2021年6月
「付録」のページでは、「やかんをのせたら・・・」の本来の話題を離れて、
核発電に関連する話題の中で、「核兵器との結びつき」以外の話題を紹介します。
本題を離れるわけなので、あくまで「付録」です。
ここ w-1) では、Warming つまり温暖化の元凶の1つと主張されている
CO2の排出と核発電について。
2021年6月のAERA.dotに掲載された古賀茂明さんの記事を、
まずクリックしてご覧ください。もっとも、読者の皆様はすでにお読みかも。
秋の選挙後に怒涛の展開か 原発新増設を巡る菅総理の「策略」 古賀茂明 (msn.com)
原発には、「外部電源」が
この自民党一部の動きは特に新しいものじゃなくて、2000年代半ばにアメリカ南部を襲ったハリケーン、「カトリーナ」のあたりから、核発電推進勢力は「原発はCO2をださない」というのを「売り」にしてますよね。
なるほど、「発電中の原子炉そのもの」は、物質を「燃やす」(酸素と反応させる)のではなく、ウラン235の核分裂を起こしてその膨大な熱で水を水蒸気に変え、発電タービンを回すわけですから、CO2を出しません。
しかし。発電中に作動しているのは原子炉だけじゃ、ありません。タービンに水蒸気を送り込むにも、そこから復水を原子炉へと送り込むにも、また使用済み燃料をプールで保管・冷却するにも、電力が必要です。こうした電力を「外部電源」と呼んでいて、これが途絶えると原子炉を冷却できなくなり、最悪の場合メルトダウンに至るのでしたよね。
その外部電源の一部でも火力発電で賄っていたら ・・・ 現実には「原発はCO2を出さない」とは言えないのです。
(2023年9月追記 →)この外部電源の必要がどれだけ深刻な問題かは、2022年から23年にかけてのザポリージャ原発の問題を見れば、明らかですよね。(← 以上、追記)
なんだあ、発電するために電気を使わないといけないのね ・・・
私の20分クロッキーより
核燃料製造の過程で
「やかんをのせたら・・・」のページ d-3) の中ほど、オレンジ色の文字の箇所で、すでに言及済みのことですが。たびたび述べてきたように、ウラニウム235を核分裂させて発熱させるには、天然ウラン鉱石のU235濃度(1%未満)ではだめで、3-5%あたりに濃縮する必要があります。だから、ウラン濃縮工場というものが、あるわけですね。この濃縮というプロセスで、少なくても次の2種類の問題があります。
・ 現在では濃縮に遠心分離機を使うが、何百台もの分離機を稼働させ、繰り返し繰り返し分離濃縮を重ねないといけない → 当然、膨大な電力が必要
なお、日本の六ケ所村にある日本原燃のウラン濃縮工場でも、やはり遠心分離機を多数使ってらっしゃいます。同社のウェブページ
[濃縮事業] 遠心分離機・カスケードとは | 事業情報 > 概要 – 日本原燃株式会社 (jnfl.co.jp)
をご覧くださいな。
・ 濃縮を「発電用濃度」を超えて進めていくと、核兵器用ウラニウム(90%以上)もできてしまう → 核兵器の製造に至りかねない
JCPOA再建交渉の報道を見れば明らかなように、イランが63%濃縮をやらかしたことが大問題とされていますが、それもこの問題が現実化した一例ですね。
「CO2排出」問題との関係では、もちろん上述の「膨大な電力が必要」の方を忘れないでくださいね。その膨大な消費電力の一部でも、火力発電に頼っていたら ・・・??
では、濃縮工場で消費する電力量は?
それを知りたいのですが~~インターネットでサーチしても、見つからないのです。核発電推進勢力は、「原発はCO2排出がほとんどない」などと主張したいのであれば、実際の濃縮工場での電力消費量も公表すべきですよね!?それが、見当たらない。当然、「隠してんじゃないか??」と疑われても無理はないですよね。
とにかく、数値が見つからないものは、仕方がない。実際の濃縮工場内部の遠心分離機がどのくらいあって、どのようなものなのか、画像だけでも見てみましょう。
アメリカのニュージャージー州にあるStevens Institute of Technologyで准教授を務めておられるAlex Wellersteinという、核情報とその隠ぺい問題などを専門としてらっしゃる方が、ご自分のブログですでに2012年6月25日にイランのナタンズ核施設の画像を紹介してらっしゃいます。
More on Centrifuge History » Restricted Data: The Nuclear Secrecy Blog
画像をご覧いただくと、アフマディネジャド氏がいることから、イランの施設だとわかりますよね。実際、写真のキャプションからは、イランのナタンズの施設だと判ります。
成人男性の身の丈よりも高い分離機が、何百台と並んでいますよね。これだけの遠心分離機をフル稼働させたら、どれだけの電力が必要か?そうした数値を推進側が提示しているのを、私は見たことがないのですけど ・・・
家庭用の乾燥機でも、毎時300W程度は消費しますよね。それをたとえば1,000台並べたら~~毎時30万ワットという“超電気くい虫”になります。核施設の分離機はもっと大型なので、30万ワットくらいじゃ、すまないはずです。仮に、あるウラニウム濃縮施設で毎時100万ワットの電気を消費するとして、さらにその半分を原発からの電気で賄っているとしても、残る半分つまり毎時50万ワットは火力発電所に頼っているとしたら?さらに、これは濃縮工場1か所だけの、そこの遠心分離機だけの、消費電力の話です。
ウラニウム燃料の採掘や精製、濃縮から原発の廃炉に至るまでのライフサイクル全体を考えると、「原発はCO2を出さない」などと言えるのでしょうか??
さらに ・・・ 排気はだめで、排水なら問題ないのか??
また「やかんをのせたら・・・」のページ d-2) の説明図 では、単に「外部へ」などとしており強調していませんが、軽水炉型原発では原子炉の冷却とタービン発電とに大量の海水や河川水を使います。当然、その水は暖かくなります。その温水を巨大河川のように川や海に放出してます。(日本の原発では、もっぱら海に放出)
これを大気中に二酸化炭素排出した効果に換算したら??その試算結果も、私は見たことがありません。どこかにあるのでしょうか?あれば、ぜひ
yadokari_ermite*yahoo.co.jp (→ * を @ に置き換えてくださいませ)
でお知らせくださいませ!
まだ試算がなされていないのなら、反原発側の技術者や科学者の皆様、なさってみてはいかがでしょうか?
それに加えて、遠心分離機カスケードの消費電力なども含んだライフサイクルでの“CO2換算排出量”を、推進勢力は示すべきですよね。「原発はCO2を出さない」とか主張したいのであれば!でも私は、そうした試算を、原発推進派から見たことがないのですよ!
結局、消え去りそうな「CO2フリー主張」だったのね ・・・
私の20分クロッキーより ー 「消え去りそうな感じ」を狙った
実験的描画
~~~~~ で、2021年11月29日の重要な加筆
「遠心分離機カスケードの消費電力なども含んだライフサイクルでの “CO2換算排出量” を、推進勢力は ・・・ 見たことがないのですよ!」 とすぐ上に記しました。
ようやく関連した数値を、推進派か反対派かは不明ですが、ある科学論文に見つけ
ました!
もっとも、遠心分離式ウラニウム濃縮ではなく、しかも1950年代のアメリカのガス
拡散方式による濃縮工場のものですが。でも、何らかの参考になると思います。
ScienceDirectのウェブサイトに掲載されている、2015年9月のものです。
Fast reactors and nuclear nonproliferation problem – ScienceDirect
Fast reactors and nuclear nonproliferation problem
(高速中性子原子炉と核兵器不拡散という問題)
E.N.Avrorin A.N.Chebeskov
(私による抜粋・日本語化)
1978年、当時のアメリカのカーター政権は使用済み核燃料の再処理を断念、高速増殖炉プログラムを終了させることにした。これは、高速中性子炉でのプルトニウムの使用に
ともなう、核兵器拡散のリスクが懸念されたためであったが、・・・(中略)
・・・ このカーター政権による決定は、ウラニウム濃縮技術からの核兵器拡散という
危険を無視したものであった。(Heedayより: 再処理をおこなわない場合、核発電
(原発)がある限り、軽水炉の核燃料であるウラニウムの濃縮を避けて通れない)
明らかに、そうなった理由とはウラニウムを遠心分離機で濃縮する技術が、当時の
アメリカではうまく開発できていなかったことだ。(Heedayより: ウラニウム濃縮の
遠心分離機については、上の黒いメニューで固定ページd-3) で言及しました)
当時のアメリカ製の遠心分離機は扱いにくく、最大で高さが12mもあった。一方、
そのころ大型の施設に導入されていたガス拡散式(ウラニウム濃縮の、遠心分離以外の
手法の1つ)では、膨大な電力と水資源とを消費していた。一例として、ケンタッキー州Paducahという場所にあったウラニウム濃縮施設は、・・・(中略)・・・ 1954年に
稼働を始めたのだが、年間に220億kWの電力を消費し、また冷却水の消費は
ニューヨーク市の上水道システムの水使用量を数倍上回るものだった。
これだけ大規模な施設であったため、ウラニウム濃縮を「ひそかに」行うために隠すことなどできなかった。一方(当時の冷戦の相手であった) ソヴィエト連邦では小型の
遠心分離機(高さが1mを超えない) 開発に成功、電力と水の消費量を数分の1に縮小
できた。だがそのため、高濃度濃縮ウラニウムを秘密の施設で製造できるリスクが
発生してしまった。
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年間に消費電力220億kWというのは、ざっと計算して、現在の軽水炉で平均的な1000MW時をおよそ917日間休みなく稼働させた出力に相当します。(原子炉出力と
実際に発電所から出てくる電力との違いというような問題がありますが、ここでは
あくまで「感覚に分かりやすくするための計算」をしております) 「発電」の
ためのウラニウム濃縮に、これだけの電力を「消費」しないといけなかったわけですね。
それと、最後の段落にご注意ください。「原発問題 = 事故、放射性廃棄物などによる
環境汚染」だけを認識しているなら、当時のソヴィエトの技術でウラニウム濃縮に要する電力や水の消費量を縮小できたのは、「良い進歩」と言えなくもない、ということに
なってしまいます。
しかし。現実には核兵器の拡散というさらに深刻な問題が核発電(原発)には付き
まとうのです。原発問題を考えるなら、必ず核兵器拡散という問題にもかなりの注意を
向けませんと。
—– 2021年12月21日の追記
東芝は残念な企業!
反原発団体の一部などでは、東芝 = 原発企業というイメージが定着しているかも。
たしかに、アメリカの原発企業を高額で買収して、それを大きな原因として
会社が傾く惨事を招きましたよね。
でも。
東芝、超臨界CO2火力向け燃焼器の初着火に成功。商用化へ前進 | 電気新聞ウェブサイト (denkishimbun.com)
すでにこの2018年6月の「電気新聞」で取り上げられているように、
「超臨界CO2火力」という、CO2を出さない火力発電技術にも取り組んでこられました。
私は東芝の関係者ではありませんが、こうした努力には尊敬を払うものです。
惜しむべくは、同社が原発事業なんかに手を出さず、超臨界CO2のような技術にもっと
専念してらっしゃったら ・・・
・・・ 今頃(2021年)になって「石炭火力をやめよう」といった騒ぎにならず、
とっくに人類はCO2フリーの電力を広く利用できていたかも。
核発電が他の環境保全技術の足を引っ張り、1つの大企業を傾かせてしまった実例の
1つですね。