2023年6月
Beyond Nuclear Bulletin
2023年5月31日号より
DOE attracting more proliferation
controversy
(アメリカ エネルギー省、核兵器拡散に
関する議論を激化)
「SMRなら、小型なのでメルトダウンなど
大型事故は起こりえない!安全です!」
といった宣伝が喧しいですが、こういう
言説がまかり通ってしまっている原因の
1つに、
反原発勢力の多くがいまだに
「核発電の最大の危険は、メルトダウン」
という誤った認識を抱いており、pro-
liferationというもっと危険な問題を表
に出していない、
という大問題があります。
この認識修正をしていただきたいから
こそ、「やかんをのせたら~~」を私は
続けているのですがね。
なお、誤解を避けるために断っておき
ますが、なにもメルトダウンを軽視して
いるわけじゃ、ありません。メルト
ダウンだけで、充分に深刻な問題です。
でも、核兵器の拡散って、それ以上に
深刻な世界規模の問題ですよね?
その「核兵器と核発電の不可分性」を
実証する実例の1つを、Beyond Nuclear
Bulletinの5月31日号が紹介してくだ
さっています。
いつもどおり、
LindaさんとCindyさんから許可を得て
おりますので、
私の日本語化で紹介しますね。
< > 内は、私からの補足説明です。
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アメリカ原子力規制委員会 <Nuclear
Regulatory Commission (NRC)> で
役職を以前に務めていたAllison Mac-
farlane前委員長、さらにアメリカ国務省
高官数名、そしてアメリカの核拡散防止
組織が、2023年5月30日付の書簡を
アメリカ エネルギー長官Jennifer
Granholm宛に送り、2ookWの小型
モジュール式原子炉 (SMR) の先行
テスト プロジェクトをエネルギー省が
破棄するよう求めた。このプロジェクト
で建設予定の実験用原子炉では、
核兵器グレードの高濃縮ウラニウム
(235U 93%)を使用する。アイダホに
ある国立研究で、この建設と実験を行う
計画だ。だが、この提唱されている
原子炉実験はビル ゲイツ氏出資の民間
核エネルギー スタートアップ企業Terra
Powerならびにアメリカの営利電力会社
Southern Companyとの共同出資による
もので、この実験を始めるなら何十年も
国際的に禁じられている高濃縮
ウラニウム(HEU) の研究用・発電用
原子炉での使用禁止に違反する結果と
なってしまう。この禁止はもともと、
核兵器の拡散を防止するため、アメリカ
主導で定めた禁止である。
アメリカのエネルギー省 <Department
of Energy’s (DOE) > では小型の高速炉
(非軽水炉)のプロジェクトを提唱して
いるのだが、ビル ゲイツ氏出資の民間
核エネルギー スタートアップ企業Terra
Power LLCならびにアメリカの営利電力
会社Southern Companyとの共同出資に
よる「半官半民」のもので、アイダホ
国立研究所で溶融塩化物原子炉の実験
<Molten Chloride Reactor Experiment
(MCRE)、MSRの一種、MSRについては
上の黒いメニューからページ mr-0) –
mr-3) を参照> を行おうという開発
実験だ。DOEならびに民間核エネルギー
業界との主張によれば、この実験で稼働
が行われる6か月間に収集するデータが、
アメリカ国内使用ならびに輸出用の
大型商用MCREの設計とライセンス
取得とに必要なのだ。
この溶融塩化物高速炉を商業化する場合
には、決して兵器グレードのHEUを
採用することはないとTerraPowerは約束
しているが、そのTerraPower は既に
もう1つのDOEとの合同SMRプロ
ジェクトである「Natrium」という
ナトリウム冷却式原子炉との関連で、
核拡散防止コミュニティから厳密な審査
を受けている。この「Natrium」は
ナトリウム冷却式の原子炉で、
ワイオミング州クレマラーという場所で
商用核発電を行う計画だ。この原子炉は、
国内ライセンス申請と輸出用ライセンス
申請も行う計画だ。以前、2021年11月
29日付のDOE宛の書簡で、 Non-
proliferation Policy Education Center
(NPEC) <シカゴに本部がある核拡散
防止団体で、気候変動問題などにも取り
組んでらっしゃいます
Nonproliferation Policy Education Center – MacArthur Foundation (macfound.org)>
はバイデン政権のエネルギー長官
Granholm に対し、非軽水炉は核兵器と
発電の二重利用が可能で、核兵器用の
プルトニウム製造が可能で、その際の
排熱を使って発電ができるという代物
だと警告していた。NPECが明らかに
したところでは、 Natrium高速炉を
輸出するなら、「核兵器を製造したい
と考えている諸国や団体などにとって
は、製造がはるかに容易になって
しまう」
TerraPowerのMolten Chloride Fast
ReactorとNatrium Sodium Cooled Fast
Reactor はどちらも、高濃度低濃縮
ウラニウム(HALEU)<上の黒い
メニューにあるページh-3) の3つ目の
説明図参照> で稼働するように設計
されている。HALEUは、U-235の濃度が
最大で19.75%ある。HEU <高濃縮
ウラニウム> と見なされ、核兵器
拡散の懸念対象とされるのは、U-235
濃度が20%以上である。商用軽水炉の
大半では、アメリカの発電用原子炉全ても
含んで、核燃料はウラニウム濃縮度が3%
– 5%.である。HALEU という核燃料は
今のところ、ロシアからしか入手でき
ない。もっとも、アメリカ国内のHALEU
供給を増大させようという懸命な努力が
なされてはいるが。原子力業界はすでに
財務的に苦渋をなめ続けており、そこに
さらに経済的負荷をかけることに、
何の意味があるのか。
MCFRの場合、HEUを would be溶融塩
の溶液に混合し、これが炉心の燃料と
して機能するとともに、炉心の冷却材に
もなる。軽水炉の場合だと、水を
「減速材」として使用する。つまり、
中性子線の速度を落とし、核分裂回数を
増やす。それに対しMCRE では減速
しない、つまり「高速中性子」を使用
する。そうした高速中性子はエネルギー
が高く、それを使用している原子炉は
ウラニウム燃料の反応を高めるととも
に、従来の原子炉では核ゴミとされて
しまう超ウラニウム元素 <原子番号93
のNp以降の諸元素のこと。いずれも
放射性> 同位体の一部も反応させる
ことができる。
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今のところ日本のSMR推進勢力は、
「小型なので収納している核燃料も
少なく、大事故になりにくい」という
点をセールス ポイントにしている
ようです。
(2021年秋の、当時の自民党甘利
幹事長の発言もしかり)
しかし、小型 ⇒ 発電量が少ない ⇒
非経済 という問題を克服するため、
小型原子炉の中に、高濃度の
ウラニウム燃料(HALEUとか)を
使えば、同じ原子炉サイズのままで
発電量を増やせる
という誘惑が常にあるわけですね。
ウラニウム濃度を高めれば、それ
だけ兵器グレードの濃縮度(90%
以上)への濃縮が容易になり、
核兵器拡散が容易になってしまいます。
日本の反核勢力も、そうしたpro-
liferation risksをしっかりと認識した
うえで、SMR普及に反対していくこと
が必要です。
「メルトダウンこわい!」ばかりを叫び
続けていると、「いえ、SMRは小型なの
で、メルトダウンしづらいですよ~
ご安心を」と胡麻化されてしまいますよ。
実際には、proliferationというメルト
ダウン以上に怖い問題があるのですね。