f-10) (他にも) サウディの動向
2025年1月
Georgetown Security Studies Review
より
(ジョージタウン大学の安全保障
研究センターCenter for Security
Studiesの公式刊行物)
The Nuclear Kingdom: Assessing Saudi Arabia’s Nuclear Behavior – Georgetown Security Studies Review
イスラエルVSイランの紛争/代理紛争
が収まらない中、イランはU濃縮を
加速、しかもシリアの情勢は予断を
許さないという現状です。当然、
サウディ アラビアの動きが気になり
ますよね。
皇太子が「もしイランが核を持つなら、
我が国も・・・」という主旨の発言を
2018年3月にしていますし(上の黒い
メニューは基本的に項目をアルファ
ベット順で配列していますが、そこで
ページ f-4) をクリック)、自国産の
Uを使った核発電計画も進めています
のでね。
(Nuclear power in Saudi Arabia – Wikipedia)
そこで、サウディ アラビアの核動向に
ついて、できるだけ最新の考察を
探しました。
Georgetown Security Studies Reviewより。
かなり長いので、適度に区切って
お読みくだされば。
いつもどおり、
私の日本語化
< > 内は、私からの補足説明
です。
*****************************
The Nuclear Kingdom: Assessing
Saudi Arabia’s Nuclear Behavior
(核の王国:サウディ アラビアの
核関連の動きを考える)
Julian Reichによる考察
2024年12月18日掲載
核兵器の拡散が、忌まわしくも再度
世界に蔓延しようとしている。イラン
が核兵器製造の一歩手前にいるとの
ヘッドラインが報道を賑わしている
が、サウディ アラビア王国も世界の
注視を集めつつある。2018年には
同国のモハンメド ビン サルマン
皇太子が <アメリカの放送企業で
ある> CBSに対し、「イランが
核兵器を開発するなら、サウディも
可能な限り早急に核兵器開発に
努める」と語った。<上の黒い
メニューにあるページ f-4) 参照>
サウディは民生用核エネルギーの
プログラムにも関心を示しており、
それと考え合わせるならモハンメド
ビン サルマン皇太子によるこの発言
は、同国の核兵器プログラムへの
姿勢を示すものとも見られる。
ゆっくりながらもサウディ アラ
ビアは核兵器拡散へと歩を進めて
おり、その動機、考えられる核兵器
導入の戦略、ならびに核兵器保有に
至りそうな可能性をしっかりと精査
する必要がある。この3種類の事項
を検討するには、1つの目的がある。
つまり、アメリカはサウディの核兵器
プログラムが実際に核兵器を生み出す
ことを許すべきではなく、そのために
こうした動機・戦略・予想される困難に
関する知識を活用する必要がある。
サウディ アラビアが核兵器を保有
すれば、核不拡散体制にとって破壊的
であるだけではなく、サウディ対
イランの緊張も高まり、アメリカが
中東の平和を保とうとする努力も
さらに複雑化してしまう。
サウディ アラビアの核開発の動機:
イラン
諸国が核兵器を欲しがる理由として
は、次の3種類のモデルがある。
安全保障、国内政治、そして国家と
しての威信 <原文では norms> だ。
安全保障というモデルでは、核兵器を
保有している敵国からの安全保障上の
脅威あるいは通常兵器での脅威を
抑止するために、諸国は核兵器を
求める。国内政治モデルでは、予算を
求めて、あるいは組織としての
ステータスを高めるため、ないしは
核武装を要望する国内の選挙民からの
票を求めて、国内の勢力が核武装を
要望する。最後に国家威信モデル
では、国家の威信を象徴する好ましい
シンボルとして核兵器を求める。
モハンメド ビン サルマンの発言から
窺えるところは、明らかだ。サウディ
アラビアが核に食指を伸ばすのは、
イランが核武装した場合にサウディが
被る脅威に対抗するためだ。
サウディにとってイランが主な核の
脅威の源となったのは、2000年代
半ばのことだ。サウディ アラビアに
とっては、イランの核プログラムが
純然たる民生用のものであったこと
など、ない。イランの最終的な目的
は核武装だと、サウディは常に
見なしてきた。2011年にトゥルキ
アル・フェイサル皇太子はペルシャ
湾岸諸国に対し、イランに対抗する
ために「核の力」を身に付けよと
求めた。包括的共同作業計画
(Joint Comprehensive Plan of
Action、JCPOA)が <いったん>
締結されても、サウディの不安が
和らぐことはなかった。2015年に
締結されたこのJCPOAにおいて
イランは、経済制裁の緩和と引き換え
に、高濃縮ウラニウムやプルトニウム
の製造を行わないことを宣誓した。
サウディの指導者たちはこの合意を
裏切りと捉えた。この合意を順守
してもイランが核兵器を製造する能力
が損なわれるわけではなく、しかも
アメリカはJCPOAの交渉において
サウディとは相談をしなかったのだ。
そしてイランは核プログラムを推し
進め、サウディは不安を募らせた。
イランが核を保有した場合の脅威を、
サウディはたびたび強調してきた。
どんなに少なくても、イランが
核武装するなら「ペルシャ湾岸の
今までのパワー バランスが崩壊し、
大きくイランに好都合な方に傾いて
しまう」 サウディの心配事として、
イランは核兵器の圧力を利用して
サウディ国内のシーア派を扇動し、
<サウディ政府への> 反乱へと駆り
立てるのでは、と憂慮している。
サウディ国内のシーア派は少数派では
あるがそれなりの勢力を有し、石油に
恵まれた東部地域に多い。しかも、
反乱を起こしても <イランの核の
ために> サウディは報復できない。
さらにイランは代理武装勢力のネット
ワークを拡大する、サウディの石油
輸出を妨害するためホルムズ海峡を
閉鎖する、などの手に打って出る
可能性もある。またイランの核の傘の
下では、通常兵器による攻撃に
ついても、サウディには多数の標的
がある。サウディ アラビアの憂慮
する問題として、「イランが核兵器を
保有するなら、その目的は1つだけだ。
新たなペルシャ帝国がアジア、アラブ、
そしてイスラム世界での支配権を握る
ことだ」 サウディ アラビアがイラン
の核装備を恐れていることは明らかで
あり、最近のForeign Affairs
<という国際問題の専門誌> の記事
も、サウディ アラビアの核に対する
取り組みの主な動機はイラン
<の核武装> であると結論付けて
いる。
核へッジャー(核兵器保有の可能性
がある国)としてのサウディ
アラビア
サウディ アラビアは、核へッジャー
としての特性を備えている。
核へッジャーとは、核兵器保有を
積極的に目指すための基盤を備えて
いる国のことだ。同国は既に、どの
ような場合に核兵器保有に努めるのか
を明言している。また通常兵器にも
核兵器にも使用できる <ミサイル
などの> 運搬手段を既に保有して
いるうえ、兵器グレードのウラニウム
<原文にuraniumとあるのですが、
plutoniumの誤りか?> を製造する
ための原子炉を求めてもいる。
サウディが潜在的核保有国になり
核兵器を短期間で保有できるように
なることを阻んでいるのは、核物質
を濃縮する能力がないという事実だけ
なのだ。サウディ アラビアは保険的な
へッジャー <危機に備えて核兵器保有
を求める国> であり核兵器の製造に
要する期間を短縮しようと努めている、
というのがベストのカテゴリー分類で
あろう。だがサウディ アラビアの
ヘッジをどのように分類しようと、
同国の核兵器への欲望は新たな段階に
入っており、従来よりも研ぎ澄まされ
ているのだ。 <なお、日本はすでに
再処理工場やU濃縮能力まで備えて
いるので、サウディよりもずっと
進んだ潜在的核保有国である点にも、
ご注意を。上の黒いメニューにある
ページ g-3) 参照>
核兵器を手に入れるための戦略:
核兵器への経路
サウディが核兵器を実際に入手
しようとするなら、次の3種類の
戦略がある。つまり、核保有国の
シェルターの下での核兵器開発、
ダッシュ <原文はsprinting
つまり短距離走>、そして秘密裏
での開発である。シェルタ―の下
での核開発とは、核保有大国の
支援を受けて核兵器製造に至る
戦略だ。この戦略では、核保有大国が
核開発国をライバル諸国による妨害
から守る。この戦略の場合、サウディ
はアメリカによるシェルターに依存、
イランからの敵対行為を抑止する
ことになる。サウディが好む戦略
とは、これであろう。この戦略なら、
効率的かつ公に核開発を進められる
ためだ。大国による加護があれば、
核開発を阻止しようとする軍事的・
経済的・外交的な妨害活動を防止
できる。だが、アメリカがサウディ
アラビアの核開発を支援するとは
考えにくい。アメリカは同盟諸国が
核兵器を保有しないことを望んで
おり、それは対立の激化や核兵器の
使用すべてに対しアメリカが 影響
力を行使できるようにしたいのだ。
さらに、サウディが核兵器を製造
するには原子炉とガス遠心分離機
とが必要になるが <上の黒いメニュー
でページ u-6) の、上から4番目の
漫画も参照>、
アメリカとサウディに
よる核エネルギー合意に対しては、
アメリカ議会とイスラエルとの両方
から反対がある。アメリカ議会が
そうした合意を承認するとすれば、
核拡散防止のための厳格なセイフ
ガード <防御策> を設けるはずだ。
さらに、アメリカがサウディに対し
<核兵器開発に必要な> 設備や
技術を「U濃縮は禁止」という禁止
事項なしで提供してしまえば、それが
先例になってしまい、サウディ以外の
アメリカの同盟諸国も同様の特権を
求めてしまうだろう。
ダッシュ(“sprinting”)戦略では、
核兵器開発を積極的・公に、かつ
短期間で進める。 歴史的には、この
ダッシュ戦略が成功したのはフランス、
インド、中国、旧ソヴィエト、そして
アメリカであった。これら諸国は
いずれも、この戦略を採用した。だが
ダッシュをするためには、軍事的・
経済的な妨害行為から核開発を守る
必要がある場合が多い。たとえば、
経済制裁や核施設への攻撃などだ。
サウディ アラビアは、イランからの
軍事的な妨害攻撃と、アメリカからの
兵器禁輸という妨害行為を受けること
となろう。しかもサウディには、
核兵器製造へと「ダッシュ」する
ための原子炉も設備もない。
<核開発に必要な> 技術をサウディに
提供してくれる可能性のある諸国と
しては、中国、アメリカ、フランス、
ロシア、韓国などがある。そうで
あっても、現時点ではサウディには
ウラニウム濃縮能力がなく、そのため
同国は短期間で核兵器を製造すること
はできずにいる。アメリカの同盟国で
あるフランスと韓国がサウディに
原子炉を販売するなら、核兵器拡散
防止のための厳格な合意を要求する
はずだ。ロシアは経済制裁を受けて
おり、サウディにとっては好まし
からざるパートナーであろう。中国
は経済と軍事の両面でイランと密接な
関係にあり、イランのウラニウム転換
工場の設計さえ行った。 ただし中国は
サウディと組んでウラニウム鉱石の
探鉱に取り組み、2023年にはイランと
サウディの和解を仲介し、さらに核弾頭
と通常弾頭の両方を搭載できる弾道
ミサイルさえサウディに提供している。
とはいえ核兵器グレードの核物質を
製造するために必要な原子炉をサウディ
が手に入れるという段になれば、中国も
黙ってはおるまい。それでも中国は
サウディの石油を喉から手が出るほど
欲しており、従来からサウディとの
核関連のパートナーシップを締結して
きている。なんであれ、アメリカが
サウディに原子炉を提供してくれない
場合には、中国がベストの選択だと
サウディは見なしている。
「秘密裏での核開発」がダッシュと
異なるのは、時間をかけても秘密性
を優先させるという点だ。サウディ
は、この秘密裏戦略の候補としては
考えやすい。まず、国際社会は
サウディ王国内部での核関連活動に
ついては、ほとんど何も知らない。
しかも同国では意思決定が秘密裏に
行われており、砂漠地帯が広がって
いるため地下の核施設を設けて
隠してしまいやすい。こうした特性
も、秘密裏戦略を進めやすい要因だ。
そうであっても、サウディが兵器
グレードのウラニウム濃縮ができ
ないという現実には変わりがない。
国外からの支援を集めようとするなら、
核兵器開発プログラムに気付かれる
可能性が高くなってしまう。イランが
先に核兵器を製造した場合、モハンメド
ビン サルマンの上述の発言のため、
サウディの核開発活動は国際社会の
厳しい注目を集めてしまうことで
あろう。
核兵器製造への障害
仮にサウディ アラビアが積極的に
核開発を推進する <「ダッシュ」>
戦略を採用したとしても、核兵器を
完成させるには何年かを要する。兵器
グレードの核物質を製造するには発電
と兵器製造の両方に利用できる
<原子炉という> 設備が必要だが、
それが現時点でサウディにはない。
また核弾頭の製造には、時間がかかる
ものだ。さらにサウディ アラビアが
核兵器開発プログラムを進めれば、
イランも黙ってはおるまい。2019年に
イラン イスラム共和国はミサイルと
ドローンを使って、サウディの製油
施設を破壊した。サウディが核施設を
設けた場合、イランは似たような攻撃
を行う可能性がある。 さらに
<サウディが核開発に乗り出した場
合には>、アメリカはサウディに
制裁を課す、あるいはサウディが長年
求めてきた公式の相互防衛条約を提示
する可能性がある。核兵器製造には
時間がかかるうえに、サウディは国外
からウラニウム濃縮設備を確保せねば
ならないため、サウディが核開発を
実際に始めてしまう前に、アメリカは
それを止めさせる機会を得られる
はずだ。
アメリカがサウディの核開発をやめ
させるべきなのは、なぜか
アメリカがサウディの核開発をやめ
させるべきである理由として、次の
3種類がある。つまり、インドと
パキスタンの関係に見られるような
安定・不安定というパラドックス
<インドの核については、上の黒い
メニューにあるページ b-9) を参照。
パキスタンについては2025年1月現在
まだ国家としての核開発歴史を紹介
しておりませんが、カーン博士の闇の
ネットワークについて f-3) と f-8)
で短く取り上げております >、
核不拡散体制を維持すべきであること、
そしてサウディが核を保有して大胆な
行動を取るようになった場合には
アメリカのサウディへの影響力が
弱まってしまうこと。イランの核開発を
きっかけに中東で核導入競争が始まって
しまう危険性については、すでに広く
論じられてきている。サウディが核兵器
を手に入れても、同様の懸念が生じる。
そうした核の伝染が特に起こりやす
そうな諸国としては、UAE、エジプト、
トルコがある。ただし、これら3国が
実際に核兵器を開発するかというと、
そうは思えない信頼できる根拠もある
のだが。まずトルコは既にNATOの
メンバーであり、頼りにできるだけの
核抑止を享受している。エジプトは
核インフラストラクチャーが荒廃して
おり、UAEは厳格な「123合意」を締結
している。<アメリカ政府の規定で、
アメリカから一定量以上の核物質を
受け取ったり、核技術の提供や研究
などでアメリカと協力するにあたり、
核兵器拡散を防止するためその国に
求められる要件を定めたものです。
詳しくは、123 Agreements for Peaceful Cooperation | Department of Energy
を参照> この123合意は核兵器不拡散
の最高基準で、UAEは少なくても現段階
では核兵器の保有を考えていないこと
を示している。
それよりも実際に発生しそうなのは、
核兵器を保有したイランとサウディ
アラビアの間での安定・不安定パラ
ドックスだ。このパラドックスでは、
核兵器が配備されると確かに戦略
レベルでは安定化をもたらす可能性
はあるのだが、通常兵器のレベルでは
むしろ不信と対立の激化とをもたらす
恐れもある。<イスラエルは実は
核兵器を有しているのだが、その>
イスラエルとイランは敵対を続けて
きている。サウディとも敵対を続ける
可能性は、否定できない。<「核さえ
あれば、何処も攻めてはこない」と
いうのがいかに甘い願望か、それを
示す実例ですね> イランと
サウディとが小規模のぜい弱なもので
あっても核兵器を装備した場合、
当初には対抗戦略 <counterforce
strategies> の採用を招く危険性も
ある。この対抗戦略においては、対立
しあう両国がお互いに相手の核兵器を
先制攻撃で破壊しようとする。パキス
タンが保有する核兵器はミサイル
150基程度だが、インドはそれに対し
対抗戦略を採用している。さらに両国
はともに核兵器を保有しているにも
かかわらず、今も不定期な小競り合い
を続けている。<これも、核抑止が
決して万能ではないことを示す実例
ですよね> サウディ アラビアが
核兵器開発プログラムを進めても、
イランとの関係が安定化するとは
限らない。むしろ、両国間の対立が
激化してしまう恐れもある。
さらに、核不拡散体制の問題もある。
サウディが核兵器を求めて動き出す
と、世界の緊張が高まり世界の在り方
が揺らぐ恐れもある。東アジア情勢が
悪化し、アメリカの主要同盟国の1つ
であるサウディが核不拡散規準に違反
して核兵器を手に入れた場合には、
核へッジャー諸国である日本や韓国も
同様の行動に打って出ようとする
危険性が増す。もちろんイランが
核不拡散基準に違反しても大問題
なのだが、アメリカの同盟国である
サウディが違反すれば、核不拡散
体制が深刻に揺らいでしまう。それ
だけでも、サウディの核兵器欲を
アメリカが支援しない、充分な理由
である。
さらにアメリカには新たに核兵器
保有国が登場するのを防止しようと
する戦略的な理由もあり、それは良く
練り上げられた理由だ。同盟国が核を
保有しているとアメリカの行動が
制約を受け、そうした同盟国をコント
ロールするのは困難で、そうした国は
核兵器があるがために大胆な行動に
出る可能性もある。アメリカは中東
から手を引くべきだと主張する論者
たちは、そうした結果をあまり気に
留めないかもしれない。それでも
サウディが野放しになると、<世界
のどこかで> 緊急を要する問題が
発生しても引き続き中東にアメリカは
構い続けねばならなくなる恐れがある。
結論: サウディ アラビアの核保有を
アメリカがやめさせるには
サウディが核兵器を本気で求めだした
場合、アメリカには対応の選択肢が
いくつかあるのだが、いずれも問題
がある。まず、安全保障を約束する
<原文はassurance strategy> という
戦略を採択、安全保障関係を正式に
サウディと締結する、という選択肢が
ある。サウディが独自に核武装をする
のではなく、アメリカの核の傘の下に
サウディを入れるというものだ。
次に、サウディを切り捨てるぞ
<原文はabandonment> という脅迫
に訴えることもできる。核の拡散を
求める同盟国に対しては、これは
アメリカがよく採用する戦略だ。
切り捨てた場合、サウディの核兵器は
イランからの攻撃を受けやすくなり、
しかもサウディがアメリカ製の兵器を
購入することも禁止することになる。
後者は、特に深刻な脅しとなりえる。
アメリカからの軍事支援がなくなる
と、サウディ アラビアの軍は実質
上、充分に機能できなくなってしまう
からだ。最後にサウディは中国からの
支援を求めようと努めているが、
これをアメリカが妨害する可能性も
ある。中国が核施設や技術をサウディ
に援助した場合、アメリカが選べる
選択肢は限られたものになる。中国は
サウディの石油よりも核不拡散体制の
責任ある一員としてのイメージを
重要視すべきであるし、アメリカの
中東政策の邪魔をすべきでもないと、
アメリカは中国を「名指しで非難」
することもあろう。さらにこの場合、
台湾にも核開発を勧める可能性を
アメリカがほのめかす可能性もある。
だがそうした行為は極めて事態を
悪化させる結果となりうるし、
サウディと中国が核で結びついた
場合にはアメリカにはこれと
いった切り札がない。イランが
潜在的核兵器保有国であり、その
イランからの安全保障上の脅威を
抑止することが、サウディの核開発
の目的である。その点では、サウディ
は明確であり、一貫している。イラン
が核兵器を保有した場合には、
アメリカがサウディの核兵器開発の
ためのシェルターとなってくれる
ことをサウディは願っている。この
シェルターが得られない場合には、
サウディは核開発活動を隠ぺい、
軍事的・経済的な対抗措置を受ける
可能性の縮小に努めるだろう。
だが
サウディ アラビアによる積極的な
核兵器開発をアメリカが防止する
ことを選んだ場合には、良い材料も
いくつかある。サウディが核兵器
プログラムを進めるには、それを
支援してくれる国と時間とが必要と
なる。そのためアメリカにとっては、
サウディの核プログラムを検知
できる機会、また中国その他の国が
サウディを支援することを防止して
核プログラムをとん挫させられる
機会が大きくなるわけだ。おまけに
サウディはアメリカの兵器に依存、
アメリカによる安全保障をも願って
いるので、アメリカがサウディの
核開発に反対できる影響力は強く
なる。サウディが民生用核
エネルギー プログラムに食指を
伸ばし、核兵器製造をほのめかして
いるのは、アメリカの関心を引き
サウディ王国の安全を保障させる
ための保険政策である可能性が常に
ある。そうであってもアメリカは、
中東での主要同盟国といえど核兵器
をっ求める可能性があることを強く
認識し、サウディが核兵器を製造
しようとするならアメリカ製兵器の
サウディへの提供とサウディの安全
保障へのアメリカの取り組みとを
失ってしまう結果になるぞと、
直ちにサウディに伝えるべきである。
どのような経路によるものであれ、
サウディ アラビアの核武装という
ことは、あってはならないのだ。
本論考の見解は、著者自身のものです。
*******************************
現在のところ日本で「核兵器保有」を
推進している声としては、結局のところ
・ 日本列島周辺には、ロシア、北朝鮮、
中国と核兵器保有国が並んでいる
・ だから、日本も核兵器を保有して
核抑止を実現しなければ、国を守れない
・ 当然、そのためには核技術や施設も
不可欠ですから、核発電も推進せよ
という主張になります。
しかし。
上の論考で明記されているように、
現実には
・ 安定・不安定というパラドックス
が発生しうるので、そうなると実際
には通常兵器での不安定性が増大
してしまう
・ アメリカの核の傘を失ってしまう
(実際、アメリカ政府は日本が
核兵器を保有することは、絶対に
承認しないでしょう)
といった深刻な問題が伴います。
「核抑止」が現実にどこまで適切な
方針なのか、よく検討してから
ものを言うべきですね。
ああ、つかれた~~
私の20分クロッキー
そうした意味で、私たち反核勢力は
今回のような論考もよく読んで、
単純・乱暴な核武装論の現実的な
危険性を情報発信するべきでしょう。
すでに日本政府与党には、日本の
核武装 → 核抑止を主張している
政治家たちもいますからね。