付録 w-26) ノルウェーの客観的「カネ計算」
2026年4月
現時点でEUの核発電に対する姿勢といえば、ウクライナ
戦争やイスラエル + アメリカ vs イラン戦争などによる
原油・天然ガス価格高騰を受け、
「今までの核発電縮小政策は、戦略的誤りだった」
といった発言ばかりが取り上げられていますよね。
しかし、原発の金銭面や、濃縮Uの将来の入手可能性の
見通し(もしデータセンター普及などで電力需要が急拡大
+ カザフスタンなど主要なU鉱石産出国で戦争が起きたら? ⇒ 核燃料の入手が困難に)などの問題をよく検討しての
発言だったのでしょうかねえ??
そうした中、ノルウェー政府は核発電を導入すべきか
否かを検討するための専門的委員会を2024年に結成、
そこから調査・試算算定を専門的コンサルタント
組織などに委託していたようです。その結果をまとめた
最終報告書を今年4月に8日公表しました。
★ まず、その報告書そのものは次に(PDF):
元のレポートはここをクリック
* 180ページもあるレポートなので、私も全部読んだ
わけじゃなく、Executive SummaryとConclusionだけ
読みました。その限りで、中立的・客観的な立場からの
試算・評価だと思います。
★ Beyond Nuclearのウェブサイトにある、本レポートの
紹介:
ここをクリック
Beyond Nuclearによる、同レポートに関する紹介です。
★ やはり同レポートとその結論に関するReutersの報道記事:
ここをクリック
Nora Bullさんによる記事、4月8日付
* お分かりの通り、proliferationや軍事・テロ問題とは
関係のない内容になりますので、「付録」としました。
1- まずは、ノルウェーの核発電事情
ノルウェーは今まで核発電所(原発)を持ったことがなく、
今もありません。研究用の原子炉が今まで4基あった
だけで、発電用ではありません。
ですから、「既に停止中の原発がいくつもあって、それらを
再稼働する」場合とは、かなり状況が異なります。
ノルウェーがもしも核発電を導入する場合には、
新規建設となります。
この点は、充分にご注意くださいね。
ではノルウェーの発電の内訳は、というと上述の
Reuters記事によれば、2025年時点で総発電量の89.9%が
水力、8.6%が風力だそうです。
2- では、なぜ今回の調査を?
このレポートのExecutive SummaryのReactor Technology Readiness(原子炉技術の現状)という個所を見ると、
「・・・ LWR(軽水炉)やSMR <上の黒いメニューに
ある s-0) s-1) — s-10) 参照>、AMR <Advanced Modular Reactor、やはりモジュール式原子炉だが、SMRよりも
さらに小型のもの> といった新世代原子炉が登場しつつ
ある。この3-4年、そうした新型原子炉について核発電
業界では販促材料が急増しており、技術・コスト・工事
などの期間といった各面においてかなり大胆な主張を
している。しかもAIによるエネルギー需要の拡大という
問題もある。こうした状況で有効な情報を収集する
ことは、きわめて大きな課題だ」
まあ、よくある事情だったようですね。
ただし、このSummaryは次の事実もはっきりと
指摘しています:
「・・・ SMRとAMRは、まだほとんどが <開発の>
初期段階だ。認可プロセスの進んだ段階にまで入って
いるものは、ほとんどない。・・・しかも、モジュール化
といってもあまり意味のある段階にまで至っていない ・・・」
つまり、SMRやAMRの販売側は「モジュール式なので、
工場で製造 ⇒ 現場に輸送してモジュールとモジュールを
組み立て(従来の原発のように現場でゼロから建設せずに
済む) ⇒ コスト削減、工期短縮」と謳っているのですが、
現実にはまだ そこまで至っていない、ってことですね。
3- そのExecutive Summaryの、その他の内容
Flexible Operation(電力需要の変動などへの適応):
現在の大型原子炉では電力需要の小刻みな変動には
対応しにくい <だから、揚水発電なんて奇妙なものが
あるわけです。付録 w-5) の2枚目のイラスト> が、
2050年ごろまでにはSMRやAMRといった小型原子炉が
普及し、対応しやすくなるだろうと原発業界は主張
している。
だが、それを証拠立てるデータは、まだあまり
見られない。
Supply Chain:
核燃料サイクルではロシアが大きな位置を占めており、
たとえば世界のU濃縮能力の39%はロシアにある。
そのため、西側諸国が他のサプライヤーを求めていても
<ウクライナ戦争の影響もありますね> 現状ではロシアに
依存する面がある。
圧力容器などの製造に関しては、SMRやAMR用コンポー
ネントの発注は今のところまだわずかだ。つまり、
モジュール式原子炉はまだ商業的に成長できていない。
Costs:
新たに原発を建設する場合、資本コストは巨大なものに
なりえる。経験を踏むにつれ学習効果によりある程度の
コスト削減は可能になろうが、現実の例からは工期の
延長やそれに伴う経費膨張が目立つ。<al-4) 参照>
* なお、英語記事の内容をここで紹介している日本語化
要約のなかで < > があれば、いつもどおり私からの
補足説明です。
4- Reutersの報道記事
私の要約・日本語化で紹介しますね。
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4月8日オスロ発、Reuters
ノルウェーは今のところ、核エネルギーの導入のための
包括的なプロセスを開始すべきでは、ない。水力発電や
代替エネルギーが潤沢にあるからだ。同国政府が任命した
委員会が水曜日 <4月8日> に、そう公表した。
政府は2024年にその12名からなる委員会を結成、同国での
核発電の将来における利用可能性について調査を依頼した。
本格的なこの種の調査としては、1970年代以来のものだ。
電力需要の拡大が予想されること、また民間企業の
一部から原発を望む声があったため、この調査を
実施したもの。
このレポートを公表するにあたり、委員長であるKristin Halvorsen前財務大臣は「ノルウェーの電力システムは
水力が豊富なので、核発電のシステム特性に頼る必要が
ない」と述べた。
・・・・・・
当面の間、電力需要にはオンショア風力、既存の水力の
アップグレード、オフショア風力で対応できそうだが、
将来の核発電を排除するわけではないと、Terje Aasland
エネルギー大臣は語った。
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5- Beyond Nuclearの関連記事
これは、主に後半を要約・日本語化で紹介しますね。
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このノルウェーの調査は、的確に事実を見抜いている。
「核発電業界の主張では、<SMRなどでは> モジュール
式であるために工場製造の品質と現場組み立て工期の
短縮化がはかれるため、金融コストも削減できるそうだ。
これは確かに、魅力的な主張だ。だが、その事実性は
まだ証明されてはいない」
・・・ 今回の調査からは、新型設計のSMRの方が
一部の大型原子炉よりも、キロワットあたりのコストが
かなり大きくなるそうだ。ただし、<新型原子炉での
コスト超過は大型でも見られる問題で> たとえば
アメリカのジョージア州で竣工したVogtle原発の3号機と
4号機は <ともにWestinghouse社のAP1000という大型
原子炉を採用しているが al-1) 参照> 当初の推定コストが140億ドルであったのに対し、実際に要したのは推定で
350億ドルであった。
・・・ その他にも従来の大型原子炉よりも負担が増えて
しまうとみられる問題として、核廃棄物、核廃棄物の処分、
使用済み核燃料、廃炉がある。<同じ合計発電量で
原子炉数が増えれば、実は多くの核燃料を使用 ⇒ 核ゴミの
増大、また廃炉作業の困難化を招きますよね>
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このレポートでは、事故は起きなかった場合を想定して
いるようです。
つまり、事故がなくても原発よりも水力や風力の方が
安く済む、という結論だったのですね。
それと、このレポートではproliferationやテロのリスク
などの問題も検討に入れていないようで、とにかく
金銭コストに話を絞ったようですね。
その結果、原発新設よりも水力や風力の方が安上がりだ、
という結論だったのですね。
日本の反核運動でも、こうした冷静な「カネ計算」をして
公表する人々が、もっと欲しいですね。(まあ、私自身は
引き続きproliferationなどの軍事的問題に集中しますが)







