The New York Times の報道より
Iran Suspects Israel Poisoned Two Scientists to Death – The New York Times (nytimes.com)
(イラン、イスラエルが2名の科学者を毒殺したと嫌疑)
Farnaz Fassihi 記者、 Ronen Bergman 記者
2022年6月13日
下でJCPOA再建交渉の難航 (ひょっとしたら、破談??) に
関連する Tasnim の記事を日本語化して紹介したところですが、
そんな折、今度はイスラエルがイランの科学者2名を毒殺したと
イランが嫌疑を抱いている、との報道が The New York Times に
ありました。
私のような一個人の立場では、この建議の真偽については何も
申し上げられない (真偽を判断できるだけの充分な情報がない)
のですが、世界の各事情を考える上では重大な嫌疑ですから、
The New York Timesの該当記事を抜粋・日本語化して紹介しますね。
いつもどおり、< > 内は私からの補足説明です。
文字色を変えた個所は、私の強調です。(あまりにも物騒な報道
内容なので、そうした強調も入れました)
日本語メディアでの本件の扱いは極めて簡略化したものなのですが、
下記をお読みくださればお分かりのように、極めて深刻な問題が
絡んでおります。さすがは The New York Times、問題の深部に
入り込もうとした記事になっています。
核発電に反対するのなら、ぜひ知っておいていただきたい記事です。
「原発問題」を 「電力供給 + CO2問題 VS 事故被害 + 核ゴミ処分場がない」
という疑似二項対立に矮小化して捉えてしまうと、この「影の戦争」の
ようなさらにdeadly な本質を見逃すことになってしまいます。
では、その記事を:
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イラン、イスラエルが2名の科学者を毒殺したと嫌疑
この毒殺か?という疑念が正しいことが確認された場合には、
イランが核兵器製造能力を手に入れつつある現在、新たに
し烈さを高めつつある「陰の戦争」での最新の殺害事例となる。
<今回死亡した> 2名の科学者はともにイランのトップ
レベルの大学を卒業した若く健康な人物で、運動にも優れて
いた。その両名がともに、この5月末に病気に倒れた。
両科学者の病状は悪化の一途をたどり、640㎞ほど離れた
2か所の病院の集中治療室にそれぞれ運び込まれた。
そして、両名とも息を引き取ったのだが、両者の死亡した
日付は、お互いから数日しか離れていなかった。
イランの認識では、イスラエルが両名の食事に毒を持って
殺害した。この認識を表明したのはイラン政府の高官であり、
さらにイラン政府とつながりのある2名の人物だ。この2名は
匿名を前提に話をした。これは、話題そのもののデリケートさの
ためだ。<今回殺害されたとされている> 2名のうち一人
Ayoub Entezari は航空エンジニアで、軍部の研究センターに勤務
していた。もう1名は地質学者のKamran Aghamolaei だ。
両名の死亡は謎に満ちているが、それをさらに複雑化させている
要因として、イスラエルのメディアもイラン国外のペルシャ語
ニュース チャネルも、Aghamolaei氏がイランのナタンズ核施設で
勤務していたと報じている。だが友人たちはそれを否定しており、
同氏が民間の地質学研究企業に勤務していたと主張している。
The New York Timesも、同氏がイラン政府や何らかの武器
プログラムに関連していたという裏付けを入手できなかった。
Entezari 氏は航空工学の博士号を取得しており、イランの
ヤズドという都市にあるイラン政府の航空センターでミサイルや
航空機タービンに関するプロジェクトに携わっていた。
この都市は、首都テヘランの南東約620㎞にある。
あるイラン上級高官のスタッフ メンバーによれば、同氏は
ヤズドである夕食会に招かれ、それに出席した後で食中毒の症状を
呈した。その夕食会のホストは姿を消しており、当局がこの人物を
捜索したと、このスタッフ メンバーは語っている。なおこのスタッフ
メンバーは公に発言すること許可を受けていなかったため、人物名を
挙げることができない。
Aghamolaei 氏の方はイラン北西部にあるタブリズに仕事の出張で
出かけ、テヘランに戻ってきた直後であった。そのタイミングで、
激しい嘔吐と下痢に襲われ、それが日増しに悪化し、内臓が機能
不全に陥り死亡したと、彼の知人は述べている。
イランが主張しているように、この両名の謎に満ちる類似した
死亡事件が暗殺であるのなら、イランとイスラエルの間での
「影の戦争」で見られるパターンに良く合致している。
両国は真相を探りにくい方法で互いを攻撃しあっており、
全面戦争を回避してきているのだ。
今や、この影の戦争は激化しつつあるようだ。この2週間だけ
でも、イスラエルの関連した一連の死亡事件が発生、イランを
揺るがせている。どうもイスラエルはその標的を、イランの
核開発プログラムに関与している指導層から、それより下の
階級の科学者たちや軍部の人員へと拡大したようにも思われる。
イスラエルの総理大臣オフィスのスポークスウーマンは、
今回イラン国内で発生した2件の死亡事故については、コメントを
拒否している。
だがイスラエルは既に何年も、イランの核開発と兵器プログラムを
とん挫させようと密かに努めてきており、その実例としてこうした
プログラムに関与していた専門家たちを暗殺している。例として、
先端型のドローンやミサイルを開発していたイランの軍事施設を
攻撃した。
これに対しイランは、全世界でイスラエル市民を標的としており、
またレバノンのヒズボラのような反イスラエルの地域民兵組織に
資金や武器を供与している。
だが争いの多くは、イランの核開発プログラムに関するものだ。
イスラエルはこのプログラムに強硬に反対しており、イランと
世界主要国が2015年に締結した核合意の再建に取り組んできたが、
成果は芳しくない。2018年、アメリカのドナルド トランプ大統領
(当時) が、この核合意から脱退したのだ。この合意下では、
イランの核開発活動に制約を設ける代わりに、イランに対する
経済制裁が緩和されていた。
イランは核兵器製造に充分なだけの濃縮ウラニウムをもうすぐ
製造できるとイスラエルは深く憂慮しており、この核合意だけ
ではイランの核開発活動を十分には制限できないとイスラエルは
感じている。
だが同核合意の支持者たちによれば、この核合意によってイランの
ウラニウム濃縮に制限を設け、国連の核拡散監視機関 <IAEA> が
イランの核開発プログラムを監視することを可能にし、イランが
核兵器を開発する脅威を軽減できると主張している。
イランは以前から、その核開発プログラムは平和目的だけのために
行われているものだと主張してきた。だが数年前のアメリカ諜報機関に
よる評価では、イランは以前に核兵器開発プログラムを進めていたの
だが、2003年にそれを停止させたと結論づけている。
2015年の核合意を再建しようとする交渉が決裂し、イランが
その核開発活動を加速、あるいは国連による監視への協力を
縮小した場合には、水面下で展開されているイスラエルとの
戦争が公の紛争に開花してしまうリスクもある。
「核合意があろうがなかろうが、この種の活動は激化しやすい。
つまり、イランはイスラエル包囲網を広げようとし、イスラエルは
イラン内部にさらに深く入り込もうとすることだろう」 と、
政治リスク コンサルタント集団であるユーレイジア グループの
イラン アナリスト、Henry Rome は語っている。
このところイランへの攻撃のペースが高まっており、イスラエルの
指導者たちによる昨今の発言も考え合わせると、イスラエルの
戦略の変更が窺える。
<6月7日の> 火曜日に開催された、イスラエル議会の外交問題
ならびに国防・外交問題の委員会の会議で、イスラエルのナフタリ
ベネット首相は 「2021年、イスラエルは対イラン戦略を変更した」
と 述べた。「ギアを上げた。常時、あらゆる場所で活動を展開して
おり、今後もそうする」
イランではこの2週間、強力な組織である革命防衛隊の上級
メンバーであるSayad Khodayee が標的とされ、テヘランで近づいて
きた車両から射殺された。さらに国防省の若いエンジニアがドローン
攻撃で暗殺された。さらに革命防衛隊の別の上級メンバーがバルコニー
から落下して死亡したが、これにも暗殺の疑いがもたれている。
そして、今回の2名の科学者の死亡事件である。
Entezari氏(35歳)が死亡したのは、5月31日のことだった。同氏が
勤務していた軍部の研究施設の同僚がSNSで公表したところでは、
事件の前夜まで同氏には異常がなかったが、翌日に突如、体調が
急変した。しかもイランのメディア報道によれば、家族も
その夜には一緒に食事をしており同じものを食べたのだが、
同氏以外には体調が変わった者はいなかった とのことである。
同氏が暮らしていたヤズド州の知事は故人の家族に額入りの
追悼の辞を手渡し、同氏を 「殉教者」 と称えるとともに、
家族に国家のための犠牲をささげてくれたと謝辞を呈した。
敵軍の攻撃に倒れたイラン国民や国家のための任務に就いていて
死亡した国民に対し、イラン政府は 「殉教者」 という名誉ある
称号を授与している。ヤズド市議会のある議員は、同氏の死亡の
ことを 「生物学テロ」 と呼んでいた。
だがイスラエルはイランの安全保障を幾度も侵害しており、
関連する政府役人たちは突如Entezari氏を 「殉教者」 と呼ぶことを
撤回、イスラエルからの攻撃である可能性を示すその他詳細に
ついても発言を控えるようになった。こうした詳細が明るみに
出ると、当局が面目をつぶす恐れがある。
同知事の広報オフィスは 「殉教者」 という呼称を2日後に撤回、
これは誤りであったとした。ヤズドの検察当局はEntezari氏が
航空エンジニアであることを否定、工業系企業の平均的な従業員で
あったとしている。
イランのメディアで2019年に公表された写真や動画では、
Entezari氏がガディール産業タービンという会社 (Ghadir
Industrial Turbines Company) で当時のハサン ルハーニ大統領に
対して、プレゼンテーションをしている様子が見られる。同社で
Entezari 氏は勤務していた。こうした画像は同氏が政府の施設に
勤務していたという情報と合致しており、さらに同氏が実は
航空工学のエンジニアだったという出身大学の同窓会による主張とも
一致している。
ヤズドでツアー ガイドをしているEntezari氏の親戚Mahmoud
Entezariが自分のInstagramに公表したところによれば、
エンジニアのEntezari氏は <死亡する前に> 地域メディアで
自分がルハーニ元大統領とともに撮影された写真が拡散して以来、
生命の危険にさらされていると憂いていた。同氏が親せきに語った
ところでは、これらの写真は秘密扱いにされるはずであった。
Mahmoud Entezariにコメントを求めたが、拒否された。
一方、6月2日に死亡したAghamolaei氏に関しては、イラン政府
高官たちは口が堅い。
The only official mention of Mr. Aghamolaei氏の死亡に関しての
公式の言及は、テヘランのタルビアト モダレス (Tarbiat Modares)
大学の学長からの追悼の辞のみだ。この追悼の辞によれば、同氏は
地質学の博士課程に学ぶ学生とされている。さらにこの追悼辞に
よれば同氏は故郷のイゼーで心臓発作により他界した、とされている。
イゼーは、イラン南部のクゼスタン州にある労働者階級の小さな町だ。
遺族は、政府の検死局による検視結果の発表を待っており、同氏の
死の様子を述べた友人によると同氏は食事の後で突然体調を崩した
そうだ。だがこの事件にまつわるデリケートな状況のため、この検死
結果が自分たちに通知されないのではと、遺族は心配している。
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「表向きは」 “発電用のウラニウム濃縮” の裏で、どうも核兵器開発
・・・ そのため、どうも暗殺者まで暗躍か??? という事件ですよね。
核発電に係る闇と残虐のひどさが、典型的に表れた事件です。
「反原発」 を唱えるなら、ここまでの闇が実在することを弁えたうえで ・・・
では、その 「闇」 の基底にある 「核抑止」 理論に関する調査を続けますね。