2023年10月
HALEUのproliferation risks
ページ hal-1) で見た通り、アメリカ
自国内でHALEUを製造しようとして
いるわけですが、こんな濃縮度のものを
輸出した場合、proliferationの危険は
世界に拡大してしまいます。
この問題について、専門家の見解を
読んでみましょう。
特に hal-1) のThird Way の主張を
読んで「なんだ? 核推進派の主張じゃ
ないか!」と呆れた皆様、対立意見を
知っておくことも大切だから、
紹介したんですよ!
下記のLymanさんは明白にHALEUの
proliferation risksをご指摘ですので
下記をしっかりとお読みくださいね。
上のThird Wayでお疲れの場合、
コーヒーを入れるなりして、目を
覚ましてLymanさんの指摘を読んで
みましょう! HALEUの国際的拡散 ⇒
proliferation risksの国際的蔓延、
という深刻重大な問題を扱って
いますのでね。
それと、Third Wayのものの
ような核推進派の主張も読み聞き
しておかないと。「相手の言う
ことは無視」していたんじゃ、
対話は成り立ちません。
HALEUにともなうproliferation risks
“Advanced” Isn’t Always Better | Union of Concerned Scientists (ucsusa.org)
からダウンロードできます。
この論文、秀逸なので可能なら
全体を日本語化したいのですが、
さすが何十ページもあるので、
私一人では無理です。
Edwin Lyman, The Union of Concerned
Scientists
”Advanced” Isn’t Always Better
(2021年3月)より、pp. 47 – 49
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HALEUにともなう核テロリズムと
proliferationの懸念
HALEUは核兵器にそのまま使用しても
あまり実用的ではないのだが、HALEUの
製造や大規模な使用を行うと、
核テロリズムと核拡散
<proliferation> とのリスクにかなり
の影響がある。 (Lyman 2018a)
アメリカは、NLWR <新型軽水炉>
開発プログラムを進めてHALEUへの
世界的な需要を増大させる前に、
こうした <テロやproliferationという>
問題を徹底的に検討する必要がある。
下で論じるように、<HALEUという>
LEUの一種ではあっても濃縮度が10%
以上で20%未満のウラニウム燃料
(これが、HALEUである)がある程度
以上の量であると、セキュリティ面での
リスクが増大してしまう。それは、
アメリカならびに国際的な物資用
セキュリティ規準にも反映されている。
そのことだけでも、HALEUを使用する
原子炉とそれに関連する核燃料サイクル
施設のセキュリティ コストは増大して
しまう。HALEUの核テロリズムと
proliferationリスクはそれより濃縮度の
低いLEUのリスクよりも大きいのだが、
その理由には主に2種類ある。第1の
理由として、HALEUは核兵器に直接
使用できる。2つ目の理由は、HALEU
の方がHEUへの濃縮が容易だ。
<上の黒いメニューにあるページ p-3)
の「PBR用燃料のウラニウム濃縮率」
という個所も参照>
第1の理由については、ここで明確に
論じることはできない。HALEUを
核兵器で直接使用するための方法などに
ついては、公表されている情報が
ほとんどないからだ。それでも、
入手できた情報を見る限り、国家であれ
テロ組織であれ、未熟な核兵器
プログラムしかない組織にとって、
HALEUの核兵器というのは
きわめて開発が困難なものではあるが、
決して不可能ではないようだ。Los
Alamos国立研究所で以前 理論部門の
ディレクターを務めていたJ. Carson
Markが1984年に議会の公聴会で証言
したところによれば、「あの濃縮度
(21から90%)のウラニウムであれば
爆発物を製造できることは、理論上は
想像できる。実際には10%でも可能だ」
(Mark 1984) だがMarkはさらに
「それにはかなりの代償も伴うのだが」
とも述べた。その代償の1つとして、
原爆1個を製造するためのウラニウム
総量は、濃縮度が低いほうが大きく
なるため、90%のウラニウムと比べ
20%のウラニウムだと10倍ほどの量が
必要となる。そうとは言え、19.75%の
HALEUで原爆を1つ作るにはおよそ
300㎏だ。そのため、300㎏という
大型のコアを有する原爆を実際に
製造できるとすれば、Oklo社
<という原子炉メーカー> の
マイクロ原子炉1基にあるウラニウム
でおよそ10個の原爆を製造できる
ことになる。さらに最近のことだが、
アメリカ エネルギー省の国立研究所
が各種核物質が核兵器使用に
どれほど適しているのかを調査した。
その結果、HALEUは適性が「低い」
物質とされた。非国家組織が処理して
核爆発装置に使用するのは「あまり
実用的ではないが、不可能でもない」と
いうことだ。 (Ebbinghaus et al. 2013)
上の第2の問題に関しては、LWR
<軽水炉> 用核燃料に使用されている
低濃縮度のLEUをさらに濃縮してHEU
を作るよりも、HALEUを濃縮して
核兵器用HEUを作るほうが、濃縮作業
が少なくて済む。たとえば、同じ90%
濃縮のHEUを作る場合、5%濃縮の
LEUをさらに濃縮して作るのに比べ、
19.75%のHALEUをさらに濃縮した
ほうが、分離作業 ・・・ <一部省略>
・・・ はおよそ1/3で済む。10%濃縮
のLEUから作る場合と比べても、
19.75%なら分離作業は1.7 分の1で
よい。一部のアナリストたちの見解では
HALEUからHEUを作るのは、低濃縮
ウラニウムから作る場合と比べて、
比較的小型の濃縮工場でできる。小型
工場なら費用も少なくて済み、隠蔽
しやすい。 (Forsberg et al. 1998)
だが、こうした核兵器に充分なHEUを
製造するために要する分離作業量と
いうのは、現代のガス遠心分離機を採用
している工場では、あまり問題になら
ない。こうした工場はソモソモ、小型で
スケーリングが可能なのだ。以前のガス
分散式濃縮工場などであれば、大きな
問題であったが。LWR用大規模商用
ウラニウム濃縮施設を擁し既にLEUを
製造している諸国であれば、その国が
核拡散の取り決めにあからさまに違反し
HEUの製造に取り組んだ場合、HALEU
が入手できようが、なかろうが、HEU
の製造タイムラインに大した違いは
生じない。もっとも、秘かにHEUを
製造したい場合、たとえば秘密の小型
施設でHEUを作るようなケースで
あれば、<IAEAへの> 申告済み
施設にあるHALEUをHEUに作り変え
れば、この秘密製造はしやすくなる。
<HEU製造のために> HALEUを入手
できることの利点が最大となるのは、
イランのようなウラニウム濃縮施設が
比較的小規模の諸国である。
HALEUでの、物理的なセキュリティ
要件
アメリカ国内ならびに国際的なセキュ
リティ体制ではともに、HALEUを
低濃縮度のLEUよりもリスクの高い
物質として扱っている。IAEAはその
Convention on Physical Protection of
Nuclear Material <「核物質の物理的
保護に関する規約」、1979年に採択。
2005年にConvention on the Physical
Protection of Nuclear Material and
Nuclear Facilitiesに改名。世界157の
諸国が何らかの形で加盟> で、
HALEUは濃縮度の低いLEUよりも
テロ組織にとって魅力的な物質である
としている。具体的には、HALEUの中に
U-235が10 kg 以上が含有されていれば
カテゴリーII に分類されるが、低濃縮度
のLEUに同じ量が含有されていると
カテゴリーIII となる。この規定はIAEA
がセキュリティ上の推奨事項の最初の
バージョンを1970年代半ばにまとめた
時点にまで遡るものだが、今でも有効だ。
<アメリカの> NRCもこのIAEAの
分類を何十年も前に採用、さらに最近、
各種放射性物質の相対的な <核兵器
製造での> 使いやすさを改めて分析
した。その結果、HALEUのセキュリティ
を強化する必要性を再確認した。
(Lyman 2018a) <上の「カテゴリー」
というの、ご存じない方には訳が分から
ないでしょう。そうした方は、
Safeguard Categories Of SNM | NRC.gov を
ご覧くださいな。 *>
そのため、
現状の規定では、核燃料製造施設に
おいてはHALEUにはカテゴリーII の
セキュリティ対策が要求される。LWR用
核燃料の施設では今のところ
カテゴリーIII が求められているのだが、
それよりも厳しい基準が適用される
わけだ。セキュリティ プログラムの強化
が必要である以上、HALEUを使用する
新型軽水炉そしてそれをサポートする
核燃料サイクル施設のコストや管理にも
影響がある。アメリカには現在、
カテゴリーII の核燃料施設として認可
されている施設がない。アメリカで
カテゴリーII の核物質を扱う新たな施設
や輸送活動を認可するうえで直面する
課題の1つとして、そうした施設の
セキュリティ要件には現状に合わせて
更新したものが存在していない。
NRCは、カテゴリーII の核物質を扱う
核施設などでの核物質に関するNRC
セキュリティ要件を更新すべく、規則の
改定を行っていたのだが、2019年に
それを止めてしまった。現行の規則は、
発布が何十年も昔のことなのだ。その
ため、今やカテゴリーII の規定をケース
バイ ケースでの検討のうえで適用せねば
ならず、その結果セキュリティ強化策は
ケース次第でまちまちに実施されて
しまう恐れがある。それも含め各種の
理由から、NRCのスタッフの一部は
公式にNRC委員たちがこの規則設定を
終了させた決定に対して、反対を表明
している。
<* このリンク先、NRCのページで
英語です。「やかんをのせたら~~」は
TOEICスコアで500前後以上の英語理解
能力のある方々を読者に想定しており
ますが、そうした方々ならこのページは
ご自分でお読みになれるでしょう>
HALEU用のセーフガード(安全策)
IAEAの物理的保護の枠組みとは対象的
に、同じIAEAのセーフガードの方では
高濃縮LEUと低濃縮LEUを区別して
いない。HALEU もLEUの一種では
あるので、IAEA としては「<核兵器
には> 直接には使用しない物質」と
見なしており、HALEUの転用での
SQ値 <Significant Quantity、「有意量」
核爆発装置の製造に使われてしまう
可能性を否定できなくなる、放射性物質の
概算量> と検出期限目標は低濃縮LEUと
同じ値に設定されている。つまり、
U-235では75kg、期限は1年だ。にも
関わらず、HALEUを蓄積することの
proliferation risksを、国際社会は認識して
きている。2013年11月のJoint Plan of
Action <共同作業計画> では、イラン
は既存の「20%までの」LEUを自発的に
同国の研究用原子炉に必要な分だけに
自発的に削減するとともに、一時的に
濃縮の上限を5%とすると約束した。
こうした制約を、2015年7月のJoint
Comprehensive Plan of Action
<包括的共同作業計画> ではさらに
強化した。だがこうした制限をイランは
破り、この作業計画は今では破綻して
いる。それでも、こうした合意により
現実上のHALEU用セーフガードが
新たに設けられたと考えてよい。この
新しいセーフガードでは、HALEUには
低濃縮LEUよりも強いproliferation risk
があることを認識している。だがIAEA
の検出目標には、それが反映されてい
ない。一見すると、現行のガイドライン
においてさえ、低濃縮LEUの場合とは
異なりIAEAはもっと厳格な核物質管理
手法を適用しないと、HALEUの大量
処理施設では検出目標を実現できないと
思える。これは、1 SQを得るために
転用する量が、HALEUでは少なくて
済むためだ。濃縮度4.5%のLEUの場合、
1 SQはウラニウム総量で1.67トンと
なる。だが濃縮度19.75%だと、わずか
380 kgで1 SQとなるのだ。
このため、HALEUを扱う施設では、
少量でもSQとなるHALEUの転用を
タイムリーに検出できるよう、従来
よりも感度の高いセーフガード
システムが必要となる可能性もある。
だが、1 SQに相当する
ウラニウム燃料の総量というのは、
それが占める施設のスループットの
何分の1に当たるのかという指標に
比べれば、重要度が劣る。複数の核燃料
施設があって、年間に同量の核発電量を
支えるだけの核燃料を製造できるものと
する。この場合、いずれの施設でも同じ
ような検出検出要件を適用することと
なろう。典型的なLWR用家訓燃料製造
工場なら、年間およそ1,200トンの
核燃料を供給できる。これは、約720
SQに相当する。発電量が1 GWeのLWR
約60基分だ。これに対しX-Energyの
Xe-100という原子炉は発電量が60 GWe
だが、この原子炉用HALEUを製造する
工場は年間のスループットがおよそ360
トンになる。15.5%のHALEUなので、
約740 SQに相当する。つまり、いずれの
場合でも年間スループットの約0.14%が
1 SQに相当する。年間1 SQを転用し、
それが検出されないとすれば、どちらの
工場でもかなりの問題となる。だが
上述のように、現状の定義でのHALEU
を1 SQ転用した結末は、低濃縮のLEU
を1 SQ転用した場合よりも深刻なのだ。
HALEU のセーフガードとセキュリティ
必要なものとは?
IAEAは、同じLEUでも濃縮度が
10%以上か未満かで、セキュリティ
方策を変えるよう推奨している。
それと同時に、セーフガードでは
すべてのLEUを同等に扱っている。
これは問題ある不整合で、HALEUの
製造としようが拡大するのであれば、
この不整合をただす必要がある。
HALEUには低濃縮LEUよりも厳格な
セキュリティ方策が必要なのであれば、
セーフガードにもより厳格なものが求め
られるはずだ。アメリカの関連各政府
機関と IAEA とは、商用HALEU核燃料
サイクルの秘めているproliferationの
問題を直視し、実態に合わせて規定類を
変更すべきだ。理想としては、IAEAは
HALEUについては、SQの削減
(たとえば50㎏に)や検出期限目標の
厳格化(たとえば6か月)を実施できる
だけの柔軟性を持つべきだ。 HALEUは
proliferation関連での意味合いが大きい
ためだ。遺憾だが、こうした根本的な
変更を実施するのは、現実のIAEAでは
ほぼ不可能なのだ。その原因として、
IAEAの国際的な理事会はセーフガード
の要件の厳格化や親密化を認めたがら
ない。そこまではできなくとも、IAEA
もHALEUについては他のLEUとは
別の製造と使用状況を自発的に追跡
する調査を検討してもよいはずだ。
そうしたセーフガードは、「代替核
物質」であるネプトゥニウムに対する
アプローチに類似している。そうして
いる間に、より厳格なセーフガードの
方策を設けて実施するのだ。
検討せねばならないもう1つの問題と
して、新型軽水炉の導入が世界の
ウラニウム濃縮要件に及ぼす影響が
ある。濃縮度の小さい核燃料サイクル
に移行すれば、同じ程度の核エネルギー
を産出するのに必要となる世界の
濃縮工場の規模と施設数とを削減
できるので、核拡散防止にはよい。
例として、原子炉で核燃料を増殖
させながらそれも使用する原子炉で、
<最終的な> 使用済み核燃料は
<再処理せず> 地層処分する
<once-throughと呼びます>場合、
理論上は、同じ電力を発電する
のに平均して濃縮度が低くて済む。
たとえばTerraPower社の推定に
よれば、同社のトラベリング
ウェイヴ リアクター <TWR、
ページtw-1) 参照> は平均で、
発電量単位当たり必要とする
ウラニウム濃縮が、現行のLWRの
25%程度でよい。 (Gilleland, Petroski
and Weaver 2016) だが困ったことに
その他の新型軽水炉はウラニウム濃縮の
効率的な利用を行うようには設計されて
いない。 (Lyman 2018a) 稼働寿命が
60年のLWRであれば、平均で年間の
発電量1 GWeあたり独立した作業
ユニットが約150,000必要になる。
これに対しX-Energy社の Xe-100
<という原子炉> では、平均で年間の
発電量1 GWeあたり独立した作業
ユニットが約190,000必要だ。 LWR
よりも25%多い。さらにOkloタイプの
高速マイクロ原子炉になると、年間
GWeあたり400万もの独立作業
ユニットが必要になる。LWRの25倍
以上だ。これも、この種の原子炉が
大規模の分散型発電には適さない要因の
1つだ。このように、一部の新型軽水炉
でHALEUを使用する場合、濃縮能力を
拡大せねば、同じレベルの発電量を
実現できない。これは、誤った方向だ。
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そもそもアメリカがカーター政権時代
(1970年代後半)に、使用済み核燃料
の再処理を禁じ、諸外国にもその流れ
を広めようとしたのは、proliferation
を防止するためでした。
しかしHALEUを使いたいがため、今に
なって新たなproliferation risksの
高いHALEU製造に務めているわけです。
ただ、その推進要因としてロシアに
よるHALEU製造独占がある、という
わけです。
核兵器や核発電の制限や廃止は、
1国だけでできることじゃない ・・・
かなりややこしい課題なのですね。
核兵器や核発電がこの世界にある限り、
こうしたややこしい事態がいずれ発生
してしまう ・・・ 根本的な対処と
しては、その両方を廃絶すること
になります。