nd-5) (nuclear deterrence) 核抑止を
めぐる変貌
2025年8月
「核を持ってるから、安心」は、
「お花畑」じゃないの??
日本に限らず、世界各地で「核抑止」
に関する議論やプロパガンダが目立つ
昨今です。
ただ、特に日本でのこの論争を見て
いると、核抑止推進派から聞こえる
pet phraseがいくつかありますよね。
その1つが、「お花畑」という反核
勢力に対する侮辱的なフレーズです。
要するに、
交渉もまともにできない相手
(「お花畑」というフレーズを多用
する人たちの間では、例えば北朝鮮
や中国、あるいはロシアなど)が
核兵器を保有している以上、使用させ
ないためには、こちらも核兵器を保有
して「やるなら、やり返すぞ」と
アピールするしかない。なのに、
「核廃絶」とか唱えている奴らは、
現実が見えていない「脳内お花畑」な
連中だ
ってわけですよね。
根底にある「MAD信仰」
この「お花畑主張」の根底にあるのが、
Mutually Assured Destructionつまり
MADですよね。「おまえが我らを
核で破壊するなら、こちらも核で
やり返す。つまり、お前も破壊される
ぞ」という抑止ですね。日本語では、
「相互確証破壊」などと呼んでいます。
ここで、MADという信仰の発生事情
や歴史などを学んでこなかった方々
(核抑止賛成派であれ、反対派であれ)
にはご注意いただきたいのですが、
・ そもそもMADという信仰は、
冷戦の中で発生し広まったものです
・ 冷戦時代には、その時代特有の世界
構造や軍事技術、核保有主体などなど
があった(現代では、大きな様変わり
も見られる)
ということです。
学んでこなかった方々のために念の
ため確認しておくと(← こういう
言い方をすると批判を浴びるのですが、
私は実際に「冷戦って、何ですか??」
とマジな顔の若い人たちから
尋ねられた経験があるので)、
・ 冷戦は第二次大戦終了後に発生した
アメリカ vs 旧ソヴィエト連邦の対立を
軸とする世界構造のことで、
・両国とも核兵器を大量に保有して
いました。(この点では、今のアメリカ
もロシアも変わっておりませんが)
・冷戦は、1991年12月にソヴィエト
連邦が消滅、今のロシアやウクライナ
などに解体されたことで集結しました。
・その冷戦の間、アメリカとソヴィエト
からの支援を受けた国家や武装勢力の
間での軍事紛争は多発しました
(proxy wars、代理戦争)が、
・「親分同志」つまりアメリカと
ソヴィエト間の直接の衝突はあり
ませんでした。
それはMADの効果だったのだ、
とするのが「MAD信仰」です。
まずは、事実をしっかりと見極める
ことが必要です。
確かにUS vs Sovietの直接の核応酬は
ありませんでしたが、その一歩手前
だった実例はいくつも発生して
いました。具体例を、上の黒いメニュー
(項目は基本的にアルファベット順)に
あるページ nd-3) nd-4) で紹介して
おります。
MAD信仰を生んだもの
次に、仮にMADが「米ソ核戦争」を
抑止していたと想定しても、
それは冷戦構造・核保有主体・関連
技術を前提とした結果でした。
つまり、
今(2025年)では世界構造も保有主体
も関連技術も変わっているので、冷戦
時代のMADがそのまま有効であると
いう保証は、ありません。
核兵器問題に限らず、ある問題を論じる
なら、その問題の背景や根底にあった
状況・事情を考えることは必須ですよね。
先日の国政選挙のように、
「冷戦って何ですか?」と尋ねるような
投票者が、MAD信仰を妄信 ⇒
「分かりやすいけど乱暴な」MAD信仰
を説いた候補が当選
なんて事態は、実に困りものです。
ここで考えるべきですが、「冷戦って
何ですか?」と尋ねるような投票者を
バカにしても、何も建設的な動きは
始まりません。私たち反核勢力は
今まで、MADに関する啓発活動を
しっかりと展開してきたのでしょうか
??「冷戦って何ですか?」の何十
パーセントかは、啓発活動や情報発信
活動における私たちの怠慢の結果かも
しれませんよ。
で、MADの実効性について
話を戻して、世界構造も保有主体も
関連技術も変わっている現在の世界
で、はたして冷戦時代の産物である
MADがそのまま効果を発揮できる
のでしょうか??
日常の買い物でも、町の「風景」
つまり在り方が変われば、お店も売れ
行きが伸びたり落ち込んだりします
よね。
では、そうした変化を考えたMAD関連
の考察の一例を、紹介しましょう。
Kevin Vaishnavという外交政策の専門家
による論文で、Indian Institute of
Governance and Leadershipというインド
のニューデリーに本部を置く研究機関
の方です。
この論文自体は
https://ijrti.org/papers/IJRTI2502059.pdf
でお読みになれます。
クリックだけじゃリンク先にジャンプしない場合には、
Nuclear deterrence: analysing the utility,
challenges, and future of nuclear weapons in
international security
でサーチなさってください。
International Journal for Research Trends
and Innovationというオープン アクセス
の学術論文投稿ウェブサイトです。
いつもどおり、私が要約抜粋・日本語
化して部分的な紹介をしますが、
< >内は私からの補足説明です。
インドの専門家の見解である点にご注意
このVaishnavさん、インドの方である点
にご注意ください。
インドは、隣国パキスタンと「核の
にらみ合い」を長年続けてきている国で
当然、MADや核抑止への支持が強い国
の1つです。
逆に言うと、「核反対」の立場からの
考察ではなく、MADの必要性や実効性
を認める立場からの見解なのです。
そうした「核抑止のただなか」にいる
専門家が、世界構造や技術、核保有主体
などの変化をどう捉えているのか?
そうした視点で、抜粋・要約をして
おります。
では、本文の要約紹介を:
**************************
第二次大戦中に核兵器が開発されて
以来、核抑止は国際社会の安全保障の
基盤となってきている。もし核攻撃を
してくるのなら核で報復して破滅を
もたらすぞという脅威により、敵国
からの核攻撃を抑止するというもので、
これをMutually Assured Destruction
(MAD、相互確証破壊) と呼んでいる。
冷戦時代には核抑止は重大な役割を
演じていたが、冷戦終了後の現代には
地政学的な世界の様相が変化しており、
核抑止がどこまで現実的なのかという
議論が高まってきている。核兵器
保有国が新たに増え、ミサイル防衛や
サイバー攻撃といった技術が発展して
おり、そもそも大量殺りく兵器につき
まとう倫理上の問題もあって、核抑止
の実効性が問われているのだ。
本稿では、そうした問題を検討する。
・・・
・・・ 今日でもなお多くの諸国に
とって、核抑止は国防戦略に欠かせ
ない要素の1つだ。・・・
・・・世界の安全保障のためには
核兵器は必要なのだとの主張がある
一方で、核兵器の完全廃絶を求める
声もある。・・・
・・・核抑止が実際の歴史の中で
どれほどの効果を発揮してきたのか、
それに伴って生じた政治的・技術的な
困難、そして核抑止を正当化する
倫理面での主張を、考えてみたい。
***
***********************
御覧の通り、現実の核抑止を論じる
のであれば、実際にどれほど効果が
あったのか、どのような問題が発生した
のかなどを過去の事実の中に探ることは
必須ですよね。
このVaishnavさん自身は核抑止の効能を
認める立場で、次のように記して
らっしゃいます。
しかし、そのVaishnavさんも、後で見る
ように世界情勢や技術などの変容に
合わせ、核抑止の効果やあり方も変化
するはずだと認めてらっしゃるのです。
**************************
・・・冷戦時代には、アメリカの核兵器
がヨーロッパに配備されていたことで、
旧ソヴィエトによるNATO諸国への攻撃
を抑止できていた。現在ではアメリカは
その抑止網を広げ、ヨーロッパや東アジア
などに安定をもたらす要因となって
いる。
<← あくまで、Vaishnavさんの見解です
よ。「やかんをのせたら~~」の
見解じゃ、ございません>
核抑止の課題: 技術的、そして
地政学的な諸要因
・・・ 核抑止への基本的な課題の1つと
なっているのが、ミサイル防衛システム
だ。ここ数十年間、諸国は侵入してくる
ミサイルを撃墜する技術を発展させて
きている。
・・・ 自分たちにはミサイル防衛
システムがあるから、敵からの報復攻撃
を無効化できると考えてしまうと、
当然、核抑止は機能しにくくなる。
さらに、ミサイル防衛システムを突破
できる協力な攻撃用ミサイルの開発に
取り組むようになった場合、新たな
軍事力競争が生じ、世界は不安定化
してしまう。
・・・ 核兵器の管理システムの
デジタル化が進んでいるが、それに
伴って悪化してしまうリスクとして、
国家以外の<たとえば、テロ組織>
主体が高度なサイバーツールを悪用
する危険性も高まる。サイバー攻撃が
実行されると報復核攻撃のための意思
決定プロセスが妨害され、報復を迅速に
行えなくなる。また、核技術とサイバー
の脅威とが交錯するため、核抑止に伴う
計算が従来よりも複雑化してしまう。
・・・ 核兵器が proliferate (拡散)
してしまうと、核抑止の実現は複雑性を
増し、安定は手に入れにくくなって
しまう。proliferationを止めようという
努力に世界は努めてきているが、現実
にはイランや北朝鮮などはそれぞれの
核開発プログラムを進めてしまって
いる。紛争多発地域で新たに核兵器を
保有する国が登場すると、核抑止の
実現は難しくなる。さらにインド対
パキスタンのような敵対関係があると、
proliferation risksは悪化してしまう。
核抑止が効力を発揮すれば、確かに
全面戦争は阻止しやすいが、限定的紛争
のリスクもなくなるわけではない。
さらに、国家以外のプレイヤーも核兵器
に食指を伸ばしており、これは核抑止に
とって深刻な脅威になるとともに、
核テロリズムという懸念を高めている。
たとえばISIS<日本では「イスラム国」
と呼んでいるようですが、まるで
イスラムが好戦的で野蛮でもあるかの
ような誤解を招きかねないです。
「テロ組織が主張しているカリフ国」
とでも読んだほうが ~>のようなテロ
組織は極めて高度な攻撃を実行できる
ことを実際に示しており、従来の
核抑止では効力が薄い。かくして国際
社会が核物質を扱いながら<要するに、
核発電>核兵器拡散を防止するという
のは、ますます困難になる。・・・
**************************
この後、Vaishnavさんは倫理・道徳的な
問題も取り上げてらっしゃるのですが、
ここでは割愛します。日本で核抑止の
賛否が問われる際、伝統的には
反対派が倫理面を強調
それに対し、各推進派がその時点での
各情勢などを強調、
ついでに反対派を「脳内お花畑」
呼ばわりする
という傾向があったと見ております
のでね。
私たち反核勢力はもっと、具体的な
現実の中で何ができるのかも訴える
べきでしょうし、
核推進勢力は対人攻撃(argumentum
ad hominem)つまり「お花畑という
あほ呼ばわり」は、やめるべきです。
まともな議論をしたいのであれば。
それと、北朝鮮などが核兵器保有 ⇒
MADにのっとり、日本も核武装を!
といった短絡的な主張は、考え直す
べきですね。
Vaishnavさんはさすがに、核抑止の”
本場”インドの専門家でいらっ
しゃり、ご自分は核抑止の効果を認め
ながらも、今後については地政学的
要因・技術的要因・保有主体の変化
などを計算に入れて考察して
らっしゃいます。
そうした現実の諸要因や変質を考える
なら、従来型のMAD信仰はもはや
現実の世界に適合しないと、私は見て
おります。核兵器の「拡散の入口」
を閉ざすよう、世界は努める必要が
ありましょう。上でVaishnavさんも
「国際社会が核物質を扱いながら
<要するに、核発電>核兵器拡散を
防止するというのは、ますます
困難になる」という主旨のことを
述べておられますが、現状では原発を
3倍に増やしてカーボン排出を減らそう
という動きが世界規模でありますよね。
Proliferationを、どうやって食い止める
つもりなのか・・・??








