d-12) (発電原理) 核兵器を廃絶 したいのなら、その製造設備も~

d-12) (発電原理) 核兵器を廃絶
したいのなら、その製造設備も~

2025年3月

「核兵器の廃絶を求めていますが、
核発電には反対しません」
そう真顔でおっしゃる方を見かけて、
呆気に取られたことがあります。
「やかんをのせたら~~」をお読み
くださっている方々ならとっくに
お分かりの通り、
原子炉やU濃縮は本来、核兵器を作る
ための技術です。核兵器をなくしたい
のなら、それを作るための機器・施設
もなくしていかないと。そうした機器
が残っている限り、仮にいったん世界
から核兵器を一掃できたとしても、
どこかで・だれかが核兵器を再度製造
してしまう恐れが残りますよね。

この固定ページでは、まず現在展開中の
イランの核開発問題に関する論考を紹介
します。
核兵器製造の設備が十分にある限り、
あとはU-235なりPu-239なりが充分に
できれば、わずか数週間で核兵器を
作れてしまう ・・・ そんな歴史上の
実例です。

ではまず、その論考を:
Nonproliferation Policy Education
Centerのウェブサイトより
Lessons from China: How Soon Could Iran Get the Bomb? (Occasional Paper 2404) – NPEC

Lessons from China: How Soon Could
Iran Get the Bomb?
(中国の過去の事実からの教訓: イラン
が核爆弾を手にするまでの時間は?)


再掲 U-235濃度と用途

U-235濃度が60%なんて代物には、
民生用の用途はないわけでして・・・
すると、どうしても「核兵器開発だろう
なあ」という疑いの目を向けられて
しまうわけですね。
では、90%のウラニウムをイランが手に
してしまったとして、それから核爆弾を
実際に保有するまでには、どの程度の
期間が必要になるのか?気になります
よね。
それを考える際、過去に中国が原爆を
製造し核実験を行った時の実例が参考に
なる ・・・ そんな考察です。
長いので、抜粋して私が日本語化して
おります。もっとも、元の英語記事
そのものがもっと長い考察の要約なの
で、下の日本語は「要約からの抜粋」
ということになります。

いつもどおり、<  > 内は私からの
補足説明です。
*************************

U工場で、何を作っとるんや??

2024年12月12日
Hui Zhang著 <ハーバード大学の
John F. Kennedy統治研究所、
Belfer科学・国際問題センターにて、
原子エネルギー管理プロジェクトの
上級研究アソシエート>
Henry Sokolski編集

イランが核兵器グレードのウラニウム
を充分に入手したとして、核爆弾を
作るにはどれくらいの時間を要するの
だろうか?核問題の専門家たちの一部
は、何か月も、ことによると丸一年は
かかると主張している。だが中国の
核開発プログラムの歴史を見れば、
イランも僅か3-5週間ほどで核爆弾を
製造しうるということが分る。

核弾頭を作るには核分裂性物質も無論
必要だが、その他にも重要なステップが
ある。たとえば六フッ化ウラニウムと
いう気体(UF6)を金属状態に還元せね
ばならず、そのうえでその金属を形成・
加工して核爆弾のコアにせねばなら
ない。これには時間がかかる。さらに、
特に核エネルギー用というわけではない
その他の要素も準備しておかねば、
核弾頭を完成させることはできない。
そうした要素としては、核兵器の設計、
中性子の発射装置、爆発による衝撃波の
集中化システム、高性能爆薬、爆発
装置、そして <安全状態から切り替え
ての> 爆発可能状態への移行と導火・
起爆(AF&F)システムがある。

だが核兵器保有諸国での事実が証明して
いるように、こうした核エネルギー特有
ではない要素の構築は、爆薬 <である
PuやU> の製造と並行して進めること
ができる。実際、1964年1月に中国は
高濃縮ウラニウム(HEU、U-235が
93.5%だった)の最初のバッチ(核爆弾
2個に相当)を製造、これは1964年
10月に行われた核実験用のものだった
が、この2個の原爆に必要な核に特有
ではない要素はすべて、1963年までに
完成していた。

——- (中略)——-

闇の中の5弾頭

イランには「核のアーカイブ」<と
いう記録文書> があり、その一部を
2018年1月にイスラエルが入手したの
だが、それを見るとイランの核兵器
プロジェクトも「アマド計画」の下で
HEU製造プロジェクトと並行して進んで
いたことが分かる。イランは1999年
から2003年にかけて急速な核兵器プロ
グラムを進めていたが、アマド計画とは
そのコード名だ。アマド計画の目標は、
2004年初めまでに核兵器5個を製造する
ことであった。そのうち4つはシャハブ
– 3というミサイルの核弾頭であり、
残る1つは地下核実験用だった。2018年
4月30日、<イスラエルの> ベンジャ
ミン ネタニヤフ首相がイランからの
文書を公開したが、これにはミサイルに
装着できる10キロトンの核弾頭5個を
製造しようとするイランの狙いが記され
ていた。

2003年、核分裂性物質の製造を除き
核兵器プログラムのすべての作業を
イランは停止した。イランの「核のアー
カイブ」を見ると、その時点までに
イランはすでに <核分裂性物質製造
以外の> 核兵器製造プロセスの殆どの
作業で、かなり歩を進めていた。
核兵器の設計 <原文ではここに
Appendix Bとあるのですが、この抜粋
紹介では割愛> 、中性子発射装置
<Appendix C、割愛>、爆発による
衝撃波の集中化システム<Appendix
D>、「コールド」試験 <Appendix E
>、鋳造と加工 <Appendix F>、
核弾頭と <大気圏外にいったん出て
から> 再突入する運搬装置 <つまり、
ロケットなど> との統合化といった
作業だ。

——–

暗殺!?
私の20分クロッキー

2003年以降今までにイランがどれほど
の労力を核兵器開発につぎ込んできて
いるのかは定かでないが、2018年に
<2015年にいったん締結されたイラン
と西側の間での核合意であった>
JCPOAが崩壊して以来、イランが核兵器
開発を加速した可能性は高い。JCPOAが
崩れてから丸2年後には、イランの
核兵器プログラムのトップ リーダーで
あったMohsen Fakhrizadehが暗殺され
た。2020年11月のことで、それまで
彼は1998年以来、このプログラムを
指揮していた。この2年間の間に、
イランの核開発が大きく進んだ可能性
がある。

Truth Gone II
ファトゥワなのに~~
私の作品 “Truth Gone II”

2022年から現在まで、イランの高官
たちは核兵器の展望について公に発言
している。 これは、2003年に同国の
最高指導者アヤトーラ アリ ハメネイ師
が発したファトゥワとは食い違っている。
このファトゥワは、核兵器の保有を
禁じるものであった。2022年7月、最高
指導者ハメネイの顧問であったKamal
Kharraziは「2~3日で、イランはウラ
ニウムを60%にまで濃縮できるし、
90%にまで高めるのも容易だ ・・・
イランには、核兵器を作る技術はある。
だが実際に作るという決定は下した
ことがない」と述べていた。さらに
最近、イランはHEU <高濃縮ウラニ
ウム> の製造にじりじりと近づいて
おり、イラン国内での核兵器に関する
議論はさらに喧しさを増している。
2024年2月には、イランの核エネルギー
機関の前チーフであった Ali-Akbar
Salehiが、イランはすでに核兵器製造
に必要な「すべてのピース」を保有して
いると主張していた。同年4月には、
イラン議会の国家安全保障委員会の
メンバーであったJavad Karimi
Ghodousiが、最高指導者さえ「許可を
下されば、[イランは] 最初の [核兵器
の] テストを1週間で実施できる」と
断言していた。

——–


闇と猜疑心の中~
私の作品 “Suspicion – Mutual”
左部分ディテール

2015年のJCPOA締結に先立ち、核兵器
を作るために必要な技術をイランは
まだ習得していないものと、アメリカ
政府は踏んでいた。だが2024年7月、
アメリカの国家情報長官オフィス
(ODNI)はイランが「核デバイスを
製造すると決めた場合に製造しや
すくするための活動を実施した」と
判断した。このODNI による新たな
判断からは、それに先立つ数年で
イランが核プログラムを大幅に
前進させたことが窺えた。2024年7月
31日の記者会見で、Lindsey Graham
上院議員は「・・・ 対応を変えないと
数週間ないしは数か月でイランが核兵器
を保有しうることは、確かだと確信して
いる」と述べた。

イランが核兵器保有を決定したという
証拠はないものの、最近にイランの同盟
勢力でありハマスや武装民兵集団である
ヒズボラがイスラエルからの攻撃で損害
を受けたことで分かるように、<通常
兵力での> 抑止能力が低下している。
そのため、イランは核抑止を求める
可能性がある。イスラエルやアメリカに
よるイラン核施設への攻撃があり得る
というプレッシャーを被っているイラン
が核抑止を求めるという決定を下した
場合、イランは秘密裏に、しかも短期間
で核兵器を製造できるのだ。
******************************

いったんなくなっても ・・・
私の20分クロッキーと、
それに背景をつけたもの

上記は要約をさらに抜粋して日本語化
したものです。
元の英語テキストを全文お読みになり
たい方は、下記をどうぞ:
Lessons-from-China_Occasional-Paper-Draft-_-FINAL-1.pdf

上の実例を読めば、すぐに分かること
でしょうが:
U濃縮や原子炉が残っている限り、
核兵器を仮に地球上から払しょくできた
としても、どこかで・だれかが再び
核兵器を製造してしまう恐怖は残って
しまうのです。

核を廃絶したいのなら、現実上、
核発電も廃絶するしかないのですね。


たとえ倒れても、この方向で進むからね
私の20分クロッキー

簡単に言ってしまえば、それを訴え
続けることが「やかんをのせたら~~」
のミッションです。そのため、核発電の
proliferation risksや軍事・テロ
リズム関連の問題に焦点を絞っており
ます。
その当然の帰結として、放射線の健康
影響や核ごみ処分場といった問題に
ついては、あまりページを割いており
ません。ご理解くださいな。

ただし、原発とCO2という問題につい
ては、「付録」として何ページかを
充当しておりますが、これもできれば
他の反原発団体などで気候変動を詳しく
扱ってらっしゃる方々に、情報発信して
いただきたいのですが。そうした発信が
あまり聞こえてこないので、「やかんを
のせたら~~」がやむなく少し扱って
いるわけですね。

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