において繁栄を
謳歌する」ことにある。一方アジア開発
銀行の使命も同様だが、地域として
アジア太平洋地区に焦点を絞っている。
特に世界銀行のミッションでは現在の
世界が直面している危機は複数の危機が
複雑に絡み合ったもので、「安価な
エネルギー」の必要性と、そうした
危機への迅速な対応の必然性とを述べて
いる。「早期対応が不可欠だ」とある。
核エネルギーは <導入に期間も費用も
かかるので> いずれのニーズにも対応
できないのだ。

時間もカネも、ごっついことかかるがな!


高価で期間も要する

原子炉で発電する電力は大変高価で、
安価なエネルギーにはならない。
特に、他の炭素排出の少ない
エネルギー源つまり再生可能エネルギー
と比べるなら、これは顕著だ。上述の
1996年から2022年とほぼ同期間に、
現代式の各種再生可能エネルギーが
発電量全体に占める比率は、1996年の
わずか1%強から2023年には15.9%に
まで急増した。現在では多数の諸国に
おいて、発電所のエネルギー源として
最もコストが小さくて済むのは、多くの
場合大規模の太陽光エネルギーなのだ。
そのため2020年には国際エネルギー
機関(International Energy Agency)は
太陽光のことを「世界電力市場の、
新たな王者」と呼んだのだ。銀行が
核エネルギーに資金を投資するなら、
その分だけ再生可能エネルギーや
関連する技術、インフラストラク
チャーへの投資が減る結果になる。

さらに原子炉というものは、予定通り
に竣工できたことがほとんどない。
2020年から2022年の期間中に送電
グリッドに接続されたすべての原子炉
のうち、なんと89%は予定より遅れて
接続されたのだ。予定通りに竣工できた
のは、中国の2基だけだ。アメリカでは
最近AP1000原子炉2基がジョージア州
で稼働を始めたのだが、その建設費用
たるや350億ドル近くにのぼった。

せんせ~~、97%は遅れてくるんですよ~~

この電力会社が原子力規制委員会からの
建設許可を申請したのは2011年のこと
だったが、その時点での予想総コストは
140億ドルだった。さらに「2016年と
2017年には稼働開始できる」として
いた。ある学術調査では原発プロ
ジェクト180件を調査したが、そのうち
175件で当初の予算をオーバーしており、
その差はなんと平均で117%に達し、
工事期間も当初予定よりも64%も長く
要した。そうしたパターンが歴史的には
解明されているのだが、<2020年から
2022年にかけてのコスト超過や延期の
実例は> そうした歴史的パターンより
もさらにひどいものだ。それだけでは
ない。全世界で今までに原発プロジェ
クトがキャンセルされた、あるいは
延期された件数は92件にのぼるが
多くの場合キャンセルまたは延期が
決まるまでに数十億ドルとは行かなく
ても、数億ドルを費やしている。
アメリカでのこうしたキャンセルの
最新の実例は、NuScale社の小型
モジュール原子炉 (SMR) の絡んだ
ものだった。同社はこのSMRは
「小型で従来より安全、安価」である
と宣伝している。だが実際には、
それは誤りだ。私の推計では、その
最終的なMWあたりのコストは、
ジョージア州のヴォートル原発プロ
ジェクトでの当初のコストより
約250%も高額であった。それ以前の
キャンセルはサウス カロライナ州の
ヴァージル C サマー原発プロ
ジェクトで、AP1000原子炉2基を
採用していた。このプロジェクトでは
キャンセルが決まるまでに、90億ドル
以上を費やしていた。この不良投資の
ツケは、今後数十年間をかけて電力
消費者たちが負担することになる。

キャンセルされた炎髪プロジェクトの630億円、結局、電気利用者が負担やて~~?


原発を進めるために必要となる条件

開発銀行が、核エネルギーを検討に
入れなかったわけでは、ない。
1959年に世界銀行は実際にイタリア
での原発プロジェクトに投資をした。
その際に一定の条件を設けたのだが、
その中で最も重要な条件として、
コスト面で競合する他の選択肢がない、
というものがあった。このプロジェクト
は失敗に終わった。この論考との関連で
もっと重要な問題として、今では太陽
エネルギーと風力エネルギーのコストが
下がり、利用しやすくなっている。
核エネルギーはこうした条件を満たして
コスト効率に優れることが、もはや
できなくなっているのだ。

アジア開発銀行(Asian Development
Bank、ADB)でも各種エネルギー技術
の分析を実施、エネルギーに関する
方針という文献を2009年に発表した。
この文献では核発電が直面する障壁を
いくつか浮かび上がらせているのだが、
その例として「核兵器拡散に関わる
社会的な懸念、核廃棄物の管理、安全性
の問題、巨額の投資金額、建設期間の
長さ、商業的に意味を成す新型技術の
普及」がある。こうした懸念がある
ため、どう文献では「ADBでは、
原子力には出資しないという現在の
方針を保持する」としている。しかも、
こうした障壁は1つとして解消されては
いない。

ADBがこの文献を公表してから2年後
に、安全性確保という課題がさらに
厳格化した。福島第一原発の複数の
原子炉がメルトダウンを起こし、放射性
物質を広域にまき散らし、社会政治的
にも経済的にも困難な課題が生じた。
そのために発生した経済的負担は推定で
35兆から80兆円にも達する。福島第一
事故は、核技術というものには
「事故の不可避性」が本質的につき
まとうのだ、ということを思い起こ
させてくれる。

事故以上に危険なもの~~


ザポリージャ原発の、未習得の教訓

深刻な核事故を招くもう1つの
パターンが見られるのが、ザポリージャ
原発だ。グロッシはそうした事故が発生
するなら「全世界にその影響が及ぶ」と
声高に訴えてきている。ならば <本来
なら> ザポリージャ原発危機を警鐘と
捉えて目を覚まし、この世界での原発
建設を続けるべきか否かを考え直すべき
だが、グロッシは核エネルギーの安全と
セキュリティのための5原則なるものを
訴えだした。グロッシとしては不運な
ことに、この5原則は広くは受容され
そうにない。その証拠として、ザポ
リージャ原発には幾度も攻撃が加えられ
てきた。

わてらだけや、おまへんでえ

しかもこうした攻撃がなされたのは、
原発への軍事攻撃には前例がなかった
ためではない。ロシア軍がザポリージャ
原発を占拠するよりもかなり昔、1981
年にイスラエル軍がイラクのオシラク
原発を空爆した。<上の黒いメニューで
ページc-1) を参照> さらに2007年
にはやはりイスラエル軍が、アル
キバールという核施設でシリアが建設中
だった原子炉を爆撃している。<ページ
c-2) 参照> さらにイランとアメリカも
それぞれ、イラクの核施設に攻撃を
加えたことがある。これらのケースの
いずれにおいても、攻撃を加えた側は
何ら処罰などを受けていない。

グロッシは上述の5原則を掲げ新たな
<核施設の> 管理体制を求めている
が、それらが他の方針と対立してしまう
危険性もある。<核廃絶を求める
ジャーナルである>  The Nonpro-
liferation Review
 に先日掲載された論文
で、2名の学者が この種の軍事攻撃の
歴史を詳細に調査、その結論として
「核施設への攻撃は今後も世界の
核不拡散体制の課題の1つであり続ける
ことだろう。これは、国際コミュニティ
ないしはその徳に影響力の強いメンバー
たちの少なくても一部が、核不拡散体制
の維持のためにはこの種の攻撃も必要な
選択だと考えているからだ」としている。
言い換えれば、攻撃を受けるリスクに
晒されるン発は、なにもザポリージャで
最後とは、なりそうにない。こうした
情報は、全く新しいものではない。
だが、グロッシの核エネルギー推進の中
には、こうした問題意識は全く見られて
いない。彼が世界銀行に対して
核エネルギーへの投資を行うよう提唱
した際、世界銀行が核エネルギーに
投資する何十億ドルもの資金が
<もし軍事攻撃がその核施設に対して
実施された場合には、そのわずか数分
の攻撃のため> 攻撃の後始末プロ
ジェクトに変身してしまう危険性が
あるというリスクを、グロッシは説明
していない。しかもこの後始末プロ
ジェクトの費用といえば、何千億ドル
にものぼるのだ。さらにイタリアの
ジョルジャ メローニ首相にグロッシが
小型モジュール原子炉の建設を勧めた
際にも、そのSMRが <軍事攻撃で>
爆破され、その結果はザポリージャの
場合と同じく「ひどい被害をもたらす」
ということを、グロッシは述べて
いなかった。

20-min croquis, seated model / 20分クロッキー、床に座すモデルさん

特定事項への沈黙とは・・・
私の20分クロッキー

こうした軍事リスクについてグロッシ
が沈黙していることは、世界情勢が
この上なく良好な場合でも、困りもの
だ。しかも実際にはグロッシは同時に
ザポリージャ原発での大事故という
リスクを声高に訴えているので、
こうした沈黙は許されない。先日彼は
イラクを訪問したが、イラクの原子炉
を以前にイスラエルとアメリカが爆撃
したことがあり、原子炉への軍事攻撃
は当然の憂慮事項であるハズなのだ
が、グロッシはそれを軽視していた。
グロッシがこの問題に対して示した
解答とは単に、「いろいろ過去に
あったが、未来へと進もう」という
だけであった。果たしてグロッシは
イラクに対し、こうした軍事攻撃が
二度と発生しないという信頼に足る
保証をできるのだろうか?

より深い問題として、利害の衝突が
ある。IAEAのヘッドとしてラファエル
グロッシは、前任者たちと同様、2つ
の異なる任務を抱えている。全世界
での平和と健康、繁栄に対する
核エネルギーの貢献を推し進め、
拡大する」こと、そして「IAEAの
行う、あるいは要請する、もしくは
監督・管理する援助活動が、いか
なる軍事目的にもつながることの
ないよう、可能な限り努める」こと
である。そもそも、なぜ核エネルギー
の利用を推進せねばならないのか、
根拠薄弱である。しかも近年は
推進理由は完全になくなっている。
1つ目の任務を廃棄し、2つ目に
集中するべきであり、もっと早く
そうすべきだった。

Another 20-min croquis -- tried to treat the model and surrounding space as a unity / 20分クロッキー。モデルさんと周囲の空間とを、一体として扱おうという試行
どうやれば結びつくってわけ??
私の20分クロッキー

  1. V. Ramanaは<カナダのヴァン
    クーヴァ―にある> ブリティッシュ
    コロンビア大学で軍縮、世界と人類の
    セキュリティを担当する主任(Simons
    Chair)ならびに公共政策と世界情勢の学部
    の教授を務めている。
    著作として、
    The Power of Promise: Examining Nuclear
    Energy in India 
    (Penguin Books, 2012) や
    Nuclear is not the Solution: The Folly of
    Atomic Power in the Age of Climate Change

    (Verso books, 2024) がある。
    Jixiang Wang はブリティッシュ
    コロンビア大学の公共政策と世界情勢の
    学部に勤務するとともに、ブリティッシュ
    コロンビア国際協力評議会(BC Council for
    International Cooperation)で政策アナ
    リストも務めている。

*******************************

20-min croquis from Sept 3 / 20分クロッキー、9月3日
なぜ存在しているの??
私の20分クロッキーより

本文の最後の段落にある通り、IAEAの
raison d’etre そのものが自己矛盾を
孕んでますよね。私個人の認識など
ではなく、Ramana博士のような専門家
も、その矛盾をご指摘です。
要は、「やかんをのせたら~~」で度々
説明してきたように、原子炉もウラ
ニウム濃縮も元々核兵器製造のための
技術です。それに「やかんをのっけて」
電気を起こすことを「平和利用」と
呼び、それを普及させながら軍事利用は
制限しよう(不拡散) ・・・ そんな
目論みそのものが、自己矛盾なのですね。
現実、この50-60年間というタイム
スパンで見ると、核兵器保有国は少し
ですが増えてしまっています。インド、
パキスタン、(おそらく)イスラエル、
そして北朝鮮。さらに、近いうちに
イランも??
ソリューションはただ1つ、核兵器も
それを作るための技術も(つまり、
核発電も)廃絶することです。

About FrancisH

A freelance painter, copywriter, and beading artist
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